債権には時効があり長期間適切に権利を行使していないと消滅することがあります。

 

この記事では、2020年4月1日改正民法を前提に債権回収に関する時効を解説します。

 

債権の時効(消滅時効)とは

消滅時効とは、権利が適切に行使されず長期間経過した場合に、その権利を消滅させる制度です。時効制度はしばらくの間継続している事実状態を守ることで社会秩序を保つことを目的としています。権利の上に眠る者は保護する必要性も低いからです。

2020年4月1日の時効制度の改正により職業別に分かれていた短期消滅時効が廃止され時効期間が統一されています。2020年4月1日以降に生じた債権は改正後の時効期間が適用されます。

 

債権の時効(消滅時効)と起算点

債権の時効期間は民法166条1項に規定されています。他に例外規定がなければこの期間の経過により権利が消滅する可能性があります。

 

現行の民法上の債権消滅時効期間(原則)

起算点

時効期間

権利を行使できることを知った時から

5年

権利を行使することができる時から

10年

 

「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から5年、または「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年のいずれか早い方の到来により債権が時効にかかります(民法166条1項)。

売掛金などの契約上の債権については、普通は権利行使できる時(支払期限)を知っているため5年の時効にかかることになります。

 

債権の種類別時効期間

時効期間は債権の種類によって異なることがあります。

 

賃料・地代・養育費などの定期給付債権

年金や賃料など定期的に発生する債権を定期給付債権(支分権)といいます。これらの債権を生み出す元となる権利は定期金債権(基本権)といいます。

賃料などの定期給付債権も他の法律に規定がなければ5年が時効期間です。養育費についても金額や支払時期を当事者で取り決めたときは滞納して5年です。裁判所の調停等で決められたときにはその時までに弁済期が到来しているもの(過去分)は10年となります(民法169条)。

 

養育費については、「養育費未払いを内容証明で請求する方法!メリット・デメリットや書き方を解説」もご参照ください。

 

定期金債権の消滅時効

定期金債権を消滅させる時効もあります(民法168条)。時効にかかると定期給付を請求できる権利そのものが消滅します。しかしこの規定は定期金債権全般に適用されるものではありません。この規定は終身定期金(年金、民法689条以下)が念頭にあるからです。例えば賃料をしばらく請求しなかっただけで将来分も請求できなくなるのでは問題があります。一方の負担だけが残るのは公平ではないからです。また扶養料債権についても一定の身分関係により当然に生じるものなので168条は適用されないと考えられます。そのため168条の時効は終身定期金を除いて適用場面が想定しづらいものです。

※公的年金については個別の法律で時効が規定されています。

 

給与・残業代・退職金などの賃金債権

賃金については労働基準法に時効期間が5年と定められています(労働基準法115条)。ただし当面の間は3年(退職手当を除く。)とされます(同法143条3項)。

 

給料の未払いについては、「給料の未払いは違法!未払いの給料を会社から回収する方法」もご参照ください。

 

不法行為に基づく損害賠償請求権(原則)

不法行為に基づく損害賠償請求権については、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年とされています。

 

不法行為の時効期間(原則)

起算点

時効期間

損害及び加害者を知った時から

3年

不法行為の時から

20年

 

人身事故・医療過誤などの損害賠償請求権

人の生命、身体は保護すべき必要性が高いことや、治療に長期間かかることもあるため時効期間が伸長されています。

 

 

起算点

時効期間

生命、身体侵害の場合

(債務不履行も同様)

権利行使できること(損害及び加害者)を知った時から

5年

権利を行使することができる時から

20年

 

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消滅時効にならないための対策

時効の完成を阻止する手段として「時効の更新」と「完成猶予」があります。時効の更新はこれまで進んだ期間をリセットするものであり、完成猶予はこれまでに経過した期間はそのままに一定期間猶予するものです。

 

裁判外の催告

債務者に対して支払ってほしいと催告すれば6か月間は消滅時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。電話や通常郵便でもできますが証拠に残すために配達証明付内容証明郵便を利用します。ただし催告による猶予中に再度催告しても猶予の効力はありません(同条2項)。

 

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協議する旨の合意

権利について協議を行う旨の合意を書面や電磁的記録(メール等)ですると時効の完成は猶予されます(民法151条以下)。猶予は次に掲げるときのいずれか早い時までです。

 

・合意の時から1年を経過した時

・合意において協議する期間(1年未満)を定めたときはその期間を経過した時

・当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面や電磁的記録でされたときは通知の時から6か月を経過した時

 

分割弁済の申し出を債務者がしてくれば「承認」として更新事由にもなります。

催告による猶予中は効力が認められません(同条3項前段)。本条による猶予中は催告による猶予も認められません(同項後段)。再度の合意もできますが通算5年が限度です(同条2項)。

 

支払督促の申立て

支払督促は簡易裁判所の書記官に支払いを命じてもらう手続きです。少なくとも6か月間は消滅時効が猶予されます。

支払督促に対して債務者は異議を申し立てることができますが異議が出されずに確定すると時効期間が更新(期間がリセット)されます。ただし確定判決やそれと同等の効力のあるものによって権利が確定すると期間が10年より短いものであっても10年に伸びます(民法169条1項)。支払督促は確定すると確定判決と同等の効力があるため10年に伸びます。

 

仮差押えの申立て

仮差押えによっても時効の完成を猶予できます。仮差押えは金銭債権を守るための暫定的な手続きです。

例えば、債務者から売掛金の回収をするため訴訟を起こした場合、手続きを行っている間に財産を処分されてしまうことがあります。財産を仮差押えすることで勝手に処分ができなくなります。

 

債務者による承認の取付け

債務者が債権の存在を認めたときは消滅時効期間が更新(期間がリセット)されます。口頭でも更新されますが証拠に残すために債務承認弁済契約書を作り署名押印してもらうと効果的です。

 

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一部弁済の受領

一部弁済をしてもらうことも「承認」にあたるため時効期間が更新されます。

債務者が弁済したということは債権の存在を認めたことになるからです。口座振込など証拠に残る方法で弁済してもらうか、残高を記載した書面に署名押印してもらいます。

 

民事調停の申立て

民事調停を申し立てることで消滅時効の完成を阻止することができます。民事調停とは、簡易裁判所で行われる話し合いであり、裁判官と民間人から選ばれた調停委員と呼ばれる人に間に入ってもらいます。調停が行われている間は消滅時効の完成が猶予されます。

調停が成立し債権の存在が確定されれば時効期間が更新されます。民事調停が成立すると確定判決と同等の効力が認められているためリセット後の時効期間は10年に伸びます。

 

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訴訟の提起

訴訟によっても消滅時効の完成を阻止することができます。一番確実な消滅時効の更新方法といえます。民事調停の場合には相手が話し合いに応じてくれないと手続きを進めることができないからです。支払督促も債務者が異議を申し立てると効力を失ってしまいます。

訴訟には時間がかかりますが少なくとも訴訟が行われている間は消滅時効が完成しません。

勝訴判決を得ることができれば消滅時効期間は更新され、その時から10年が経過するまでは時効にかかることはありません。

 

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時効を迎えた時の対応

時効は期間が満了したからといって当然に効果が生じるわけではありません。時効によって利益を受ける人がそのことを主張することではじめて効果が発生します(時効の援用)。

つまり期間が経過してしまったとしても請求していくことは可能です。そして債務者が債務を認めたり一部でも弁済したりすれば時効の援用は基本的に認められなくなります。

債権者としてはもう時効を援用してこないだろうと信じるため、信義則上援用できないとされているのです。

そこで時効期間満了後の対策として一部弁済をしてもらう方法が考えられます。

もっとも時効援用が制限されるのは信義則が根拠となっています。そのため債権者を保護する必要がないときには時効が認められます。裁判例でも毎月の約定弁済額よりはるかに小さい金額を受領したケースで時効を認めたものがあります。またうそによって他に債務がないと信じ込ませたり威迫したりして支払わせたような場合には時効が認められることがあります。

時効期間が過ぎていてもあきらめる必要はありませんが適法な請求である必要があります。

 

<関連記事>消滅時効援用における「債務の承認」とは?分かりやすく解説

 

まとめ

・債権には時効が存在します。原則として権利を行使できることを知った時から5年で消滅します。ただし不法行為債権など例外があります。

・2020年3月31日以前に生じた債権については時効期間が異なることがあります。

・一定の事由があると時効は「更新」や「完成猶予」がされます。

・時効は援用することで効果が生じるため期間が満了したとしてもそれだけで請求できなくなるわけではありません。時効期間が経過していてもあきらめる必要はありません。

・弁済期が到来したら早めに対策をとることが大切です。

 

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消滅時効期間が経過している債権の回収もあきらめる必要はありません。

支払期日から長年月が経っていてもお気軽にご相談ください。

 

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