目次
■さいごに
個人でも簡単に出店できてしまうインターネット上のお店「ネットショップ」。近年では、大手の通販サイトや企業での出店以外にも、たくさんの個人ショップがネット上に存在しています。ハンドメイドのアクセサリーや、個人で栽培したお野菜、自費出版の本など、実店舗に品物を卸さなくても販売できるところが魅力です。
本業や副業の合間に、ネットショップのオーナーとして活躍している人もいます。インターネットが発達したことにより、メールや受注システムを整えることにより、実店舗を持たなくても「お店のオーナー」になることができてしまいます。
実店舗を出店するとなると、どうしても家事や本業の合間では難しくなります。それを考えると、「お店を構える」という大仕事が、インターネットの発達により格段に便利になったと言えるのではないでしょうか。
消費者にとっても、実店舗に足を運ばずに商品を購入できるネットショップは魅力です。しかし、お客さんが商品を購入するとそこに「債権」が発生します。きちんと期限までに売買代金を払ってくれるお客さんはいいのですが、中には支払いに応じない困ったお客さんもいます。実店舗のようにレジ前で現金のやり取りをすることのないネットショップは、インターネットを介して発生する売買代金などの未払いが悩みの種になります。
未払いが発生したら、ネットショップのオーナーがトラブル解決のために動くことになります。その際、商品代の未払いなどに対してどのようなことに注意して回収を進めればいいのでしょうか。オーナーが個人で債権回収を進める際の注意点を4つまとめました。
■増えるネットショッピングの裏側にある債権回収問題
日においてのネットショップを利用した買い物は、年々増えているというデータがあります。総務省が平成29年に発表した「情報通信白書」によると、日本の2人以上の世帯ではネットショッピングをする世帯の割合は、2002年にはたった5.3%でしたが、2016年には27.8%にまで増えています。2016年のネットショッピングへの支出は、1世帯あたり30,678円となっています。
これはあくまで2人以上の世帯における利用割合と支出金額です。日本には1人世帯もいます。1人世帯でもスマートフォンが手許にあれば、すいすいとネットサーフィンもネットショッピングもできてしまいます。世帯人数に関わらず調査をすると、もっと割合や支出金額が大きくなるかもしれません。このように、インターネット上のお店であるネットショップでの買い物は、年を追うごとに増えているのです。
携帯端末の普及や、ネットショップを出店することの手軽さもネットショッピングの増加傾向を後押ししている状況です。総務省のデータによると、2011年のスマートフォン保有率は約11%でしたが、2016年には約57%にまで増えています。5年間で爆発的に普及しているのです。日本の子供からお年寄りまで、2人に1人がスマートフォンを1台は所持している時代です。日本人の約半数がネットショッピングをすぐにできる状態である。そう考えると、ネットショップをはじめとしたネットサービスがさらに盛んになるという予想にも頷けるのではないでしょうか。
しかし、ネットショッピングが増えると、それだけ債権トラブルも増えます。なぜなら、ネットの買い物、実店舗の買い物を問わず、商品を購入すれば支払代金が発生するからです。ネットショッピングの中には、商品ではなくサービスを提供するお店もあります。サービスの場合も、一カ月間の分をまとめて請求ということがあるため、未払いに発展しやすいという特徴があります。
・ショップオーナーが考えるべき債権の回収
企業が出店しているネットショップの場合、企業の法務が債権の回収を担当することができます。しかし、個人でサービスや商品を提供しているネットショップの場合、個人であるショップのオーナーが債権トラブルを解決しなければいけません。売買代金やサービス使用料を支払わないお客さんがいれば、オーナーが自分自身で債権を回収する手立てを考え、動かなければならないのです。
たしかに、ネットショップという形態で、初期費用の負担が少なく、本業や家事の合間に経営できるお店を作ることができるようになりました。しかし、お店であり、売買代金や売掛金が発生する以上、債権トラブルと無関係ではいられません。ネットショップの場合、まったく別業種の本業を持っている人やほとんど商売に馴染みのなかった人も容易に出店できてしまいます。商売としてお金のやり取りをした経験のない人がいきなり債権トラブルに直面すると、どのように回収していいかわからず戸惑ってしまうことが少なくありません。
ネットショップのオーナーが債権の回収について知っておきたい基礎知識と、債権を回収する上で注意したいポイントは次の4つです。
1、ネットショップで発生する債権の特徴を知っておく
2、債権の回収方法にはどんな方法があるのか知っておく
3、債権トラブルを未然に防ぐための対策を講じる
4、債権の回収についてすぐに相談できる弁護士を見つける
■その① 発生する債権の特徴
ネットショップで発生する債権は、小口債権が多いという特徴があります。債権の額や契約の内容については、業種やお店の形態によって特徴が出ます。
たとえば鉄鋼系の企業の場合はどうでしょう。材料を何度かに渡って注文し、注文分の代金を1カ月などの一定期間でまとめて支払うといった方法がよくとられています。継続的に同じお店や企業と取引するからこそできる方法です。また、鉄鋼などは材料費が高額になりがちなので、債権額が大き目であるという特徴もあります。
もちろん企業にも色々な取引があります。取引に合わせて契約を結びます。鉄鋼系の企業が必ず高額の債権を月末などに一括払いしているわけではありません。ですが、特定の企業やお店の間で継続的な取引がある場合は、「高額をまとめて月末などに支払い」といった方式がとられることが非常に多くなっています。では、ネットショップはどうなのでしょう。どのような契約(債権)が多いのでしょうか。
・「小口」・「増加度」・「業務との両立」
ネットショップは、主に個人に対して商品を販売します。個人のオーナーが取引するのは、決まった企業より不特定多数の個人が多くなります。企業間のように大きな取引を繰り返すのではなく、不特定多数の個人と小さな取引を繰り返すという特徴があります。債権も、月末などにその月の分を一括払いするケースより、少額の債権が次々と発生するケースの方が多くなります。
ネットショップの債権には、処理の過程でも特徴が出ます。工事の受注と電気屋さんの売買を想像してみてください。工事の受注は、どんと大きな注文が入ります。対して電気屋は、不特定多数のお客さんがひっきりなしに訪れて、それぞれの欲しい商品を次々と購入していきます。
電気屋さんにおいて、Aさんの売買とBさんの売買は無関係です。つまり、売買代金を支払わないことでAさんと債権トラブルになっても、Bさんとは関係ないということです。Aさんとの債権トラブルに時間を取られても、Bさんはそんな事情を知らず注文を入れてきます。お店側はAさんの債権トラブルに対応しながらBさんの注文も処理しなければいけません。
このようにネットショップの債権には「小口である」「注文によってどんどん増える」「顧客との債権トラブル解決のために忙しくしていても、他のお客さんは事情を知らないのでどんどん注文を入れる」「債権の回収への対処と注文処理の両立が求められる」という特徴があります。
■その② 債権トラブルの予防策を講じる
債権トラブルが発生したら、早期解決のための迅速な対処も大切です。同じくらい大切なのは、未回収などのトラブルを未然に防ぐことではないでしょうか。債権トラブルを防ぐための対策を講じておくことも大切です。
債権トラブルを防止するためには、「記録や書面の管理をしっかりする」「督促のルールを知っておく」「債権トラブルへの対処をマニュアル化」という3つの対策が考えられます。
・トラブルや回収のための3つの対策とは
書面や記録の保管をしっかりすることは、債権トラブルを防止するためにも大切なことです。書面や記録はトラブル時の証拠になります。どの商品代が払い込まれたかなど、債権の回収状況を確認する上での足掛かりにもなる情報です。
帳簿や商品の発送表、受注時のメールなど、証拠になるものは管理保管を徹底することがトラブル防止の第1の対策になります。間違って別のお客さんに未払い代金の督促をしてしまうといったミスの防止にも役立ちます。
また債権の督促ルールを知っておくことや、債権トラブルへの対処マニュアルを作っておくことも重要です。お客さんが売買代金を支払ってくれないからといって、どんな督促も許されるわけではありません。1日に何度も電話をしたりメールを送信したりすると、迷惑行為になります。脅迫などの度を超えた督促は違法行為として逆に訴えられる可能性もあります。督促だからといってどんな行動も許されるわけではありません。ルールを守って督促することが重要です。
さらに債権トラブルへの対処や回収のためのマニュアルも作っておきましょう。弁護士に相談して、メールや電話で督促する場合に気をつけることを確認しておいたり、督促のための文章テンプレートを作成しておいたりすることも債権トラブル対策として大切なことです。
■その③ 債権回収方法を知る
ネットショップの売買代金や売掛金を回収するためには、いくつかの方法があります。
債権を回収するための方法は、大きくわけて、「裁判所で手続きしなくてもできる債権を回収する方法」と「裁判所で手続きをすることによってできる債権を回収する方法」の2つがあります。
裁判所で手続きしなくてもできる方法とは、メールや電話での督促や内容証明郵便での督促、任意交渉などがあります。この3つの方法は、裁判所で手続きしなくても可能です。
任意交渉は債権者と債務者が話し合う方法ですが、裁判所で行う調停と異なり話し合いの結果に強制力がない点に注意が必要です。任意交渉を行う際に弁護士の関与を求めることによって、公正証書で話し合いの結果を効果的に残すといったアドバイスを得ることが可能です。
裁判所で手続きをすることによってできる方法とは、通常訴訟や少額訴訟、調停、支払督促などの方法です。通常訴訟の確定判決や調停の調停調書などは、強制執行を行うための債務名義になります。任意交渉では、話し合いの結果に強制力はありません。対して、裁判所で行う調停の結果には、強制執行に繋げることのできる強力な力があります。
通常訴訟や少額訴訟も同じです。支払督促も、債務者から一定期間の異議申立てがないことを条件に強制執行の債務名義になります。裁判所を使う方法の方が、裁判所を介さずにできる督促などの債権の回収方法より強力なものが多いという特徴があります。
債権を回収する方法には、それぞれの方法ごとにメリットとデメリットが存在しています。債権の額や契約の内容に合わせて、より債権に合った方法を選択することが重要になります。
■その④ 債権回収の相談ができる弁護士を見つける
商品代金の未払いなど、債権のトラブルが発生した時は、具体的にどんな方法で回収を進めるのか決めなければいけません。基本的に最初はメールや電話での督促を行います。返済してもらえなければ、状況や債権額などを見ながらさらに別の回収方法も用いるという流れが基本になります。
しかし、回収の流れがわかっているだけで、スムーズに債権回収ができるわけではありません。
スムーズに債権回収するためにも、法的な知識は不可欠です。債権回収に関する実務経験もないと、債権の回収率や費用面で、どの回収方法が有効だと考えられるのか、なかなか判断することができません。
債権を回収したい。でも、どの方法を選択したらいいかわからない。そんな時は、弁護士から債権の回収方法についてアドバイスや提案を受けることも可能です。弁護士は債権をはじめとした法律問題のプロです。プロを有効に使うことが大切です。
・債権回収は弁護士に一任できる
弁護士には債権回収についての相談だけでなく、債権回収そのものを一任することができます。
ネットショップは基本的に24時間注文を受け付ける形態のお店です。注文は朝昼晩の別なく入ります。次から次へと小口債権が発生することになります。ネットショップのオーナーが債権の回収にかかりきりになってしまうと、注文処理が滞ります。顧客対応の面でも、思うように時間が使えなくなってしまうことでしょう。だからこそ、債権回収を弁護士に一任するメリットがあるのです。
弁護士に回収を依頼する債権は、大口か小口かを問いません。ネットショップで発生する大量の小口債権の回収を一括で任せることも可能です。弁護士であれば、債権1つ1つに合った督促や法的対処を行うことができます。ネットショップのオーナーの負担を、時間と労力の両方の面から軽減することができるのです。
弁護士事務所と顧問契約を結び、いつでも法律相談ができるようにしておくことや、債権の回収を依頼できるように体制作りをしておくことも、良い方法です。
■さいごに
ネットショップのオーナーが債権の回収をする上で特に注意したい4つのポイントは、「ネットショップは小口債権が多いこと」「債権のトラブルを防ぐため、ルールの確認やマニュアルの準備をしておくこと」「債権の回収方法には種類があることを知っておくこと」、そして「債権の回収について相談できる弁護士を見つけておくこと」です。
特に大切なのが、すぐに相談できる弁護士を見つけておくことです。債権の回収は弁護士に一任することができます。個人で回収をはかるより、実務経験のあるプロが行った方が回収率も高くなります。何より、ネットショップのオーナーの負担をぐんと減らすことができるという大きなメリットがあります。ネットショップの債権に多いのは小口債権だからこそ、プロに一任したいものです。
ネットショッピングが当たり前になった時代だからこそ、ショップ側も債権の回収について意識しておくことが大切なのではないでしょうか。