病院経営も一般企業と同様に経済的な視点が欠かせません。物を販売したりサービスを提供したりしても対価を受け取るまで取引は完了しません。

病院においても医療サービスの提供をしただけで終わりではなく診療代や薬代を支払ってもらうことで経営を続けることができます。

一般企業にとって債権の回収が重要な課題であるように、病院にとって医療費の回収は避けて通れない問題です。

 

この記事では未払い医療費の実態と回収方法や注意点について解説していきます。

 

医療費未払いの実態

実際に医療費の未払いがどの程度生じているかご存知でしょうか。その実態から解説していきます。

 

医療費未払いの状況

厚生労働省が公表した令和2年3月のデータによれば、令和元年10月及び11月の未収金平均額は、1医療機関あたり10月単月で約178万円、11月単月で約256万円とされています。※1

平成30年は10月単月で約129万円、11月単月で約164万円と報告されており増加傾向が見られます。※2

これらは医療費の高額化や自己負担率の増加などが影響していると考えられさらに悪化することも予想されます。

 

※1平成30年度病院経営管理指標(厚生労働省)令和2年3月付

※2医療施設における未収金の実態に関する調査研究(厚生労働省)平成31年3月付

 

外国人患者による未払いの状況

外国人患者は言葉の壁や住所が国内にないなどの特有の問題があります。

 

令和2年10月に外国人患者の受入実績のある病院のうち、16.5%が外国人患者による未収金を経験しています。※3

 

この報告書によれば、未収金のあった病院のうち病院あたりの外国人患者による未収金の発生件数は平均4.4件、総額約37万円が10月単月で生じています。

このように外国人患者による医療費未払いは病院経営を圧迫する要因となっています。

 

※3令和2年度医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査について(概要版)(厚生労働省)

 

<関連記事>病院の未収金対策マニュアルと回収方法

 

医療費の消滅時効

2020年(令和2年)4月1日に民法が改正され消滅時効期間に変更が生じています。

以前は公立病院については5年、私立病院は3年と時効期間が異なっていましたが改正により統一されています。

 

旧民法では3年

2020年3月31日以前に生じた債権については旧民法が適用されます。

改正前の消滅時効期間は原則10年とされていましたが、例外として職業別に時効期間が定められていました。

病院などの医療機関の診療費や薬代については3年の短期で消滅することになっていました。

したがって、改正前に生じた医療費の消滅時効期間は3年です。

ただし、確定判決やそれと同一の効力を持つものによって権利が確定している場合には消滅時効期間は10年に延長されます。

 

新民法では5年

改正後に発生した債権については権利を行使できることを知った時から5年で消滅時効にかかります。知らなくても行使可能な時から10年です。

 

起算点

時効期間

債権者が権利を行使できることを知った時から

5年

債権者が権利を行使することができる時から

10年

 

医療費については支払期日から権利を行使可能であり期日も知っているため、通常は期限の翌日から数えて5年で消滅時効にかかることになります。

 

医療費の時効を完成猶予・更新する方法

消滅時効期間は絶対的なものではありません。「時効の完成猶予」と「時効の更新」という2つの制度があります。いずれも期間が到来する前に一定の行動をとっておけば時効にかからずにすみます。

 

「時効の完成猶予」とは、時効期間が満了しそうな場合に一時的に時効の完成を延ばしてもらうための制度です。旧民法では「停止」と呼ばれていました。

方法はいろいろありますが期間の満了が近いため迅速に行える方法を紹介します。

 

催告する

支払いを催促することで6か月間時効の完成が猶予されます。特に手段は限定されていませんが証明することができなければ意味がありません。そのため、配達証明付内容証明郵便を使うことが一般的です。

ただし何度も繰り返し完成が猶予されるわけではありません。そのため6か月のうちに催告を繰り返したとしても時効は完成してしまいます。後記の協議を行う旨の合意により猶予されているときにも催告による猶予は認められません。

 

<関連記事>債権回収の内容証明作成方法を弁護士が解説!債権回収を効率よく解説!

 

協議を行う旨の合意

権利について協議を行う旨の合意を書面でしたときには合意から1年経過するまで時効完成が猶予されます(合意の中でそれより短い期間を定めたときにはその時まで。)。

再度の合意も有効ですが本来時効が完成すべき時から通じて5年を超えることはできません。

ただし、一方の当事者から協議を拒絶する旨の書面による通知があったときには通知から6か月を経過する時までが猶予期間となります。

催告による猶予期間中では合意による猶予が認められないため注意して下さい。

 

仮差押え(保全処分)

患者さんの財産に仮差押えをすることでも時効の完成が猶予されます。仮差押えの効果がなくなってもその時から6か月間猶予されます。

 

他に裁判上の請求や強制執行などの方法もありますが時間がかかるため上記の方法が特に有効といえます。

完成の猶予は、あくまで一時的な対処方法であるため、猶予期間中に回収するか時効の更新の手続きをとる必要があります。

 

「時効の更新」とは、これまで進行した時効期間をリセットすることをいいます。改正前は時効の中断と呼んでいました。

 

時効の更新方法はいくつかありますが、医療費の回収に使える方法をご紹介します。

 

支払いの約束をしてもらう(債務の承認)

患者さんが医療費の支払義務があることを認めてくれるだけで時効が更新されます。

つまり、その時から5年間は時効が完成しなくなります。

ただし、証明できなければいけないので文書にすることが大切です。文書に特に形式はありませんが署名のほかに押印してもらうほうが好ましいです。一部弁済も承認にあたるため一括返済が困難なときには分割での支払いを受け入れることも検討して下さい。

 

民事調停を行う

民事調停とは、簡易裁判所で民間人を交えて話し合いをする手続きです。話し合いがまとまると調停調書が作られるのですが判決書と同じ効果があります。そのため相手の財産に強制執行していくこともできます。その後、10年間は時効が成立しなくなります。

 

支払督促を行う

支払督促とは、簡易裁判所の手続きで相手方に一方的に支払い命令を出してくれます。費用は訴訟の半分で済みます。

その後、仮執行宣言というものをもらうことができるのですが、仮執行宣言があると債務者の財産に強制執行していくことができます。

仮執行宣言が確定すると時効期間が更新され10年間は時効が成立しなくなります。

 

民事訴訟を行う

他の方法では解決しないときには裁判を行うことになります。

60万円以下の少額の医療費については1日で判決を出してもらうことができる少額訴訟を利用することもできます。

訴訟により判決が確定すると10年間は時効が完成しません。和解が成立した場合も同様です。

 

強制執行を行う

判決や仮執行宣言をもらっても患者さんが自分から支払ってくれるとは限りません。

その場合には、患者さんの預金などの財産を差し押さえて回収することになります。

強制執行をした場合にも時効期間はリセットされますが期間は5年となっています。

 

<関連記事>債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説

 

未払い医療費の回収における注意点

医療費回収の際の注意点や未収金発生の防止策について解説します。

 

診療拒否

一般企業の場合には料金の未払いがある顧客に対してサービスの提供を拒否することができます。

しかし医療機関の場合にはたとえ医療費の未払いがあったとしても診療拒否をすることは原則としてできません。応召義務が法律上定められているからです。

ただし、すべてのケースで診療を拒絶できないわけではありません。支払いをしようと思えばできるのに悪意で支払いをしないような場合など診療を拒否できるケースもあります。

 

連帯保証人からの回収

高額な医療費がかかる場合には事前に連帯保証人を立ててもらうことも対策となります。支払いが滞った場合には連帯保証人に対しても請求できるようになります。

保証契約を結ぶ際には必ず「連帯」という文言を保証契約書に盛り込んでください。通常の保証人の場合には医療費の回収が難しくなります。

 

決済手段の多角化

クレジットカードやQRコード決済などキャッシュレス決済への対応も有効な対策となります。決済手段の多角化は、現金の持ち合わせのない急患や外国人患者による未収金発生を抑制することになります。

 

外国人患者受け入れ体制の強化

2021年から医療費不払いの経歴を持つ外国人の入国審査が厳格化され悪質な人物の入国は難しくなっています。

 

外国人患者との間で未収金トラブルを生じさせる大きな理由は意思の疎通と文化の違いです。外国では医療費は事前提示が当たり前のところが多く、事後提示かつ健康保険が使えず高額請求となりトラブルになりやすいのです。その背景には意思の疎通の問題もあります。対策としては外国語に対応可能なスタッフヤ翻訳アプリの活用、費用の事前提示やデポジットの要求が有効です。

 

<関連記事>病院が患者から未収金を回収する方法と注意点を弁護士が解説

 

時効期間が過ぎてしまった場合

時効期間が過ぎてしまってもあきらめる必要はありません。

時効期間が経過したとしてもそれだけでは時効は成立しないからです。時効により利益を受ける人が「時効だから支払わない」と主張してはじめて時効は完成します。これを時効の援用といいます。

時効期間が過ぎている場合に、患者さんがそのことを知らなかったとしても支払いを約束したのであれば時効は成立しません。

 

問題とされるのが一部弁済のケースです。時効期間満了後に弁済があったとしてもあまりに少額であるときには時効が認められることがあります。

そのため不自然なほど少額な金額を請求するのではなく、本来の金額を請求し相手が自発的に債務を承認してくるのを待つほうがいいかもしれません。

 

<関連記事>債権回収、借金には、時効がある!消滅時効とその対処方法について解説!

 

未払い医療費の回収の相談は弁護士へ

未収金の回収は迅速に行う必要があります。時間をかけ過ぎると消滅時効の問題だけではなく債務者の経済状況の悪化により債務整理されてしまうこともあります。

医療費の回収がスムーズでないと感じたら一度弁護士に相談して下さい。

弁護士に依頼する場合の注意点としては、医業未収金を専門にしている法律事務所を選ぶことです。弁護士にも専門分野があるため医療機関の未収金回収の実績のあるところに相談することが大切です。

 

<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説

 

まとめ

医療費の滞納額は医療の高度化などにより悪化していくことが予想されます。

・医療費の消滅時効は5年です。ただし、旧法が適用され3年となるケースもあります。

・消滅時効は完成猶予や更新によって阻止することができます。

・診療を拒否することは原則としてできません。

 

未払い医療費の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

当事務所は医療費の回収に強い事務所であり実績も多数あります。

病院など定期的に未収債権が生じるケースに特化した債権回収業務を行っています。

 

報酬の支払いは完全成功報酬制となっており未収金が入金されてはじめて報酬が発生するため万が一回収に至らなかったときには費用は生じません。

「着手金0円」、「請求実費0円」、「相談料0円」となっておりご相談いただきやすい体制を整えております。

※法的手続きやご依頼の状況により一部例外がございます。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。

 

「多額の医療費の滞納があって処理に困っている」

「毎月一定額以上の未収金が継続的に発生している」

このような問題を抱えているのであればお気軽にご相談ください。