債権回収はスピードが命とされています。時間が経過すれば債務者の経済状態が悪化することが多く債務整理手続きをとられてしまうこともあります。単純に権利関係があいまいになってしまうという問題もあります。

ですが権利自体が消滅してしまうこともあります。債権は一定期間行使しないでいるとなくなってしまうのです。

 

この記事では消滅時効にかからないための対処方法をくわしく解説していきます。

 

消滅時効期間

時効について2020年に法律が改正されています。

現在発生する債権については改正後の規定に従うことになります。

職業別に分かれていた短期消滅時効は複雑でわかりにくく、区別する合理的理由も乏しいものでした。そこで、現行民法は期間が統一されわかりやすくなっています。

 

現行民法の消滅時効(原則)

起算点

時効期間

権利を行使できることを知った時から

5年

権利を行使することができる時から

10年

 

売掛金など支払期日が明確であれば5年ということになります。つまり、普通の債権であれば5年で時効にかかるおそれがあります。

 

不法行為の消滅時効

債務不履行に基づく損害賠償請求権も原則として権利行使できる時から10年、権利行使できることを知った時から5年です。

不法行為に基づく損害賠償請求権については、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年とされています。

 

これらが原則なのですが、生命、身体は保護すべき必要性が高いことや、治療に長期間かかることもあるため時効期間が伸長されています。

 

 

起算点

時効期間

原則

被害及び加害者を知った時から

3年

不法行為の時から

20年

生命、身体侵害の場合

(債務不履行も同様)

知った時から

5年

権利を行使することができる時から

20年

 

旧民法の消滅時効

旧民法では、原則として消滅時効の期間は、権利を行使できる時から「10年間」となっていました。ですが実際には例外規定が設けられており10年よりも早く消滅時効になるものが多くありました。「短期消滅時効」と呼ばれています。現在でも適用されることがあるので注意が必要です。

 

短期消滅時効

改正民法は2020年(令和2年)4月1日から施行されています。そのためこの日以降に成立した債権については改正後の消滅時効期間が適用されます。

つまり、2020年4月1日より前に発生した債権については旧民法の期間が適用されるということです。

時効期間は更新することができるため、かなり前に成立した債権であっても弁済などにより更新されている場合、短期消滅時効にかかることがあります。

 

<旧民法の短期消滅時効>

債権の種類

時効期間

医師、薬剤師の診療、調剤費等

3年

工事業者、設計士の報酬

弁護士、公証人の報酬

2年

生産者、小売商人の売掛金等

自己の技能により注文を受けて物の制作をし、又は自己の仕事場で他人のために仕事をした場合の報酬

学校や塾の授業料、教材費等

運送賃

1年

旅館、ホテル、飲食店の料金等

動産のレンタル料金

 

<旧商法の消滅時効>

商行為によって生じた債権(商事債権)

5年※

※当事者の一方でも商行為であれば適用されます。

 

例えば、会社が商品を販売したりサービスを提供したりして発生した売掛金については商事債権として5年で時効消滅することになります。商事債権についても廃止され民法の規定に従うことになります。

 

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消滅時効にならないための対策

旧民法には時効の完成を阻止する手段として時効中断と停止という制度がありました。時効の中断はこれまで進んだ期間をリセットするものであり、時効の停止はこれまでに経過した期間はそのままに一時的にストップするものです。

現行民法では、中断は「更新」、停止は「完成猶予」と呼ばれるようになっています。

 

それでは具体的な消滅時効を阻止するための方法を見ていきます。

 

催告

債務者に対して支払ってほしいと催告すれば6か月間は消滅時効の完成が猶予されます。電話や通常郵便でもできますが証拠に残すために配達証明付内容証明郵便を利用します。

 

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協議する旨の合意

旧民法ではなかった制度です。

権利について協議をする旨の合意を書面で行えば最大1年間の完成猶予が与えられます。

電子メールでも可能ですが書面に署名押印するほうが証拠として確実です。

分割弁済の申し出を債務者がしてくれば「承認」として更新事由にもなります。

 

支払督促

支払督促は簡易裁判所の書記官に支払いを命じてもらう手続きです。書面審理のみですむため利用しやすいといえます。少なくとも6か月間は消滅時効が猶予されます。

支払督促に対して債務者は異議を申し立てることができますが、異議が出されずに確定すると時効期間が更新されます。つまり、はじめから数え直しになるのですが、確定判決やそれと同等の効力のあるものについては期間が10年に伸びます。裁判所で権利が認められたため通常の期間より長くなるのです。

支払督促は確定すると確定判決と同等の効力があるため期間は10年となります。

 

仮差押えを申し立てる

仮差押えによっても時効の完成を猶予できます。

訴訟をしていなくても利用可能であるため時効が迫っているときには有効な対策となります。

仮差押えは売掛金のような金銭債権を守るための暫定的な手続きです。

例えば、債務者から売掛金の回収をするため訴訟を起こした場合、手続きを行っている間に財産を処分されてしまうことがあります。

このようなときに財産を仮差押えしてしまうと勝手に処分ができなくなるのです。

 

債務者による承認

債務者から債権が存在することを認めたときは消滅時効期間が更新されます。つまり、その時から再び5年経過しないと時効が完成しなくなります。

口頭でも更新されますが証拠に残すために債務承認弁済契約書を作り署名押印してもらうと効果的です。

 

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一部弁済をしてもらう

一部弁済をしてもらうことも「承認」にあたるため時効期間が更新されます。

債務者が弁済したということは債権の存在を認めたことになるからです。口座振込など証拠に残る方法で弁済してもらうか、残高を記載した書面に署名押印してもらいます。

 

民事調停を申し立てる

民事調停を申し立てることで消滅時効の完成を阻止することができます。

民事調停とは、簡易裁判所で行われる話し合いであり、裁判官と民間人から選ばれた調停委員と呼ばれる人に間に入ってもらいます。

調停が行われている間は消滅時効の完成が猶予されます。

調停が成立し債権の存在が確定されれば時効期間が更新されます。民事調停が成立すると確定判決と同等の効力が認められているため期間は10年となります。

 

訴訟を起こす

訴訟によっても消滅時効の完成を阻止することができます。一番確実な消滅時効の更新方法といえます。民事調停の場合には相手が話し合いに応じてくれないと手続きを進めることができないからです。支払督促も債務者が異議を申し立てると効力を失ってしまいます。

そのため、消滅時効を確実に阻止したいときには訴訟を提起することになります。

訴訟には時間がかかりますが少なくとも訴訟が行われている間は消滅時効が完成しません。

勝訴判決を得ることができれば消滅時効期間は更新され、その時から10年が経過するまでは時効にかかることはありません。

訴訟には通常訴訟のほかに少額訴訟という簡易な手続きもありますがこちらでも時効はリセットされます。少額訴訟は債権額が60万円以下のときに使えるので比較的利用しやすい訴訟手続です。

 

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時効の完成猶予(まとめ)

完成猶予事由

猶予期間

裁判上の請求、支払督促、訴訟上の和解、民事調停、家事調停、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加

・事由終了まで

・確定判決や同一の効力を有するものにより権利が確定せず事由が終了したときは終了時から6か月経過するまで

強制執行、担保権実行、換価のための競売、財産開示

・事由終了まで

・申立ての取下げや取消しにより事由が終了したときは終了時から6か月経過するまで

仮差押え、仮処分

事由終了時から6か月経過するまで

催告

催告から6か月経過するまで

権利について協議を行う旨の書面による合意

下記のいずれか早い時まで

・合意から1年経過した時

・合意において定めた期間を経過した時(1年未満に限る。)

・一方から協議を拒絶する旨の書面による通知がされたときは通知から6か月を経過した時

天災その他避けることのできない事変

障害が消滅した時から3か月経過するまで

※他に夫婦や相続財産についての猶予期間もあります。

 

時効の更新(まとめ)

更新事由

効果

確定判決やそれと同一の効力を有するものによる権利の確定

時効期間のリセット(10年)

強制執行、担保権の実行、換価のための競売、財産開示

時効期間のリセット

債務者による権利の承認

 

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時効が完成した場合の対応

時効は期間が満了したからといって当然に効果が生じるわけではありません。時効によって利益を受ける人がそのことを主張することではじめて効果が発生します。

これを時効の援用といいます。

 

つまり、期間が経過してしまったとしても請求していくことは可能なのです。

そして債務者が一部でも弁済すれば時効の援用は基本的に認められなくなります。

 

時効期間が過ぎてしまっているため時効の「更新」とは違いますが、債権者としてはもう時効を援用してこないだろうと信じるため、信義則上援用できないとされているのです。

 

そこで、時効完成後の対策として一部弁済をしてもらう方法が考えられます。

ただし、あまりに少額の弁済では時効が認められることがあります。裁判例でも毎月の約定弁済額よりはるかに小さい金額を受領したケースで時効を認めたものがあります。

 

したがって、時効完成後であってもあきらめる必要はありませんが、時効期間が満了する前に対策をとることが基本となります。

 

仮に自分も相手方に債務を負っている場合には相殺することで回収できることもあります。

 

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まとめ

・債権には時効が存在します。原則として権利を行使できることを知った時から5年で消滅します。ただし、不法行為債権など一部例外があります。

・2020年3月31日以前に生じた債権については時効期間が異なることがあります。

・時効は一定の事由があると「更新」や「完成猶予」がされます。

・時効は援用することで効果が生じるため期間が満了したとしてもそれだけで請求できなくなるわけではありません。時効期間が経過していてもあきらめる必要はありません。

・弁済期が到来したら早めに対策をとることが大切です。

 

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