目次
はじめに
少額訴訟と通常訴訟の裁判の違い
少額訴訟には訴額制限がある!訴訟の雰囲気も?
解決までの時間は短い!反訴の不可が特徴
少額訴訟を起こしたのに通常訴訟に移行するケース
少額訴訟を通常訴訟に移行させないためのポイント
公示送達である場合も注意が必要
少額訴訟と通常訴訟の費用の違い
ケースによっては手形訴訟を使うという方法も
まとめ

■ はじめに

少額訴訟という債権回収方法があります。
「訴訟」という言葉からもわかるように、裁判所で行われる訴訟の一形態です。通常の訴訟とは手続きや特徴などが異なっており、まさに少額債権回収のためにあるような訴訟です。
通常訴訟を使うかそれとも少額訴訟にするべきか迷っている方に、二つの訴訟形態の違いを解説します。二つの訴訟の違いを明確にした上で、債権や事情に合わせて訴訟形態を選ぶことが債権回収成功のためのポイントです。

■ 少額訴訟と通常訴訟の裁判の違い

少額訴訟と通常訴訟には大きな違いがあります。まずはその違いを掴むことが債権回収を成功させるためのポイントなのです。
通常訴訟も少額訴訟も名前に「訴訟」という文言が入っています。
通常訴訟も少額訴訟も、どちらも裁判所で行う訴訟です。
明確に違うのは、少額訴訟がとにかく「短期決着」と「少額の回収」に重点を置かれているというところです。二つの訴訟形態を比較しながらお話しします。
裁判所での訴訟というと、何度も期日を設けてやっと判決をもらうものという印象があるのではないでしょうか。訴訟というものに馴染みのない人は刑事事件の裁判報道から「訴訟はとにかく時間がかかる」という印象を持つことが決して少なくありません。
債権回収は民事裁判なのでニュースでよく目にする刑事裁判とは性質が違います。しかし、裁判であることに変わりはありませんし、案件によっては民事裁判でも長い時間がかかります。
案件により判決までにかかる時間は変わりますが、裁判所で裁判をすると基本的に半年から一年くらいの時間を見なければいけません。ケースによってはもっと長い時間が必要になります。
10万円の返還を求める訴訟に長い時間がかかっては、費用だけで負けてしまいます。判決では勝っても費用負担が多くなってしまい、結果的に負けてしまった同じことになるわけです。
額の小さな案件ならもっと迅速に決着をつけさせて欲しいと思ってしまいます。そこでできたのが「少額が訴額の場合に短期決着をつけるための裁判」である少額訴訟なのです。
「相手に支払いを求める額が小さいから長期で裁判をすると費用面で負ける。困る」「訴額が小さいからすぐに判決をください」という人のための訴訟形態こそが少額訴訟というわけです。

・少額訴訟には訴額制限がある!訴訟の雰囲気も?

少額訴訟には「60万円までの金銭支払請求を目的とする場合に使える」という民事訴訟法上の決まりがあります。少額訴訟を使いたくても60万円以上の債権の回収には使えないということです。少額訴訟には訴額の制限があります。
通常の訴訟には訴額の制限はありませんので、2億円だろうが100万円だろうが提起してOKです。もちろん少額訴訟の提起できる訴額30万円の債権回収に通常の訴訟を使っても差し支えありません。
加えて覚えておきたいのが、訴額60万円の範囲でも金銭支払いを目的としていなければならないため、訴額範囲内の不動産の諍いなどは少額訴訟の範囲外になるということです。
また、同じ裁判所には1年に10回までしか提起できないという決まりもあります。これは貸金業者が少額訴訟を乱用することを防ぐために設けられている制限です。
1.通常訴訟は訴額に制限はないが、少額訴訟は60万円までの金銭支払請求が目的の場合のみ使える
2.訴額60万円以内でも金銭支払請求が目的でないと少額訴訟は使えないが、通常訴訟に制限はない
3.少額訴訟は同一裁判所に年10回までしか提起できないが、通常訴訟に制限はない
1~3の違いを明確にしてください。こうやって見ていくと、通常訴訟と少額訴訟にはかなり違いがあることがおわかりいただけるのではないでしょうか。

・解決までの時間は短い!反訴の不可が特徴

前述した1~3に加えて、少額訴訟には以下のような特徴があります。通常訴訟と比較しながら簡潔に解説します。
4.少額訴訟は反訴が禁じられるが、通常訴訟では反訴も可能
5.少額訴訟の証拠調べはすぐに取調べできるものに限られるが、通常訴訟にはこういった制限がない
6.少額訴訟は一つのラウンドテーブルに当事者と証人、裁判官がついて話し合う
7.少額訴訟は一期日で判決が出るが、通常訴訟は基本的にもっと長い期日が必要
少額訴訟は少額の金銭支払請求に対してのみ選択できる訴訟形態です。判決まで長い期間を要するのであれば少額訴訟の意味がありません。
少額訴訟は訴額の小さな揉め事に対し、とにかく短期で決着をつけるための手続きです。そのため、一つの訴訟に乗っかって相手を訴え返す反訴や時間のかかる証拠調べは禁止されています。
すぐに調べることができるのであれば書証を使ってもいいですし、証人尋問も可能です。一期日で判決をつける手続きですから、一期日でできることはOKでできないことは不可なのです。
通常の訴訟にはこのような制限はありません。証拠も時間をかけて取調べしなければならないものを使っても差し支えありません。反訴もできます。
判決をもらうためには、皆さんが訴訟に対して抱いている印象そのままに、基本的に何期日も必要になります。しかし少額訴訟は一期日で判決がでるという性質上「一期日で判決が出せなくなるような時間のかかる手続きはやめてください」という制約があるのです。
なお、少額訴訟は一つのラウンドテーブルに当事者や裁判官がついて話し合うという特徴があります。雰囲気は通常の訴訟よりも調停に近いものがあります。
参照:
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji68-2.html 

■ 少額訴訟を起こしたのに通常訴訟に移行するケース

少額訴訟は制約がある代わりに一期日で決着をつけることができます。
対して通常訴訟は制約がほとんどない代わりに判決まで時間がかかります。少額訴訟を申し立てることのできる条件がそろっていても通常訴訟の方が良いと感じれば、もちろん通常訴訟で債権回収をすることも可能です。
気をつけなければならないのは、短期決着を望んで少額訴訟を申し立てても、通常訴訟に移行してしまうケースがあることです。
一期日での判決を望んで少額訴訟を提起した人にとって、通常訴訟への移行は大きなリスクです。そこで、通常訴訟と少額訴訟の特徴の違いだけでなく、少額訴訟が通常訴訟に移行してしまうケースについても知っておきましょう。
まず、通常訴訟になってしまうケースとしてあり得るのが「言い忘れた」というケースです。少額訴訟を望む場合、少額訴訟での審理と判決を希望する旨を裁判所に伝えなければいけません。
60万円までの金銭支払請求案件だからといって裁判所側が自動的に少額訴訟と認定してくれるわけではありません。通常訴訟を選択することもできるわけですから、自分からきちんと「少額訴訟でお願いします」と申述しなければいけないのです。これを忘れてしまうと通常訴訟になってしまいます。最も基本的なところなので要注意です。
通常訴訟に移行してしまうもう一つの可能性として覚えていきたいのが、被告側の申述による移行です。

・少額訴訟を通常訴訟に移行させないためのポイント

少額訴訟の申し立てをするのは原告です。原告とは、訴訟を申し立てる側のことです。対して当事者のうちで訴訟の相手方になる人を被告といいます。
ニュースで報じられる刑事事件の印象が強いからか、原告や被告というと「自分は何もしていないのに被告なの?」とびっくりしてしまうかもしれません。民事訴訟上の呼び方ですので深く考える必要はありません。また、特に被告になったからといって悪いというわけでもありませんからご心配なく。
訴訟を申し立てた側、つまり訴訟をスタートさせる側が原告で、訴えの相手方が被告です。少額訴訟をするか、それとも通常訴訟をするかの選択肢は原告側にあります。
被告側は「もっとじっくり証拠調べをして判決を出して欲しい」と考えるかもしれません。だからこそ、被告側は訴訟のスタート時に少額訴訟を通常の訴訟に移行させることを希望することができるという決まりがあるのです。
少額訴訟スタート時に「これは少額訴訟です。一期日で終わります。通常訴訟に移行させてじっくり審理を進めることもできます」というふうに裁判官から説明があるのが一般的です。
その時に被告が「少額訴訟ではなく通常訴訟でお願いします」と答えることで、一気に状況が変わってしまうのです。これも訴えた側にとっては大きなリスクになります。
少額訴訟を通常訴訟に移行させないためのポイントとしては「申立ての時に少額訴訟を希望する旨を伝え忘れない」ことと「被告から通常訴訟の希望が出そうな場合は少額訴訟での提起をよく考えて行う」ことです。
相手が少額訴訟で決着をつけることに同意しなさそうな場合はリスクがあります。よく考えて提起を行うと共に、回収方法について弁護士によく相談するのがいいでしょう。

・公示送達である場合も注意が必要

もう一点の注意事項として

「被告への最初にすべき口頭弁論期日の呼び出しが公示送達である場合は通常の訴訟手続きに移行する」という民事訴訟法373条の決まりがあります。

裁判所からの通知は基本的に封書などで行われます。しかし、中には事情があって封書が手元に届けることができない場合があります。
相手方の住所がわからない時は相手に封書を送付できません。こんな時は「公示送達」といって、裁判所の掲示板に書類を貼り出すことにより送達されたことにするという手続きです。
公示送達でしか最初の期日の呼び出しができない場合は通常の訴訟手続きへ移行することになります。公示送達の場合は被告側が少額訴訟を申し立てられていることをまず知りませんので、「少額訴訟に同意するか、あるいは通常訴訟に移行させるか」という選択ができません。
皆さんも裁判所の掲示板を見る機会はほとんどないはずです。被告の選択権がほぼないようなもので不平等だから、被告の最初の期日の呼び出しが公示送達の場合は通常の訴訟で戦ってくださいということです。
参照:
http://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/Vcms3_00000347.html
この他に、少額訴訟での審理が相当ではないと認められる場合や、少額訴訟の決まり事(回数制限など)に違反している場合は通常の訴訟に移行する可能性があります。
「相手の住所がわからない」「この訴訟は少額訴訟で決着をつけられるか」などがわからない場合はいきなり申し立てをするとリスクがあります。まずは弁護士に相談する方が安全です。

■ 少額訴訟と通常訴訟の費用の違い

同じ訴訟でも性質に違いがあることは既に解説しました。少額訴訟は訴額が小さな場合にとにかく短期決着を狙う訴訟形態です。通常の訴訟の方が長くかかりますから、もちろん費用にも違いが出ます。
少額訴訟でも通常訴訟でも、裁判所を利用することの手数料ともいえる印紙代が発生します。
印紙代は訴額によって変化するため、通常訴訟よりも訴額制限のある少額訴訟の方が費用をおさえられる傾向にあります。印紙代は訴額10万円までで1,000円で、訴額60万円までで6,000円になります。やり取りに使うための郵送代を切手として納める必要もありますが、印紙代と切手代を合計しても、さほど大きい金額にはならないことでしょう。裁判所の利用に必要となる金額だけなら1万円くらいが目安になります。
弁護士へ支払う着手金や報酬の他に弁護士が裁判所に足を運ぶための交通費なども費用として支払う必要があります。通常訴訟はケースバイケースという側面がありますので一概に費用をいくらと断定することはできません。
難しい案件や訴額が大きければその分だけ弁護士費用は挙がる傾向にあります。大よその目安ですが、「着手金1%から15%+報酬10%から20%+経費」になります。
通常訴訟は訴額に制限がありません。基本的に少額訴訟のように一期日で判決まで出ることはほとんどありません。その分だけ費用がかかる可能性が高いです。
参照:
http://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/l4/Vcms4_00000353.html
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/315004.pdf 

・ケースによっては手形訴訟を使うという方法も

手形訴訟とは、手形の支払いがない場合に申し立てることのできる訴訟形態です。手形は急いで回収をしないと不渡りなどで資金回収が困難になる可能性があります。
だからこそ手形訴訟という迅速に債権回収できる訴訟形態が用意されています。手形の支払いがなく迅速に回収をしたいという場合は手形訴訟での回収を検討するメリットがあります。
少額訴訟の条件に当てはまらない場合や債権の種類によって選択可能な訴訟形態に差が出ます
。最終的な目的は「債権回収」ですから、少額訴訟にこだわらず債権回収に有利な訴訟形態を選ぶことが債権回収のポイントです。
現在、少額訴訟を検討している人は、弁護士に相談しそれぞれの訴訟形態のメリットやデメリットを教えてもらうとともに、自分の抱えるトラブルに合わせて解決方法を提案してもらうのもいいでしょう。
少額訴訟を含め、訴訟にこだわる必要はありません。弁護士が同席して話し合うことによって債権回収ができるケースもありますし、支払督促を使うことによって解決できそうなケースもあります。「どうしても少額訴訟がいい」とこだわらず、目的達成のために最良の方法を考えてみてください。
参照:
http://www.courts.go.jp/osaka/saiban/minji4/dai3_1/
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_minzi/minzi_04_02_13/ 

■まとめ

少額訴訟も通常の訴訟も、どちらも裁判所で行われる訴訟であることに変わりはありません。
しかし少額訴訟には訴額の制限があるなど、通常の訴訟とは異なっています。同じ訴訟でありながら通常の訴訟よりも短期決着させることを目的として運用されています。
小さな訴額で何年もじっくり通常の訴訟をしていては、判決で勝っても訴訟費用で負けた・・・つまり、訴額を訴訟にかかる費用が上回ってしまったということになりかねません。小さな額を訴訟の目的とした人が利用することに特化した訴訟こそが少額訴訟なのです。
少額訴訟に向く案件でも、時に通常訴訟の方が解決に向く場合もあります。債権回収のためにどんな方法が向くのかは、弁護士に相談して決めるといいでしょう。目的は債権の回収です。そのためには、方法を間違えないことが重要なのです。まずは弁護士に相談し、方法を吟味することからはじめましょう。