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お金を貸したり交通事故の被害に遭ったりした場合には相手(債務者)にお金を請求していくことができます。債務者が自分から支払ってくれない場合に備えて公正証書(執行証書)を作ったり、執行証書がない場合に支払いをしてくれないときは裁判所に訴えたりすることもあります。執行証書や勝訴判決書を手に入れることができれば債務者の預貯金などの財産を差し押さえて回収することも可能です。もっともその財産がどこにあるのか分からないことがあります。
この記事では、預貯金債権を差し押さえる際の情報取得手続について解説していきます。
預貯金債権の情報取得手続とは
預貯金債権の情報取得手続の概要は以下の通りです。
第三者からの情報取得手続
第三者からの情報取得手続とは、確定判決等の債務名義や一般の先取特権を有する債権者が裁判所に申し立てることにより、金融機関などに対して債務者の保有する財産や勤務先等の情報を開示してもらうための手続きです。
債権回収のために時間をかけて訴訟手続きを行い勝訴できたとしても相手が自分から支払いに応じてくれるとは限りません。このような場合には債務者の財産から強制的に回収するために相手の財産を見つけて差し押さえる必要があります。ところが相手の財産がどこにあるのか、それ以前に財産や収入があるのかさえ分からないケースもあります。
債務者の保有している財産の中でも金融機関に預けている預貯金は執行が比較的容易であるため特に重視されます。しかし預貯金債権を差し押さえるには金融機関と原則取扱店舗(支店)も特定する必要があります。これまでの債務者とのやり取りの中で取引銀行等を把握できていれば良いのですが、そうでないときには差し押さえが難しくなります。
従来の問題点
債務者の預貯金の有無や預貯金額については金融機関に教えてもらわなければわかりません。弁護士であれば弁護士会を通じて銀行等に債務者の預貯金口座の有無や支店名、預貯金額などを照会することができます(弁護士会照会制度、弁護士法23条の2)。ただし守秘義務を理由として回答を拒絶される場合や支店名の特定を要求される場合、債務名義(差押えの根拠となる文書)の種類によっては回答してもらえない場合がある等の問題が存在しました。
金融機関や支店を特定できない場合には債務者の住所付近の金融機関に当たりを付けて差し押さえる方法もありますが空振りすると費用が無駄になるほか債務者に警戒されて財産を隠されるリスクもあります。
情報取得手続であれば裁判所からの命令であることや支店の特定が不要であることなどから預貯金債権に関する情報を回答してもらいやすいメリットがあります。
情報取得手続を利用できる条件
預貯金債権に関する情報取得手続を利用するには一定の条件を満たさなければなりません。
債務名義等
預貯金債権に関する情報取得手続を申し立てるには、執行力のある金銭債権の債務名義の正本、または一般の先取特権を有することを証する文書が必要です(民事執行法207条1項、2項)。債務名義というのは確定判決や和解調書、執行証書(強制執行認諾文言付公正証書)など強制執行に必要となる文書のことです。
債務名義について詳しくは、「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご覧ください。
強制執行の不奏功等
情報取得手続を利用するには、6か月内に実施された強制執行や担保権の実行における配当や弁済金交付の手続きにおいて完全な弁済を受けられなかったとき(197条1項1号、2項1号)、または知れている財産に対して強制執行(担保権実行)をしても完全な弁済を得られないことの疎明(1項2号、2項2号)が必要です。
※不動産情報や勤務先情報の取得手続においては後記の財産開示手続を事前に行うことが必要ですが、預貯金債権の情報取得手続については債務者による財産隠しを防ぐため財産開示手続きは不要とされます。
<関連記事>先取特権によって優先的に債権を回収するには?種類や方法を解説
情報取得手続の流れ
預貯金債権に関する情報取得手続の簡単な流れについて見ていきます。
申立て
預貯金債権に関する情報取得手続は債務者の住所地を管轄する地方裁判所に書面で申し立てて行います。申立書、当事者目録、請求債権目録、債務名義の正本、送達証明書等必要な書類を用意して申し立てます。金融機関を特定する必要があるため当事者目録の第三者欄に金融機関名等を記載します。複数の第三者を記載できますが費用が増える点に注意が必要です。申立書には、債務者の氏名又は名称のフリガナ生年月日等できる限り債務者の特定に役立つ内容を記載する必要があります(民事執行規則187条2項)。特にフリガナは債務者の預貯金債権を調査する際に重要なものであるため不正確な記載にならないように注意する必要があります。
情報提供命令
情報取得手続の申立てを受けた裁判所は要件を満たしていると判断すると情報提供命令を発します(民事執行法207条1項柱書本文)。情報提供の提出期限は特にありませんが命令から2~3週間以内に回答があるケースが多いと思われます(裁判所によっては提出目安として2週間以内などと示しています。)。
金融機関から情報提供がされたときは、債務者に対しても情報提供された事実が通知されます(208条2項)。債務者に対する通知時期は情報提供書が提出された後1か月経過した時点で行われることが一般的です。そのため差し押さえ手続きは速やかに行う必要があります。
費用
申立手数料として1,000円分の収入印紙が必要です。このほかに金融機関に対する報酬が必要なため予納金として1件5,000円程度(第三者が1名増えるごとに4,000円程度)が必要となります。
※手続きの内容は裁判所や事案等によって異なる可能性があります。
財産開示手続等との違い
第三者からの情報取得手続のほかに債務者の財産を調査する制度として財産開示手続があります。この制度は債務者本人を裁判所に出頭させて保有している財産を自ら陳述させる手続きです。正当な理由なく出頭しなかったりうその陳述をしたりした場合には拘禁刑を含む刑罰の対象となります。ただし預貯金債権については口座から引き下ろされてしまう恐れがあることから情報取得手続を優先した方がいいでしょう。
弁護士会照会との違いとして重要なことは債務者に対する通知の有無です。情報取得手続では債務者に対して一定期間後に情報提供の事実が通知されるのに対して弁護士会照会では債務者に通知されません。そのため債務者に秘密にしたいときには情報取得手続よりも優れています。また金融機関の特定ができないようなケースでは携帯電話会社に弁護士会照会をすることで口座振替により支払いをしている場合には金融機関を特定できることがあります。
このように預貯金債権に関しては情報取得手続を優先しつつもケースに応じて他の手続きを使い分けることが大切です。
<関連記事>財産開示手続きで債権回収をする方法|流れや無視された場合の対応を解説
調査できる情報の内容
預貯金債権に関する情報取得手続により開示される情報は、「預貯金債権の存否」、「預貯金債権を取り扱う店舗(支店名)」、「預貯金債権の種別」、「口座番号」、「預貯金額」です(民事執行法207条1項1号、規則191条1項)。
債権回収にどう役立つか
債権を差し押さえるには申立書に差し押さえるべき債権を特定するのに必要な事項を記載しなければなりません(民事執行規則133条2項)。預貯金債権を差し押さえるには通常金融機関名だけでは足りず支店まで特定する必要があります(最決平成23年9月20日、最決平成25年1月17日。金融機関の取り扱いによっては支店の特定が不要なケースは考えられます。)。
金融機関をある程度絞ることができれば情報取得手続により支店の特定が可能となり、預貯金債権に対して強制執行できる可能性が高くなります。また具体的な預貯金債権の有無や金額を事前に知ることができるため、いきなり差し押さえをするよりも空振りになるリスクを減らし強制執行の実効性が高まります。
<関連記事>差し押さえとは?差し押さえ方法を詳しく紹介
まとめ
・預貯金債権の情報取得手続とは、銀行等の金融機関に対して債務者の預貯金債権の有無や取扱店舗、預貯金額等の情報を開示するよう命じてもらう裁判所の手続きです。差し押さえが空振りとなるリスクを減らし預貯金債権による回収の実効性を高めます。
・情報提供から一定期間経過すると債務者に情報取得手続が実施されたことが通知されるため迅速に差し押さえを行う必要があります。
・預貯金債権の調査手段としては弁護士会照会による方法もあります。債務者に通知されないメリットがあります。
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