仮差押えは実務色が強いためイメージが湧きにくいかもしれません。

 

仮差押えは債権回収にかかせない切り札となる制度です。

債権回収を確実に行うためには仮差押えをうまく利用することが不可欠です。

 

この記事では、債権回収のための仮差押えについて、基本的な知識から実務上の注意点まで詳しく解説していきます。

 

仮差押えとは

仮差押えとは、金銭の支払いを目的とした債権がある場合に、将来の強制執行を成功させるため債務者の財産を暫定的に差し押さえることです。

債務者は裁判に負けて財産を強制執行されることを避けるために、財産を隠してしまったり処分してしまったりすることがあります。

そうなると債権者がたとえ裁判で勝ったとしても、いざ強制執行をしようとしたときに債務者の財産がまったくないということもあります。財産がないのでは債権の回収は事実上できないことになります。

 

例えば、AがBに対し1,000万円の売掛金を持っている場合に、Bが債権の存在を争って支払いを拒否してきたとします。Bが不動産と多額の預金を持っていたとしても、Aから訴えられた直後に、敗訴する可能性が高いと判断し、不動産を売却して預金も全額引き下ろしてしまうことが考えられます。

 

不動産のままであれば財産を隠すことは難しいですし、預金も銀行に預けたままであれば差し押さえることは容易です。ところが現金に変えられてしまうと物理的に隠匿することが簡単になってしまい差し押さえることが難しくなります。

 

Bの行為は「強制執行妨害目的財産損壊等罪」にあたる可能性がありますが、Bが処罰されたからといって債権の回収ができるようになるわけではありません。

 

このようなケースでは、債権回収を確実にするため財産を隠匿や処分がされないように仮差押えをするべきだったといえます。

 

仮差押えの効力

債権回収における仮差押えの効力としては、法的な効力と、事実上の効力の2つがあります。

 

法律上の効力

法的な効力というのは、債務者による財産の処分を制限する効果のことです。法律的に処分が制限されるため、仮に債務者が財産を処分したとしても債権者はその効果を否定することが可能です。

例えば、債務者の所有する不動産を仮差押えした場合に、その不動産を債務者が第三者に売却したときであっても、債権者は不動産を差し押さえて競売することが可能です。不動産に仮差押えをすると仮差押えの登記がされますが売却自体は可能となっています。第三者への所有権移転登記がされていたとしても、先順位で仮差押えの登記が入っているため後順位の第三者の所有権移転登記は抹消されることになります。

 

売掛金などの債権に対して仮差押えをした場合には、第三債務者が債務者に返済したとしても債権者に対して返済してもらうことができます。

 

消滅時効を阻止する効果もあります。仮差押えをすることで消滅時効の完成が猶予されるので安心して債権の回収が行なえます。

 

事実上の効力

仮差押えには法的な効力以外のメリットもあります。本来は仮差押えの効果として財産の処分を制限したり、消滅時効の完成を猶予したりできるだけです。したがって、最終的には裁判を起こして債権の回収をしなければならないように思えます。

 

ですが裁判にならずに債権の回収が可能となるケースも多いです。

仮差押えは債務者に対してプレッシャーをかける効果があるからです。

 

仮差押えされることで訴訟を起こされるという実感が湧きます。

債務者はどこかで法的手段まではとってこないだろうという希望的観測を持っています。この期待が仮差押えという法的手段によって打ち砕かれることになります。しかも仮差押えは裁判官によって債権者の言い分が認められた結果として発令されるため、訴えられたら負けてしまう可能性が高いと認識してもらうことができます。

そのため、これ以上争っても費用と時間の無駄であると考えて自分から支払いに応じてくれることがあります。

 

不動産を仮差押えすると自宅や社屋、工場などを失うことについて危機感が生じます。

金融機関から融資を受けていれば期限の利益(支払いを猶予してもらう権利)を失って一括返済を求められることもあります。

 

債権であれば銀行や取引先にトラブルが起きていることが伝わるため事態の収拾を急ぐことになります。

 

<関連記事>仮差押えを利用した債権回収の3つのポイントとは?

 

仮差押えの対象物

仮差押えの対象となる財産は、経済的価値が認められればいいので、売掛金などの債権、自動車や機械、商品などの動産、不動産などがあります。

 

強制執行の際にはできるだけ回収額の予測が立てやすく、手間や費用のかからない方法が望ましいです。そのためには預金や売掛金などの債権を対象にするのが好ましいといえます。不動産や商品などの動産ではどうしても処分に手間や時間、費用などがかかり、換価代金も不明確だからです。

 

ですが仮差押えについては「保全の必要性」がなければ利用できないことになっています。仮差押えはあくまで暫定的な手続きなので財産が十分にあるときには利用することができないのです。

債権を対象にするときには「保全の必要性」が認められにくいのです。債権への仮差押えは債務者に与える影響が大きいため裁判所は特に慎重に判断しています。

例えば、売掛金に対して仮差押えを行うと債務者の取引先に裁判所から支払いをしないように通知がいきます。その取引先からすれば問題を抱えている企業との取引は慎重にならざるを得ず取引が終了することがあります。

 

銀行預金に対して仮差押えをすれば銀行に通知がいきますが融資を受けにくくなったり一括返済を求められたりするリスクがあります。

 

こういった事情から裁判所は債権の仮差押えをなるべく避けようとします。そのため、他に財産がないことを明らかにするように求めてきます。

具体的には、不動産を債務者が所有していないことを示すため、住所や本支店所在地の不動産登記事項証明書などの提出が求められます。

 

仮差押えの流れ

仮差押えが実際にどのように行われるのか解説していきます。

 

財産の調査

債務者に財産がなければ仮差押えをすることはできません。将来的に強制執行をすることを念頭に債権回収をしやすい財産を調べることが大切です。

 

債権回収のしやすさという観点からは「不動産」と「債権」が有力となります。

「動産」に関しては、現金や高価な機械類、宝飾品、転売が容易な商品などがあれば別ですが、そうでなければ回収の効率が悪いことも多いので優先順位は低いといえます。

 

不動産の調査方法としては登記簿を確認することが基本となります。債務者の住所や本支店所在地の登記事項証明書を取得します。乙区欄に担保権が設定されているときには共同担保目録がないかチェックします。同じ債務を担保する別の不動産が記録されているので仮差押えの候補となるからです。

担保権に記録されている「債権額」が多額であってもあきらめるのは早いです。設定年月日が古いときには実際の債権はほとんどない可能性があります。

 

預金債権については取引先の金融機関が特定できれば仮差押えが可能です。できれば事前に支店も特定できていると手続きがスムーズになります。

売掛金も強制執行可能であり、将来差し押さえると直接第三債務者から支払いを受けることができます。

財産の調査は日頃から行っていることが大切です。何気ない会話の中にヒントがあることもあります。

 

申立書の作成

仮差押えを実施するには裁判所に対して申立書を提出する必要があります。

申立書には「被保全権利(回収したい債権)」と「保全の必要性」を書く必要があります。

 

「被保全権利」として、仮差押えにより債権の回収を確実にしたい債権を特定します。いつどのような契約によって生じた債権なのかを具体的に記載します。

 

「保全の必要性」として、ほかに債務者にめぼしい財産がないことや、隠匿や処分などがされる可能性があること等を具体的に書きます。

 

これら2つの要件については、「疎明(そめい)」が必要です。

「疎明」というのは、裁判官に一応確からしいという心証をもってもらうことをいいます。訴訟では「証明」が必要であり、「証明」の場合は合理的な疑いを差し挟まない程度に真実らしいとの確信を抱かせることをいいます。したがって、疎明のほうがハードルは低いです。

 

「被保全権利」の疎明資料として、契約書や約束手形などを用意します。

「保全の必要性」の疎明資料としては、内容証明郵便や陳述書などを用意します。

 

裁判所に申し立てる

裁判所は全国にありますがどの裁判所でもいいというわけではありません。ケースによって管轄の裁判所が決まっています。

管轄裁判所は、債権者もしくは取引先の住所地、または財産の所在地にある裁判所です。

債権であれば第三債務者の住所地にある裁判所でもかまいません。

 

申立て費用は2,000円です。

※不動産に仮差押えするときには債権額の0.4%の登録免許税も必要となります。

 

申立て方法は裁判所によって異なるため事前に確認してください。

例えば、東京地裁の場合には疎明資料は原本ではなく写しを添付して申し立てますが、他の裁判所では原本を提出させることもあります(写しと一緒に提出すれば原本を還付してもらえます。)。

東京地裁では裁判官との面接時に原本を持参することになります。

 

債権に対する仮差押えの際には債務者の住所の不動産登記事項証明書や固定資産評価証明書が必要となることがあります。保全の必要性を判断するためです。

 

申立てに必要な書類については事前に弁護士にご相談ください。

 

審理手続き

仮差押えを実施してもいいのか裁判官に判断してもらいます。

多くの裁判所では書面のみで審理が行われています。そのため、申立時に疎明資料として原本の提出が求められます。

 

ただし、東京地裁や大阪地裁のような大規模な裁判所については裁判官による面接が行われています。「保全部」と呼ばれる専門の部署が設置されているからです。

 

面接は申立てから2~3日以内に行ってくれますが、緊急性のある事案では申立てた時間にもよりますが即日実施してくれることもあります。

 

面接の中では仮差押えの必要性や提出書類について質問されます。書類に不備があったときには訂正が必要なため訂正印を持参しておきます。

 

担保決定

仮差押えをしてもらうには担保金が必要となります。

面接があるときにはその場で担保金額が決定されます。金額は目的物価額または債権額の10~30%でケースによって異なります。支払期限は1週間以内とされることが多いためすぐに支払えるように事前に用意しておきます。

担保の支払いは原則として供託所(法務局)で行い、そこでもらった証明書を裁判所にもっていくことで仮差押えが実施されます。

 

仮差押え命令

供託書正本を裁判所に提出し担保の納付が確認されると仮差押え決定が出されます。

 

不動産を対象にした仮差押えのときには「仮差押えの登記」をする方法で行われます。登記は裁判所書記官が登記官に嘱託して行います。

 

動産仮差押えは執行官が目的物を占有することで行います。具体的には「差押物件標目票」という白いラベルを目的物に貼り処分を禁止します。

 

債権仮差押えは第三債務者に対して返済をしないように裁判所から通知して行います。

 

仮差押決定が出されるときには「仮差押解放金」が設定されます。

仮差押解放金とは、債務者が定められた金額を供託すれば仮差押えを取り消してもらえる制度です。通常は債権額と同額が設定されます。

債務者が供託すると仮差押えの効力は債務者の供託金取り戻し請求権に移ります。

 

<関連記事>売掛金の回収する手段としての差押え

 

仮差押えの注意点

仮差押えは債権回収において大切な制度ですが、利用するにあたってはいくつか注意しなければならないポイントがあります。

 

債務者破産

仮差押えにより債務者が自己破産を選択することがあります。

仮差押えの対象として債権を選ぶことで債務者の経済状況を悪化させることがあるからです。

例えば、売掛金を仮差押えすることでトラブルを懸念した取引先が取引を打ち切ることで売上が落ち込むことが考えられます。

預金債権を対象とした場合には、その銀行から融資を受けていたときは期限の利益を喪失することになり一括返済の義務が生じ、遅延損害金も生じることになります。また、債務不履行が生じると他の債権者との関係でも期限の利益を喪失することが一般的であるため(クロスデフォルト)、経営状況が一気に悪化するおそれがあります。

 

仮差押えをしていれば財産を確保できているのだから大丈夫と思うかもしれませんが、そのことと優先弁済を受けられるかは別問題です。債権者は原則として債権額に応じて平等に弁済を受けられるだけです。自己破産されると全額の回収は難しくなります。

 

したがって相手が自己破産しないように気を付ける必要があります。

ですが自己破産が時間の問題のときには破産される前に迅速に回収を行うことも重要です。

 

大切なのはケースに応じて債権回収の手段を使い分けることといえます。

 

担保金の確保が必要

仮差押えをする際には担保金を供託しなければならないため資金面での余裕が必要です。もちろん後から取り戻すことは可能ですが、しばらくの間は自由に使えなくなります。

 

特に不動産を対象にした仮差押えの場合には不動産価額の10~30%が担保金として定められることが多いため負担が大きくなります。

 

例えば、1,000万円の不動産を仮差押えした場合には200万円前後の担保金が必要となります。ただし、担保金は債権額を超えないように設定してくれるはずです。

 

<関連記事>仮差押えの担保金を取り戻す4つの方法

 

専門的な知識が必要

仮差押えは迅速に行わなければならず財産の調査や書類の作成も簡単ではありません。弁護士であっても細心の注意を払って行うものであるため経験がない方は必ず弁護士に依頼してください。不当に損害を与えてしまえば逆に損害賠償請求を受けることもあります。

 

まとめ

・仮差押えには債務者が財産を隠匿したり処分したりすることを防ぐ効果があります。

債務者にプレッシャーをかけられるため任意に支払いに応じてくれることもあります。

・仮差押えの対象として、不動産、動産、債権があります。債務者が不動産を所有しているときは債権に対しての仮差押えは認められないことがあります。

・申立て費用は2,000円ですが、担保金や登記・登録が必要なときは登録免許税が必要です。

・東京地裁など大規模な裁判所では裁判官面接があります。

仮差押えは難易度が高いため必ず弁護士に相談してください。

 

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仮差押えは、財産の調査からケースに応じた対象財産の選定など専門的な知識と経験が必要です。実績と経験の豊富な弁護士に相談することが大切です。

 

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