長期滞留債権は適切に対応しないと不良債権化してしまい経営の悪化の原因となります。債権回収を適切に行うとともに会計上や税務上の取り扱いにも注意が必要です。

 

この記事では長期滞留債権への対応について解説します。

 

長期滞留債権とは

滞留債権とは、予定された支払期日を経過しても入金を確認できない債権のことです。長期滞留債権は滞留債権の状態が長期間に及んでいるもののことであり通常は6か月など一定期間を超えるものを区別するために用いられます。長期滞留債権は法的手段による債権回収や貸倒引当金の設定など会計・税務上の対応の必要性を判断する目安となります。似たものに不良債権がありますが、これは滞留債権のうち回収が困難なものを指します。長期滞留債権であっても不良債権とは限りません。

 

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長期滞留債権が発生する原因

長期滞留債権の対策は、自社に原因がある場合と相手側に原因がある場合に分けて考えることが必要です。

 

自社に原因がある場合

長期滞留債権を生じさせないためにはまず自社の事務処理に問題がないか確認することが大切です。請求書の発行や送付を忘れてしまうと支払いを受けられなくなりますし、入金確認が遅れることで未払いに気づかず長期間経過することもあります。入金があったとしても入金消込が適切に行われていなければ帳簿上は売掛金が残ったままとなり長期滞留債権として扱われることもあります。

 

相手側に原因がある場合

長期滞留債権となる原因は主に取引先にあるといえます。単純な事務処理上のミスで支払いが遅れることもありますが、支払いが数か月単位で遅れて長期滞留債権となることの多くは経営悪化にあります。支払忘れ等の単純なミスであれば自社の入金確認により気づくことが可能であり長期滞留債権となることは考えにくいからです。相手の経営状況の悪化が原因の場合には取引の見直しや法的手段を含めた債権回収を検討する必要があります。

 

長期滞留債権を放置した場合のリスク

長期滞留債権に適切に対応しない場合には以下のような問題が生じます。

 

債権が時効で回収不能になる

現在発生する売掛金は基本的に5年で時効消滅する可能性があります。長期滞留債権に対して適切に回収業務を実施しなければ回収が難しくなります。ただし期間の経過により当然に時効消滅するわけではありません。一定の対応をすることで時効期間は猶予されたり更新されたりします。

 

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資金繰りの悪化により黒字でも倒産するリスクがある

長期滞留債権の存在は黒字倒産のリスクとなります。帳簿上は売り上げが十分にあっても売掛金の回収率が悪いため現金が不足して資金繰りが悪くなり経営が悪化するからです。

 

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信用力の低下により新たな融資が受けにくくなる

長期滞留債権が多くあると企業の信用力が低下します。債権管理が同業他社と比べて悪い印象をもたれると金融機関の融資審査に悪影響を与えます。与信チェックや回収業務が機能していないと判断されれば融資金の回収に不安が生じるからです。

 

長期滞留債権を回収する方法

長期滞留債権は以下のような流れで回収していきます。

 

取引先への確認

長期滞留債権となっている原因を明確にするために取引先に確認することが大切です。事務処理上のミスで支払いが遅れているのであれば問題は解決します。その際、相手に責任があるとは限らないため自社にミスがないか請求書の発行・送付、入金確認等の手続きに問題がないか確認してから行います。

 

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催促状や督促状を送る

長期滞留債権となっている場合に相手と連絡が取れないときや電話やメールで催促してもはぐらかされてしまうときには書面で催促することが必要です。ケースによっては契約の解除や時効対策のために内容証明郵便を利用することも検討します。

 

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法的措置を取る

長期滞留債権となっている場合に相手が支払いに応じる可能性が低い場合には法的措置を検討する必要があります。法的措置には以下のような方法があります。

 

民事調停

民事調停は裁判所で調停委員を交えて話し合いで問題を解決するための手続きです。円満な解決を望むときや非公開で行われるため秘密を守りたいときには選択肢となります。

 

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少額訴訟

少額訴訟は簡易な訴訟手続きであり個人でも利用されることの多い比較的負担の少ない法的手段です。ただし、60万円以下の金銭請求にしか利用できず控訴することができないなどデメリットには注意が必要です。

 

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通常訴訟

長期滞留債権を回収するには最終的に通常訴訟を検討する必要があります。民事調停では話し合いに応じてもらわなければ調停が不調に終わりますし、少額訴訟は請求金額による制限などがあるため万能ではありません。勝訴判決を得ることができれば相手の財産を差し押さえて強制的に回収していくこともできます。

 

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会計上の処理方法

長期滞留債権については貸倒引当金の計上を考えることになります。注意点としては会計と税務で取り扱いが異なることです。会計上は貸し倒れリスクをなるべく帳簿に反映させる必要があるのに対して、税務上は不確定な状態で損金処理(税務上の費用)を認めたくないからです。

中小企業の会計に関する指針」により、金銭債権について取り立て不能の恐れがある場合には、取り立て不能見込み額を貸倒引当金として計上しなければならないとされています(p.8)。取り立て不能見込み額は、会計上の原則として①「一般債権」、「貸倒懸念債権」、「破産更生債権等」に区分して算定することになっています。

ただし、②法人税法上の基準による算定方法も認められています。法人税法の貸倒引当金繰入限度額が明らかに取立不能見込額に満たない場合を除き、繰入限度額をもって貸倒引当金繰入額とすることができるとされています。

税務上は資本金が1億円以下の普通法人等について貸倒引当金を損金にすることが認められているため会計と税務の取り扱いを統一できることから②の方が使いやすいといえます。会計と税務の取り扱いが異なる場合には税務申告の際に申告調整することになると考えられます。

 

税務上の貸倒引当金については、「貸倒引当金とは?計算方法や仕訳について詳しく解説」をご参照ください。

 

長期滞留債権を発生させないための対策

長期滞留債権を生じさせないためには以下のような対策を講じることが有効です。

 

売掛金を台帳で管理する

売掛金回収予定表や売掛金残高一覧表などを作成して滞留債権の存在にすぐに気づける体制を整えることが必要です。取引先ごとに売掛金がどの程度残っているのか、支払期日はいくらなのか支払いが遅れていないかなどを簡単にチェックできるようにしておきます。

 

回収状況を複数人で確認する

滞留債権の存在が分かったとしても債権回収業務が適切に行われていなければ長期滞留債権になることを防ぐことができません。債権回収の担当者が決められていたとしても定期的に別の人間が回収状況を確認するシステムを構築することで長期滞留債権となることを防ぎやすくなります。

 

未払いがあれば迅速に債権回収を行う

入金確認を適切に行うことで未払いに早期に気づくことが可能となります。滞留債権の存在に気付いた場合には速やかに督促等の回収業務に着手することが重要です。債権回収は時間が経過するほど難しくなるため滞納期間に応じて督促状の送付や法的手続き、顧問弁護士への相談などをマニュアル化しておくことも有効です。

 

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まとめ

・長期滞留債権とは支払期日を大幅に過ぎても入金されない債権のことです。一般的には6か月など数か月以上経過して他の債権と区別する必要がある場合に用いられます。

・長期滞留債権の発生原因は自社に起因するものと取引先に起因するものがあります。

・長期滞留債権を放置すると時効により回収不可能となることがあります。

長期滞留債権は法的措置や弁護士に依頼するなど早期に対応する必要があります。

・長期滞留債権は貸倒引当金の計上が問題となりますが、会計上と税務上で取り扱いに違いがあります。

 

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※記事の内容は執筆された当時の法令等に基づいております。細心の注意を払っておりますが内容について保証するものではありません。お困りのことがあれば弁護士に直接ご相談ください。