手形や売掛債権にはさまざまな問題があります。

手形は紙でできていますが企業のIT化を考えると利用しにくくなっています。保管するだけでもコストがかかるため利用する企業も減ってきています。

一方で売掛債権などの指名債権についても譲渡や質入れによる資金調達に関して、債権の調査や二重譲渡のリスクを考えると利用しにくくなっています。

 

そこで、事業者の資金調達を容易にするなどの目的で、平成20年に「電子記録債権法」という法律が施行されました。

この法律によって創設された「電子記録債権」は手形債権や指名債権の良いところを残しつつ、上記の問題を解決した新しい金銭債権です。

 

この記事では、電子記録債権とは何かについて、取引の流れからメリット・デメリットまで詳しく解説していきます。

 

電子記録債権とは

電子記録債権とは、電子債権記録機関のコンピューター(記録原簿)に記録されることで発生する金銭債権のことをいいます。略して「でんさい」ともいわれます。

 

「電子債権記録機関」とは、電子記録債権の記録原簿を管理する団体です。

電子記録債権の「登記所」と考えればわかりやすいでしょう。

 

ただし、本物の登記所は国の機関ですが、「電子債権記録機関」は株式会社が運営しています。もちろん誰でも運営できるわけではなく主務大臣から指定を受けなければならないため公平性・中立性が確保されています。

 

電子債権記録機関は一つだけではなく複数存在しています。

いちばん有名なのは全国銀行協会が設立した「全銀電子債権ネットワーク」だと思います。

一般的には「でんさいネット」と呼ばれています。

 

普通の金銭債権は何らかの契約をするだけでも発生しますが、電子記録債権は電子債権記録機関の記録原簿に登録されることではじめて発生します。

 

債権は譲渡することができますが、電子記録債権については譲渡記録をしてはじめて効力が生じることになっています。

 

電子記録債権の仕訳

電子記録債権の仕訳方法について見ていきます。基本的な考え方は手形と変わりません。

 

電子記録債権が発生したとき

電子債権記録機関に記録されると電子記録債権が発生します。もちろん前提として何らかの原因となる取引が行われています。

 

例えば、4月1日にA社が30万円の商品をB社に掛けで販売したというケースで仕訳をしていきます。支払期日は4月30日とします。

 

<4月1日の仕訳(A社)>

借方

借方金額

貸方

貸方金額

売掛金

300,000円

売上

300,000円

 

<4月1日の仕訳(B社)>

借方

借方金額

貸方

貸方金額

仕入

300,000円

買掛金

300,000円

 

ここまでは普通の仕訳です。

4月30日に電子債権(決済日7月31日)として記録されたら次のように仕訳します。

 

<4月30日の仕訳(A社)>

借方

借方金額

貸方

貸方金額

電子記録債権

300,000円

売掛金

300,000円

 

電子記録債権の発生によって原因債権である売掛金が消滅するわけではありませんが、仕訳としては「売掛金」を「電子記録債権」に振り替える必要があります。

 

<4月30日の仕訳(B社)>

借方

借方金額

貸方

貸方金額

買掛金

300,000円

電子記録債務

300,000円

 

同じようにB社(債務者)では買掛金を電子記録債務に振り替えます。

 

手形の仕訳との違いは、勘定科目が「受取手形」ではなく「電子記録債権」、「支払手形」ではなく「電子記録債務」になっている点です。

 

電子記録債権を譲渡したとき

普通の債権や手形と同じように電子記録債権も譲渡することができます。

 

例えば、A社のB社に対する30万円の電子記録債権をC社に対する仕入れ代金10万円の支払いのため譲渡したときは次のように仕訳します。

 

<A社の仕訳>

借方

借方金額

貸方

貸方金額

仕入

100,000円

電子記録債権

100,000円

 

資産である「電子記録債権」が減少するため貸方に記載します。

手形の場合には分割譲渡ができないため一部を支払いに充てることはできません。ですが電子記録債権は分割することができるため上記のような仕訳が可能となります。

 

<C社の仕訳>

借方

借方金額

貸方

貸方金額

電子記録債権

100,000円

売上

100,000円

 

電子記録債権も支払期日までに現金化したいときには割引することもできます。「でんさい割引」と呼ばれることがあります。

 

例えば、A社が20万円のB社に対する電子記録債権を銀行に割り引いてもらったケースは次のように仕訳します。割引手数料は3,000円とします。

 

借方

借方金額

貸方

貸方金額

当座預金

197,000円

電子記録債権

200,000円

電子記録債権売却損

3,000円

 

 

 

割引後の金額が口座に振り込まれるため借方に、手数料を「電子記録債権売却損」として記載します。電子記録債権はすべて譲渡しているため貸方に全額を記録します。手形と基本的に変わりません。

 

電子記録債権を決済したとき

電子記録債権は債権者の口座に払込みによる支払いが行われると消滅します。

実際には支払期日がくると自動で債務者の口座から払い込まれる仕組みになっています。

 

例えば、A社が20万円のB社に対する電子記録債権を持っている場合に、支払期日に全額が決済されたケースは次のように仕訳します。

 

<A社の仕訳>

借方

借方金額

貸方

貸方金額

当座預金

200,000円

電子記録債権

200,000円

 

振り込まれた金額を資産として計上し、消滅した電子記録債権を貸方に記載します。

 

<B社の仕訳>

借方

借方金額

貸方

貸方金額

電子記録債務

200,000円

当座預金

200,000円

 

電子記録債務がなくなったので借方に、当座預金口座から支払われたため貸方に減少した金額を記載します。

 

<関連記事>支払い手数料が発生した売掛金の仕訳方法とは?

 

電子記録債権の取引の流れ

電子記録債権を利用するためには「電子債権記録機関」に登録する必要があります。

「でんさいネット」の場合には加盟している金融機関で申し込むことになります。

 

利用登録が済んだら実際の取引は次のように行われます。

 

電子記録債権の発生

窓口となっている金融機関を利用して電子債権記録機関に「発生記録」を請求します。

その後、電子債権記録機関が記録原簿に登録した時点で電子記録債権が生じます。

 

電子記録債権の譲渡

窓口となっている金融機関を利用して電子債権記録機関に「譲渡記録」を請求します。

その後、電子債権記録機関が記録原簿に登録することにより電子記録債権を譲渡できます。

一部を分割して譲渡するときは分割部分について請求します。

 

電子記録債権の消滅

支払期日に債務者の口座から債権者の口座に振り込まれると電子記録債権が消滅します。電子債権記録機関は金融機関から決済通知があると「支払等記録」をします。

 

電子記録債権のメリット

電子記録債権は手形や売掛金などの指名債権と異なるメリットがあります。

債権者と債務者それぞれにメリットがあります。

 

債権者のメリット

・手形と違い盗難や紛失のリスクがない

・分割譲渡ができるため資金繰りが柔軟になる

・手形のような取立依頼が不要(自動入金)

・手形と異なり任意的記録事項を記載できる

・二重譲渡のリスクがない

・譲渡した際に債務者への通知や承諾がいらない

・領収書に収入印紙が不要

 

債務者のメリット

・手形の作成や送付が不要なため手間やコストを削減できる

・収入印紙が不要

 

電子記録債権は手形の代わりに利用されることが多いですが、紙を使わないため事務作業が削減できることが大きなメリットといえます。

 

電子記録債権のデメリット

電子記録債権特有のデメリットも存在します。

 

・自社だけでなく取引先も電子記録債権サービスに加入している必要がある

・会計処理に変更が生じるため対応に時間やコストがかかる可能性

・手数料が必要

・システムトラブルが生じる可能性

・フィッシング詐欺などに注意が必要

 

電子記録債権を利用したくても取引先が対応してくれなければ利用することができません。

手形よりも事務処理が軽減されるなどメリットも大きいですが、新しいシステムを導入することにためらう企業もあります。導入を検討するときには取引先とも相談する必要があるかもしれません。

 

会計ソフトを導入している場合には電子記録債権に対応しているか確認する必要があります。対応していないときには対応バージョンへの変更が必要となることがあります。

 

手数料は受付銀行によって異なるため事前によく確認する必要があります。手数料の種類によっては大きく違うことがあります。

 

ネット上のサービスのためフィッシング詐欺やコンピューターウイルスに注意が必要となります。OSが古いとセキュリティ上のリスクが高くなるため新しいパソコンの導入が必要となることもあります。

 

まとめ

・電子記録債権とは、電子債権記録機関の記録原簿に記録することで発生する債権のことです。一般的に「でんさい」と呼ばれます。

・電子記録債権の仕訳は手形と似ています。

・電子記録債権も割引や譲渡をすることができます。手形と異なる点として分割譲渡が可能な点があります。譲渡の効力は記録原簿に「譲渡記録」がされることで生じます。

・電子記録債権のメリットは、「紛失等のリスクがない」、「事務処理の軽減」、「収入印紙が不要」などがあります。

・電子債権のデメリットは、「電子債権記録機関への登録」や「手数料」、「新しい会計処理への対応」が必要な点などがあります。

 

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