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売掛金の回収が不能なときは貸倒損失としての処理を行うことになります。
ですが貸倒れはいつでも認められるわけではありません。客観的に回収不能といえなければならないからです。
この記事では、売掛金が回収不能な場合の対応方法や事前の対策などについて解説します。
売掛金が支払われない理由
支払いが遅れる原因は一つとは限りません。
自社の単純ミス
支払いの遅れは相手方に原因があるとは限りません。請求書を発送し忘れていたようなこともあるからです。
そのため、まずは自社の請求手続きに問題がなかったのか確認することから始めます。
取引先の単純ミス
請求書が届いていたのに担当者が見落としていた、すでに処理したと思い込み放置していたなどめずらしくありません。
資金繰りに問題がある
支払いが繰り返し遅れる場合には資金の調達に苦労している可能性があります。
想定外の出費などで一時的に現金が不足したようなケースであれば特に心配はないかもしれませんが何度も同じようなことがあれば対策を考えなければなりません。
故意に遅らせている
あえて支払いを延ばしているケースもあります。
例えば、提供した商品やサービスに不満をもっていることがあります。
こちらに非があるのであれば商品を交換したり減額したりするなどの対応が必要となります。
仮に一切の落ち度がなく契約どおりに義務を果たしたのであれば改めて請求を行い、必要に応じて法的な方法も視野に対策を検討することになります。
売掛金が回収できない場合の3つのリスク
回収を迅速に行わないとさまざまな問題が起こります。
資金繰りへの影響
売掛金の回収が不能となると経営に支障が出ることがあります。
資金繰りの理想は入金後に出金することです。売掛金を回収した後に買掛金の支払いを行うことができていれば経営は安定します。つまり売掛金の回収がうまくいかなければ銀行への返済や買掛金の支払いに支障が出ることになります。
従業員への影響
売掛金が支払期日に支払われなければ回収業務を行う必要があります。支払いの催促のために電話やメール、文書の送付などを行い状況によっては内容証明の送付や法的手続きも検討しなければなりません。従業員には本来の業務がある以上その時間を犠牲にして対処することになります。慣れない業務のため時間や費用が掛かり効率性という観点から問題があります。人件費を含め回収にはコストがかかりますが売掛金を超えてしまうのでは本末転倒になります。時間と費用を考慮しながら効率的に回収することが必要です。
消滅時効
売掛金は迅速に回収しないと消滅することがあります。債権には時効がありしばらく放置しているとなくなることがあるのです。
売掛金は原則として5年間放置していると消滅するおそれがあります(それより短い期間で消滅することもあります。)。権利が消滅するためには利益を受ける債務者等が援用をしなければなりません。時効の援用とは時効による利益を受ける意思表示をすることです。したがって期間が経過したとしても直ちに権利を失うことはありません。
また時効期間が満了する前に債務者が一部弁済をしたり支払いを催告したりすると時効期間が更新されたり一時的に猶予されたりします。
このように5年が経過したからといって売掛金の回収をあきらめる必要はありませんが迅速に回収を始めなければ回収が難しくなっていきます。
<関連記事>売掛金の時効はいつ?未回収にさせないためにするべきこと
売掛金が回収できない場合の対応方法
状況に合わせた対処法をとることが必要です。
一般的な催促を行う
支払いが遅れている原因が先方にあることがわかればすぐに支払うよう電話やメールなどで求めます。相手が支払いの遅れを認識しているのにもかかわらず弁済していないのであれば催促状を送付しプレッシャーを掛けることが必要です。
<関連記事>【弁護士監修】支払催促状の書き方と送付方法{テンプレート付}
取引を停止する
支払いがなされないのであれば債務不履行に当たるため出荷を停止することを検討します。ただし出荷を停止することで相手の経営状況を一段と悪くすることもあり倒産の引き金となることもあるので注意します。
売掛金の権利を放棄し損金対応を行う
債権放棄をすることで貸倒損失として損金処理できることもあります。これにより税金の負担を軽くします。
融資を活用して未回収金額に充てる
運転資金を確保するため公的な融資を受けることも重要です。
日本政策金融公庫の「セーフティネット貸付」であれば、取引先が倒産し経営が困難な場合、最大1億5,000万円の融資を受けられる可能性があります。
法的手段を取り強制的に支払わせる
訴訟や支払督促など裁判所を利用した方法で回収することもできます。
相手が財産を処分してしまうと困るため処分を制限する仮差押えを行うことも検討します。預金や不動産に仮差押えをするとそれだけで支払いに応じてくれることもあります。
弁護士が内容証明郵便で訴訟を予告するだけで支払いに応じてくれることもあります。
<関連記事>売掛金回収のための法的手段とは?具体的な手順を解説
回収不能になった場合の処理方法
取引先が倒産するなど売掛金の回収が不可能となることがあります。
このような状況では損金処理を行うことで税金の負担を軽くできないか検討します。
貸倒損失とは
貸倒損失というのは、債権の回収が見込めなくなったときにその金額を損失として経理処理するための勘定科目をいいます。
これにより納めるべき税金を減らすことが可能となります。
もっとも債権者が自由に損失処理できるわけではありません。
貸倒れとなるかの判断基準は法律上定められており、1.法律上の貸倒れ、2.事実上の貸倒れ、3.形式上の貸倒れに分類できます。
これら3つの内いずれかに該当してはじめて損失処理が可能となります。
法律上の貸倒れ
売掛金等の債権について一定の事実が発生したときには、切り捨てられた金額について損失処理が可能となります。
法律上の貸倒れに該当するのは、更生(再生)計画認可決定、債権者集会での決定、債務超過期間が継続し弁済を受けられない場合に書面で債務免除したときなどです。
債務免除は注意が必要であり回収のための努力を十分に行っていないと寄付金扱いとなり税金が軽減されません。
事実上の貸倒れ
債務者の資産状況などから債権の全額について回収不能が明らかな場合にも貸倒損失として損金処理することができます。
担保があるときには回収できる可能性があるため担保物の処分などを事前に行わなければなりません。
また、回収不能の判断は税務当局が行うため回収の努力を十分に行ったことを証明する必要があります。
形式上の貸倒れ
債権の種類が売掛債権である場合に、
1.継続的な取引に関して、取引停止の時と最後の弁済の時などのうち一番遅い時点から1年以上経過したとき または 2.同一地域の債務者に対する債権の合計が取立費用未満であり、督促しても弁済のないとき |
にも、貸倒損失にできます。
貸倒れについては、「不良債権とは?回収方法や注意点を解説」もご参照ください。
売掛金を回収不能にしないための対策
事前の対策としては与信管理が基本となります。
取引条件に制限をかけておく
新規の取引先については十分な信頼関係を築けるまで取引条件を厳しくすることも有効です。社内規定を設け一定期間の取引実績がなければ一律に取引限度額を低くしたり支払い期限を短くしたり支払方法を限定したりすることが考えられます。
取引先の与信管理をしっかり行う
与信管理とは、取引先の財務状況や取引の内容等を考慮して取引の可否や内容を決定し、リスクをコントロールすることをいいます。
取引先によって信用の程度は異なります。そのため相手の経営状況などから取引先ごとに取引の条件を設定することが大切です。
与信管理で注意すべきことは最初の与信判断ですべてが終わるわけではないということです。与信判断はその時点での信用力の評価にすぎないため継続して審査が必要となります。
入金までの業務フローを整備する
売掛金を回収するための仕組みを売掛金管理といいます。
売掛金管理は、1.売上の計上、2.入金確認、3.入金消込という流れで行われます。その具体的な処理方法をマニュアル化することで人為的なミスを防ぐことが可能となり売掛金の回収を容易にします。
<関連記事>売掛金管理とは?管理の仕方やトラブルの対処法を解説
取引先と丁寧なコミュニケーションを心がける
倒産の兆候は社内の環境の変化によってもつかむことができます。担当者との会話から売掛金や不動産などの財産を把握できることもあります。
倒産防止共済に加入する
無担保で借り入れできる共済に加入しておくこともリスク軽減になります。
例えば、中小機構の「経営セーフティ共済」であれば無担保で掛金の10倍(上限8,000万円)まで融資を受けられます。掛金は損金や必要経費にすることができます。
解約した際には掛金が期間に応じて戻ります(40か月以上の納付実績があれば全額)。
<関連記事>売掛金回収は迅速に!売掛金の回収を早める方法とは?
まとめ
・売掛金の回収が難しいときには法的手段による回収を検討します。弁護士が請求することで素直に支払ってもらえることがあります。
・回収が不能になったときには貸倒損失として税金を軽くします。貸倒れとして認めてもらうには回収の努力が必要です。
・回収不能を避ける事前対策の基本は与信管理にあります。
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※法的手続きやご依頼の状況により一部例外がございます。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。
少額債権(数千円単位)や債務者が行方不明など他事務所では難しい債権の回収も可能です。
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