診療報酬が未払いのケースについて具体的な対応策と事前にできる予防策について解説します。

 

※借金などの債務の返済ができずお困りの方こちらの記事をご参照ください。

 

被保険者である患者が支払いをしない場合

患者さんが国保などの被保険者である場合、診療報酬は窓口で被保険者である患者が自己負担分を支払うとともに残額は保険者から医療機関に支払われます。現状では前者の未払い(窓口未収金)が大きな問題となります。

つまりこの場合、患者さんから本人負担分を回収できないことになります。これには「患者さんにお金がなくて払えない場合」と「お金があるのに払わない場合」があります。

いずれの場合も基本的な対策として定型的な対応を考えておく必要があります(マニュアル化)。

最近ではインターネット上で評判が書き込まれることも多くなっています。そのため患者さんごとに対応を変えてしまうと、同じ対応を受けなかった別の患者さんから差別的な対応を受けたなどの批判を受ける恐れがあります。

 

基本的な対処方針としては、診療報酬の未払いがあった場合どの段階でどのように行うかを決めることです。支払期間をマニュアルで定めておき一定期間を経過するまでは事務担当が電話など任意の方法で督促を行い、一定期間経過後については専門の職員が手紙や訪問で督促するなどの対応を決めておきます。診療報酬の未払いへの対応をしたときには記録を残すことも重要です。どのように督促をして患者さんがどのように答えたのかを正確に記録しておきます。

 

督促の際には患者さんの経済状態や生活実態、親族の有無、緊急連絡先などを把握することも重要です。

 

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被保険者資格を喪失した患者が支払いをしない場合

被保険者資格を喪失した方については、「医療券」制度によって国保などの保険制度とは別の枠組みで診療報酬を得られる可能性があります(事前手続きが必要です。)。

「医療券」制度とは生活保護制度における医療補助制度です。

これは健康保険制度とは別枠で生活保護制度の中で医療費を補助するものです。具体的には生活保護を受けている本人が社会保険事務所で医療券を受けとり、これで支払いに代えるものです。

医療券によって医療機関は診療報酬全額を受け取ることができます。ただし、事前に医療券をもらってきてもらう必要がありますので、そのための啓もう活動や相談に応じる窓口の設置が有効です。

 

お金がなくて払えない場合

この場合、国保などの保険制度とは別の枠組みになりますが、生活保護を受けていれば前述の「医療券」制度があります。

事前に手続きを踏む必要がありますので、患者さんの状況をヒアリングして適切な対応をアドバイスすることが重要です。地元の福祉課や社会保険事務所との連携も有効です。

生活保護を受けられそうにない場合、例えば、近くに頼れる親族がいるような場合は、そうした親族に連帯保証人になってもらうことが有効です。

 

お金があるのに払わない場合

単に払わずに済むなら済ませたいという程度のものから、病気が治っていないから払う義務もないというモンスターペイシェントまでさまざまな段階があり、対応が難しいグループです。

医師法の応召義務を曲解して、何も支払わなくても医師は診療をしなければならないと主張する人もいます。

まず、医療契約は双務契約であり患者さんには医療費を支払う義務があること、また医療契約は、基本的に患者さんの病気を治すことを約束する請負契約ではなく、病気を治すために最善の努力をする準委任契約に留まることを理解してもらいましょう。

モンスターペイシェントの場合には、法律を誤解している場合もあるので法律専門家である弁護士に医療契約の内容を解説してもらったパンフレットなどを常備して、医療機関内で閲覧できるようにしておくのも誤解や争いを避けるためには有用です。

 

医療費の未払いの予防策

診療報酬の未払いをどのようにして防いでいくか具体的な対策について見ていきます。

 

保険証など身元確認を確実に

患者さんがどこの誰なのかが分からなければ未払いの診療報酬を請求することが難しくなります。通常は保険証により身元確認が行われますが急患や外国人などで保険証を示してもらうことができないこともあります。このような場合には運転免許証やパスポートなど本人確認できる身分証明書の提示を求めコピーをとらせてもらいます。

本人確認できる資料がない場合であっても連絡先として住所、電話番号、メールアドレスを確認します。書き間違いが多いことを説明しその場で電話やメールをして間違いがないか確認することが確実です。弁護士であれば電話番号などから住所を調査できることもあります。

 

誓約書に署名をもらう

診療報酬が未払いであることを記載した書面に署名をもらうようにします。押印がなくても署名があれば法律上は強力な証拠と認められているため誓約書のひな型を用意しておくとよいでしょう。誓約書の内容として未払いの診療報酬金額、日付、支払期限等を記載します。支払期限については「1週間以内」のように記載するのではなく、「〇月〇日〇時まで」のように具体的な日時を記載した方があいまいにならずに済みます。

誓約書を作成してもらうことで患者さん本人に支払いを行う義務感を生じさせる効果もあります。

 

クレジットカードなど決済方法を増やす

医療サービスの特徴として突然の体調不良やケガにより予期しない形で利用することが挙げられます。多額の治療費が発生したり保険証を持ち合わせていなかったりするときには現金が不足しやすくなります。特に外国人観光客など健康保険未加入の方で現金決済の慣習がない場合には未払いの診療報酬が高額となりやすくなります。

日本では現金決済が主流といえますが外国ではクレジットカードなどキャッシュレス決済が一般化しています。特に外国からの観光客の場合には本国に帰られてしまうと医療費の回収が難しくなるため対応するクレジットカードを増やすなどの対策が有効です。

 

連帯保証人をつけてもらう

入院や手術が必要な場合など診療報酬が多額の場合には連帯保証人をつけてもらうことも重要です。患者さん本人が未払いとなっても連帯保証人に直接請求することが可能となります。通常の保証契約ではなく患者さんと「連帯して支払う」旨を記載した保証契約書に署名してもらうことが効果的です。通常の保証人の場合には患者さんに対する強制執行などをしておかないと請求ができないことがあるからです。

診療報酬における連帯保証契約については「根保証」にあたり極度額(保証限度額)を定めなければなりません。そのほか要件や義務があるため弁護士にご相談ください。

 

医療費について事前に説明する

診療報酬が想定よりも高額になるとトラブルとなり未払いの原因となりやすくなります。特に保険が利用できない医療費や健康保険に加入していない外国人との間でトラブルが起こりやすくなります。そのため診療報酬について概算額を事前に説明することが有効です。基本的な診療報酬についてパンフレットを作成しておき説明すると分かりやすくなります。できれば英語など代表的な外国語を併記しておくことが望ましいといえます。

 

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未払いの医療費を回収する方法

診療報酬が未払いとなったときには以下に挙げるような方法で回収していきます。

 

電話やメールで請求する

支払期限を過ぎても診療報酬が未払いになっているときには早めに連絡をとることが重要です。単に支払いを忘れているだけのことも多いため早めに問題を処理することが大切です。催促が遅れると支払える現金に余裕がなくさらに回収までに時間がかかることもあります。電話での催促であれば相手と直接会話できるため支払日を確約してもらうようにします。

 

督促状を送付する

電話では連絡がつかないときには文書で未払いの診療報酬を催促していきます。相手の態度や債権額にもよりますがはじめは支払いを忘れていることを思い出してもらうつもりで威圧的な印象を与えない方がいいかもしれません。相手との関係がこじれるとかえって支払いに応じてもらいにくくなることがあるからです。

 

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強制徴収制度について(保険者徴収)

健康保険に加入している場合には未払いの診療報酬について保険者が医療機関に代わり徴収する制度があります(国民健康保険法42条2項等)。

しかし医療機関が未払い診療報酬の回収努力を十分に行うことが求められています。書面や訪問での督促、60万円を超える医療費など制度を利用できる要件が保険者によって細かく規定されています。要件の厳しさや回収率がよくないことが指摘されており現状ではあまり利用されていません。60万円という金額は少額訴訟を利用できる上限でありあくまで医療機関が自力で回収することを期待しているようです(「一部負担金減免・保険者徴収に関するQ&A」厚生労働省保険局国民健康保険課)。

いずれにしても医療機関として診療報酬の未払い分について回収の努力を十分に行う必要があります。

 

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弁護士に依頼する

債権回収は法的な知識や経験が必要であることはもちろん債務者との駆け引きも必要です。専門家でない一般の医療スタッフでは効率よく回収することは難しく本業に支障をきたすこともあります。

医療費の未払い対策をアウトソーシングすることで病院経営を効率化し本業である医療に専念することができます。

 

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まとめ

診療報酬の未払いについては対策マニュアルを作成することが有効です。

・身元確認の徹底や誓約書への署名、クレジットカードなど決済方法の多角化、医療費の事前説明などが有効です。

・診療報酬が多額になる場合は連帯保証人をつけてもらうことも効果的です。

 

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