営業上の取引をした場合において、後払いにしたときの代金請求権を売掛金といいます。売掛金の支払として約束手形や為替手形が使われることがあります。

単なる金銭債権のときには売掛金ですが手形が振り出されるとそれとは独立した手形債務が生じます。あくまで売掛金と受取手形は異なることに注意が必要です。

 

債権の回収の際に両者は効力の面で違いがあります。それだけではなく異なるものである以上、手形を受け取った際や入金されたときの仕訳の方法にも違いが生じます。

 

この記事では、受取手形の基本から売掛金との違いや仕訳について詳しく解説していきます。

 

受取手形とは

受取手形とは、取引相手から受け取った「約束手形」や「為替手形」のことをいいます。

 

受取手形は、支払期日に手形に記載された金額を受け取ることができる権利です。

手形や簿記の教科書では支払期日の翌々日までに振出人(支払人)に受取手形を呈示することになっています。

これを読んだだけでは受取人が直接支払場所までいって受取手形を呈示するように思えますが実際にはこのようなことはありません。

支払場所が遠方であったり複数の受取手形があったりする場合には現実的に不可能だからです。

 

そのため、実際には銀行に受取手形を持ち込んで取立を代わりにしてもらいます。

受取手形には支払場所として銀行名が記載されていますが、自分が普段利用している銀行で構いません。

銀行はお互いが支払場所になっている手形を「手形交換所」で交換して処理することになっているからです。

 

取立依頼が済んでいれば支払期日に振出人の当座預金口座から受取人の口座に振替処理をしてもらえます。

 

したがって、手形を受け取ったらなるべく早く銀行に預けに行くことが基本となります(支払銀行が異なる場合には処理に時間がかかります。)。

 

受取手形は期日に支払いを受けられるだけではなく、支払期日前に支払手段として活用できます。

他社に対する代金の支払いとして受取手形を譲渡するのです。このときに手形の裏面に署名押印することで譲渡できます。これを「裏書」といいます。

 

銀行に手数料を支払って譲渡することを「割引」といいます。内容的には裏書と代わりありません。手数料や利息分を差し引いて買い取ってもらいます。手形金額より少ない金額しか回収できないため資金繰りが厳しいときに限定したほうがいいでしょう。

 

手形を裏書譲渡した場合に支払いがされなかったときはどうなるのでしょうか。

振出人(支払人)の当座預金の残高が不足していて決済できないことを「不渡り」といいます。不渡りになると取立てを依頼した人に手形が返還されます。

 

不渡りになったときは手形を持っている人は裏書をした人に支払いを求めることができます。つまり、裏書には支払いを保証する意味があるのです。譲渡すればおしまいというわけにはいきません。

 

手形には「約束手形」と「為替手形」の2種類があります。

 

約束手形とは、振出人が相手に一定の金額の支払いを約束した手形のことです。支払期日の定め方としては「一覧払」などいくつかありますが、ほとんどは具体的な日付を指定した「確定日払」です。

 

手形を利用することで支払いを延ばすことができるため売掛金の支払期日に約束手形を受け取ることもあります。つまり、当初は手形を振り出さず普通の売掛金だったものが、売掛金の支払期日に手形で支払うことで受取手形に債務の種類を変えてしまうのです。買い手が資金繰りをよくするために行います。

 

為替手形とは、振出人が第三者(支払人)に対し一定の金額を支払うように委託した手形です。

約束手形は振出人と受取人の2人しかいませんでしたが、為替手形は支払人が必要となります。

例えば、CがAに対し30万円の債権があり、AがBに対し30万円の債権を持っている場合に、AがCに対しBを支払人として手形を振り出します。もちろんBが引受けてくれることが必要です。

為替手形を利用すると三者間の債権債務が一度に解消できるというメリットがあります。ただし、複雑になってしまうためあまり利用されていません。

 

為替手形が利用されやすいケースとしては、売掛金の回収のために債権者自ら振り出すものがあります。

「自己受手型」と呼ばれます。

債権者が「振出人兼受取人」となり、買い手を「支払人」として振り出すのです。

手形は債務者が支払いの手段として振り出すことが普通です。債権者の側から積極的に手形を受け取りたいときに利用されます。

 

売掛金との違い

売掛金と受取手形には共通点があります。どちらも金銭債権として支払いを請求していく権利です。このような営業取引によって発生した債権全般を「売上債権(売掛債権)」といいます。

ですがいくつかの点で大きな違いがあります。

 

手形を振り出すためには銀行に当座預金口座を開く必要があります。当座預金はだれでも利用できるものではなく事業者が手形や小切手を利用するために開設します。

 

当座預金の口座開設の際には金融機関による審査が必要となります。そのため信用面である程度安心できる側面があります。

 

手形は割引が可能であるため支払期日前に現金化することが容易です。売掛金もファクタリング会社を利用することで期日前に現金化することができますが手数料の面で受取手形の方が有利です。手形の場合には銀行が回収に失敗したとしても譲渡人に支払いを請求できるため手数料が安くなっているからです。

 

受取手形は売掛金よりも優先的に支払いを受けられやすいメリットもあります。

売掛金の未払いよりも手形の不渡りのほうが経営者としては怖いからです。

手形は6か月の間に2回不渡りをしてしまうと銀行取引が停止されることになります。事実上の倒産状態となるため事業継続ができなくなるのです。実際のところは1回でも不渡りを出すと信用を失い事業の継続が難しくなります。

このような事情から受取手形のほうが売掛金よりも債権の回収がしやすくなります。

 

<関連記事>売掛金とは?意味と回収・未回収時のポイント及び、仕訳方法をわかりやすく説明

 

受取手形の仕訳方法

手形を受け取った場合の仕訳についてケースごとに見ていきます。

 

<代金の支払いとして手形を受け取った場合>

商品を30万円で売却し約束手形を受け取った。

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

受取手形

300,000円

売上

300,000円

 

資産として受取手形が増えるので借方に記載します。約束手形か為替手形かにかかわらず「受取手形」とします。

 

<支払期日に決済された場合>

約束手形が支払期日に決済され当座預金口座に入金があった。

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

当座預金

300,000円

受取手形

300,000円

 

資産である預金が増えるので借方に記載し、資産である受取手形が減ったので貸方に記載します。

 

<裏書譲渡した場合>

A社から受け取った約束手形(30万円)をB社に対する買掛金30万円の支払いとして譲渡した。

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

買掛金

300,000円

受取手形

300,000円

 

負債である買掛金が減少したので借方に記載します。

 

<金融機関で割引を受けた場合>

A社から商品代金30万円の支払として受け取った約束手形をB銀行に割り引いてもらった場合に、5,000円の手数料を除いた金額が入金された。

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

当座預金

295,000円

受取手形

300,000円

手形売却損

5,000円

 

 

 

割引は銀行に手形を買い取ってもらうことであり、その結果として券面額より安く売却されてしまうため「手形売却損」を計上します。

 

<営業外の取引で受取手形を受け取った場合>

A社が使用していた備品を5万円でB社に売却し約束手形を受け取った。

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

営業外受取手形

50,000円

備品

50,000円

 

営業外の受取手形については帳簿上も明確に分けることが必要です。売上債権と区別しておくことで経営分析を容易にするためです。

 

<関連記事>支払い手数料が発生した売掛金の仕訳方法とは?

 

売掛金など回収に手形を使う場合の注意

手形サイトは90日以上が多いといえます。そうなると少なくとも3か月は現金化できなくなるため資金繰りに影響することがあります。銀行で割引いてもらうことも選択肢ですが手数料もかかるため注意が必要です。

もしも割引が常態化しているのであれば売上債権回転期間が適切でない可能性があります。

 

取引の当初に売掛金として支払期日が設定され、その支払期日に受取手形を受け取るとさらに現金化までの日数がかかることになるため特に注意が必要です。

 

<関連記事>売掛金回転期間とは?見方と計算方法をわかりやすく解説!

 

まとめ

・受取手形とは、取引先から受け取った「約束手形」と「為替手形」のことです。

・受取手形は、支払期日前に譲渡することが可能であり金融機関に買い取ってもらうことを「割引」といいます。

受取手形は売掛金よりも優先的に支払いを受けられやすいため回収がしやすくなります。手形の不渡りは倒産に直結するからです。

・仕訳は約束手形と為替手形の違いに関係なく「受取手形」を勘定科目にします。営業外取引の場合には「営業外受取手形」とします。

 

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