病院などの医療機関にとっても未払いの未収金の存在は経営に深刻な影響を及ぼします。効率よく未収金を回収していかなければ病院経営は安定しません。そのためには定型的な回収方法を定めた未収金対策マニュアルを作成することが有効です。

この記事では病院で発生する未収金の対策マニュアルや回収方法、注意点などを解説します。

未収金対策マニュアル

病院での未収金を回収するには効率よく行っていくことが必要です。病院では日常的に医療未収金が発生するため事前対策が求められます。特に未収金対策マニュアルを用意して職員全員に周知徹底することが大切です。そのためには基本となる体制を構築しそれを具体的に運用する方法を考えていかなければなりません。

保証金や連帯保証を活用する

保証金は預り金やデポジットなどともいいます。治療や入院前に医療費の概算を請求しておくことです。海外では一般的に行われており国内でも導入している医療機関は増えています。病院にとって未収金が発生しにくくなるというメリットだけでなく、患者さんにとっても治療費の目処が立つことで安心できますし、後日急かされて病院に支払いに行かなくて済むなどのメリットがあります。

夜間・休日の時間外診療においては一律の金額を請求しておき後日精算することが有効です。窓口担当者が専門外であってもマニュアルに従って請求していくことが可能です。その際、少なくとも5,000円、できれば1万円程度は預かるようにします。たとえ保証金が治療費に足りなかったとしても未収金を減らすことが大切です。診療内容に応じて保証金額を変えることも考えられます。

連帯保証人も有効です。入院時など治療費が高額になりそうなときにはできるだけ家族や親族に依頼できないか検討します。保証人の意思を確認することが大切なため、なるべく付き添いに来たときなどに目の前で保証契約書にサインしてもらうようにしてください。なお、「保証人」と「連帯保証人」では回収の難易度が変わります必ず「連帯して支払う」との文言を契約書に入れてください。

保険証がなくお金の持ち合わせもないときには連絡先の確認を徹底してください。身分証がない場合であっても電話番号やメールアドレスは確認するようにします。弁護士であれば電話番号などから住所を調べることもできます。

決済方法の幅を広げる

一般企業と異なり病院での決済は現金で行われることがほとんどです。クレジットカードもある程度普及してきてはいますが利用できない医療機関はまだまだ多いのが実情です。

現金以外の支払い方法はいわゆる「キャッシュレス決済」と呼ばれています。その種類は、「クレジットカード」、「デビットカード」、「QRコード」、「電子マネー」などがあります。デメリットとして導入コストや手数料がかかること、入金までに時間がかかることから普及していないと考えられます。

ですが若い世代や外国人の場合には現金で決済しない人も多いため未収金を防止する効果は高いと考えられます。

急患や一時滞在の外国人を診療する割合が高い病院では決済方法を広げることは未収金対策として有効です。手数料率が気になるのであれば原則現金支払いにした上で自由診療の場合に限定して利用する方法もあります。

早い段階で督促状を出せるような体制を整える

未収金回収の基本方針はスピードです。回収業務は早く着手すればするほど回収が容易となり回収率も上がります。回収にあたるのが遅れれば遅れるほど支払いに応じてもらいにくくなり時効にかかるおそれも出てきます。回収方法の選択肢も狭まっていき法的手段をとらざるをえないこともあります。支払いがどの程度遅れているのかにより回収方法も変わるため状況によって適宜回収手段を変えていく必要があります。

そのために事前に回収マニュアルを整備しておき定型的に回収ができるようにしておくことが大切です。これにより回収業務担当者が異なっても対応を統一することが可能となり改善点も見えやすく未収金回収率も安定しやすくなります。

未収金回収の基本は「未収金」の発生を認識することから始まります。どの時点から「未収金」として回収業務を開始すべきなのか基準を定めることが必要です。そのためには支払期間をどの程度にするのか定めなければなりません。基本的に支払期限を過ぎた時から回収業務が必要となるからです。一律に支払期間を統一する方法や治療内容や請求金額によって期間を変える方法が考えられます。あまり短い期間にすると未収金回収業務が不用意に増えることになり、反対に長めに設定すると回収率が悪くなるおそれがあります。これまでの回収業務の実績をもとに無理のない範囲で支払期間を設定していきます。

実際に滞納が起きたら速やかに督促を実施します。電話による督促、文書による督促、訪問による督促、弁護士への依頼など段階を分けておきそれぞれに実施するまでの期間をマニュアル化しておきます。電話での応対もマニュアル化しておけばトラブルが少なくて済みます。

督促状についてはあらかじめひな形を作成しておくことで回収の効率化を図ることができます。Wordの差し込み文書機能を利用するのがいいでしょう。

未収金の回収マニュアルを作成してしまえばあとは効率よく回収業務が可能となります。

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早めに弁護士に依頼する

未収金の回収は迅速に行う必要があります。回収業務は法律のからむ専門性の高い分野でありトラブルも生じやすく病院が独自に回収することが好ましくないこともあります。未収金回収マニュアルを整備し定型的な回収を実施した場合にどうしても回収しきれない悪質なケースについては無理をせずに早めに弁護士に相談することが大切です。病院での回収にこだわるあまり行き過ぎた回収になってしまうと病院の評判にかかわることもあります。債権回収を専門にする弁護士であれば病院のブランドイメージを守りながら適切な回収方法をとることが可能であり早期に回収することが可能です。

顧問契約を結んでおけば回収マニュアルの作成についても相談に応じてもらえます。

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未収金が発生した場合の回収方法

未収金が未払いとなり長期に滞納する状態になることがあります。滞納の原因は3種類に分類できます。1.経済的理由、2.病院に対する不満、3.悪意型(支払えるのに支払わない)に分けることができます。

それぞれのケースに応じて回収方法を柔軟に使い分けることが必要です。特に悪意で支払わないケースについては病院だけで対応することには限界があります。

未収金の回収マニュアルに従い定型的な回収を行い回収の見込みが立たないと判断したときには次のステップに移ることが必要です。

弁護士を通して回収してもらう

病院内で未収金回収にあたるのは医事部門や経理部門と考えられます。いずれも本来未収金回収業務を行う専門部署ではなく他の業務に付随して担当することになります。一般企業の中には法務部を設置し回収業務を専門に担う部署を置いている所もありますが普通の病院にはそのような部署を設置することはありません。

本来の業務とは異なる仕事を担当することは病院スタッフにとって大きな負担となります。病院経営にとっても効率がいいとはいえません。

 

弁護士に依頼すればコストがかかりますがスタッフの人件費や回収の効率性を考えるとかえって弁護士に依頼した方が回収額は多くなることがあります。スタッフの負担や病院のブランドイメージも考慮すると回収業務を外部に委託することのメリットはとても大きいといえます。

病院スタッフは貴重であり限られた医療従事者を有効活用するためにも回収業務は弁護士に代行してもらうことをおすすめします。

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支払督促手続を行う

比較的簡単な法的手続きとして「支払督促」手続きがあります。簡単に説明すると簡易裁判所の書記官に債務者に対して金銭の支払いを命じてもらう手続きです。相手が応じない場合には最終的に財産に対して強制執行していくことも可能です。悪意のある患者さんに対しては効果的な回収方法の一つといえます。

書類審査のみで命令してもらえるため訴訟と違って裁判所に行くことも証拠を出す必要もありません。費用も訴訟の半分で済みます。病院の言い分のみに基づいて支払いを命じてくれるため患者さんの言い分を聞かずに督促状を出してくれます。

ただし、相手にもなにか言い分があることがあるため患者さんは送られてきた督促状に付いてくる異議申立書を返送することで支払督促に対抗することができます。患者さんが異議を申し立てると通常の訴訟に移行することになります。

もしも患者さんが支払督促を受け取ってから2週間以内に異議を出さなかったときは、病院は「仮執行宣言」というものを出してもらうように裁判所書記官に申し立てることができます。仮執行宣言を出してもらうと直ちに患者さんの財産に対し強制執行することができるようになります。例えば、銀行預金や不動産、自動車などを差し押さえることが可能です。

仮執行宣言に対しても受け取ってから2週間以内であれば異議を申し立てることができますが、それだけでは強制執行を阻止されることはありません。異議の申立てとは別に執行停止の手続きをとることが必要とされているので異議の出される時期によってはそのまま未収金の回収に成功することもあります。

支払督促のデメリットは相手方が異議を申し立てると訴訟に移行する点です。特に理由がなくても届いた書類に同封されていた書面を返送するだけで訴訟になってしまいます。申立を取り下げることもできますが訴訟をするつもりがなく異議が出される可能性が高いときには利用しないほうがいいでしょう。

訴訟に移行しても構わないというケースでも注意が必要です。訴訟の場合には病院の所在地にある裁判所に訴えることができますが支払督促に異議が出されたときには患者さんの住所地の裁判所が管轄となってしまいます。そのため患者さんが遠くに住んでいるようなケースでは始めから訴訟を選択したほうがいいかもしれません。

少額訴訟を行う

少額訴訟とは60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる比較的易しい訴訟手続です。原則として1日で審理から判決までしてもらえるので早く未払い医療費を回収したいときにはおすすめの方法です。少額訴訟の3割程度が和解で解決しているため交渉の場としても利用できます。和解で解決すると患者さんが任意に支払いに応じてくれることが期待できるため強制執行をしなくて済むというメリットもあります。

60万円という金額には遅延損害金は含まれないので元本である医療費(治療費)が60万円以下であれば利用できます。

デメリットとしては控訴ができないことが挙げられます。判決に対し不服申立てはできますが通常の訴訟と異なり上級審に申し立てることはできず同一裁判所にもう一度審理してほしいとお願いできるだけです。そのため事前に証拠などを万全に用意しておくことが必要です。

また、勝訴しても支払いが分割払いとなることがあります。通常訴訟の場合には一括での支払いが命じられるため結果として回収に時間がかかることがあります。

利用できる回数も決められています。同一裁判所では1年に10回だけ利用できることになっている点にも注意してください。

<関連記事>少額の売掛金の回収と少額訴訟のやり方、費用、メリット、デメリットを解説

未収金の回収に関しての注意点

病院の未収金回収について特に気をつけた方がいい問題についてまとめておきます。

しつこい電話・自宅訪問は控える

未収金の回収にあたりどのような方法をとってもいいわけではありません。電話連絡一つとっても相手の生活に支障の出るような方法は許されません。貸金業者でさえ深夜や早朝(PM9時~AM8時)の連絡は法令で原則禁止されています。頻繁な連絡や職場などへの連絡も制限されています。

病院の場合には近所に患者さんが住んでいることが多いため訪問による回収も選択肢となります。その際にもアポイントメントをとってから行うなど配慮が求められます。

訪問に際しての注意点ですが「今は都合が悪い」、「帰ってほしい」などと言われたら相手の指示に従ってください。食い下がってその場に滞在し続けると不退去罪に問われることもあります。たとえ罪に問われなかったとしても支払いを拒む理由にされたり悪い噂を広められたりするおそれもあります。

病院にもブランドイメージがあるためそれを損なわないようにすることも重要です。病院独自に回収を無理に進めるとイメージに傷をつけてしまうことがあります。そのため弁護士による回収に切り替えていくことも必要です。

未収金の回収マニュアルを作成する際には電話連絡や訪問についてのルール、弁護士に依頼する基準を定めておいたほうがいいでしょう。

治療費の未払いを理由に診療拒否はできない

病院などの医療機関は治療費を滞納していても診療を断ることはできません。法律により医者には応召義務があるからです。正当な理由があれば拒否できるとされていますが医療費が未払いというだけでは理由にはならないのです。ただし治療費を支払おうと思えばできるのに踏み倒そうと考えているような悪質な場合には拒否できると考えられます。

悪質なケースに対抗する方法として「診療前の過去未納金精算制度」の導入があります。未納金のある患者さんについては当日の診療前に精算させることを徹底するのです。未収金対策マニュアルにも記載しておきます。

診療拒否できないケースでは生活保護、障害者年金制度などを紹介するとともに早めに弁護士に依頼し未収金が増加する前に回収していくことが大切です。

消滅時効

診療報酬はいつまでも請求できるわけではありません。一般の債権と同じように診療報酬債権にも時効があるからです。医療費の消滅時効期間は5年です。ただし、2020年4月1日より前に発生した診療報酬債権については3年である点に注意が必要です。

そのため未払いの医療費が発生した場合にはなるべく早く回収していくことが必要です。

もっとも時効期間は絶対的なものではありません。期間が経過したからといって請求する権利が消滅したとは限らないのです。したがって未収金となってから5年経過していたとしても回収をあきらめるのは早すぎます。

時効は援用して初めて効果が生じます。つまり、「時効によって治療費は消滅している」と相手から主張されない限り請求可能なのです。

また、期間経過前に患者さんから支払いを約束してもらうなど一定の対策を講じると時効期間をリセットしたり時効の完成を猶予してもらったりすることができます。

診療費の支払いを約束してもらうことが特に効果的であるため「支払い誓約書(確認書)」の提出を求めることが大切です。一度提出してもらっても再び時効にかかるおそれが出たときには再度求めます。未収金回収マニュアルに誓約書に関する項目も用意しておいたほうがいいでしょう。

<関連記事>未払い医療費の回収方法と注意点を解説!医療費回収の消滅時効にも注意!

まとめ

・病院の未払金を効率よく回収するには未収金対策マニュアルを作ることが有効です。

・治療や入院時に保証金や連帯保証人を用意してもらうことが大切です。

・キャッシュレス決済を導入することで外国人や若い人の滞納を減らせます。

・医療費には消滅時効があるため早めに回収する必要があります。

病院でできる回収とそれ以外の回収を分類し自力での回収が難しいものは早めに弁護士に相談することが必要です。コストも弁護士に依頼した方が安く済むことも多いです。

未収金、売掛金の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

病院の未収金対策マニュアルの作成には弁護士によるアドバイスが有効です。

病院内で対応するべき部分と弁護士に依頼する部分を明確にマニュアル化することで効率よく診療報酬債権の回収が可能となります。

当事務所では報酬の支払いは完全成功報酬制となっており未収金が入金されてはじめて報酬が発生するため万が一回収に至らなかったときには費用は生じません。

「着手金0円」、「請求実費0円」、「相談料0円」となっておりご相談いただきやすい体制を整えております。

※法的手続きやご依頼の状況により一部例外がございます。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。

少額債権(数千円単位)や債務者が行方不明など他事務所では難しい債権の回収も可能です。

「多額の未収債権の滞納があって処理に困っている」

「毎月一定額以上の未収金が継続的に発生している」

このような問題を抱えているのであればお気軽にご相談ください。