債権回収は本来の業務そのものではないかもしれません。ですが未収金や売掛金は回収されてはじめて現実の利益となります。そのため法人の活動は未収金や売掛金の回収までを常に意識しておくことが大切です。

ひとたび支払いが遅れれば資金繰りに大きな影響を受けることになります。最悪の場合黒字倒産することも考えられます。

 

この記事では、営利非営利を問わず法人が債権回収を行う方法や注意点について基本から応用まで解説していきます。

 

法人が債権回収を行う10の方法

債権回収は迅速かつ確実に行わなければなりません。債権回収は本来の業務に付随するものに過ぎませんが法人の活動にとって不可欠なものです。そのため時間やコストも意識することが大切です。

基本方針は時間やコストのかからない方法から検討し、必要に応じて強力な方法へと移行することです。

会社などの営利法人だけでなく病院などの非営利の法人も同じです。

 

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電話や訪問による催促

支払いが遅れる理由はさまざまです。お金が足りなくて支払えない、単に支払期日を忘れていた、商品に不備があったので返品する予定、最初から支払うつもりがないなど、いろいろ考えられます。

 

そこでまずは相手に支払いの意思を確認することが基本となります。

一番初めに検討するのが電話による催促です。手間やコストが少なくて済むだけでなく、相手の意思を直接確認できるためその後の対応に目処が立ちやすいという特徴があります。

支払いの意思が確認できた場合にはいつまでに支払い可能であるか確認し約束を取り付けることが大切です。期日を設定しなければずるずると相手のペースにはまってしまい債権回収に目処が立たなくなります。

あくまでも支払いを怠っている債務者に問題があるため毅然とした対応が必要です。

債務者の住所が近いのであれば直接相手方を訪問することも可能です。

 

文書による催促

電話が通じない場合や話をはぐらかされてしまうような場合には催促状を利用します。

その際も初めから高圧的な内容にならないように注意が必要です。相手との関係を不必要に悪化させてしまうことでかえって債権回収が難しくなることがあるからです。債権回収の基本は任意の支払いを促すことにあります。自分から進んで支払いたくなるように誘導することがポイントです。

 

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内容証明郵便

電話や通常郵便での催促を行っても支払う意思が見られない場合にはより強力な手段を使う必要があります。

もっとも直ちに法的な手段を用いるのではなく通常は内容証明郵便を送付し様子を見ます。

内容証明郵便は費用や手間がかかりますが、その分だけ相手に与えるプレッシャーが大きくなります。文面に法的手段を予告する内容を記載することが多く証拠にも残るからです。

 

特に弁護士名が記載されていると訴訟を起こされる実感が湧きやすくなるため弁済に応じてもらいやすくなります。

 

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民事調停

法的手段にも種類がいくつかあり話し合いによる解決を目指す方法もあります。

民事調停は裁判所を利用した手続きですが専門的な知識を持った民間人に話し合いに加わってもらうことで円満な解決が期待できます。

訴訟と違い白黒はっきりさせるものではありませんが、その分感情的な対立を和らげることができ調停がまとまると進んで支払ってもらえることも多いです。

万が一、調停が成立したのに支払いに応じてもらえないときであっても調停調書には確定判決と同じような効果があるため相手の財産を差し押さえることもできます。

訴訟と比較して費用が安く済むこともメリットです。

 

支払督促

支払いを一方的に命じてもらうことで回収する方法もあります。

支払督促は簡易裁判所の書記官に申し立てることで債務者に対し金銭の支払いを命じてもらうことができます。書面審理だけで利用できますし費用も訴訟より安くすむことから利用しやすい制度の一つです。

多数の債権があるときや少額の債権を請求するときに特に有効な方法です。

ただし、債務者が異議を申し立てることで通常の訴訟に移行することになっているため争いのあるケースではあまり向いていません。

 

<関連記事>取引先に支払督促をする4つのポイント

 

仮差押え

勝訴判決を得たとしても相手に財産がなければ債権の回収はできません。

仮差押えは相手の財産の処分を制限して将来の強制執行を容易にするための制度です。訴訟を行う際には仮差押えも併せて検討することになります。

 

実は仮差押えには単独で債権回収に活用できるメリットがあります。訴訟を起こさなくても債権を回収できる可能性があるのです。

仮差押えを受けることで財産を失う実感が湧きやすくなるからです。また、預金や不動産を仮差押えすることで取引先金融機関からの圧力があることもあります。

このような事実上の効果により債務者が支払いに応じてくれることがあるのです。

 

<関連記事>仮差押えを利用した債権回収の3つのポイントとは?

 

通常訴訟

債務者が自分から支払わない場合には最終的に訴訟を提起せざるをえません。

訴訟は大変そうと思われるかもしれません。

たしかに他の方法と比べると手間や時間、コストがかかることは否定できません。

ですが証拠をしっかり揃えておけば適切に手続きを進める限り最も確実な債権回収方法となります。

相手が争ってこないケースも多く法廷に現れないことも少なくありません。このような場合には1回の期日で終わりますし和解によって終了することも多いです。そのため2か月ほどで終わることもあります。

和解で終わった場合には相手が進んで支払いに応じてくれることが期待できます。仮に弁済してもらえなかったとしても勝訴判決と同様に強制執行していくこともできます。

 

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少額訴訟

60万円以下の金銭債権については簡易な手続きで訴訟を行う方法があります。原則として1回の期日で審理から判決まで出してもらうことができ利用しやすい訴訟手続となっています。ただし、通常訴訟と異なり控訴ができないことや分割払いを命じられることがあるので注意が必要です。

 

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強制執行

勝訴判決を得たり和解や調停が成立したりしたとしても相手が自分から支払ってくれるとは限りません。そのような場合には相手の財産に対し強制執行を行っていくことになります。

対象となる財産は、不動産や動産、債権がありますがそれぞれ一長一短があります。

不動産については多額の回収が期待できる一方で競売に時間がかかるという問題があります。

動産については手間がかかる一方で回収金額が小さくなりがちであるという問題があります。

債権執行は比較的問題の少ない方法であり多くのケースで有効な方法です。

例えば、預金債権に対して強制執行することで債務者の預金を代わりに受け取ることができます。

債務者の取引先に対する売掛金や勤め先に対する給料を差し押さえることも可能です。

 

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相殺

債務者もこちらに対して債権を持っていることがあります。

このようなときには相手の債権と対等額で売掛金や未収入金を消滅させることで実質的に回収することもできます。

 

<関連記事>相殺による債権回収の基本4つのポイント

 

法人が債権回収を成功させるコツ

債権の回収を成功させるためには効率的に動くことがポイントです。そのためには事前に対策を立て問題が起きたときに速やかに対処することです。

 

迅速に行動する

債権回収の基本はスピードです。債権の回収が1日遅れればその分だけ回収が難しくなります。

債権回収を先延ばしにしていると最終的には消滅時効にかかることになりますが、時効にかかる前であっても財産が処分されたり債務整理をされてしまったりすれば債権回収がどんどん困難になっていきます。

支払いが遅れたら直ちに行動を起こすことが大切です。

 

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支払いが遅れる理由の把握

入金が遅れている理由が単に支払いを忘れているだけなら問題ありません。

経済的理由や商品、サービスへの不満などが原因であればそれぞれの理由に応じて対応を変える必要があります。

的はずれな対応をすれば債権の回収に時間がかかるだけでなく相手との関係を不必要に悪くすることもあります。

債権回収の方針を立てるためには相手と連絡をとり支払いが遅れている原因を突き止めることが大切です。

 

事前に対策を立てておく

問題が起こってからその都度対処しようとしても後手に回り迅速な債権回収はできません。

そこであらかじめ入金が遅れている場合の対応策を検討しておきます。

「期日をすぎれば電話連絡」、「1週間経過したら催促状の送付」、「2か月滞納したら弁護士に相談」などマニュアル化しておくことが有効です。

売掛金の管理も重要であり日々の入金状況についてもしっかり把握しておきましょう。

 

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財産調査が大切

相手に財産がなければ債権の回収は不可能です。たとえ裁判を起こしたとしても強制執行する財産がなければどうすることもできません。

そのため事前に取引相手の財産を調べておくことが大切です。契約時に相手の信用状態を調査することも重要です。

法的手続きをとる際も強制執行可能な財産があるかチェックすることが必要です。

 

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企業が債権回収を行う際の注意点を記載

これまでに見てきた債権回収方法には落とし穴があることがあります。特に注意すべきポイントについて説明していきます。

 

電話や訪問する際の注意

相手に付け込まれる状況を作らないようにすることが大切です。

電話や訪問に際して注意すべきこととして連絡をとる時間帯があります。深夜遅くや朝早い時間帯だと不法行為となるおそれがあります。

貸金業者は午後9時~午前8時までの間は正当な理由がなければ電話や訪問することができません。そのためこの時間帯の連絡は基本的に避けた方がいいでしょう。連絡を頻繁に入れることも不法行為となるおそれがあるので注意して下さい。

適切な督促にあたるか不安な場合には事前に弁護士にご相談ください。

 

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内容証明の注意点

内容証明郵便は強力な方法であるため相手との関係に影響を与えてしまいます。そのため状況を見極め効果が最大となるときに利用すべきです。

その際、いかにプレッシャーを与えられるかが鍵となるため支払期限を明記することが大切です。また法的手段の告知が重要となってきます。

特に重要な点は弁護士が差出人となっていることです。これにより法的手段の告知が現実味を帯びるからです。

内容証明は何度も送ると効果が薄くなるおそれがあります。送付するときには確実に支払ってもらえるよう万全の状況で行うことが大切です。

 

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支払督促の注意点

支払督促は債務者から異議が出されると通常の訴訟に移行します。裁判所には管轄というものがあり通常の債権回収訴訟であれば債権者の住所地の裁判所に訴えることができます。

しかし支払督促は債務者の住所地の簡易裁判所が管轄であり、異議が出された後の裁判管轄も債務者の住所地の裁判所になります。

そのため遠方の裁判所で訴訟をしなければならなくなることがあります。

したがって、異議が出されにくいケースであるか見極めることが必要です。

弁護士は事案に応じて手段を使い分けており支払督促が適切だと判断した場合にのみ使用します。

 

少額訴訟の注意点

少額訴訟は相手から異議が出されると通常訴訟に移行してしまいます。

こちらが少額訴訟を選択するのは簡易な手続きで済むからです。そのため本格的な訴訟であれば訴えることはしなかったというケースも考えられます。複雑な事案については相手が異議を出すことが多くなるため通常訴訟に移行することを覚悟する必要があります。

弁護士は事案を分析し適切だと判断したときのみ少額訴訟を利用し、そうでなければ初めから通常訴訟を利用します。

 

強制執行の注意点

強制執行する際には債務者のどの財産を差し押さえるか債権者が選択しなければなりません。

そのためにはまず相手の財産を把握することが必要です。相手がどこにどのような財産を保有しているかを調査しなければならないのです。

これには時間や手間がかかるだけでなく経験が必要となります。債務者の住所付近にある金融機関から取引先銀行を見つけ出したり所有する不動産の調査のため法務局で登記記録を調べたりします。自動車については弁護士会照会制度を利用しないと難しいケースもあります。

このように強制執行は難易度が高いため弁護士に任せることをおすすめします。

 

債権回収の代行を弁護士に依頼するメリット

一般的な法人では滞納が発生してもとりあえず債権回収を自力で行うことになります。ですが基本的な督促を行っても支払いに応じてもらえないときには自社での回収を継続するか、それとも弁護士に依頼するかという選択を迫られることになります。

弁護士に依頼することを迷われる法人も少なくないため弁護士に依頼するメリットについてくわしく解説します。

 

プレッシャーを与えることができる

支払いに応じない債務者から債権を回収していく基本はプレッシャーをかけることにあります。相手に支払わなければならないという意識を強く持ってもらうことで債権の回収につなげるのです。

多くの方にとって弁護士から連絡を受けることはそれだけで大きなプレッシャーとなります。弁護士と接する機会のある方はあまり多くないからです。弁護士から督促を受けるだけで多くの人は心理的に動揺します。

弁護士に対する一般的なイメージとして訴訟を思い浮かべる方が多く、何かあればすぐに訴えられてしまうのではないかと心配する人は少なくありません。このような心理的な圧力を加えることができるため支払いに応じてもらいやすくなり債権の回収につながるのです。

債務者の中には始めから債務を踏み倒そうと考えている悪質な人もいます。そのような人は「法的な手段まではとらないだろう」と足元を見ています。特に数千円程度の少額の債権では債権者が泣き寝入りすることを計算していることがあります。

 

このような「法的な手続きをとってくることはないだろう」と考えている債務者に対しては弁護士からの督促は特に効果的です。

 

これまで連絡を無視してきた債務者も弁護士からの請求を無視することは難しいため支払いや交渉に応じやすくなります。

 

債権回収率をアップすることができる

債権の回収方法にはいくつも種類があり適切な方法をとることが必要です。弁護士から請求すればすぐに支払ってもらえるようなケースでは法的手続きは適切ではありませんし、支払いを拒否する意思が明確な債務者については催促を繰り返しても時間や労力の無駄となります。

 

ケースに応じて最適な債権回収方法をとることで債権の回収率を上げていくことが大切です。

最終的には法的手段を検討することになりますが、そのためには相手の財産を調査し強制執行することが必要となります。判決を得ただけでは回収に成功したことにはならないからです。判決を得たとしても相手に財産がなく差押えができなければ訴訟に費やした時間や費用は無駄となってしまいます。

 

確実に債権を回収するには、1.相手の財産を見つけ、2.仮差押えを行い、3.勝訴判決を得て、4.強制執行を行うことが必要です。

 

相手方にどのような財産がどこにあるのかを調査することが必要ですが簡単ではありません。不動産や自動車、商品、有価証券、預金、現金など財産の種類によって調査の方法は変わります。財産を処分されたり隠されたりしてしまうこともあるため時間との勝負となります。

財産調査を迅速に見落としなく行うことは容易ではありません。知識と経験が必要なため自信のないときはためらわず弁護士にご相談ください。

弁護士は「弁護士会照会」という制度を使って普通の人には調査できないことを調べることができます。財産の種類によっては弁護士でなければ調べることが難しいものもあるため無理せずに早めにご相談ください。

 

<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説

 

弁護士間でスムーズに回収できる

弁護士から連絡を入れると相手方も弁護士に依頼するケースがよくあります。相手が法人であれば顧問弁護士と契約していることが多いため顧問先の弁護士から連絡がくることになります。

相手が弁護士に依頼したことで状況が複雑になり債権回収が難しくなると心配されるかもしれません。ですが相手に弁護士がつくことでこちらからの請求が無視されずに話し合いで解決できる可能性が高くなるためむしろメリットとなります。

内容証明郵便を送る場合に「弁護士に相談の上ご回答ください」とこちらから弁護士を要求することもあります。

交渉相手が弁護士であれば債権回収の道筋がつきやすくなるのです。

 

反対に相手に弁護士がついているときにこちらが弁護士をつけていないと債権回収が難しくなるため注意が必要です。相手に顧問弁護士がいるときには必ず弁護士に相談してください。口頭であっても約束をすると契約として拘束力が生じます。不用意に相手方と交渉しないように注意してください。

 

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まとめ

・債権回収は効率よく行うことが必要です。そのためには時間やコストの少ないものから実施し状況に応じて強力なものを検討していきます。

・支払いが遅れている原因を突き止めることが大切です。

・内容証明は強力な債権回収手段ですが弁護士が差出人となることで真価を発揮します。

・法的手段は訴訟以外に民事調停、支払督促、仮差押えもあります。提訴しても和解で終了することも多いです。

支払督促は遠方の裁判所で訴訟になるリスクがあります。

・法的手段を用いるときは強制執行可能な財産があるか調査しておきます。

弁護士が請求すれば弁済に応じてくれることも多く法的手段を用いずに迅速な解決が期待できます。

 

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