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マンションに居住していると必ず管理組合に加入することになります。多くの場合交代で役員をやることになりますが悩みのタネとなるのが管理費の督促業務です。よほど小規模なマンションでない限り滞納問題と無縁のマンションはないといえます。
同じ場所に住んでいる住民に対して請求していくことは負担が大きいですが、回収を怠ると消滅時効にかかるなど取り返しのつかない問題に発展していきます。できるだけ機械的に効率よく督促業務をこなすことが大切です。
この記事では、マンション管理費の滞納の予防法や回収方法などを解説します。
管理費の滞納があったらどうなる
管理費に滞納があるとさまざまな問題が生じることになります。
修繕計画に影響が出てしまう
管理費や修繕積立金はマンションの維持管理に欠かせない財源であり、適切に徴収していかなければ共用部分の維持や修繕が行われず他の区分所有者に不利益が及びます。
ひいてはマンション全体の資産価値を損ない大きな損失が生じることにもなります。
管理組合にはマンションの住民すべての生活と資産を守るために管理費・修繕積立金を回収していく重い責任があります。
マンション住人の関係に悪影響が出る
管理費の滞納はマンションに住むすべての人に関係のある問題です。一部の人が滞納することで滞納していない人たちは損害を受けることになるからです。修繕費はどうしても支出しなければならないため不公平感も生じます。その結果としてマンションの住人同士の関係が悪くなることになります。
管理費滞納の時効
管理費や修繕積立金は原則として5年で消滅時効にかかります。消滅時効は2020年4月1日に改正されていますが旧法のときから5年とされていたので実質的には変わりません。
5年経過したら当然に権利がなくなるわけではなく滞納している人が援用することで初めて消滅します。
また、期間を更新したり完成の猶予をしたりすることができます。
「更新」というのはこれまでの期間をゼロにリセットすることです。
勝訴判決が確定したり債務者が権利を承認したりすると「更新」されます。一部の支払いも承認にあたります。
時効期間が満了しそうなときには「完成猶予」を利用します。
催告をしたり権利について協議を行う旨の合意を書面でしたりすると一定期間時効の完成が猶予されます。
催告は組合が単独で実施できるので利用価値が高いですが、証拠に残す必要があるため配達証明付きの内容証明郵便を使うことが大切です。
<関連記事>債権回収、借金には、時効がある!消滅時効とその対処方法について解説!
管理費滞納問題における3つの特徴
マンション管理費の滞納問題については一般の債権の滞納と異なる特徴があります。
管理会社に任せきり
多くのマンションではマンション管理会社との間で基本的なマンションの管理業務について委託業務契約を結んでいます。
管理会社はマンションの安全や住民が快適に過ごせるように設備管理や清掃業務など本来管理組合が担う業務の大半を代わりに行っています。
そのうちの重要な業務の一つに管理費・修繕積立金の徴収業務もあります。管理組合の中には徴収業務については管理会社に任せずに自主的に徴収しているところもありますが少数派といえます。
問題なのは大半の業務を管理会社に任せているという点です。管理会社に委託すること自体が問題なのではなく管理会社に任せきりになりがちな点に問題があるのです。
区分所有者(住民)すべてが管理費・修繕積立金をきちんと支払ってくれている場合には何も問題はありません。
しかし滞納が生じた場合にやっかいな問題が生じるのです。
管理会社に業務を委託する場合には管理委託契約書を交わします。多くのケースで国土交通省が示している「マンション標準管理委託契約書」(ひな形)をベースに契約が結ばれています。
マンション標準管理委託契約書では督促業務も管理会社の業務として定めています。
具体的には、
「管理費等を滞納したときは、支払期限後○月の間、電話若しくは自宅訪問又は督促状の方法により、その支払の督促を行う。」
という定めがあります。期限は「6か月」くらいになっていることが多いと思います。
つまり、管理会社は電話や自宅訪問、書面での催促だけをしてくれるということです。法的手続きなどそれ以外のことはしてくれません。期限がすぎればそれもしてくれなくなります。
では、特約で法的手続きをしてくれるようにできないかというとそれもできません。債権回収は法律事務に当たり原則として弁護士にのみ許されているからです。
管理会社の行う督促も弁護士の行う督促とは内容的に異なります。管理会社は管理組合の意思を伝える使者として形式的な対応しかできません。
つまり、「支払いが遅れているので支払ってほしい」とメッセージを伝えることができるだけです。それ以上の交渉は弁護士法に違反する可能性がありしてくれないのです。
督促がしにくい
管理会社による形式的な催促では効果がなかった場合には管理組合が督促していかなければなりません。
ところが管理組合の役員は滞納している組合員と同じマンションの住民です。これからの関係を考えると強く請求しにくいものです。特に個人的な付き合いがあればなおさらやりにくいといえます。
マンションの築年数が古いほど滞納率が上がる傾向にあるのですが、それはこのような心理的な要因もあるかもしれません。
対処方法は、担当理事個人に責任を押し付けないような形式的な対処方法を確立しておくことです。
責任があいまいになりやすい
管理組合の役員は率先してやりたいという人はあまりいません。中には責任感が強く立候補して理事に就任される方もいらっしゃいますが多くはありません。一般的な管理組合では管理規約に定めてあるとおりに輪番制で毎年のように交代しているところが多いと思います。
輪番制の大きな問題の一つは責任感が希薄になってしまうことにあります。輪番制が悪いわけではありませんが滞納の問題についてはデメリットとなりやすいのです。
自分から立候補してなったわけではないという思いや1年という短期で交代するという意識から滞納金の問題が後回しになりやすいのです。
この場合の解決方法も理事個人に負担がかかりにくい方法を見つけることにあります。
マンション管理費の滞納を防ぐ方法
滞納管理費の回収を考える前にまずは管理費の滞納が起こらないようにすることが大切です。現在滞納が発生していたとしても事態を悪化させないためにも必要です。
管理費の支払い方法を口座振替にする
基本的な対策として管理費を振込みにするのではなく口座振替にすることが有効です。あらかじめ金融機関で手続きをとってもらうことで振り込み忘れや居住者の急病等による滞納を防ぐことが可能となります。
振り込みを忘れただけであれば催促することですぐに支払ってもらうことができますが、管理組合の役員がそのたびに回収業務を行わなければならず効率が悪くなります。また、居住されている方が一人住まいのケースでは急病等により振り込みがなされず長期にわたる滞納の原因となりかねません。
口座振替にしておけば支払い忘れのような一時的な滞納を防ぐのに効果的です。
管理費の重要性を理解してもらう
管理費の滞納がどのような問題を引き起こすのかを理解してもらえば滞納は起こりにくくなります。マンションの管理費や修繕費がどのような役割を持っているのかを広報誌などを通じて情報を発信していくことが大切です。
管理費を滞納している人への対応
滞納予防策をとっていても管理費の滞納を完全に防ぐことはできません。滞納者が出た場合には落ち着いて対処していくことが大切です。
問題意識の共有
管理費がマンションを維持していくためにどれだけ重要なものなのかを滞納している方に認識してもらうことが大切です。
管理費を滞納することでマンションの維持が難しくなり資産価値も減ってしまうことを認識してもらいます。
滞納している人に改めて問題意識を持ってもらうことで管理費の支払いを促すのです。
早期回収が肝心
滞納が長期化すると金額が大きくなるため回収がより困難となります。これを避けるためには滞納が生じてからできるだけ短期間のうちに行動することです。
<滞納の実態>
滞納期間 |
滞納者のいる管理組合 (全体) |
滞納者のいる管理組合 (築年S44~S49) |
3か月以上 |
24.8% |
46.7% |
6か月以上 |
15.2% |
28.9% |
1年以上 |
16.4% |
37.8% |
※平成30年度マンション総合調査結果(管理組合向け調査の結果)(国土交通省)参考
この表を見ると短期間で管理費の回収に成功している管理組合がある一方で1年以上にわたって管理費の滞納を許してしまっている管理組合も少なくないことがわかります。
滞納があっても早い段階で督促をして早期回収をしていけば管理費滞納の問題は深刻化しないで済みます。滞納している人に対しては積極的に督促をして滞納を常態化させないことが大切です。
マニュアルの整備
管理組合の役員も同じマンションの住民であり督促を行っていくことが心理的な負担となっています。できるだけ形式的に督促・回収業務を行っていけるようにすることが管理費・修繕積立金回収の鍵となります。
マンション管理費・修繕積立金は一定の時期ごとに一定の金額が生じるという特徴があります。つまり滞納時期や滞納金額を把握しやすいのです。この特徴を活かし督促業務をできるだけ機械化してしまうと役員の負担が減り回収効率も良くなります。問題が生じるたびに一から対策を考えるのでは効率が悪くとても大変です。
そこで、滞納が生じた場合の対策をマニュアル化しておきます。具体的には滞納からどれくらいの期間が経過したらどのような対応をとるかということをルール化するのです。このようなルールを規約に定めてしまうこともできますがあまり細かい内容にしてしまうと別の方法をとりたいときに規約変更が必要となるため注意して下さい。
滞納が発生したらマニュアルにしたがい回収業務を行っていきます。
ペナルティの周知
返済が遅れた場合には遅延損害金を課すことが一般的です。管理費についても遅延損害金が生じることを管理規約に明記しておくことは有効な滞納対策となります。
管理規約に定めていなくても民法の法定利率を請求することはできますが、管理規約に示すことで意識を高めてもらうことに意味があるのです。
利率については税金などで年利14.6%に設定されているケースが多いためこのあたりが妥当かもしれません。なお、管理費については利息制限法の適用はありません。
罰則として滞納者の氏名公表を規定することには問題があります。実際に公表した場合には名誉毀損やプライバシー侵害として逆に訴えられるおそれがあります。目的は管理費の回収にあるため弁護士への依頼など回収に直接つながる方法を検討することが大切です。
ペナルティの内容は普段はあまり意識されないものです。そのため滞納が発生したら滞納者に対してどのようなペナルティがあるかを知らせることも効果的です。
弁護士費用の規定
管理規約で弁護士に依頼した場合の費用を違約金として滞納者の負担とする規定が置かれているか確認して下さい。
弁護士費用は不法行為の場合を除き原則として相手に請求できません。ですが管理規約に「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」を加算して請求できると定めておけば弁護士費用を請求できる可能性があります。
実際に管理組合が滞納者に対して弁護士費用を違約金として請求した事例で、裁判所は、弁護士費用が管理組合の持ち出しになってしまうのでは衡平の観点から問題であり、違約金の定めは合理的であるとして弁護士費用の全額の請求を認めています(東京高判平成26年4月16日)。
この定めをおくことで滞納そのものを抑止することになります。滞納が発生したら滞納した人に対して弁護士費用の負担もあることを伝えることで支払いに応じてもらいやすくなります。
<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説
督促の基本的な流れ
滞納が発生した場合の対処法を順に説明していきます。
原因の把握
支払いの遅れの原因はさまざまです。預金口座の残高不足や支払い忘れ、経済的理由などです。
督促業務は滞納原因に応じて方法が変わるためまずその原因を確認することが大切です。
電話や訪問による事情の確認が一般的です。直接連絡がとれない場合には書面で催促していきます。
滞納の初期段階では管理会社が対応をとってくれますが形式的な対応しかできないため、状況によっては並行して管理組合も行動することが必要です。
<関連記事>【弁護士監修】支払催促状の書き方と送付方法{テンプレート付}
内容証明郵便
督促を繰り返しても一向に支払ってもらえない場合にはより強力な回収手段をとります。
内容証明郵便はどのような内容の通知を誰から誰に対して送付したかが証拠として残ります。一般的に法的対応をとることも通告するため相手に与えるプレッシャーは相当なものとなります。
ただし、管理組合の理事と滞納者とは同じマンションの住民であるため実際には法的手続きをとらないだろうと本気にしてもらえない可能性があります。そのためできるだけ弁護士に作成してもらって下さい。
<関連記事>債権回収の内容証明作成方法を弁護士が解説!債権回収を効率よく解説!
法的手続き
法的な手続きは訴訟だけでなく民事調停や支払督促もあります。
民事調停は裁判所を利用した話し合いの手続きです。円満な解決が期待できますが相手が話し合いに応じてくれなければ利用できません。
支払督促は書面審理のみで滞納者に支払いを命じてもらえる手続きです。ただし、異議が出されると通常訴訟に移るという問題があります。
訴訟にも種類があり60万円以下の請求金額については少額訴訟手続が利用できます。原則1回の期日で判決がもらえ手続きも簡素化されています。
仮に勝訴判決を得たとしても相手が支払いに応じてくれない場合には、強制執行をしなければなりません。区分所有者の預金債権などの財産を差押えて強制的に回収することになります。
滞納者の専有部分を競売してしまう方法もあります(59条競売)。ただし、他に方法がないような最終手段としてしか使えないので、他に方法がないか事前に弁護士に相談することが大切です。
<回収方法の比較>
手段 |
メリット |
デメリット |
電話、訪問、書面 |
手軽、コストが安い |
長期の滞納者には効果が低い |
内容証明郵便 |
心理的なプレッシャーを与えられる |
弁護士が送付しないと効果が弱い |
民事調停 |
円満な解決、コストが安い |
強制力がない |
支払督促 |
強制力がありコストも安い |
・異議が出されると通常訴訟に移行 ・住所不明では利用不可 |
少額訴訟 |
1回の期日で終わる |
・60万円以下の事件のみ ・手続きに制限がある ・住所不明では利用不可 |
通常訴訟 |
・事件や手続きに制限がない ・住所不明でも利用可能 |
時間がかかりやすい |
7条先取特権 |
判決等がなくても差押え可 |
・住宅ローンがあると難しい ・生活必需品は差押えできない |
59条競売 |
担保権者がいても競売可 |
要件が厳しい |
<関連記事>債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説
簡単な解決策
管理会社が督促業務を行うのが難しいのであれば督促業務のみ法律事務所に委託すれば問題は解決します。もともと管理業務は組合自身で行うことが難しいため外部に委託しているのであり督促業務のみ組合自身で行う理由はありません。管理組合の業務の中でも専門性が高い分野のためむしろ優先的に外部に委託すべき業務といえます。
まとめ
・管理費の滞納問題はどのマンションでも起こります。特に大規模マンションや完成年の古いマンションほど滞納者が多い傾向があります。
・管理費には消滅時効があり5年で権利がなくなるおそれがあります。
・管理会社は形式的な督促をするだけで本格的な回収をすることはできません。
・滞納が長期化すると金額が大きくなりさらに支払いが困難となります。早期回収が鉄則です。
・罰則として遅延損害金を定めることが有効です。氏名公表は不法行為となるおそれがあります。
・管理規約で弁護士費用が滞納者の負担となっているか確認して下さい。
・内容証明は弁護士が送付すると効果的です。
・滞納者の区分所有権や敷地利用権を競売できることがあります。
マンション管理費の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
当事務所はマンション管理費の回収に強い事務所であり実績も多数あります。
マンション管理費など定期的に生じる未収債権に特化した債権回収業務を行っています。
報酬の支払いは完全成功報酬制となっており未収金が入金されてはじめて報酬が発生するため万が一回収に至らなかったときには費用は生じません。
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※法的手続きやご依頼の状況により一部例外がございます。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。
管理費、売掛金、業務請負、委託代金、地代家賃等幅広い債権に対応しています。
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「毎月一定額以上の未収金が継続的に発生している」
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