売掛金の支払いが滞ることはめずらしくありません。大きな金額が支払われない場合には経営に与える影響も大きく深刻な問題です。債権額が大きければ弁護士に相談すべきだと多くの人が考えるため相談すべきか悩むことは少ないといえます。

一方で少額の売掛金についても滞納が日常的に生じれば結果的に大きな金額となります。問題は1件あたりの債権額の大きさです。少額の売掛金については回収にかけるコストを考えると回収をあきらめ泣き寝入りするケースも多くあると思います。

しかしそのような少額の債権を回収するための制度として少額訴訟という制度があります。

 

この記事では、少額の売掛金の回収について少額訴訟のやり方やメリットなどを解説していきます。

 

少額訴訟とは

少額訴訟とは、60万円以下のお金を請求する場合に原則1回の期日で判決まで出してもらうことのできる簡易な訴訟手続です。

目的物が140万円以下のときには簡易裁判所が管轄となり手続きが利用しやすくなっていますが、少額訴訟制度を利用するとさらに簡易な手続きを利用することができます。

 

60万円には附帯請求である利息や遅延損害金などは含まれません。つまり元本が60万円以下であれば利用できます。

 

少額訴訟のメリット

少額訴訟のメリットには次のようなものがあります。

 

1日で解決する

通常の訴訟手続の場合には、月に1回程度の割合で期日が指定され当事者による主張立証が十分行われたと判断されるまで繰り返されます。判決期日も別に用意されるため少なくとも数か月はかかります。

少額訴訟の場合には、原則として1回の審理で終わらせることになっており判決もその日のうちに出してもらえるため期間が短くすみます。解決までの目処が立ちやすいこともメリットです。

 

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コストが安く済む

原則として1日で解決するため何度も裁判所に行く必要がなく交通費も少なくてすみます。裁判所は平日しか原則として審理を開いていないため弁護士に依頼していないときには期日のたびに仕事を休むことになりますが何度も休む必要がありません。

 

円満な解決も期待できる

令和2年の司法統計によれば訴えを取り下げた場合を除き少額訴訟の約3割が和解で解決しています。

白黒をつける判決と異なり和解で終了すると相手が任意に支払いをしてくれることが多いため強制執行をしなくてすみます。

このように債務者に交渉の場に出てきてもらえるというメリットがあります。

 

少額訴訟のデメリット

少額訴訟にもデメリットがあります。

 

通常訴訟に移行されることがある

少額訴訟は通常の訴訟とはいろいろな違いがあるため、被告は少額訴訟を望まなければ通常訴訟に移行させることができます。

少額訴訟は弁護士に依頼しなくても利用可能ですが通常訴訟に移行すると出頭や書類作成の手間などがかかるため注意が必要です。

 

控訴ができない

通常の訴訟では第一審判決に不服があるときには上級審に控訴することができます。少額訴訟でも不服申立ては可能ですが同じ裁判所に異議を申し立てることができるだけです。

簡易迅速に問題解決をするための制度のため敗訴したとしても控訴が認められないのです。

そのため証拠が明確なケースでない限り敗訴のリスクが高まります。

 

事前準備を完璧にしなければならない

少額訴訟の大きなメリットは1回の期日で審理が終了することにあります。これは同時にデメリットともなります。

1日ですべてが決まるため期日までに必要な主張を記載した書類を用意し、証拠もすべて用意しておかなければなりません。

もし必要な主張を忘れたり証拠の提出ができなかったりした場合には敗訴することになります。控訴もできないため債権の回収が事実上不可能となります。

 

分割払いや遅延損害金の免除

少額訴訟制度は債権者の負担を軽くすることが目的です。強制執行手続きもできるだけ行わずにすむようになっています。

具体的には勝訴したとしても支払いを猶予されたり分割払いにされたりすることがあります。また遅延損害金の免除がされることもあります。

これにより債務者が自分から支払いをしやすくなり強制執行をできるだけしなくてすむようにしているのです。

ですが完済まで時間がかかることや債務者の経済状況の悪化により回収ができなくなるおそれがあります。通常訴訟にはこのような制限はありません。

 

1年間に10回まで

少額訴訟には回数制限があります。同じ裁判所に対し10回までしか少額訴訟を利用することはできません。

 

少額訴訟を活用する場合はどんな時か?

少額訴訟に向いているのは、事案が複雑ではなく迅速に問題を解決したいケースで、明確な物証があるようなときです。

契約書などの書証がないケースでは1日で審理が終わらなかったり、不利な判決となったりするおそれがあるためはじめから通常訴訟にしておいたほうがいいかもしれません。

複雑な事案では被告からの申し出により通常訴訟になるリスクも高いといえます。

 

少額の売掛金について債務者が争っていないようなシンプルなケースで活用を検討して下さい。

 

少額訴訟をするために必要な書類や準備

訴訟を行うには訴状や証拠を準備しなければなりません。

 

訴状の作成

訴訟を始めるには訴状の提出が必要です。当事者やどのような判決を求めるか、その根拠となる事実等を記載した書面です。

少額訴訟は単純なケースが多いため裁判所のホームページに掲載されている書式(テンプレート、ひな形)を参考に作成することもできます。

記載し忘れた事項があると敗訴する原因となるため自信のない方は弁護士に相談して下さい。

 

費用

裁判所に納めるための費用を収入印紙で納めます。債権額によって変わる点に気をつけて下さい。

 

目的の価額

手数料額

~10万円まで

1,000円

~20万円まで

2,000円

~30万円まで

3,000円

~40万円まで

4,000円

~50万円まで

5,000円

~60万円まで

6,000円

 

例えば、売掛金が10万円までであれば1,000円、11万円なら2,000円、20万円でも2,000円です。

 

このほかに郵便切手(数千円分)も必要となりますが事案によって異なるため裁判所にご確認ください。

 

証拠や添付書類

被告が争ってくる場合に備えて債権の存在を証明する証拠を用意します。売掛金の場合には契約書のほか見積書、納品書や交渉記録など原告の主張が正しそうだと認めてもらうのに役立つものすべてが証拠となります。

1回の期日しかチャンスがないため関係のありそうなものはすべて用意しておきます。

 

会社などの法人が当事者となるときには代表者の資格証明書(登記事項証明書)が必要です。登記記録をもとに作るため法務局で取得します。

 

管轄

裁判所であればどこでも利用できるわけではありません。契約でどの裁判所を利用するか定めているときにはその裁判所を利用します。

特に契約していないときには債務者の住所地か債権者の住所地を管轄する簡易裁判所に訴えることになります。

 

少額訴訟をするときの実際の流れ

少額訴訟手続の流れは次のとおりです。

 

訴状の提出

管轄裁判所に対し訴状を提出します。不備がないかチェックされ問題があれば補正します。

 

訴状の送達(期日の指定)

訴状が問題なく受理されると1か月ほど先の日に裁判期日が指定されます。訴状や証拠の写し呼出状が債務者に送付されます。

 

答弁書の到着

被告の最初の反論を記載した書面を答弁書といいます。被告から答弁書が届くため期日に効果的な主張や証拠の提出ができるように備えます。

 

(通常訴訟への移行)

被告から通常訴訟への移行が申し立てられた場合には通常訴訟手続に移行します。

 

出廷(審理期日)

必要な主張、証拠調べが行われます。証人がいれば証人尋問も行います。当事者が望めば和解が成立し終了することになります。

 

判決

その日のうちに判決が出されます。仮執行宣言も付与されるため判決が確定していなくても強制執行をすることができます。

 

異議の申し立て

不服のある当事者は判決書の送達から2週間内に異議を申し立てることができます。この場合、基本的に通常訴訟と同様の手続きにより審理が行われますが控訴はできません。

 

強制執行

勝訴したとしても相手が自ら支払ってくれるとは限りません。その場合には相手の財産に対して強制執行を行います。例えば、債務者の預金債権を差し押さえれば債権者が代わりに預金を受け取ることができます。

 

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少額訴訟を弁護士に依頼する際のポイント

少額の売掛金については少額訴訟を利用して自分たちで回収しようと考えるかもしれません。ですがその前に弁護士に依頼することのメリットとデメリットについて知ることが大切です。

 

メリット

弁護士に依頼する主なメリットは次のようなものがあります。

 

少額訴訟がふさわしいか判断してもらえる

少額訴訟に向いていないケースなのに手続きを進めてしまうと敗訴したり回収までに時間がかかったりすることになります。

複雑な事案や相手から異議が出される可能性の高い事案であればはじめから通常訴訟を提起したほうが効率的です。また訴訟以外の選択肢(民事調停、支払督促等)も考えられます。

専門の弁護士であれば具体的なケースに応じて少額訴訟による解決がふさわしいか判断してもらえます。

 

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法的手続きをとらずに回収できる

少額訴訟をするしかないと思いこんでいるケースであっても他の解決方法が見つかることもあります。法的手続きをとらずに回収できることも少なくありません。

弁護士が内容証明郵便を送るだけで頑なに支払いを拒否してきた債務者が支払いに応じることもめずらしくありません。内容証明を送るまでもなく電話や通常郵便でさえ強いプレッシャーとなるため弁済してくれることが多くあります。

 

負担を少なくできる

少額訴訟であっても訴訟手続であることに変わりはなく、必要な書類を用意し裁判所とのやり取りを行い、期日には出頭するということをすべて自分たちで行わなければなりません。弁護士に委任すれば面倒な手続きや法廷でのやり取りの大半を任せることができ負担を大幅に減らすことができます。

 

デメリット

弁護士に依頼するデメリットは費用がかかることにあります。

しかし目的は少額訴訟を起こすことではなく売掛金を回収することにあります。少額訴訟は売掛金を回収するための一つの手段に過ぎません。弁護士は少額訴訟がふさわしい場合にのみ実施するため少額訴訟を起こすメリットが無いと判断すれば実施することはありません。他の回収方法であれば費用を抑えることも可能です。

どのような解決方法があるのか一度弁護士に相談されることをおすすめします。

 

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まとめ

・少額訴訟とは、60万円以下の金銭債権について簡易な手続きにより迅速な解決を目指す訴訟制度です。

・メリットは、原則1回の期日で審理から判決までだしてもらえること、コストを安く抑えられることなどがあります。

・デメリットは、被告が望めば通常訴訟に移行させられること、控訴ができないこと、勝訴しても支払いが猶予されることなどがあります。

少額訴訟は債務者が争っているような複雑なケースには向いていません。

・少額訴訟が適しているか事前に弁護士に相談することが大切です。

 

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