「滞留債権」という言葉はあまり一般的には使われないものです。

近い用語として「不良債権」というものもありますが同じ意味ではありません。

どちらも企業にとっては好ましくない債権であり必要な対策も異なります。

 

この記事では、滞留債権と不良債権との違いや対処法について詳しく解説していきます。

 

滞留債権とは

滞留債権とは、本来の支払期日までに支払いがなされなかった債権のことをいいます。

支払期日以降に入金確認を行いますが、入金が確認されないことで滞留債権の存在を認識することになります。

 

事業者がもっている金銭債権には「売掛金」や「未収入金」などがあります。

売掛金とは、商品やサービスを代金後払いで提供した際の金銭債権のことであり、未収入金とは、営業活動以外により取得した金銭債権のことです。

 

どちらも支払期日に入金がされなかったときには滞留債権として扱われることになります。

 

売掛金や未収入金は、貸借対照表上の「流動資産」に分類されます。ですが回収に時間のかかっている滞留債権について流動資産に分類し続けることには問題があります。

会計の基本原則であるワン・イヤー・ルール(1年基準)の観点から、また融資を受けている金融機関からも問題視されることになります。

ワン・イヤー・ルールとは、流動資産と固定資産を分類する判断基準の一つです。決算日から1年以内に現金または費用にするものを「流動資産」、1年を超過するものは「固定資産」とします。

 

そのため回収期間が1年を超えてしまっている売掛金や未収入金については、「滞留債権」として「固定資産」に分類し、必要に応じて法的手段や不良債権処理を検討することになります。売掛金と未収入金を区別するため、「長期滞留売掛金」や「長期未収入金」を勘定科目とすることも考えられます。

 

滞留債権と不良債権の違い

不良債権とは、滞留債権のうち債権回収の可能性がほとんどないものをいいます。つまり、不良債権も滞留債権の一種ということになります。その違いは回収の可能性の有無や程度の違いにすぎません。

 

滞留債権は支払期日に入金が間に合わなかったもの全般を指すため、必ずしも経営に影響を与えるものではありません。支払いが遅れる原因は様々だからです。

 

事務処理上のミスにより支払いが遅れてしまうことはよくあります。取引先が支払いを忘れていることもあれば、自社の請求ミスにより入金が遅れることもあります。

 

このような滞留債権であれば取引先に連絡を取れば支払いを受けられるため特に問題は生じません。

一方で、取引先の経済的事情や契約上のトラブルなどにより請求をしても支払いに応じてもらえないケースには注意が必要です。回収の見込みがあるのか慎重に見極める必要はありますが、回収の可能性がほとんどない滞留債権については不良債権として損失処理をしていくことになります。

 

売掛金や未収入金が不良債権になるということは、資産を失うということであり経営への影響に気をつける必要があります。

一律に不良債権として処理する基準はありませんが滞留債権が不良債権に変化するため、滞留債権の段階で適切に対処することが重要です。

 

基本的な対処法は滞留債権となった時点で回収を迅速に始めることです。

もちろん適切な対策をしたとしても不良債権を完全に防ぐことはできません。ですが債権の回収を適切に行うことは適切な不良債権処理にもつながるため、損失処理がしやすくなり税金面でも有利となります。

 

したがって、滞留債権への迅速で適切な回収を心がけていれば経営を土台から安定させることになります。

 

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滞留債権への対策

売掛金や未収入金を不良債権にしないためには滞留債権への対策が重要となります。

対策の基本的な考え方は「日頃から債権を把握すること」といえます。

それでは具体的な対策について見ていきます。

 

定期的な見直し

滞留債権が発生してしまうのは取引先の経済状況が悪化していることが原因のこともありますが、単純な事務処理上のミスに起因していることもよくあります。

 

適切な時期に請求を怠ったり、入金確認をしなかったことで相手の支払いミスに気づくのが遅れたりして長期滞留債権にしてしまうことがあります。その結果として相手の経済状況が悪くなり不良債権となってしまうこともあります。

 

このような事務処理上のミスを防ぐためには売掛金や未収入金の状況を把握できるシステムを構築することが大切です。請求を確実に行い、入金確認を適切に実施することで滞留債権を未然に防ぎ、発生したとしても速やかに解消する体制を作り上げます。

 

売掛金や未収入金は日々発生し続けるものでありその数が多くなるほどミスが発生しやすくなります。そこで売掛金や未収入金について請求漏れがないかなど定期的に見直す仕組みを構築することが大切です。

 

これにより滞留債権の発生原因の一つがなくなるため経営の安定につながります。

 

与信管理を徹底する

取引により発生した債権を管理することも大切ですが、取引自体の見直しを行う「与信管理」も大切です。

 

「与信管理」とは、取引の内容や相手方の財務状況などをもとに取引の有無や内容を決めることでリスクを管理することです。

 

漠然と相手を信用できるかどうかで取引を行うのではなく、根拠のあるデータに基づいて取引の可否を決め、取引可能だと判断したときには与信限度額を設定し、その範囲で取引を行うことが大切です。

 

与信判断は一つの取引先に対して1回行えば終わりというものではありません。

適宜審査をやり直す必要があります。というのも相手の財務状況は時間の経過とともに変化するものであり、取引の内容や時間の経過によって再審査が必要となるからです。

クレジットカード会社がカードの更新時などに途上与信を行いますが同じ理由によるものです。

定期的にまたは取引内容に変化があるごとに与信判断を入れることはリスクマネジメントの基本といえます。

 

与信審査を行うには判断のもととなる情報を集めることが必要です。与信判断の基本は決算書であり貸借対照表と損益計算書によって財務状況や営業成績を分析していきます。

 

与信審査の結果としてリスクが高いと判断すれば取引を見直す必要があり、与信限度額を小さくすることや取引を見直す判断も必要となります。

 

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回収業務(催促・督促)を怠らない

基本的な債権管理は十分行えているにも関わらず、具体的な回収業務が不十分なケースも散見されます。いくら債権の現況の把握が完璧であったとしても回収業務が十分機能していなければ安定した経営は望めません。

発生した売掛金や未収入金は確実に回収していくことが必要であり、債権額が少額であったり手間がかかりそうな案件だからといって放置したり回収を諦めたりするべきではありません。

回収業務が不十分な場合には滞留債権の比率が高くなるため銀行の評価が厳しくなり融資に影響を及ぼすこともあります。

 

支払期日に確実に入金してもらうように催促し、支払いが遅れたときには速やかに督促する体制を整えることが大切です。

 

滞留債権を回収する方法

どんなに気をつけていたとしても支払期日に入金が確認できず滞留債権となってしまうことがあります。

滞留債権への対処法は難しくありません。ケースにあわせた対応を心がけることでうまく処理していくことができます。

 

取引先への確認

滞留債権が生じる理由の一つが事務処理上のミスです。自社の請求ミスがないことを確認できたら取引先に対し入金が確認できないことを伝えることが大切です。この連絡はできるだけ早く行うことが重要です。連絡が遅れると相手の資金繰りの状況によってはさらに支払いが遅れることもあるからです。

相手に早く連絡を入れるためにも入金確認は速やかに行うことが大切です。入金予定日に確認することが理想ですが他の売掛金とまとめて確認するのであれば毎月決まった日に行うことが大切です。

 

相手方のミスにより支払いが遅れていたことがわかった場合には支払い予定日を確認します。予定日を確認しておかなければ再度の入金確認をいつ行わなければいけないか分からず長期滞留債権の原因となります。

 

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催促状や督促状を送る

滞留債権の原因が相手方にある場合に、電話やメールでの催促では支払いに応じてもらえないケースがあります。支払いに応じると約束はしてくれるものの実際に支払ってくれないケースでも同様です。なかには連絡が全く取れないケースもあります。

 

このような相手方に対しては文書によって催促を行います。

電話での連絡が取れないケースでは債務が存在することに気づいていないこともあります。

そのため初めての催促状については高圧的な内容にならないようにし、債務が残っていることを簡潔に伝えることが大切です。その際、いつどのような原因で発生した債権なのか特定できるように記載し、振込先口座など支払い方法も記載しておきます。

 

相手が支払いにどうしても応じてくれないときには法的手段をとることを予告します。証拠として残すことができ仮差押えなどの法的手段をとる際にも役に立つ内容証明郵便での督促も検討します。

内容証明郵便は相手に与えるプレッシャーが大きいため支払いに応じてもらいやすくなります。特に弁護士から送付すると効果的です。

 

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法的措置を取る

再三の催促にも関わらず弁済してもらえないときには法的手段を検討することになります。

法的手段といっても、支払督促、訴訟、仮差押えなどいくつも方法があります。

 

支払督促は簡易裁判所の書記官から支払いを命じてもらう方法であり、相手が異議を申し立てなければ財産に強制執行していくこともできます。

 

最終的には訴訟で解決を図ることになりますが、債権額が60万円以下であれば1日で判決をもらうことのできる少額訴訟という手段もあります。

 

相手が財産を隠さないように仮差押えが必要なこともあります。仮差押えは財産の処分を制限するため訴訟を起こさなくても支払いに応じてくれることもあります。

 

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滞留債権を回収できない場合

滞留債権は回収することが基本ですがどうしても回収ができないこともあります。

そのようなときには貸倒損失として処理することで税金を安くし経営への影響を最小限に留めることが大切です。

 

貸倒損失として扱うには次の3つのケースがあります。

 

1.法律上の貸倒れ

2.事実上の貸倒れ

3.形式上の貸倒れ

 

1.法律上の貸倒れ

法律上の貸倒れは次のいずれかに該当するときです。

 

・更生計画認可の決定

・再生計画認可の決定

・特別清算に係る協定の認可の決定

・債権者集会での決定

・債務超過期間が継続し、金銭債権の弁済を受けることができない場合に債務免除を書面で通知したとき

 

会社更生法や民事再生法などが適用されると債務が免責されてしまいます。

債務免除(債権放棄)でも貸倒れ処理できますが回収の努力を十分に行う必要がある点に注意してください。税務当局から回収努力が不十分と判断されると寄付金として扱われるおそれがあります。

 

2.事実上の貸倒れ

取引先の資産状況などから債権の全額が回収不能であることが明らかなときは「事実上の貸倒れ」として処理できます。

全額の回収不能であるため担保を取っているケースでは原則として事前に担保権を実行しておくことが必要となります

回収の不可能性について税務当局に認めてもらう必要があるため、回収を十分に行ったことを証明することが必要です。弁護士による回収が行われたことを示す書類が典型的です。

 

3.形式上の貸倒れ

形式上の貸倒れは、売掛債権を前提に次のいずれかの条件が必要です。

 

1.継続的な取引に関して、取引停止の時と最後の弁済の時などのうち一番遅い時点から1年以上経過したとき

または

2.同一地域の債務者に対する債権の合計が取立費用未満であり、督促しても弁済のないとき

 

注意点としては債権者が貸倒れと判断したとしても損失処理できるとは限らないことです。

税務当局が回収できないと判断することが重要なのです。

 

つまり、貸倒損失として処理するためには前提として回収の努力を十分に行わなければなりません。基本的には法的手段も求められることになります。債権額があまりに小さく費用倒れになるケースは別ですが弁護士に相談しているか否かが重要な判断材料となります。

 

自社で回収ができないと判断したケースでも弁護士から見ると回収可能な事案は少なくありません。弁護士から請求するだけで法的手段を使わずに回収できることもよくあります。

 

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まとめ

・滞留債権とは、支払期日に入金のなかった債権のことです。そのうち回収がほぼ不可能なものを不良債権といいます。

・滞留債権は放置すると不良債権となります。滞留債権への対策は債権管理が基本です。売掛金や未収入金を把握し滞留債権が見つかったらすぐに督促を行うことで不良債権化を防ぎます。

・滞留債権の回収は取引先への催促を基本とし、支払いに応じてもらえないときには弁護士への依頼や法的手段を行います。

・滞留債権の回収が不可能なときは貸倒損失として税金面でケアします。

 

債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

滞留債権でお悩みの方へ。

 

長期滞留債権であっても回収をあきらめる必要はありません。

むしろ安易に貸倒損失として処理しようとすると税務当局から否定され寄付金として扱われることもあります。

 

自社で回収が不能であると判断するのではなく一度専門の弁護士にご相談ください。

 

当事務所は長期滞留債権の回収に強い事務所であり実績も多数あります。

少額債権(数千円単位)や債務者が行方不明など他事務所では難しい債権の回収も可能です。

 

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