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担保権を設定しても担保提供者が目的物を売却したり賃貸に出したり、滅失させてしまうことがあります。抵当権など担保物権には物上代位が認められているものがあり目的物が金銭など別のものに代わっても優先弁済を受けられる可能性があります。
この記事では物上代位の基本や手続きについて解説していきます。
物上代位とは
抵当権や質権など物を担保にとる権利を担保物権といいます。物上代位とは、担保物権の目的物が金銭など別のものに変化した場合に、変化した代わりの物に担保物権の効力が及ぶことを言います。
抵当権や質権などの担保物権は、目的物の交換価値に着目して設定されます。債務者がお金に困り支払いができなくなったとしても目的物を競売することで弁済を受けられます。
ところが担保提供者が目的物を売却したり、賃貸したり、火災等により目的物が滅失したりすることがあります。このときに売却代金や賃料、火災保険金など金銭が支払われることがあります。もし担保物権の効力が目的物そのものにしか及ばなかったら担保をとった意義が半減してしまいます。そこで交換価値を目的とした担保物権については物上代位が認められています。
物上代位と債権者代位の違い
債権者代位とは、債権者が自分の権利を守るために債務者が第三者に対して持っている権利を代わりに行使することです。
権利を持っているのに行使しないでいると権利が時効消滅するなど不利益が生じることがあります。本来権利の行使は権利者自身の判断に任せられるべきですが債務者が権利を行使しないことで債権者に不利益が生じるときには債務者にすべて任せるわけにはいきません。そこで債権者に自分の権利を守る必要がある範囲で債務者の権利を代わりに行使できるようにしています。
物上代位は「目的物」の代わりに別のものに権利を行使するもので、債権者代位は「債務者」の代わりに権利を行使するものです。
物上代位と債権者代位はいずれも債権者を保護する目的がありますが、物上代位は担保物権者にのみ認められます。
<関連記事>債権者代位権とは?行使するための要件や効果、注意点を解説
抵当権の物上代位の意義
抵当権者は物上代位が認められることで債権の回収がしやすくなります。例えば、抵当権が設定された物件が火事により焼失したときには抵当権設定者のもつ火災保険金請求権に物上代位することで債権の回収をすることができます。
抵当権者は目的物から順位に応じて優先的に債権を回収可能です。物上代位により目的物から転じた別のものからも優先的に回収できるのです。物上代位が認められなければ他の債権者と平等に弁済を受けることになります。
投資用物件など賃料収入が見込める場合には賃料から債権回収することもできます。物件価格が一時的に下落しているようなときに選択肢となります。
物上代位が認められる担保物権
物上代位は担保物権すべてに認められるわけではありません。担保物権には抵当権や質権先取特権などがありますがこれらの担保物権は対象物の交換価値が目的であるため対象物が金銭などに代わっても担保の効力を及ぼす必要があるため物上代位が認められます。
これに対して留置権については物上代位が認められていません。留置権は目的物の引き渡しを拒否することで債務者に支払いを促す権利にすぎないからです。
物上代位の手続き
物上代位の手続きは、債権に対する強制執行(債権執行)の方法が準用されています(民事執行法193条2項)。
債権執行というのは債務者の持っている預金や給料などの債権を差し押さえて債権者が代わりに支払いを受ける強制執行の方法です。債権執行そのものは判決書などの債務名義というものが必要ですが物上代位の場合には不要です。
物上代位は賃料債権や火災保険金請求権などを差し押さえて行います。
①裁判所に物上代位を申し立てます。裁判所は執行債務者(所有者等)の住所地を管轄する地方裁判所です。その際、申立書や担保権の存在を証明する文書(1か月以内に発行された登記事項証明書等)などを提出する必要があります。申立て手数料は担保権1個について4,000円です(共同担保は全体で1個となります。)。郵便切手も必要です。 ②差押命令が発せられ文書が第三債務者(債務者の債務者)に送達され差押えの効力が生じます。その後債務者にも差押命令書が届けられ債権者に送達通知書が送付されます。 ③債権が差し押さえられると債権者は取り立てができます。取り立ては債務者への送達から1週間経過することで可能となります。ただし、第三債務者が供託したときには裁判所から支払いを受けます。 |
債権執行については、「強制執行による債権回収|手続きの流れを分かりやすく解説」をご参照ください。
抵当権の物上代位が認められないケース
物上代位はいつでもできるわけではありません。物上代位は目的物に代わる金銭等の「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」(民法304条1項ただし書)とされています。つまり物上代位は目的物の売却代金や賃料、火災保険金などが担保設定者に支払われる前にする必要があります。
物上代位の実務上の注意点
担保物権の目的物には不動産と動産があり物上代位をする際には分けて考える必要があります。不動産については抵当権が問題となりやすいといえます。
不十分な管理
抵当権による物上代位としては火災による保険金請求権が考えられますが、ほかにも賃貸物件であれば賃料に物上代位して回収することもあります。売却しても目的物の価格が下落しているため債権の回収が難しい場合や、売却手続きに時間がかかるためつなぎに利用することが考えられます。
賃料への物上代位にはデメリットもあります。物上代位をすると賃料を債権者が取得できますが一方で担保設定者は賃料を受け取れなくなります。その結果として物件管理がずさんになり賃借人が離れてしまい債権回収が難しくなることがあります。
物上代位の代わりに担保不動産収益執行という手続きもあります。これは物上代位と同じように不動産を売却しないで賃料から債権を回収する方法です。物上代位と違う点は管理者を選任して管理を任せることにあります。不動産の価値を適切に維持できる可能性が高まります。ただしこの方法には管理者報酬などの費用が掛かりやすいというデメリットがあります。
債権の特定
物上代位は債権を差し押さえる方法で行います。債権を差し押さえるためには賃借人などの第三債務者を当事者目録に記載するため事前に調査が必要となります。
債権の取り立て
物上代位をした場合には債権者が第三債務者から直接取り立てることになります。取り立てに応じてもらえないときには訴訟など法的な手段が必要となることもあります。
他の債権者との関係
抵当権による物上代位と他の債権者との優劣は以下の通りです。
債権譲渡を受けた者との優劣 |
抵当権設定登記と債権譲渡の対抗要件具備の先後 |
一般債権者の差押えとの優劣 |
抵当権設定登記と一般債権者の差押命令の第三債務者への送達の先後 |
一般債権者の転付命令との優劣 |
物上代位による差押えと一般債権者の転付命令の第三債務者への送達の先後 |
※転付命令とは、差押えた債権を支払いに代えて差押債権者に移転する手続きです。
動産売買先取特権の場合
物上代位は動産先取特権にも認められます。先取特権というのは法律上の規定に基づいて優先して弁済を受けられる担保物権の一種です。抵当権のように担保設定契約をする必要はありません。商品の売掛金があるときには動産売買先取特権による物上代位が行える可能性があります。
ただし、動産先取特権については不動産担保物権と異なり登記がないため物上代位をする際には証拠を集めることに苦労します。債務者との売買、債務者が転売したこと、転売された商品の同一性の証明が必要となります。そのため取引に使う書類に製造番号を記載するなど商品の同一性証明を容易にする工夫をしておくといざというときに役立ちます。詳しくは顧問弁護士にご相談ください。
<関連記事>先取特権によって優先的に債権を回収するには?種類や方法を解説
まとめ
・物上代位とは、担保物権の効力が目的物に代わる金銭などにも及ぶことをいいます。担保を設定しても目的物が売却や滅失などでなくなると困るため売却代金や保険金などの代わりのものから回収できる機能です。抵当権者が賃料から債権回収することもできます。
・抵当権や質権、先取特権は物上代位が認められますが留置権は物上代位できません。
・物上代位の手続きは債権執行の方法に準じて行います。
・物上代位は、目的物に代わる金銭等の「払渡し又は引渡し」前に差し押さえる必要があります。
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物上代位は抵当権など契約によって発生した担保権だけでなく先取特権にも認められています。あらかじめ担保を取っていない場合でも先取特権による物上代位により債権回収ができることがあります。債権回収にお困りのときは一度弁護士に相談されることをおすすめします。
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