はじめに

大量に商品を販売したりサービスを提供したりしているとどうしても弁済期に支払いをしてもらえない事態に遭遇することになります。

支払いが遅れているとはいえ商品やサービスを提供している取引先であり、これからの関係を考えると安易な対応はできません。

関係を壊したくないばかりになかなか強く催告できないこともありますが、相手によっては強い態度で臨まなければならないこともあります。

古くからのつき合いがある場合にはある程度柔軟な対応がとりやすいかもしれませんし、新規の取引先など相手の状況がつかめない場合には早めに強力な対応に出たほうがいいこともあります。

一般的な対応方法としては、支払いを促す程度の軽い催告、それでも支払いに応じてもらえない場合には心理的圧力の強い催告、それでもだめな場合には訴訟等の強制的な回収という流れになります。

ただし、相手の資金繰りの状況が悪く債権者の数や総債務額の大きさなどにより直ちに仮差押え等の強制的な方法をとる必要があることもあります。

ここでは相手との関係が悪くない場合や相手の経済的状況がよくわからない場合などを中心に解説していきます。

問題点

未収金が生じる原因は一つではありません。相手が支払いに応じてくれない理由はさまざまであり、それぞれの理由に応じて対処法を検討しなければなりません。

一番多いと考えられるのは単純に支払いを忘れていたというものです。
企業だけではなく一般の消費者であってもさまざまな取引を行いサービスを受けることで日々の支払いを失念してしまうことは仕方のないことです。
このようなケースでは未払いの事実を伝えるだけで解決しますが高圧的な対応をしてしまうことで支払いに応じてもらえなくなることがあるため注意が必要です。

相手方になんらかの言い分があるときもあります。
たとえば、受け取った商品に不具合があったりサービスに不満があったりするケースです。
実際に不具合などがあることが判明すればこれに適切に対応することで素直に支払ってもらえる可能性があります。
一方で商品などに不備がないのであれば手順を踏んで催告を行い回収をしていくこととなります。事前に対応マニュアルを作っておくことで速やかに対処可能となります。

特に回収の際に問題となりやすいのは払いたくても払えないという場合です。
このようなケースでは単純に支払いをお願いするだけではどうにもならないことが少なくありません。債務の額や相手の資産状況、債権者の数、相手との関係などにより柔軟に対応していく必要があります。このようなケースでも事前に対処方針を立てておくことが重要です。

一般的な注意事項として債権回収は迅速に行うことが必要とされています。
なぜなら、消滅時効にかかったり、破産されたり、他の債権者に先を越されたりするからです。
たとえば消滅時効に関しては請求できる時から5年で権利を失う可能性があります(2020年4月1日より前に発生した債権については1年で消滅するなど期間が異なることがあります。)。

債務者によっては時効にかかることを計算して支払いをしない人もいるため気をつけなければなりません。このようなケースでは時効を完成させない工夫をしていく必要があります。

相手と状況に合わせて適切な催告をすることで労力と費用、時間のバランスをとり債権の回収を無駄なく確実に行っていくことが目標といえます。

ポイント1~通常の催告

相手が売掛金などを支払ってくれない場合、どのような理由で支払わないのかがわからない状況ではとりあえず相手の支払い意思の有無を確かめることが大切です。

もっとも一般的なのは電話による催告です。
迅速かつ確実であり労力や時間もかからない連絡方法として優れています。
相手の反応を直接確認できるため意図的な支払い遅延なのかうっかりミスにすぎないのかといった判断の材料にもできます。
ただし、相手が不在であったり連絡先として伝えられていた電話番号が間違っていたりすることもあり、そのような場合には他の方法を検討する必要があります。

メールやFAXによる連絡も重要です。
普段からメールやFAXで連絡を取り合っている場合にはもっとも利用しやすい手段といえます。
ただし相手に到達していないことがあったり、到達していたとしても他の文書に紛れてしまって確認されていなかったりすることがあります。このような場合に備えていつまでに連絡をするようにメールやFAXに記述することで期限を切る方法も効果的です。
期限までに連絡がなかった場合にはあらためて他の方法を含め確実に連絡できる方法を検討することになります。

郵便を利用して督促状を送付する方法も有効です。
デメリットとしてタイムラグが生じやすいため緊急の連絡方法としては不向きですが、電話やメール等の連絡方法が利用できない場合に労力や費用をかけない催告方法として基本となるものです。

これらの方法は波風を立てない穏当な手段であり、相手との関係を不必要に壊さず支払いを促す基本となるものです。
その反面、心理的なプレッシャーを与える効果は弱いため、相手方が意図的に支払いを遅らせているような不誠実な場合には実効性が低く更に別の手段をとる必要があります。

債務者の所在がはっきりしていて近くに住んでいるような場合には直接訪問する方法も有効です。
電話などと比べると直接請求を受けるほうが心理的なプレッシャーも大きくなります。
家族や近所の人の目を気にする人も多いことから何度も来られては困ると考えて任意に支払いに応じてくれることも少なくありません。
ただし、圧力がその分強くなるため相手との関係をこじらせたくない場合には郵便などの間接的な方法を先に検討することが必要です。

訪問のメリットはプレッシャーをかけるだけではなく念書をとりやすい点にもあります。
念書は支払い義務を書面で認めてもらうものであり重要な証拠となります。
特に形式は決まっていないため手書きでも問題ありません。どの取引で生じた債務であるかを明確にし署名押印してもらいます。これにより心理的な圧力が高まります。

前記した消滅時効の期間をリセットする効果もあります。そのため念書には作成年月日を記載することも重要です。

もし相手がすぐに支払うことができないという場合には弁済期の延期や分割払いに応じる姿勢を示すことも任意に支払ってもらえる可能性を高めることにつながります。
他に債権者がいて債務の総額が大きいような場合には分割払いに応じることが危険なこともありますが、無理に返済を迫ると自己破産される可能性を高めることにもなるため相手の状況に応じて柔軟に対応することが求められます。

以上のような一般的な催告方法は相手に支払う意思がある場合にはとても有効な方法といえます。手間や労力、コストも少なくて済むというメリットもあります。
ですがそのかわりに相手に与えるプレッシャーが弱いという問題もあります。
この点、弁護士が同様の催告をすると素直に支払ってもらえることが多くあります。
債権者が直接電話をしてもはぐらかされたり電話に出てもらえなかったりすることもありますが、弁護士からの電話にはきちんと対応する人が少なくありません。

弁護士に依頼するとすぐに訴訟になると思われている人が少なくありませんが、実際には任意の交渉で解決される事例も多くあり訴訟に発展するとは限りません。かえって穏便に早く問題が解決され費用が抑えられることも多く重要な選択肢となります。

ポイント2~内容証明郵便の活用

郵便を利用した催告方法としてより強力な方法もあります。

内容証明郵便は郵便局のサービスにすぎず法的な制度とはいえませんが、一定の書式に従い記述されることで厳格な印象を与えるとともに、文章の内容と配達した事実の証明ができるため訴訟に発展した場合にも有力な証拠として利用できるというメリットがあります(配達証明はオプションですが通常はセットで利用します。)。同じ内容の文書が相手方に送付されるとともに差出人と郵便局に保管されることになります。

特に弁済期の定めがない債務の場合には遅滞に陥る時期を特定するために重要な証拠となります(遅延利息の算定などに影響を与えます。)。

相手に与えるインパクトが強いため通常の郵便などでは支払いに応じなかった債務者も素直に支払いに応じることが少なくありません。内容証明郵便を送ることで回収への本気度を伝えることができるため訴訟などのより厳格な手続きをとられるのではないかという印象を与えるのです。

単なる催告は時効をリセットする効果はありませんが6か月の間完成が猶予されることになっています。どの債務について催告がいつあったかということが証拠として残るためその後訴訟などを起こして強制的な回収を行う場合に重要となります。
ただし、図面など文書以外を一緒に送ることができないことや1ページにおける字数制限などがあります。

オンラインで手続きを行うことも可能です。Word形式で作成した催告書をインターネットを利用しアップロードすることで相手方に配達できる電子内容証明が利用できます。これにより内容証明郵便を以前よりも利用しやすくなっています。

内容証明郵便は訴訟の前提として利用されることも多く送る側も受け取る側も緊張感のある方法です。
そのため文書の内容も期限を明示しそれまでに返済や返答することを求める心理的な圧力を感じさせる文体が用いられます。

この方法も弁護士が用いることでより効果的となります。
弁護士名で内容証明郵便が送付されると多くの人は事態の深刻さを強く感じることになります。そのため、訴訟などを起こさなくとも素直に返済や交渉に応じてくれることが多くなります。
訴訟に至ると費用や時間労力がそれだけ多くかかることになります。
弁護士に依頼することで一般の人が用いる催告の方法であっても返済に応じてもらいやすくなるため事態を悪化させずに早期に解決できる可能性が高まります。

ポイント3~裁判所の利用

債権額が大きかったり債権者の数が多かったりするなど訴訟を利用せざるを得ないこともあります。
しかしその前に話し合いで解決するために裁判所の調停手続きを利用する方法もあります。

裁判所の手続きとしては訴訟を思い浮かべる人が多く一刀両断的な解決をする所と思っている方が少なくありません。これは訴訟と異なり話し合いにより円満な解決を図る制度です。

調停を簡易裁判所に申し立てることで相手方に呼出状が送付され裁判所で話し合いの場を持つ手続きです。「売掛金を返済せよ」という内容の文書も同時に送付されますから裁判所を利用した一種の催告といえます。
調停とはいえ裁判所からの呼出状を受け取るとそれだけでプレッシャーになるため素直に支払いに応じる人もいます。

訴訟と違い柔軟な解決を図れるため任意に支払ってもらえる可能性も高まります。
手続きは簡易的であり非公開で行われ民間から選ばれる調停委員を交えて話し合いを行います。
合意が成立すると確定判決と同様の効力が与えられるため債務者の財産に強制執行することも可能となります。
ただしあくまで任意の方法のため相手が応じてくれなければ不成立となります。

これまでに述べてきたさまざまな方法で解決しない場合には訴訟を検討することとなります。
その場合、最終的に強制執行できなければ意味がありません。そこで財産を処分されたり隠されたりしないように仮差押えが必要となります。
この手続は財産の処分を制限することになるためそれだけで強力な圧力となります。
特に銀行などの金融機関から融資を受けているような場合には「銀行取引約定書」の期限の利益喪失条項に該当するため融資金の全額返済を求められる可能性があります。これを避けるために返済に応じることが少なくありません。

裁判所を利用した手続き、特に仮差押えや訴訟に関しては専門的な知識と経験が不可欠なため弁護士に依頼することが必要です。

まとめ

  • 支払いの遅延理由はいろいろあり原因に応じて対処法を変えることが必要です。
  • 回収を放置していると時効などにより回収が不可能となるおそれが高まります。
  • 緊急性が高い場合を除いて電話やメールなど穏当な方法で催告をし、解決しない場合に強い解決方法を検討していきます。
  • 念書をとることで物証を作るとともに返済動機を高めることができます。消滅時効対策にも有効です。
  • 相手の経済的状況により分割返済などを提案することで任意の返済可能性を高められます。
  • 内容証明郵便は心理的圧力が強いだけではなく訴訟に発展した場合に重要な証拠とすることができます。インターネットから送付することも可能です。
  • いずれの手続きも弁護士が行うことで最大限の効果を発揮します。事態を悪化させないためには早めに相談することが大切です。