債権の回収をしたくても債務者が現金を十分に持っていないことがあります。

ですが不動産や自動車、売掛金など現金以外の財産は保有していることがあります。

このような場合に金銭の代わりに別の資産で支払いを受ける方法があります。

 

この記事では、代物弁済とは何かについて基本的な要件から注意すべき点などについて解説していきます。

 

代物弁済とは

代物弁済とは、債権者と弁済可能な人との間で、債務者が負担している給付の代わりに、別の給付をすることで債務を消滅させる約束をした場合に、代替の給付をすることで弁済した扱いにすることをいいます。

 

例えば、AがBに50万円を貸している場合に、Bの持っている高級腕時計をAに譲ることで50万円の借金をなくす約束をAとBがしたときは、実際にBが約束の腕時計をAに引き渡すとBは50万円を支払う債務がなくなります。

 

仮に腕時計の価値が30万円しかなかったとしても原則としてAはBに差額の支払いを求めることはできません。

 

代物弁済が成立するには以下の要件が必要です。

 

・債権が存在すること

・本来の給付とは別の給付がなされること

・給付が本来の弁済に代えてなされること

・債権者の承諾があること

 

・債権が存在すること

代物弁済は債権を消滅させることが目的ですから、債権が存在していなければ代物弁済は成立しません。

 

・本来の給付とは別の給付がなされること

債権が消滅するためには現実に給付がなされる必要があります。そのためには登記など第三者への対抗要件を備えさせる必要もあります。

給付の種類には特に制限はありません。不動産や売掛債権などが代表的です。

 

・給付が本来の弁済に代えてなされること

手形・小切手を代物弁済の目的とすることができます。ですが普通は手形・小切手で支払を受けた債権者は代物弁済ではなく、通常の弁済の手段として受け取るはずです。

 

例えば、AがBに50万円を貸し付けていた場合に、Bが手形で支払ったとしてもAのBに対する金銭債権は原則として消滅しません。手形の場合には不渡りになる恐れがあり代物弁済を成立させてしまうと債権者に不利になることがあるからです。

「弁済に代えて」手形・小切手が支払われときは、代物弁済が成立し元の債務は不渡りになっても消滅したままとなります(手形上の権利はあります。)。

 

・債権者の承諾があること

債務者が一方的に代替物で支払ってきたとしても代物弁済とはなりません。債権者が承諾して初めて弁済としての効果が生じます。

 

「債権(債務)」や「給付」について詳しくは、「金銭債権とは? 特徴や種類、具体例を詳しく解説」をご参照ください。

 

代物弁済の効力が発生するまでの手順

代物弁済は、基本的に代物弁済契約をし、契約に従い給付を行うという流れで行われます。権利を確実に移転させるために第三者対抗要件を備えさせることも必要です。

 

代物弁済予約契約書の作成

代物弁済をするには必ずしも契約書は必要ありません。ですがトラブルを防止するためには契約書を作成した方がいいでしょう。

 

 

代物弁済契約書

 

債権者〇〇株式会社(以下「甲」という。)及び債務者〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、以下の内容で代物弁済予約契約(以下、「本契約」という。)を締結する。

 

第1条(債務の確認)

甲及び乙は、乙が甲に対して負担する、〇〇年〇月〇日付金銭消費貸借契約(売買契約、請負契約など)に基づく債務(以下「本件債務」という。)の残額が次のとおりであることを確認する。

債務額 金〇〇万円

内訳 元金 金〇〇万円

   利息 金〇〇万円

第2条(代物弁済の予約)

乙は、本件債務の弁済に代えて、甲に対し、乙が所有する後記不動産(以下「本件不動産」という。)の所有権を移転すること、及び、必要な登記手続を行うことを予約し、甲はこれを承諾する。

第3条(仮登記義務)

乙は、本契約を原因として、甲の乙に対する、所有権移転請求権に関する仮登記手続を行うものとする。登記手続にかかる費用は乙の負担とする。

第4条(予約完結権)

甲は、本契約に基づく予約完結権を行使することができる。この場合、甲は乙に対し、次の事項を通知しなければならない。

(1)債権額

(2)乙が負担すべき費用で甲が負担した額

(3)本件不動産の見積額

(4)本件不動産の見積額が債権額を超過する場合、甲が乙に支払うことになる清算金の見積額

第5条(清算)

1.本件不動産の価額が債権額を超えるときは、甲は乙に対し、清算金として超過した金額を支払わなければならない。清算金の支払いは、本件不動産の引き渡し、及び所有権移転登記手続と引き換えに行うものとする。

2.本件不動産の価額が債権額を下回るときは、乙は甲に対し、不足している金額を支払わなければならない。

3.清算に必要な鑑定等の手続きにかかる費用は乙が負担するものとする。

第6条(本登記手続)

乙は、甲から予約完結権の通知を受けた時から2か月を経過したときは、甲に対し、直ちに本件不動産を引き渡すとともに、所有権移転登記手続を行わなければならない。

 

本契約の成立を証するため、本書を2通作成し、甲乙署名押印の上、各1通を保管する。

〇〇年〇月〇日

(甲)住所 〇〇〇〇

名称 〇〇株式会社

代表取締役 〇〇〇〇

(乙)住所 〇〇〇〇

氏名 〇〇〇〇

 

不動産の表示

所在 〇〇

(以下省略)

 

上記の契約書式は不動産を想定して予約方式で作成したテンプレートです。元の契約に合わせて適宜修正してください。

直ちに弁済の効果を生じさせるときは、仮登記や予約完結権の項目を削除するなどしてください。

 

契約書の条項については、「債権回収に関するひな形(フォーマット)を紹介」をご参照ください。

 

不動産の場合

代物弁済の目的物が不動産の場合には、契約や物件の引き渡しをしただけでは不十分です。第三者に二重譲渡されることがあり確実に権利を取得できるとは限らないからです。そのため第三者対抗要件が必要となります。不動産の場合には所有権移転登記手続きが必要です。

 

債権の場合

売掛金など債権を代物弁済の目的とすることもできます。債権の譲渡を受けることで第三債務者から直接回収ができるようになります。

ただし、第三債務者としては知らない人から請求を受けても困ってしまうため、第三債務者に対して正当な債権者であることを対抗できる必要があります。また、債権の場合にも二重譲渡される恐れがあるため第三者対抗要件を備える必要があります。

債権譲渡の対抗要件は、第三債務者への債務者からの内容証明での通知などです。

 

債権譲渡の対抗要件については、「担保による売掛金回収の方法を徹底解説」をご参照ください。

 

動産の場合

倉庫にある商品など動産については引渡しを受けることが大切です。引き渡しを受けることで権利を主張する第三者が現れたとしても対抗できる可能性が高くなります。

 

代物弁済のメリット

代物弁済をうまく利用することで債権回収の可能性を高めることができます。

 

競売手続き無しで債権を回収できる

強制執行と異なり相手の協力により所有権を移転してもらうことで、時間や費用をかけずに債権を回収することができます。

特に、代物弁済予約をしておけば裁判所を利用せずに担保権の実行ができることからメリットが大きいといえます。

 

資産の譲渡・売却を防げる

代物弁済予約により仮登記しておけば、第三者に対し目的物が売却されたとしても本登記によって権利を対抗することができます。

 

代物弁済予約契約を締結する注意点

代物弁済を検討する際には以下の点に注意が必要です。

 

対象の資産の価格が弁済額に満たない場合

代物弁済が成立した場合、目的物の価値が低く債権額に足りないときであっても原則として債権が消滅してしまいます(例外として仮登記担保法9条)。

そのため、代物弁済契約の際に不足額が生じた場合には支払い義務が残ることを明確にすることが大切です。

 

対象の資産の価格が債権額を著しく上回る場合

代物弁済予約について仮登記仮登録できるもの(仮登記担保)については清算義務があるため、原則として債権額を超える部分については清算金を支払う必要があります。

ですがそれ以外のケースについては、代物弁済として給付されたものが債権額を上回る価値があったとしても代物弁済が直ちに問題となるわけではありません。ですが価値が過大な場合には公序良俗違反として代物弁済が無効とされたり、他の債権者から取り消しを求められたりすることがあります。

 

そのため代物弁済の対象について、債権額に近い価値であるか確認することが大切です。

 

代物弁済する前に第三者に資産を譲渡されるリスク

登記などの対抗要件を備える前であれば、目的物が第三者に二重譲渡されてしまうことがあります。

例えば、不動産については代物弁済契約をしたとしても第三者に二重に譲渡され登記も移転されてしまうことがあります。

このような事態を防ぐためには仮登記をしておくことが大切です。

 

まとめ

・代物弁済とは、本来の給付の代わりに別のもので債権の回収をすることです。

・代物弁済により債務が消滅するためには、登記や登録など第三者対抗要件を備える必要があります。

・代物弁済契約は契約書を作らなくても成立しますがトラブルを防ぐために契約書をつくことが望ましいです。

・担保として代物弁済の予約をすることもできます。

 

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