売掛金回収が難しい場合が多々ありますがこのようなときには状況に応じて適切に仕訳をしていかなければなりません。適切な時期に適切な仕訳をしないと損金処理できなくなるなど不都合が生じることがあります。この記事では回収が難しい場面での基本的な仕訳や不良債権化を防ぐ方法を解説します。

売掛金などの債権回収が難しい場合、仕訳方法が変わる

回収の困難度に応じて仕訳の方法に違いが生じます。
倒産するなど回収不能となったときには貸倒損失として処理します。

これに対し、回収不能と決まったわけではないもののそのおそれがあるときには貸倒引当金の設定をします。この場合、特定の債権の回収が難しいときには個別評価方式をとります。とりたてて危険性の高い債権がないときには一括評価方式をとります。

<関連記事>売掛金とは?意味と回収・未回収時のポイント及び、仕訳方法をわかりやすく説明(投稿予定)

売掛金が回収不能な場合の対応(仕訳)

貸倒損失とは、金銭債権の回収ができなくなった場合にその金額を損失として計上するための勘定科目のことです。損金として処理することで納税額を軽減することができます。

回収が不可能と判断されたときには貸倒損失を計上することになります。この判断は法人税法上に基準が設けられており、1.法律上の貸倒れ、2.事実上の貸倒れ、3.形式上の貸倒れの3つがあります。

法律上の貸倒れ

法律上の貸倒れに当たるのは次の場合です。

・更生計画認可の決定
・再生計画認可の決定
・特別清算に係る協定の認可の決定
・債権者集会での決定
債務超過期間が継続し金銭債権の弁済を受けることができない場合に債務免除を書面で通知したとき(35年程度が目安とされます。)

これらの事実に該当するときには貸倒損失として仕訳します。計上する金額は免除額(切捨額)です。
債務免除が実務上特に重要ですが回収の努力が必要となります。安易に行うと寄付金とされてしまいます。

<関連記事>債権放棄(債務免除)における税金4つのポイント!債権回収との関係とは

破産した場合
破産については明確な規定がありません。法人破産の場合には免責制度がないためです。法人が消滅すれば同じことですので破産手続の廃止(終結)決定時に法律上の貸倒れとして処理できるとする見解もありますが後述する事実上の貸倒れとして処理することが一般的です。具体的には配当がない旨の破産管財人からの通知等があれば終結前であっても貸倒損失にできると解されます。

会社更生法(民事再生法)の決定があった場合(仕訳例)

裁判所の決定により貸付金30万円の回収ができなくなった。

借方 貸方
貸倒損失 300,000 貸付金 300,000

債権者集会での決定(仕訳例)

売掛金30万円のうち80%の債権カットに合意した。

借方 貸方
貸倒損失 240,000 売掛金 240,000

債務免除をした場合(仕訳例)

売掛金15万円について5年間支払いが滞っていたため債務免除を書面で行った。
※証拠とするため内容証明郵便を使用します。

借方 貸方
貸倒損失 150,000 売掛金 150,000

事実上の貸倒れ

債務者の資産状況などから債権の全額が回収不能であることが判明した場合にも貸倒損失となります。全額というところがポイントであり担保があるときにはその処分が原則として必要です。
回収が事実上不可能であることを税務署に認めてもらうことが大切なため回収の努力をしたことを示さなければなりません。
そのためには契約書や取引先の計算書類など客観的な証拠が必要となります。弁護士が回収を実施したことを示す書類は重要な証拠となります。 

形式上の貸倒れ

形式上の貸倒れに当たるのは次のいずれかの場合です。いずれも継続的な取引によって生じた売掛債権であること、催促しても弁済してもらえないことが必要です。

・取引が停止され1年以上経過している
・取り立て費用が債権額を超えている

形式上の貸倒れのケースでは備忘価額の設定をします。

備忘価額とは
価値を実質的に失った資産について帳簿上存在させるために僅かな金額を残すことです。
形式上の貸倒れの場合には回収の可能性がまだ残っているため設定します。

取引が停止し1年以上経過した場合(仕訳例)

継続的に商品を販売していた取引先との取引が1年以上ないが10万円の売掛金が残っているものの催促しても弁済してもらえない。備忘価額は1円とする。

借方 貸方
貸倒損失 99,999 売掛金 99,999

貸付金は売掛債権ではないため形式上の貸倒れ処理はできません。不動産の売買代金など継続的取引に当たらないときにも同様です。担保が存在するときにはその処分が原則として必要となります。

形式上の貸倒れ処理の後事実上の貸倒れとなった場合(仕訳例)

借方 貸方
貸倒損失 1 売掛金 1

 

売掛金の回収が難しい場合の対応(仕訳)

貸倒れの事実はまだないとしても回収が難しいケースもあります。このようなときにはあらかじめ貸倒引当金を計上しておきます。貸倒引当金をどのように計上するかについては回収の難しさの程度によって「個別評価」と「一括評価」を使い分けることになります。

個別評価

回収不能となる可能性の高い場合にはそれぞれの債権について貸倒引当金を計上することになります。計上方法は事実に応じて3つに区分されます。

区分 事実 貸倒引当金への計上額
長期棚上金銭債権
(弁済猶予)
・更生計画認可の決定
・再生計画認可の決定
・特別清算に係る協定の認可の決定
・債権者集会での決定
・第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約等
債権額-翌期首から5年以内に弁済される見込額ー担保等で回収できる見込額
取立ての見込みがない場合 下記の事実により金銭債権の一部の取立ての見込みがない場合
・債務超過の状態が相当期間継続し事業好転の見込がない
・災害等による多大な損害発生等
回収不能見込額
形式基準 ・更生手続開始の申立て
・再生手続開始の申立て
・破産手続開始の申立て
・特別清算開始の申立て
・手形交換所の取引停止処分
(債権額ー担保等で回収できる見込額)×50%

法人税法施行令96条施行規則25条の2
相殺できる債権があるなど実質的に債権と見られない部分は債権額に含みません。 

一括評価

回収不能になりそうな特定の債権がないときには対象となる債権全体から算出します。これには実績基準額と法定基準額の2種類の方法があります。

実績基準額

対象債権の合計額×貸倒実績率
で算出します。

貸倒実績率の計算方法については「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定(国税庁)」に記載されています。

法定基準額

(対象債権の合計額ー実質的に債権と見られないものの額)×法定繰入率
で算出します。

「実質的に債権と見られないもの」とは相殺可能な債権などを指します。
法定繰入率は次のとおりです。

事業区分 法定繰入率
卸売及び小売業(飲食店業等を含む。) 1%
製造業 0.8%
金融及び保険業 0.3%
割賦販売小売業、信用購入あっせん業 1.3%
その他 0.6%

 実績基準額と比較して高い方を限度として計上できます。

貸倒引当金を設定した場合(仕訳例)

10万円を貸倒引当金に計上した。 

借方 貸方
貸倒引当金繰入 100,000 貸倒引当金 100,000

「貸倒引当金」は負債であり、「貸倒引当金繰入」は費用です。

 翌期になり貸倒引当金が12万円となったが前期中に貸倒れはなかった。 

借方 貸方
貸倒引当金 100,000 貸倒引当金戻入 100,000
貸倒引当金繰入 120,000 貸倒引当金 120,000

貸倒引当金戻入は収益です。前期の貸倒引当金をいったん戻し入れて改めて当期の貸倒引当金を計上する方法です(洗替法)。このほかに差額を計上する方法もあります。

売掛金が不良債権化することを防ぐ方法

与信管理の重要性

一般的に企業同士での取引では信用取引となります。代金の支払いが後日となるため潜在的な不良債権リスクが常にあることになります。そのため債権が生じる時点でリスクを低減させることが不良債権対策の基本となります。

取引相手の経営状況を見極めて信用状態に応じて取引の可否や条件を判断していきます。経営状態が悪ければ与信額を減らしときには取引そのものを見合わせることになります。

決算書

判断の基本材料として決算書があります。最も重要な判断材料であり取引前に確認することが望ましいといえます。最近は計算書類をWEB開示することが多くなっているため取引先HPから閲覧できることもあります。

登記事項証明書

登記事項証明書も有効な資料です。商業登記であれば資本金の変動や役員の交代などがわかります。資本金があまりに少ない会社については注意が必要です。

不動産登記であれば登記名義人や担保の有無が重要です。会社名義のはずが経営者個人や赤の他人となっていれば信用に懸念があります。担保権が多く設定されていればそれだけ多くの債務を抱えていることになります。特に金利の高いノンバンクが権利者となっているときには警戒が必要です。

<関連記事>売掛金を最も効率良く回収する方法とは?未回収時の対処法含めた必ず知っておきたいポイントを説明

まとめ

・回収の困難度によって仕訳の方法が変わります。
回収不能のときは貸倒損失とし確定でないときは貸倒引当金を計上します。
・特定の債権の回収が難しいときには個別評価方式、そうでないときは一括評価方式で貸倒引当金を算定します。
・売掛金の不良債権化の防止には与信管理が重要です。

売掛金の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

仕訳について不明な点があれば税理士に相談することが大切ですが回収不能の判断については弁護士に相談することが必要です。当事務所は定期的に未収債権が生じる企業に特化した債権回収業務を行っています。 

報酬の支払いは完全成功報酬制となっており未収金が入金されてはじめて報酬が発生するため万が一回収に至らなかったときには費用は一切生じません。「着手金0円」、「諸費用0円」となっておりご相談いただきやすい体制を整えております。
※法的手続きについては別途費用がかかります。法的手続きを利用する際には事前にご相談させていただき費用の明細もご提示させていただきます。

「多額の未収債権の滞納があって処理に困っている」
「毎月一定額以上の未収金が継続的に発生している」

このような問題を抱えているのであればお気軽にご相談ください。 

執筆者情報

弁護士 前田祥夢
(東京弁護士会所属)