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不動産は高価な財産であるためまとまった債権を回収するのに適した財産の一つです。預貯金などと異なり財産を隠匿することも容易ではないため多額の債権を持っているときには差し押さえの有力な候補となります。もっとも債務者が不動産を所有しているのかはっきりしないことがあります。
この記事では、不動産に関する情報取得手続について解説していきます。
不動産に関する情報取得手続とは
不動産に係る情報取得手続とは、不動産に対する強制執行に必要となる債務者の不動産に関する情報を登記所(法務局)に教えてもらうための制度です。
不動産から強制的に債権を回収するには債務者の所有する不動産を差し押さえて競売等を行う必要があります。そのためには債務者の所有する不動産の有無や具体的な不動産に関する情報が必要となります。債務者が居住していたり事業所などとして活用していたりする場合には法務局で登記事項証明書を取得することで調査するができますが、そうでないときには所有不動産を把握することは簡単ではありません。不動産に関する情報取得手続は債務者の所有不動産について他の手段では見つからなかった場合でも強制執行できる可能性を開くものです。
情報取得手続を利用できる条件
不動産に関する情報取得手続を利用するにはいくつかの要件を満たす必要があります。
債務名義
債権者であればだれでも不動産に関する情報取得手続を利用できるわけではありません。下記に示す債権者が対象となります(民事執行法205条1項柱書本文)。
・執行力のある債務名義の正本を取得している金銭債権の債権者(1号) または ・債務者の財産について一般の先取特権を持っていることを証明する文書を提出した債権者(2号) |
執行力のある債務名義の正本というのは、確定判決や調停調書、和解調書、執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)など強制執行を可能とする公文書のことです。
一般の先取特権というのは、給料債権や債務者の財産の保存に関する費用(例えばマンションの管理費用)を支出した債権者など特に保護する必要のある債権について法律上認められる担保権のことです。
債務名義について詳しくは、「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご覧ください。
<関連記事>先取特権によって優先的に債権を回収するには?種類や方法を解説
強制執行の不奏功等
不動産の情報取得手続を利用するには次の要件を満たす必要があります(民事執行法205条1項、197条1項)。
①強制執行や担保権の実行における配当や弁済金の交付の手続き(申し立ての日より6か月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき(1号) または ②知れている財産に対する強制執行(担保権の実行)を実施しても申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき(2号) |
財産開示手続の先行
不動産に関する情報取得手続を実施してもらうには、その前に財産開示手続が実施されていることが必要であり、当該財産開示期日から3年以内に限って申し立てることが可能です(民事執行法205条2項)。ただし、申立人が直接財産開示手続を申し立てる必要はないため他の債権者が申し立てて行われたのであれば改めて実施する必要はありません。財産開示手続きに関しては項を改めて説明します。
情報取得手続の流れ
不動産に関する情報取得手続については以下のような流れで行われます。
申立て
不動産に係る情報取得手続は裁判所に書面で申し立てをすることでスタートします。書面を提出する裁判所は債務者の住所地を管轄している地方裁判所です。提出する書類は他に当事者目録(申立人、情報をもらう相手方として東京法務局、債務者を記載します。)、請求債権目録、所在地目録、執行力のある債務名義の正本、送達証明書、法人の資格証明書、強制執行不奏功要件に関する資料、財産開示手続前置要件に関する資料等が必要となります。
所在地目録は法務局に検索してもらいたい土地の範囲を指定するため基本的に都道府県名を記載します(民事執行規則187条1項3号)。例えば、「東京都」、「千葉県」などと記載します。「〇〇地方」、「東日本」といったあいまいな指定は認められていません。複数記載することも認められています。
情報提供命令
不動産に係る情報取得手続を申し立てると裁判所は審査を行い法令の要件を満たすと判断したときは法務局に対して債務者に関する不動産情報を提供するよう命令します(民事執行法205条1項柱書本文)。不動産に関する情報取得手続を認容する決定があるとその決定は債務者に送達されます(205条3項)。不動産情報の登記所からの回答の目安は命令書送達から2~3週間以内です。
費用
裁判所に対する申立手数料は1,000円であり収入印紙を使用します。このほかに予納金6,000円程度も必要となります。
※不動産の情報取得手続の内容は裁判所の取り扱いやケースによって異なることがあります。
財産開示手続との違い
財産開示手続きは債務者を裁判所に呼び出して所有している財産について陳述してもらう手続きです。債務者自身に保有財産の有無や種類等を明らかにしてもらう手続きのため正直に答えてもらえない場合や過失によって財産が漏れてしまう恐れがあります。不出頭や虚偽の陳述に対しては刑事罰が科されることがありますが完全に防ぐことはできません。
不動産に関する情報取得手続は財産開示手続きをした後に利用する手続きであり、第三者である法務局に不動産情報を回答してもらうことで債務者所有の土地建物等の把握漏れを減らすものといえます。
ただし、差し押さえ対象となる財産は預貯金などほかにも存在します。預貯金からの回収が期待できる場合に財産開示手続や不動産に関する情報取得手続を実施すると債務者が差し押さえを恐れて預貯金を引き下ろしてしまうことも考えられます。そのため不動産の情報取得手続の前に預貯金等の差し押さえができないか検討する必要があります。預貯金債権についても情報取得手続があるため専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
<関連記事>財産開示手続きで債権回収をする方法|流れや無視された場合の対応を解説
調査できる情報の内容
不動産に関する情報取得手続により登記所(東京法務局)から提供される情報は、「債務者が所有権の登記名義人である土地または建物その他これらに準ずるものの存否」、「その土地等が存在するときは、その土地等を特定するに足りる事項(所在、地番、地目等)」(民事執行法205条1項、規則189条、187条1項3号括弧書)です。
債権回収にどう役立つか
債務者が現住していたり事務所や倉庫などとして使用していたりする不動産であれば情報取得手続を使う必要はなく、法務局で登記記録を調べることで差し押さえに必要な情報は手に入れることができます。財産開示手続きが事前に行われることからも債務者が所有する不動産は情報取得手続前に把握できることが多いと考えられます。しかしケースによっては債務者が住所地や本支店所在地とは異なる場所に不動産を所有している可能性もあり、従来の調査では債務者所有の不動産の把握に漏れが生じる可能性があります。不動産に関する情報取得手続により完全にではありませんが債務者の所有する不動産を把握しやすくなり、不動産執行による債権回収の可能性を高めることになります。
<関連記事>不動産執行とは?執行の流れ、メリット・デメリットを解説
まとめ
・不動産に関する情報取得手続とは、債務者が所有権の登記名義人である土地や建物の存否など不動産執行に必要となる情報を取得する裁判所の手続きです。
・不動産の情報取得手続を利用できる債権者は、「執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者」、または「債務者の財産について一般先取特権を有することを証明する文書を提出した債権者」です。
・不動産の情報取得手続を利用するには強制執行の不奏功等の要件が必要です。
・不動産の情報取得手続を利用するには、財産開示手続きの前置が必要です。
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債権の種類や金額によっては不動産に対する強制執行は債権回収手段として有力な選択肢となります。不動産に関する情報取得手続などにより債務者の財産の中に不動産が含まれていることが判明すれば差し押さえを検討することができます。ただし、債務者が所有権登記名義人であっても簡単に不動産執行をすることはできません。債権回収の見込みがなければ無剰余として手続きが取り消されることになるからです。特に税金の滞納や担保権者がいる場合には配当順位が低くなるため注意が必要です。効率的な回収や費用倒れを防ぐためには専門の弁護士に相談されることをおすすめします。
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