工事の請負代金が未払いとなるケースには、いくつかの特徴的なパターンがあります。パターンを知ることで事前対策が可能となり、未払いとなったときにも債権回収がしやすくなります。

この記事では、工事請負代金の未払いを防ぐ方法や債権回収方法について解説していきます。

請負代金の回収トラブルが起きやすい4つの具体例

請負代金の債権回収でトラブルが起きやすいケースには、次のようなケースがあります。

契約内容が曖昧なまま工事を進めた

工事の請負では、「どのような内容の仕事をするのか」「いくらの請負代金で行うのか」「期間」「工事の範囲」をしっかりと定めなかったせいで、後で「言った」「言わない」「話と違う」というトラブルになることがあります。

つき合いの長い会社や職人の場合、前回の請負と同じで大丈夫だろうと曖昧なまま工事を進めてしまうことがあります。その結果、工事が完了した後に発注者側から工事の内容や範囲についてクレームを受け、請負代金が未払いとなることがあります。

契約内容があやふやだったことを利用して請負代金を踏み倒すという悪質なケースもあります。

このように契約内容が曖昧なまま工事を進めると請負代金の債権回収トラブルが起きやすくなります。

工事の着手を急かされた

工事の完成を急ぐ発注者側から着手を急かされることもあります。請負代金や期間、請負の範囲などをきちんと確認する前に工事に着手することを要求され、仕事に追われて請負契約の重要事項について確認することが後回しになってしまうのです。信頼関係が出来上がっているほど起こりやすくなります。

着手を急かされて契約の確認を後回しにした結果、請負代金や工事の範囲について発注者と請負人との間で思い違いが生じ、債権回収トラブルに発展しやすくなります。

追加の受注の際に料金や工事範囲の確認を怠る

請負では、工事の変更や追加発注などが頻繁に起こります。変更や追加発注が発生した際に、変更や追加発注についてよく確認しないと、請負代金を請求する時に支払いを渋られたり、そんな約束はしていないと齟齬が生じたりする可能性があります。請負代金を回収しようにも契約書の不備などできちんと証明できなかったり、発注者との関係に亀裂が生じてしまったりすることを恐れて回収を諦めてしまうケースがあります。

例えば、発注者から「こんな感じにしてもらえたら嬉しい」と要望があった場合に、請負人がそれに応えて工事を完成させることは普通です。しかし、要望どおりに工事をすると追加で請負代金が発生することもあります。

請負人は追加発注と解釈して工事をし、一方で発注者は追加で請負代金が発生するとは考えていないことがあります。説明不足と齟齬、確認不足が重なり合ったケースです。

このような場合、「そんな注文はしていない。要望を述べただけだ」と主張され、請負代金の債権回収に支障が生じることになります。

瑕疵を主張して請負代金の支払を引き伸ばしにする

工事の完成後に瑕疵があることを指摘して支払いを引き延ばすという事例もあります。また、瑕疵に基づく損害賠償と請負代金の相殺により、支払額をゼロまたは少額にしようとする発注者もいます。発注者との関係に軋轢を生じさせないため、また法的な解決を嫌って、請負代金の回収を諦めてしまうケースもあります。

請負代金未払いの場合に取るべき対応

請負代金が未払いとなることはめずらしくありません。大切なことは未払いが生じたときに適切に対処することです。

未払いになっている理由を確認する

工事の請負代金が未払いになる理由はさまざまです。そのため未払いの理由を確認することから始めます。明らかになった未払いの理由に合わせて柔軟に対応することが必要です。

<請負代金を支払わない理由>

・工事が未完成と主張される ・追加工事費用が発生するとは知らなかった ・工事に瑕疵があると主張される ・施主や元請の資金繰りが悪い など

請負代金が未払いになる原因は、「契約が明確でないこと」と「注文主の資金繰りの悪化」の2つに大別されることが分かります。

未払いの理由が契約内容にあれば契約内容が分かる証拠を集めることが重要となり、資金繰りの悪化が原因であれば迅速な債権回収が必要となります。

目的物は工事代金の支払いが完了するまで渡さない

工事の請負代金が未払いのときには、債権の回収ができるまで目的物の引き渡しを拒否することができます。留置権という担保権が法律上当然に発生するからです。

立替払いの制度を活用する

建設工事において元請が特定建設業者の場合、下請業者は賃金の支払いが遅滞したときは元請から賃金相当額について立て替え払いを受けられることがあります(建設業法41条2項)。

また、下請けの請負代金の未払い等により孫請けが損害を受けた場合、元請の特定建設業者から立て替え払いを受けられることがあります(建設業法41条3項)。

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債権回収トラブルに発展させないための対策

工事の請負代金を確実に回収していくためには事前対策も大切です。

弁護士に契約書のテンプレートを作成してもらう

契約は書面にすることが大切ですが自力で契約書類を作成することは大変です。

特に工事請負の場合、工事ごとに種類や工事の範囲が違ってくるため難易度が高くなります。そこで、よく受注するタイプの契約だけでもすぐに書面を作成できるようにテンプレートを作成しておく方法があります。

また、よく請負を受注する取引先ごとに契約書面のテンプレートを作成しておく方法もあります。工事の内容に合わせてテンプレートを修正して契約書面として活用することができますし、追加発注があってもすぐに対応できます。

契約書のテンプレートはトラブルが少なくなるように作成することが大切です。なるべく顧問弁護士に相談し作成してもらうようにしてください。

<関連記事>顧問弁護士の費用・顧問料相場と顧問弁護士を雇うメリットを解説

請負の工事範囲や変更をしっかり確認する

請負の工事範囲をしっかり確認しておくことがトラブル防止につながります。何度も同じ内容の工事を受注している場合、「今回も同じように工事をして大丈夫だろう」と考え、発注先への確認を怠ることがあります。既に良い関係を築いている発注者に対しても、今後の関係をさらに良いものとし、請負代金の回収トラブルによって関係に亀裂を生じさせないためにも、しっかりと確認を行うことが請負代金の未払いを防ぎ債権回収を容易にします。

請負代金の未払い金を回収する方法

工事請負代金の債権回収は状況に合わせて方法を変えていくことが大切です。

電話や訪問により催促する

請負代金の未払いの理由はいろいろであり単純な支払い忘れのこともあります。このような場合には催促しただけで債権回収は完了します。

一方で資金繰りの問題や工事の内容で未払いとなっているときもあります。このような場合には請負代金の支払い意思や支払可能日を確認することが大切です。

支払い意思がない場合には次の段階に移行します。

内容証明郵便を送る

電話や訪問では工事代金の回収ができないときには文書での催促も行います。内容証明郵便も検討します。

内容証明郵便を利用することで、誰から誰に対してどのような内容の文書を送ったかを証明してもらうことができます。証拠として残り発注者に強いプレッシャーとなるため債権回収がしやすくなります。特に弁護士から送付すると効果的です。

<関連記事>内容証明郵便を出す方法や費用は?弁護士に依頼するメリットも解説

支払督促を行う

簡易裁判所の書記官から工事請負代金の支払いを命じてもらうことで債権を回収する方法です。書面での手続きで済むため手軽に利用することができます。

注意点は相手から異議が出されると訴訟に移行してしまう点です。契約に争いがあるようなケースには向いていません。

訴訟を提起する

どうしても工事請負代金を支払ってもらえない場合には、裁判で決着をつけることになります。

もっとも、弁護士が代理人となって交渉することで訴訟をせずに和解により解決できることも多くあります。たとえ訴訟を提起したとしても途中で和解により終了することも少なくありません。

<関連記事>債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説

差し押さえを行う

訴訟を提起して勝訴判決を得たとしても発注者が素直に工事請負代金を支払ってくれるとは限りません。支払に応じてくれないときには強制執行により相手の財産を差し押さえて債権を回収していきます。

<関連記事>強制執行による債権回収|手続きの流れを分かりやすく解説

まとめ

・工事請負代金の未払いは、契約内容の確認を徹底することで減らすことができます。

・工事に合わせた契約書のテンプレートを作成することも有効です。

・賃金の未払いや下請けによる未払いがあったときは、元請から立て替え払いを受けられることがあります。

債権回収は状況に応じて柔軟に対処することが必要です。状況により法的手段も検討します。

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