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老人ホームや介護関連施設を運営する社会福祉法人などにとって利用料の滞納は大きな問題です。適切な時期、方法によって債権回収を行っていかなければ施設の経営にも影響が生じ、施設利用者やスタッフにも大きな負担となることがあります。
この記事では、老人ホームでの利用料の滞納が生じた場合における債権回収の方法について解説していきます。
滞納利用料の内訳
老人ホームなどのサービスを利用する場合に発生する利用料にはどのようなものがあるのか簡単に整理しておきます。
介護報酬
介護報酬とは、事業者が利用者(要介護者や要支援者)に提供した介護サービスについて、対価として事業者に支払われる報酬のことです。利用者が自己負担分である1割~3割を支払い、残りを介護保険者である市町村から受け取ることになります。市町村が滞納することは少ないため滞納トラブルは利用者の負担部分について生じることになります。
利用者の負担割合は1割が原則でしたが所得の状況などに応じて2割負担となる方が増えるため、老人ホーム等の介護施設経営者にとってはこれまで以上に債権回収に注意を払う必要があります。
施設サービスの利用料
老人ホーム等の介護保険施設に入所、入院した場合には介護報酬費用の未払いの問題が生じます。このほかに、居住費や、食費、日常生活費がかかるため、介護報酬費用以外の利用料についての滞納が問題となります。
ただし、毎月の利用料が高額となった場合や、所得の低い利用者の場合には所得に応じて居住費や食費について介護保険から支払ってもらえることがあります(特定入所者介護サービス費、高額介護サービス費)。この制度を利用するには市区町村に申請が必要です。
居宅サービスの利用料
居宅サービスには、訪問系サービスや、通所系サービス、短期入所サービスなどがあります。いずれも介護保険による介護報酬の対象となるものについては利用者の自己負担割合部分についての滞納が問題となります。そのほかに、日常生活費として、食費、滞在費、理美容代などがかかるため、これらの費用についても債権回収の問題が生じます。
有料老人ホームの注意点
居宅サービスと異なり、老人ホーム等の施設サービス(入所型)の利用料滞納は経営に大きな影響を与えます。居宅サービスであれば利用料の滞納額は1件あたりで見れば大きくなりにくいですが、施設サービスの場合には数十万円単位で発生するため放置すると1件あたりでも100万円単位での滞納となってしまいます。
また、居宅サービスについては利用料の滞納があれば契約を打ち切って損失を限定することがしやすいですが、老人ホームでは契約を打ち切って退去してもらうことも簡単にはできないという問題があります。
高額な利用料が発生するケースでは事前に連帯保証人などの担保をつけることも重要といえます。
滞納が発生する理由
老人ホームにおいて利用料の滞納が発生する原因は、「利用者自身の問題」と、「家族の問題」の2つに分けられます。
利用者自身に支払い能力がない
一つ目は、老人ホームの利用者本人に理由がある場合です。本人の収入や財産では毎月の利用料の支払いができなくなるケースです。契約当初から十分な検討をせずに入所してしまったケースのほか、当初は問題がなかったのに想定外の事情が生じて支払いができなくなることもあります。
例えば、本人の要介護度の変化により介護サービス料が高額となり支払いができなくなったり、利用者やその家族が病気やケガをして突発的な医療費が発生し支払いができなくなったりすることがあります。
家族による使い込み
2つ目は、家族による使い込みの場合です。本人に責任がないことから特に問題となりやすいケースです。老人ホームの利用者家族が本人の財産や年金を使ってしまうことで利用料の支払いができなくなるのです。
家族による使い込みが原因の場合には経済的虐待にあたる可能性もあり、成年後見制度の利用などを含め、柔軟かつ早めに対応する必要があります。
滞納利用料を放置するデメリット
老人ホームなどの介護施設では利用料の滞納があっても債権回収に積極的でないことがあるようです。しかし、それでは結局は滞納者自身にとっても好ましくはなく、他の利用者や施設職員に負担をかけることにもなるため適切に対応していく必要があります。
利用者の支払い意思が低下する
滞納を放置することで滞納者本人の支払い意思が希薄になっていきます。滞納金が増えるほど支払うことが難しくなるため状況は悪くなっていきます。
滞納が生じると資金面で余裕がなくなり施設の運営に影響が生じることもあります。それが他の利用者の不公平感へとつながり、他の利用者の支払い意思の低下を招き事態はより深刻なものになっていきます。
老人ホームの利用料の滞納を防ぐには滞納が生じた直後にきちんと催促することにあります。単純なことだと思われるかもしれませんが、支払いが遅れたらすぐに適切な督促を行うようにすることで滞納率を下げることができ、債権回収の成功率も上がるといわれています。催促を厳格に行うところと、そうでない所があれば、どちらを優先して支払うかを考えると分かりやすいと思います。
時効になってしまう場合がある
老人ホームの利用料金には時効があります。滞納が長引くと権利を失い債権回収ができなくなることがあります。
時効について詳しくは「債権回収には時効がある!消滅時効とその対処方法について解説」をご覧ください。
滞納された利用料の回収方法
老人ホーム等の利用料が滞納された場合の具体的な回収方法について見ていきます。
居宅サービスと施設サービスの双方を念頭に解説していきます。
内容証明郵便を送付する
直接ご本人やご家族、連帯保証人などとお会いしたり電話で催促をしたりすれば支払ってもらえることが多いと思います。それでも支払いに応じてもらえないときは、郵便で催促することが一般的です。
普通の手紙で催促しても返答してもらえないときや支払時期が明確でないようなときには、内容証明郵便の利用を検討します。
内容証明郵便はどのような内容の文書を送ったかを証明してくれる郵便局のサービスです。債権回収をしっかり行っている老人ホームだと認識してもらうことができるので支払いに応じてもらえる可能性があります。
<関連記事>内容証明郵便を出す方法や費用は?弁護士に依頼するメリットも解説
支払督促を申し立てる
支払督促は簡易裁判所で受け付けてくれるもので利用者や連帯保証人に支払いを命じてもらうことができます。相手から異議が申し立てられなければ判決をもらったのと同じような効果が生じるため、利用者や連帯保証人の財産に強制執行していくことが可能となります。
ただし、相手から異議が申し立てられると訴訟に移行するというデメリットがあります。そのため、相手から異議が出されにくいケースや訴訟になっても構わないケースで利用するのがいいでしょう。
訴訟を提起する
他の方法では効果がないときには訴訟を利用して債権回収を目指します。老人ホームの利用料について連帯保証人がいる場合には連帯保証人を訴えることも可能です。
訴訟を利用するデメリットとしては時間がかかりやすいことが挙げられます。
これに対し、少額訴訟という簡易な訴訟手続きがあります。これは請求金額が60万円以下の場合に利用することのできる簡易裁判所の制度です。原則として1日で審理を終えて判決もすぐに出してもらうことができます。
<関連記事>少額訴訟の費用相場は?費用倒れを回避する方法も解説
強制執行をする
支払督促に異議が出なかったり、勝訴判決をもらったりしたら裁判所から債権回収のお墨付きが出たことになります。
ただし、訴訟に勝ったからといって利用者や連帯保証人が素直に支払いに応じてくれるとは限りません。その場合には強制執行をして相手の財産を差し押さえる必要があります。
勝訴したとしても裁判所が当然に財産を差し押さえてくれるわけではありません。利用者や連帯保証人の財産も基本的に自分で探してくる必要があります。
不動産や預金、給料などが差し押さえの対象となります。仮に財産がなかった場合には執行不能による貸倒損失として税金を軽くしていくことも考えます。
<関連記事>差し押さえにかかる費用とは?弁護士に差し押さえを依頼したほうがよい理由をわかりやすく解説
まとめ
・老人ホーム等の滞納利用料の内訳としては、介護報酬のほかに居住費や食費、日常生活費などがあります。居宅サービスの滞納料金は、1件当たりは少ないですが放置すると大きな金額となります。また、滞納することで他の利用者の支払い意思の低下などを招くことがあります。
・老人ホーム等の入所施設サービスでは1件でも滞納が生じると金額が大きいため経営に大きな影響を与える恐れがあります。
・債権回収を適切な時期に行っていくことで問題を大きくせずに済みます。
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