債権回収に行き詰まったときには訴訟を検討することになります。

しかし、強力な方法であればその分デメリットもあります。そもそも訴訟手続がどのようなものなのか知らなかったり、訴状も見たことがなかったりする人も多いと思います。

この記事では、裁判(民事訴訟)のメリットやデメリット、手続きや流れについて解説していきます。

 

債権回収で民事訴訟を利用するメリット

他の債権回収手段と比べてどのようなメリットがあるのか見ていきます。

 

最終的な解決を図れる

民事訴訟の一番のメリットは問題を根本的に解決できる点にあります。債務者が支払いに応じないばかりか話し合いさえ拒否しているケースであっても強制的に問題解決を行うことができます。

 

強制執行が可能

通常の話し合いでの解決では相手の財産を差し押さえることはできません。

相手の財産を差し押さえて強制執行をしていくためには、強制執行を許可する「債務名義」という文書が必要です。

債務の支払いを命じる確定判決書は債務名義の一つであるため強制的に相手の財産から債権の回収ができます。

 

住所不明でも利用できる

民事訴訟は債務者の住所がわからなくても利用することが可能です。訴訟を行うには相手に訴状などの文書を送らなければなりませんが、公示送達という手続きを使い相手に文書が送達されたとみなす方法があるからです。

支払督促や民事調停の場合には債務者の現住所が不明のときには使うことができません。

 

話し合いでの解決が期待できる

民事訴訟を起こしたからといって判決が出されるとは限りません。和解で終了することも多いのです。訴訟上の和解は訴えの手続き中に話し合いによって紛争を解決する方法であり円満な解決が期待できます。話し合いで解決するため強制執行しなくても任意の弁済が期待できます。

債務者が話し合いに応じてくれないケースであっても裁判を起こすことで交渉のテーブルについてもらうことが可能となるのです。

 

債権回収で民事訴訟を利用するデメリット

民事訴訟にはどのようなデメリットがあるのか具体的に見ていきます。

 

時間がかかりやすい

民事訴訟におけるデメリットとして時間がかかることが挙げられます。

相手が債務の存在や金額などを争っているケースでは半年以上かかるケースもめずらしくありません。手続きを行う期日が1か月に1回程度設定されるためそのくらいかかるのです。

ただし、訴訟では相手が出廷せず欠席するケースも多く、また和解が成立することもあります。そのような争いのないケースでは1回の審理で済むときもあり2か月前後で終わることもあります。原則1回の期日で審理から判決まで出してもらえる少額訴訟という制度もありこれを利用して早く解決することもできます。

 

<関連記事>少額の売掛金の回収と少額訴訟のやり方、費用、メリット、デメリットを解説

 

労力がかかる

裁判では債権が発生したことを主張し証拠も提出しなければなりません。必要な書類を作成し契約書等の証拠も用意します。本人訴訟の場合には裁判所に出廷することも必要です。裁判所は平日のみ開かれているため土日祝日を利用できないという問題もあります。

 

費用がかかる

訴訟を起こすには費用がかかります。裁判所に納める費用や郵便切手代、交通費などがかかります。

 

例えば、160万円の売掛金を請求するには13,000円の収入印紙代と数千円の郵便切手代がかかります。

純粋な訴訟費用は勝訴判決を得ることができれば最終的に相手方の負担にすることもできますが、少なくとも当初は原告が負担しなければなりません。印紙代については後記「訴状の作成」で解説します。

※弁護士費用については不法行為のケースでなければ相手に請求できません。

 

債権回収を行う流れと手続きを弁護士が解説

民事訴訟により債権回収を行う流れを具体的に見ていきます。

 

訴状の作成

訴訟を行うには訴状の作成が必要です。

債権回収の訴状の書式(ひな形、テンプレート)は次のようなものです。

 

訴 状

収 入

印 紙

令和 年 月 日

○○地方(簡易)裁判所民事部 御中

〒○○○―○○〇〇 東京都○○区〇〇

原告 ○○○○○ 印

電話 ○○―○○○○―○〇〇〇

FAX 〇〇―〇〇〇〇―〇〇〇〇

(送達場所)〒○○○―○○○○ 東京都〇〇市〇〇

書類を別の場所に送達してもらいたいときに記載

〒〇〇○―〇〇〇〇 〇〇県〇〇市〇〇

被告 〇〇〇○〇

売買代金請求事件(貸金返還請求事件など)

訴訟物の価額 ○○○○○円 ※請求金額

ちょう用印紙額 ○○○○円 ※収入印紙の金額

 

第1 請求の趣旨(※どのような判決を求めるかを記載

1 被告は、原告に対して、金○○○○○円及びこれに対する令和○年○月○日から支払い済みまで年○パーセントの割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

 

第2 請求の原因

(※請求の趣旨に記載した内容を求めることのできる理由を簡潔に記載する(契約日や代金、品目、数等))

 

証拠方法(※提出する証拠)

1 甲1号証 売買契約書

2 甲2号証 ○○○○○

付属書類

1 訴状副本 ○通(※訴状と同じ内容のものを相手の数だけ)

2 甲第1号証から第○号証まで(写し) 各○通

3 登記事項証明書 ※法人の場合に代表者の資格証明書として必要

 

訴訟で使う書式(ひな形、テンプレート)についてはこちらも参照して下さい。

ただし、訴状は法律効果を発生させる事実を書き漏らすことができないため自信のある方以外は必ず弁護士に相談して下さい。必要な主張をしないと敗訴してしまいます。

 

訴状には訴訟費用として収入印紙を貼付しなければなりません。金額によって変わるため注意して下さい。消印はしません。

 

<収入印紙代>

目的の価額

手数料額

100万円まで

10万円ごとに1,000円

100万円超500万円まで

20万円ごとに1,000円

500万円超1,000万円まで

50万円ごとに2,000円

1,000万円超10億円まで

100万円ごとに3,000円

10億円超50億円まで

500万円ごとに1万円

50億円超

1,000万円ごとに1万円

 

例えば、160万円の売掛金の請求であれば13,000円となります(100万円部分で1万円、これを超える60万円部分で3,000円)。

 

証拠の用意

事実関係に争いがあるときには証拠が必要です。債権の成立や金額などを証明する証拠を揃えます。契約書が典型的ですがもしなくても見積書や納品書、交渉記録など債権の存在を推認させるものであれば証拠として使えるためすべて準備しておきます。証拠書類は正本だけでなく相手方用と自分用に写しも用意しておきます。

 

重要な証拠

特に相手の署名があったり所有する印鑑が押されたりした書類は強力な証拠となります。

 

管轄裁判所の確認

裁判所には事件ごとに管轄が存在します。これには土地管轄と事物管轄があります。

 

土地管轄

債務者の住所地を管轄する裁判所が基本ですが、債権者の住所地を管轄する裁判所に訴えることも原則できます。

 

事物管轄

事件の種類や内容による管轄です。訴訟物の価額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超えるときや金銭請求以外の事案は地方裁判所が管轄となります。

 

合意管轄

契約書で専属的合意管轄の定めをすることがあります。この場合には合意している裁判所に訴えることになります。

 

訴えの提起

訴状と必要書類を管轄裁判所に提出します。郵送でも可能ですが不備があると補正しなければならないため直接持ち込んだほうがいいでしょう。訂正印も持参しておきます。

 

訴状の送達

問題がなければ1か月くらい後に期日が指定されます。被告には訴状と証拠の写し、呼出状などが送られます。

 

口頭弁論期日(弁論準備期日)

答弁書(被告による最初の反論書)が提出されているときには被告は最初の期日は欠席しても構いません。双方が提出した主張や証拠を確認していきます。主張は準備書面に記載し事前に提出しておきます。訴状や答弁書も準備書面の一種です。

弁護士に依頼していれば直接話を聞く必要があるときを除き当事者は出頭しなくて構いません。

 

判決

主張と証拠が出揃ったと判断されると判決が出されます。勝訴し控訴もなければ強制執行が可能となります。判決期日は出頭する必要はありません。

 

訴訟上の和解

双方が歩み寄れば判決ではなく和解によって終了することもあります。訴訟費用を負担したり利息を免除したり、分割払いに応じたりすることが考えられます。和解調書は債務名義となるため強制執行することも可能です。

 

控訴

敗訴しても判決送達日の翌日から起算し2週間内であれば上級審に不服申立てができます(送達日は判決書を受け取った日とは限りません。)。

 

第一審が簡易裁判所であれば地方裁判所が、地方裁判所で訴訟をしていたのであれば高等裁判所が管轄です。控訴状は第一審裁判所に提出します。

 

強制執行

勝訴したり和解したりしても相手が弁済するとは限りません。その場合には相手の財産を差し押さえて強制的に回収していきます。

 

もちろん差押え可能な財産があることが前提です。財産を隠されたり処分されたりしないように事前に仮差押えをしておくことも必要です。

 

<関連記事>仮差押えを利用した債権回収の3つのポイントとは?

 

債権回収の訴訟手続きをスムーズに進めるポイント

債権回収は迅速に行うことが必要です。そのためには効率よく手続きを行っていくことが大切です。

 

書類の準備を万全に

訴訟手続はその多くが書類で行われます。必要な内容が記載されていなければそれだけで敗訴してしまいます。

特に訴状や準備書面は法律要件を満たす事実を書き漏らす訳にはいかないため細心の注意が必要です。自信がなければ必ず弁護士に依頼して下さい。

 

代理人を立てる

訴訟に慣れていないと不適切な主張や証拠の提出により訴訟が長引く要因となります。出廷回数が多くなりコストが増加することにもなります。効率よく手続きを行いたい場合には弁護士に依頼してください。

強制執行については財産の調査が難しいケースも多く勝訴できたとしても回収できないこともあります。弁護士は弁護士会を通じた照会手続きを活用できるなど一般の人では調査が難しいケースでも対応できます。

 

債権回収の訴訟を弁護士に依頼する際のポイント

弁護士に依頼する場合には気をつけるべきポイントが存在します。

 

専門分野の確認

弁護士であれば誰でもいいわけではありません。医師に専門分野があるように弁護士にも専門分野があるからです。

ホームページなどで債権回収を専門にしていることや実績の有無を必ず確認して下さい。

 

債権回収に関する弁護士の方針を確認

債権回収の方法はいくつもあります。裁判を行って回収する以外にも調停など話し合いで解決する方法もあります。訴訟を起こす場合でも途中で和解を狙うのか、あくまで判決をもとに強制執行による回収をしていくのか弁護士と相談し決めておきます。

 

弁護士費用

弁護士費用は法律事務所により異なるため事前によく確認しておきましょう。思わぬ高額な費用を請求されてしまうと余計なトラブルのもととなります。

弁護士費用はケースによって異なるため事前に明示できないこともありますが、ある程度の目安は立てることができます。費用の目安について説明してくれない弁護士には注意が必要です。

 

訴訟を弁護士に依頼した場合の費用の相場

弁護士費用には「相談料」、「着手金」、「成功報酬金」の3種類があります。

債権回収についてのそれぞれの相場の目安を解説します。

 

相談料

「5,000円/30分」、または「5,000円~1万円/1時間」(税別)の弁護士事務所が多いと思います。

 

着手金

着手金が必要な法律事務所とそうでない事務所があります。着手金は債権回収に失敗しても支払うことになります。

 

着手金の相場は、債権額によって異なりますが訴訟の場合には「20万円~」、民事調停では「10万円~」、支払督促は「5万円~」程度です。裁判外交渉だと比較的安く「5万円~」くらいとなります。

 

報酬金

報酬金は、売掛金の回収など債権回収に成功したときに支払うものです。

相場としては「回収金額の10%~30%」が目安です。

 

<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説

 

訴訟以外の債権回収方法

裁判所を通じた手続きは訴訟だけではありません。事案に応じた適切な方法を選択することでコストを最小限にしつつ迅速な回収につなげることができます。

 

支払督促

簡易裁判所の書記官に支払いを命じてもらう手続きです。書面審理のみで利用でき費用も安く済みます。ただし異議を申し立てられると訴訟手続に移行してしまいます。そのため争いのあるケースでは使いにくい面があります。支払督促に向いているケースか弁護士に事前に判断してもらうことで余計な時間や手間をかけなくてすみます。

 

<関連記事>取引先に支払督促をする4つのポイント

 

民事調停

話し合いで解決を目指す方法です。裁判官と民間人から選ばれた調停委員が円満な解決に協力してくれます。費用が安く済むことも利点です。ただし相手が交渉に応じてくれなくてはなりません。弁護士に依頼することで話し合いに応じてもらいやすくなります。

 

<関連記事>あなたの会社が債権回収を行う方法と注意点を弁護士が解説

 

まとめ

裁判の大きなメリットは根本的な解決を図れる点にあります。強制執行により相手の財産から強制的に債権を回収することもできます。

・訴訟のデメリットは時間や労力、費用がかかりやすいことがあります。しかし途中で和解したり少額訴訟を利用したりすることでこれらを抑えることもできます。

・売掛金など債権が存在することを示す証拠を準備することが必要です。証拠に制限はないので関係がありそうなものはすべて用意しておきます。

・訴状の作成は法律要件をすべて満たすように記載しなければならないため細心の注意が必要です。

・訴訟以外にも支払督促や民事調停による解決方法もあります。

 

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