合併や会社分割、株式交換、資本金の減少など会社組織に大きな変更があるときには債権者の保護が問題となります。これらの手続きをする際には原則として債権者保護手続きが必要ですが省略できる場合や手続きを簡易化できることがあります。

 

この記事では、組織再編や資本金減少に関する債権者保護手続きについて解説します。

 

債権者保護手続とは

債権者保護手続きとは、合併や株式交換、株式移転、資本金減少などにより会社債権者を害する恐れがある場合に行う会社債権者を保護する手続きのことです。債権者異議手続きとも言います。

債権者保護手続きは合併などの会社の経営に重大な影響を及ぼす手続きをする際に会社債権者に異議を述べる機会を与えます。会社の都合だけで財産状況が大きく変化してしまうと安心して取引することができなくなります。債権者に異議を述べる機会を与えることで弁済を受けられる可能性が高まり、経営判断も慎重に行われることから債権者に不測の損害が生じにくくなります。

 

債権者保護手続きが必要になるケース

債権者保護手続きを必要とする趣旨は、会社財産の状況の変化や債務者の変更により債権者に不測の損害を与えないためです。そのため類型的に会社債権者を害する恐れの高い組織再編や資本金等の減少の際に必要とされます。

 

会社の合併

合併とは2つ以上の会社が契約により1つの会社になることです。

 

吸収合併

合併には種類があり当時会社のうち1社が合併後も存続し消滅会社から権利義務の一切を承継するものを吸収合併といいます。

吸収合併の場合には消滅会社の債権者と存続会社の債権者のどちらも債権者保護手続きが必要です。消滅会社の債権者にとっては存続会社が契約を守ってくれるか不安ですし、存続会社の債権者にとっても消滅会社の債務を承継するため財産状況が悪化する恐れがあるからです。

 

新設合併

合併により当時会社すべてが消滅し新たに設立した会社が権利義務の一切を承継するものを新設合併といいます。

新設合併の場合には消滅会社の債権者に債権者保護手続きが必要です。新設会社の財産状況が変化するからです。

 

会社分割

会社分割とは会社が事業上の権利義務の全部または一部を分割して他の会社に承継させることです。会社分割は吸収分割と新設分割の2つの方法があります。

 

吸収分割

吸収分割は既存の会社に分割会社の権利義務を承継させるものです。承継会社は合併と同様に財産状況が悪化する恐れがあるためその債権者に対して債権者保護手続きが必要です。

分割会社の債権者については必ずしも債権者保護手続きは必要ありません。合併と違い元の会社が存在するからです。

ただし、分割会社に債務の履行を請求できなくなる者には債権者保護手続きが必要となります。請求できる場合であっても人的分割(分割対価を株主に分配する方法)によるときは財産状況が悪化するため債権者保護手続きがいります。

 

新設分割

新設分割は分割により新たに設立した会社に権利義務を承継させるものです。吸収分割と同様に債権者保護手続きが必要となることがあります。

 

資本金・準備金の減少

資本金や資本準備金は会社財産を確保するための計算上の数字であり債権者保護に役立ちます。資本金や資本準備金が多ければ分配可能額が減るため会社財産が流出しにくくなるからです。

つまり資本金や資本準備金を減少させると分配可能額が増加するため債権者に不利益が生じる可能性があります。そのため資本金や資本準備金を減少するには原則として債権者保護手続きが必要となります。

ただし、資本準備金については債権者保護手続きが不要な場合があります。

・減少する準備金の全額を資本金とするとき

・定時株主総会で準備金の額の減少を決議する場合において、欠損の額を超えないとき

 

債権者保護手続きを省略できるケース

組織再編では基本的に債権者保護手続きが必要ですが例外もあります。

 

会社分割で債務の移転がない場合

分割会社の債権者については会社分割がなされても元の会社に債務の履行を請求できるのであれば原則として債権者保護手続きは必要ありません。会社分割の内容によっては承継会社・新設会社の債権者にされてしまうことがありますが債務者が元のままであれば債権者に不利益は生じにくいからです。

ただし、分割対価を株主に分配するケースでは会社財産が流出するため債権者保護手続きが必要です。

 

会社分割で従来の債務者へ請求できる場合

分割会社の債権者が承継会社・新設会社の債権者となる場合であっても、分割会社が重畳的債務引受けや連帯保証をするのであれば債権者に大きな不利益は生じません。元の会社にも請求できるからです。そのため債権者保護手続きが原則として不要となります。

ただし、分割対価を株主に分配するときには債権者保護手続きが必要です。

 

株式交換・株式移転の場合

株式交換や株式移転は株主が入れ替わるだけなので原則として債権者保護手続きはいりません。

ただし、以下の債権者には債権者保護手続きが必要となります。

 

株式交換

①対価として完全親会社の株式(準じるもの含む。)以外のものを交付する場合:完全親会社の債権者

②新株予約権付社債を完全親会社が承継する場合:完全親会社の債権者と承継対象の新株予約権付社債権者

株式移転

新株予約権付社債を完全親会社が承継する場合:承継対象の新株予約権付社債権者

 

債権者保護手続きの進め方

債権者保護手続きは以下のような流れで行われます。

 

官報での公告

債権者が異議を述べるためには合併等の事実を知る必要があります。そのため合併等の事実を官報で公告することが必要です。公告では一定期間内に異議を述べることができることなどを記載します。この期間は1か月以上必要です。

 

対象となる債権者への個別催告

知れている債権者に対しては個別に催告することも必要です。ただし、公告を官報のほか公告をする方法として定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙や電子公告でする場合には知れている債権者に対する個別催告は原則必要ありません。※

公告をする方法として官報のみを定めている会社では個別催告を省略できません。実務上は少額債権者への催告をせず異議が出された際に個別に弁済する方法もありますがリスクがあります。

二重公告により個別催告を省略したいのであれば事前に電子公告等を定める定款変更及び登記申請が必要となります。

期間内に異議を述べなかった債権者は合併等を承認したことになります。

 

※会社分割の場合には二重公告をしても不法行為により生じた債務の債権者に対しては個別催告を省略できません(会社法789条3項、810条3項)。また合名会社・合資会社の組織変更等をする際に省略できないケースがあります。

 

異議を述べた債権者への弁済

異議を述べた債権者がいる場合には原則として会社は以下のいずれかの方法をとることになります。

 

・債権者に弁済する

・債権者に相当の担保を提供する

・債権者に弁済を受けさせる目的で信託会社等に相当の財産を信託する

 

ただし異議を述べた債権者を害するおそれがないのであれば弁済等は不要です。

 

債権者保護手続きの注意点

債権者保護手続きをする際には以下の点に注意が必要です。

 

官報公告・個別催告の開始にタイムラグがある

債権者保護手続きに違法な点があれば合併等が無効となる可能性があります。合併等を承認しなかった債権者は無効の訴えを起こすことができるからです(会社法828条2項7号等)。

特に注意が必要なのは異議を述べられる期間です。異議申述期間は1か月を下回ってはいけないため合併等の効力発生日を意識して十分な期間を確保しなければなりません。官報掲載日や個別催告における郵送期間などを考慮し疑義が生じないようにします。公告については掲載日の翌日から、個別催告は催告書到達日の翌日から起算します。顧問弁護士に相談し入念に準備してください。

 

<関連記事>顧問弁護士とは?役割や弁護士との違いを解説

 

登記申請を念頭に手続きをする

合併や資本金の減少をする場合には登記事項に変更が生じるため変更登記を申請することになります。登記申請が通らなければ手続きをやり直すこともあります。

二重公告により個別催告を省略する場合には定款に電子公告等の定めが必要ですが、会社が公告をする方法は登記事項でもあるため注意が必要です。これまで公告方法を官報としていた会社がした二重公告による登記申請が通るためには、少なくとも公告日までに公告方法の変更登記の申請が必要と解されます。

 

債権者への個別催告に漏れがないよう確認する

合併等の手続きに瑕疵があると無効となるおそれがあります。債権者保護手続きにおいて個別催告が必要な場合には漏れがないように細心の注意が必要です。費用は掛かりますがダブル公告による個別催告の省略も検討することが大切です。

 

まとめ

・債権者保護手続きとは合併や資本金減少などで不利益を受ける可能性がある債権者を保護するための手続きです。一定期間内に異議を申述する機会が与えられます。

・債権者保護手続きは、原則として①官報公告と②個別催告が必要です。ただし定款で定めた官報以外の公告方法を併用することで個別催告を省略できることがあります。

・異議を述べた債権者がいるときには、債権者を害するおそれがないときを除き弁済等の対応が必要です。

 

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債権者保護手続きを含む組織再編はもちろん債権回収にも精通しています。

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また債権者の立場から債権者保護手続きでわからないことがある方もご相談ください。

 

※債権回収については「売掛金回収におすすめの相談先とは?無料相談ができる窓口を紹介」をご参照ください。