目次
支払督促の概要
督促手続の流れ
支払督促のメリット
支払督促のデメリット
まとめ 

 

○ 支払督促の概要

支払督促とは、「金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」について、債権者の申立てにより、簡易裁判所の裁判所書記官が督促状を発送することをいいます。とても難しい言い回しですが、平たく説明するならば、債権を回収したいと考えている債権者が債権回収を行うために裁判所職員を介して債務者へ督促状を送ること、が支払督促です。
支払督促については、民事訴訟法第7章の「督促手続」(382条から402条)に、その手続きの詳細が規定されています。
・支払督促の対象
支払督促の対象となるのは、「金銭その他の代替物又は一定の数量の給付を目的とする請求」(民事訴訟法382条)で、これらに該当する様な請求であるならば、請求の価額の上限はありません

〇 督促手続の流れ

①支払督促の申立て
支払督促は債権者側からの申立てにより開始します。支払督促を申立先は債務者(相手方)の住所地または主たる営業所等の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官となります。
仮に東京に住む債権者Xさんが、北海道・札幌に住む債務者Yさんに対して債権回収をするために支払督促を行いたい場合には、Yさんの住所地を管轄する簡易裁判所(つまり札幌ということになります)の裁判所書記官へ支払督促を行うことになります。
申立てに必要な書類は、⑴支払督促申立書、⑵当事者目録、⑶請求の趣旨および原因、⑷申立手数料(通常の裁判と同じように収入印紙による支払いとなります)、⑸支払督促正本送達費用、⑹官製はがき、⑺(弁護士等の代理人により支払督促を行う場合)委任状、⑻資格証明書等となります。
②支払督促の発送
債権回収を目指す債権者により提出された申立書類は、裁判所書記官により不備がないかチェックを受けます。そして、問題ないとされれば債務者を審尋することなく支払督促を発送します(民事訴訟法386条1項)。
③仮執行宣言付与の申立て・仮執行宣言付支払督促の発送
上記②の支払督促が債務者のもとへ送付されてから、2週間が経過しても債務者が債権について支払いを行わない場合や、督促に対して異議の申立てがなされない場合には、債権者は仮執行宣言付与の申立てを行うことができます(391条)。申立てに必要な書類は、⑴仮執行宣言の申立書、⑵請求の趣旨および原因、⑶当事者目録、⑷支払督促正本送達費用、⑸官製はがき、⑹請書となります。
この仮執行宣言付与の申立てが適式に申し立てられると、裁判所は債務者に対して仮執行宣言付支払督促を発送します。
④仮執行宣言付督促の確定
③の支払督促が債務者のもとへ送付されてから、2週間が経過しても債務者が債権について支払いを行わない場合や、督促に対して異議の申立てがなされない場合には、仮執行宣言付支払督促は確定します。そして、この仮執行宣言付支払督促は債務名義となり、確定判決と同一の効力を有します。つまり、この支払督促を得ることにより債権者は裁判を行わずに勝訴判決と同様の効力を得ることができ、債権回収の実現に大きく近づくことができるのです
催促の通知をしても相手方が支払わない場合に利用される簡易で迅速な督促手続で、支払督促の送達から2週間以内に相手方の異議反論がなければ、それに基づき強制執行ができるのですが、相手方が異議を申し立てると通常の訴訟に移行することになります。
・異議申し立てについて
このように相手方から異議が出された場合には、支払督促に要した時間が無駄になるので、相手方から異議が出る可能性が高い場合には、通常の訴訟手続を利用したほうが効率的です。
なお、支払督促は、相手方の住所地の簡易裁判所に申し立てるので、回収相手方の住所地が不明の場合には利用することができません。

〇 支払督促のメリット

①支払督促手続は、通常の訴訟提起に比べて、手続費用の負担が軽く、更には手続に要する時間が僅かである。
②支払督促手続は、裁判所による手続きであるので、裁判所からの通知により相手方に心理的圧力を加える意味がある。
皆さんが債権を回収したい場合、できる限り回収コストを抑えたいと考えると思います。
例えばの話ですが、10万円にも満たない様な債権を回収するために数万円もコストをかけるのは、当事者である債権者からみると合理的意思に反しますよね。このように、特に債権額が少額の場合の債権回収においては、回収コストをできる限り低額に抑える必要性が高まります。
低コストでの債権回収を実現するためには、まずはいきなり訴訟に出るのではなく、当事者間で(時に弁護士を介して)の任意交渉により回収することが望ましいといえます。しかし、当事者間での交渉だけでは、どうしても埒が明かないことがあるのも事実です…。
そこで、債権回収を実現するために有効な手段として挙げられるのが支払督促なのです。この支払督促は、裁判所から債務者へなされる催告ですので、心理的強制力が当事者間での話し合いよりも強い点、任意交渉と大きく異なります。また、債務者が受けた支払督促について何ら異議を申し立てない場合は、前述の通り、債権者は支払督促について仮執行宣言を付与してもらうことができます。これにより、債権者は裁判によらず迅速に債務名義を獲得でき、債権者は裁判を行わずに勝訴判決と同様の効力を得ることができるのです。
また、支払督促の申立てを裁判所に提出する際には、書類の形式さえ不備が無ければ督促を発送してくれます。つまり、支払督促は通常の裁判の場合と異なり、証拠の審理等を経ずに行うことができる手段なのです。証拠を収集し、裁判所へ提出するという作業は債権者側にとって大きな負担となりうるものです。支払督促はこうした作業をせずとも、相手方へプレッシャーを与えられる有効な手段であるといえます。
以上の理由により、支払督促を用いることにより、債権者は小さな手間と短い期間、そして低コストで、相手方の債務者にさらなる圧力をかけ、また効果的に債権回収を行うことが可能となるのです。

〇 支払督促のデメリット

①支払督促手続は、相手方に送達できないと効力が生じないので、相手方の所在地が不明な場合には採ることができない。
②支払督促手続は、相手方から異議が申し立てられると通常訴訟に移行し、無駄な時間を費やすことになる。
支払督促は債権回収を目指す債権者側の申立てによりその手続きが始まりますが、その過程において2回、債務者からの異議申し立てがなされる機会が与えられています(表の㋐㋑の部分です)。この債権者からの支払督促に対する、債務者側の異議申立てのことを「督促異議」といいます。そして、督促異議がなされると、通常の訴訟へ、つまり裁判手続へと移行することになるのです(民事訴訟法395条)。
債務者側からなされる督促異議の内容としては、「そもそも債権は存在していない」「たしかに債権はあるが、未だ支払期限が経過していない」といった債権者側の主張と根本的に争う場合のほか、「債権を支払いたいが、一括払いは厳しいので分割払いにしてほしい」といった内容や、「あと1か月支払いを待ってほしい」といった、債権の存在を認めた上で、その支払いについての具体的な話し合いをしたいという場合にもなされます。
後者のようなケースの場合は比較的容易に回収まで話が進むケースが多いといえますが、前者の様に債権者側と債務者側とで根本的に主張が争われている場合には、移行する通常訴訟では、本格的な訴訟が行われることが想定されます。
また、これは手続上の大きな問題点なのですが、この移行される通常訴訟は、「支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所またはその所在地を管轄する地方裁判所」において進行することになっています(395条)。
具体例を挙げるとすると、仮に東京に住む債権者Xさんが、北海道・札幌に住む債務者Yさんに対して債権回収をするために支払督促を行ったものの、Yさんが督促異議を主張して、通常訴訟へと移行する場合には、Yさんの住所地を管轄する簡易裁判所または地方裁判所、つまり札幌で訴訟が始まるということになってしまいます。もちろん、本人が行かずとも許可代理人制度の活用をする等対応策は考えられますが、前述の通り訴訟手続へ移行するとなると本格的な訴訟が行われることが予想されますので、やはり、複雑な手続きにおいては弁護士をはじめとした法律専門家のアドバイスを受けながら進めていくことが、債権回収を実現するための一番の近道であると考えます。

〇 まとめ

以上、支払督促について制度の枠組みを確認したうえで、メリットとデメリットを挙げながら検討をおこなってきました。支払督促は当事者間での任意交渉と裁判所における訴訟手続との間にある制度です。場合によっては、裁判へと移行するおそれも考えられますが、当事者間での任意交渉では債権回収の具体的実現が困難である様な、埒の明かない場合において、相手側へプレッシャーを与え債権回収交渉を優位に進める手段として、とても有効な一手が支払督促です。弁護士をはじめとした法律専門家のアドバイスを受けながら、活用することで、小さな手間で迅速かつ効果的に債権回収を実現しましょう。