目次
はじめに
支払督促という債権回収方法の特徴
支払督促はリスク回避をしてこそメリットあり
自分で手続きができても弁護士に依頼するべき?
支払督促の異議や訴訟対策もできるというメリット

支払督促の費用相場とは?弁護士費用はどのくらいなのか
どんな弁護士を選ぶべき?3つのポイント
まとめ

 

■はじめに

債権を回収する方法といわれて思い浮かぶのは、果たしてどんな方法でしょうか。
代表的な方法は、やはり訴訟ではないでしょうか。裁判で借金関係をはっきりさせた上で裁判官に判決をもらうことは、借金を含む法律問題の解決策として代表的なものです。
相手方に電話をかけて「そろそろ遅れている返済をお願いしますよ」と催促する光景が思い浮かぶ人もいるかもしれません。確かにこれも債権の回収方法として代表的なものでしょう。
売掛金や個人の貸し借りで相手に返済を渋られた経験のある人は、債権回収を自分ですることはとても面倒で大変なものだという印象があるはずです。裁判や電話での催促は債権回収の代表的な方法です。しかし、方法はこの二つだけではありません。債権回収方法として有効な「支払督促」という方法について解説します。

■支払督促という債権回収方法の特徴

支払督促は債権回収の一つの方法です。
簡易裁判所の書記官に対して「支払督促を送ってください」と手続きすればOKという、裁判所手続きの中でもとても簡易で簡単なものの一つです。
イメージとしては、裁判所を通して「お金を返してください」という通知を送るものと捉えるとわかりやすいでしょう。この支払督促は、強制執行のために必要な「債務名義」を迅速に取得できる方法でもあります。債務名義といわれても、聞き慣れない言葉で首を傾げてしまうことでしょう。支払督促の特徴を解説する上で避けては通れない用語です。少しだけ債務名義というものについてお話しします。
債務名義とは、強制執行に必要な公文書のことです。
支払督促をして相手がきちんと支払いに応じてくれればそれでいいのですが、支払いをしてくれない場合は最終的に強制執行の出番となります。
支払ってくれないなら、仕方ないから債務名義という公文書に添って強制的に持っていきますよということです。しかし強制執行は相手の生活に及ぼす影響が甚大ですし、そもそも、債務者であったとしても相手の財産を勝手に押さえて持って行ってしまうということは許されません。
もし許されたとしたら、お金を貸して返してもらえなかったら金目の物を奪ってしまえばいいという話になります。
借金さえあれば強制執行ができるわけではありません。
債権回収をしたいからと申し立てれば、裁判所でいきなり強制執行の手続きができてしまうわけではないのです。強制執行をするためには、債務名義という名の公文書を取得しなければいけません。
債務名義は公文書に限られます。個人間や会社間で作成したお金の貸し借りの契約書を「これが証拠です」と提出しても強制執行はできません。この債務名義という書類を手に入れて初めて強制執行により債権回収が可能になります。
債務名義の種類は民事執行法に挙げられています。一例としては「確定判決」「外国の確定判決」「和解調書」などです。
取得まで時間がとてもかかります。強制執行の前提として、まずは裁判か調停で戦ってくださいと言われているような気がします。強制執行で債権回収をしようにも、簡単にできるものではないということです。
ここまで読むと「じゃあ強制執行をして回収するには訴訟をするしかないということ?」と思うかもしれません。それは違います。実は、迅速に債務名義という公文書を取得する方法があるのです。その方法こそが支払督促なのです。
管轄の簡易裁判所の書記官に「相手に支払督促を送ってください」とお願いして手続きするだけでいいわけですから、裁判で確定判決をもらう必要なく強制執行に進むことができるというわけです。だからこそ、債権回収においてはよくこの支払督促が使われます。
相手に督促を出しても、応じてもらえなければ債権回収はできません。
支払督促は相手が無視することを考慮に入れて、最終的に強制執行へ進むための布石として使うことができるというわけです。これは債権回収を望む人にとって大きなメリットですね。
参照 http://www.courts.go.jp/saiban/qa_minzi/qa_minzi_19/ 

『支払督促はリスク回避をしてこそメリットあり』

迅速に強制執行のための債務名義を取得できる他に、支払督促には以下のようなメリットがあります。
・費用が安い
・手続きが簡単なので自分でもできる
・強制執行を考えているが訴訟はしたくない
・訴訟では赤字になってしまうが何か強力な法的手段を使いたい
・債務者に自然と返済するように仕向けたい
裁判所から支払督促が届けば、やはり債務者はびっくりしてしまいます。
言い訳ばかりして返済に応じなかった債務者や、電話や手紙で催促しても無視していた債務者も「これはマズイことになった」と思うはずです。
精神的に揺さぶりをかけて自然と返済するように仕向けたい時にも支払督促を使うメリットがあります。もちろん応じなければ最終的に強制執行という手段で回収に臨むわけですから、「無視したら怖いことになりますよ」という心理的な圧迫感を与える方法としても有効であるといえるでしょう。
支払督促のメリットはそれだけではありません。
調停や裁判より手続きが簡単で費用が安いという債権者には嬉しいメリットがあります。
支払督促の金額には制限がありません。1億円の借金でも、5万円の借金でも使うことができます。手続きが簡単なところも有り難いです。
しかし、これはあくまで支払督促を使いこなしてこそのメリットです。
支払督促はデメリットを回避してこそメリットが生まれるという特徴もあります。このデメリットの回避が少し難しいのです。

■自分で支払督促の手続きができても弁護士に依頼するべき?

支払督促を使っても、裁判所で手続きしたその日に強制執行ができるわけではありません。
「時間」がとても重要なのです。少し分かり難いので、具体例を使って解説します。
AさんはBさんに1,000万円を貸し付けました。
しかしBさんは約束の期日になっても返済してくれません。1,000万円ともなると、今後のAさんの生活に影響するほどの金額です。Aさんは回収のために強制執行も視野に入れることを決意しました。
裁判で戦うと長期化する可能性があります。
執行に必要な債務名義の取得が何時になるかわかりません。もっと短い期間で簡単に債務名義を取得したいと考えました。裁判所からの通知を見たBさんが自発的に返済してくれる可能性が高いとも考えました。そこでAさんは支払督促を使うことにしました。
管轄の裁判所に足を運び、手続きをしました。支払督促は送達後2週間が経過すると債務名義になるのです。 
Aさんの支払督促は送達から2週間経過しました。
ここで既にAさんは回収に向けて次の行動を起こすことができたのですが、「もう少しBさんに猶予をあげよう」と仏心を出し、さらに2カ月待ちました。
2カ月経ってもBさんが返済に応じません。
ついにAさんは支払督促を使って執行手続きをすることにしました。
しかし・・・裁判所に「その支払督促はもう使えません」と言われてしまったのです。
支払督促には使用期限があります。
民事訴訟法392条には「申立てをすることができる時から30日以内に申立てをしないと支払督促は効力を失う」と定められているとのこと。
Aさんは法的知識が足りなかったばかりに、支払督促のメリットを活かすことができなかったのです。
いかがでしょうか。法律の専門家に相談せずに支払督促を活用する時によくあるうっかりミスなのです。手続きは簡単です。
しかし、法律を把握していないとメリットを活かせないというデメリットが生じてしまいます。
申立て手順や法的制約などについて事前によく調べるか、それが難しいなら弁護士に依頼することをお勧めします。
参照
https://saiken-pro.com/columns/43/
http://www.courts.go.jp/okayama/vcms_lf/27071022.pdf 

『支払督促の異議や訴訟対策もできるというメリット』

支払督促を送っても、相手が応じなければ意味がありません。
同様に、うっかり期間内に執行の申し立てを忘れてしまえば意味がありません。
支払督促をするなら必ず弁護士に依頼してくださいという決まりはありませんが「支払督促の手続きは簡単だけれど、メリットを最大限に発揮させるためには法律を熟知していなければいけない」という特徴があるため、一般の人にとっては取り扱いが難しいです。
他にも気をつけなければならないことがあります。それは、

債務者が期間内に異議を申し立てることができるということです。
異議申し立てがあれば、支払督促は異議の限度で失効してしまうという決まりがあります。
また、異議後は基本的に訴訟へと移行することになります。自分で支払督促の手続きをしても、債務者に異議を出されてしまうと「これは最初から訴訟をした方が早かったのでは?」「かえって債務者に法廷で戦うための作戦を練る期間を与えてしまった!」という結果になってしまうのです。

だからこそ、弁護士に事前相談をするメリットがあるのです。
債権の額や事情によっては最初から弁護士が立ち会って話し合いをした方が早く決着をつけることができるという場合があります。事前に支払督促を使わず、いきなり訴訟を提起してしまった方が有利な場合もあります。支払督促後、迅速に執行手続きをしたい場合には弁護士が期間を換算した上でスムーズに手続きの代理をしてくれます。
支払督促を使って回収できそうか?
メリットを最大限生かすためにスムーズに動くためにはどうしたらいいか?
支払督促の手続きは簡単でも、使いこなすには高度な法的知識が必要になります。法律の専門家である弁護士に相談することで、支払督促にさらなる意義が生まれるといえるでしょう。加えて、支払督促が無駄足になってしまうことを防ぐことができるのです。

■支払督促の費用相場とは?弁護士費用はどのくらいなのか

気になるのは、支払督促を弁護士に依頼した場合の費用です。支払督促を有効に使うためには弁護士に依頼するのが一番とわかっていても、費用が高額だとなかなか一歩を踏み出せませんよね。
支払督促の手続き費用は、申立てのための印紙代と切手代になります。裁判所に納める印紙は債権額によって異なります。10万円まで500円です。100万円で5,000円です。先ほどのAさんの事例に出た債権額1,000万円では25,000円になります。この他に交通費などの必要経費が発生することがあります。
弁護士に依頼すると、これらに加えて報酬が加算されることになります。
参照
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/315004.pdf
http://www.courts.go.jp/saiban/tesuuryou/index.html
弁護士の報酬は3つの種類から構成されています。「着手金」「費用」「成功報酬」です。このうちの費用は前述した支払督促の手続きに必要になる印紙代や切手代のことです。弁護士が裁判所に何度か足を運ぶ必要があるのなら、その交通費も費用に入ることでしょう。
弁護士費用で特に問題になるのが着手金と成功報酬です。この二つは弁護士事務所によって金額が変わってきます。弁護士には報酬額の決まりはなく、個々の弁護士や事務所が決めて良いことになっています。ただし、「とにかく自由!」では、依頼者側が困ってしまいますよね。それぞれの案件に対しどれくらいの費用がかかるか、大体の目安を弁護士会が発表しています。
参照
https://www.nichibenren.or.jp/contact/cost/legal_aid.html
着手金は依頼内容の成功に関わらず最初に支払うお金のことです。成功報酬は、成功(一部成功)という結果を出したことに対する報酬になります。
一般論ですが、着手金の相場は債権額の1~15%くらいであるといわれます。100万円以下の場合は15万円くらいで、300万円以上の場合は30万円くらいになります。1,000万円以上であれば80万円くらいと、回収を依頼する債権額が上がればその分だけ低いパーセンテージが適用されます。成功報酬は弁済額の15%から20%くらいが相場になります。弁済額が1,000万円であれば、単純計算で150万円から200万円が相場だということです。
ただし、前述したように、弁護士事務所によって報酬が異なっています。債権額が低くても事案が複雑であれば、その分だけ費用が多く必要になる可能性もあります。もちろん、費用相場より低くなることもあります。まずは見積もりをしてもらいましょう。

■どんな弁護士を選ぶべき?3つのポイント

支払督促を使う目的は債権回収です。支払督促はあくまでも手段であり、最大の目的は債権を回収することですよね。だからこそ弁護士選びは慎重になる必要があります。ポイントとしては3つです。
・債権回収を得意としている弁護士
・自分と相性の良さそうな弁護士
・懲戒処分を受けていない弁護士
以上のポイントをおさえおきましょう。
法律分野はとても広いものです。夫婦の問題もあれば、事故や事件に関わる法律もあります。環境問題や企業問題だってあります。法律の数だけ専門分野があるといっても過言ではありません。
選びたいのは債権回収を得意としている弁護士です。債権回収はお金の貸し借りの問題でもあります。支払督促はお金の貸し借りの問題でよく使われる手続きです。支払督促だけでなく、広く借金問題や売掛金問題に精通している弁護士に依頼するのがいいでしょう。「支払督促をしたい」と相談した時に、他にも良い方法があれば適切なアドバイスをもらうことも可能です。弁護士の雰囲気や語り口調が自分と相性が良さそうかも見ておく必要があります。
お金の問題を任せるのですから、過去に懲戒処分を受けていないかも見ておきたいポイントです。債権を回収してもらっても、今度は弁護士とお金(報酬)のトラブルになってしまうと、ただでさえ債権回収問題で精神的に疲れているのに、さらなる精神疲労状態になってしまいます。弁護士の懲戒処分情報はインターネット上で確認することができます。弁護士選びの参考にするといいでしょう。
参照
http://shyster.sakura.ne.jp/ 

■まとめ

支払督促は債権回収の有効な方法ではありますが、使い方が難しいという特徴があります。支払督促を使う時はデメリットを回避してメリットが最大限活用できるよう気を払ってこそ意味があるのです。支払督促は自分でも手続きできますが、最終的に債権を回収するという目的があるわけですから、スムーズに強制執行という強力な回収手段に移ることができるように、最初から弁護士に依頼してしまった方が安心です。
支払督促を検討しているのなら、まずは弁護士に相談しましょう。弁護士はその人にあった債権回収方法を提示することができます。支払督促も含め、最もあなたに合った方法を弁護士とともに考えることが債権回収において失敗のない方法なのです。