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養育費の未払いが生じたときには強制執行手続により相手の財産を差し押さえて支払いを受けられることがあります。財産といっても不動産のような高価なものだけでなく給料や預金なども対象となります。養育費は継続的に発生するなどの特徴があるため強制執行の方法もそれに合わせて考える必要があります。
この記事では、養育費を強制執行により回収する方法について解説します。
養育費とは
養育費とは子どもの監護・教育に必要となる費用のことをいいます。子どもはひとりでは生きていくことができないため経済的、社会的に自立するのに必要な衣食住にかかる費用や、教育費、医療費など一般的に必要となる費用です。最低限生きていくのに必要な費用ということではありません。親には自分と同じ程度の生活を子供に保障する生活保持義務があります。そのため親自身の生活に余裕かなく生活水準を落とすことになっても養育費を支払う義務があります。
養育費の強制執行とは
養育費の強制執行とは、養育費を支払わない相手の財産を差し押さえて強制的に支払いを受ける手続きのことです。強制執行は裁判所の手続きとして行われるため一定の要件を満たす必要があります。
養育費の強制執行の要件
権利があっても当然には強制執行することはできません。強制執行するには債務名義というものが必要です。債務名義とは、強制執行できる権利の存在を証明した公的な文書のことです。種類としては確定判決書や調停調書、執行証書(公正証書の一種)などがあります。
例えば、養育費について家事調停を行ったのであれば家庭裁判所からもらった調停調書が債務名義となります。
債務名義の種類にもよりますが執行文(強制執行可能であることの証明)や確定証明書なども必要となります。
債務名義についてくわしくは、「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご参照ください。
養育費の強制執行のメリット
養育費について強制執行するメリットは相手の意思にかかわらず強制的に養育費を回収できることです。もちろん相手に財産がなければ回収できませんが不動産など物だけでなく預金や給料のような債権も強制執行の対象となります。
養育費の強制執行では、過去分のまとまった養育費と将来の養育費を分けて考えることも大切です。滞納分の養育費が高額となっている場合には不動産や預金などからの回収も重要となりますが、将来の養育費については継続的に発生するため給料などの継続的な収入を対象に強制執行することも検討します。預金は給料と違い差し押さえた時点の残高にしか差し押さえの効力が及びません。給料や家賃などの継続的な収入については差し押さえ後に発生したものについても効力が及びます。
養育費の強制執行のデメリット
養育費の強制執行には以下のようなデメリットもあります。
手続きに時間や手間がかかる
強制執行をするには裁判所に対し必要な書類を提出して申し立てる必要があります。手続きは簡単とは言えないため弁護士に相談して進めることをおすすめします。
財産が分からないと強制執行できない
相手に財産がなければ強制執行することができません。財産があったとしてもどこにどのような財産があるのかわからなければ差し押さえることができません。裁判所が見つけてきてくれるわけではないためこちらで調査する必要があります。相手の財産を明らかにするために財産開示手続(第三者からの情報取得手続)が用意されています。必ず財産が見つかるわけではありませんが養育費については勤務先が分かることもあります。
相手方との関係の悪化
養育費のためとはいえ強制執行は相手の財産を強制的に奪うことになるため相手に反発されることがあります。しかし養育費の支払いを滞納している時点ですでに相手との関係が悪化していることも多く気にしすぎると養育費の回収ができなくなります。
養育費の強制執行で差し押さえできる財産
養育費の強制執行で対象となる財産は、「債権」、「不動産」、「動産」が代表的です。
債権
預金債権や給料、生命保険解約返戻金などの金銭債権も強制執行の対象となります。預金債権などの通常の債権については差し押さえ後の部分については差し押さえの効力が及ばない点に注意が必要です。給料や家賃収入のような継続的給付債権と呼ばれるものについては差し押さえの効力が差し押さえ後のものにも及ぶことになっています(民事執行法151条)。
養育費は毎月継続して発生することから差し押さえの効果が長く続くことが望ましいため給料等の継続的給付債権に対する強制執行が効果的です。
ただし給料は全額を差し押さえることができません。相手が生活できなくなってしまうからです。
給料の差し押さえができるのは原則として税金等を控除した手取り額の4分の1とされています。養育費については特別に手取りの2分の1まで差し押さえ可能です。ただし手取りが月額66万円を超えるときは33万円を控除した残りを差し押さえできることになっています(同法152条1項、同施行令2条)。
差し押さえから一定期間経過したら勤務先などの第三債務者から支払いを受けられることになります。
※継続的給付債権であっても転職等により第三債務者が変更したときは手続きをやり直す必要はあります。
不動産
相手が土地や建物を持っているときには不動産も強制執行の対象となります。しかし費用や時間がかかりやすく、抵当権などの担保権がついていることも多いため少額の養育費の強制執行対象としては難しい面があります。
<関連記事>強制競売とは?強制競売の流れをわかりやすく解説
動産
貴金属や宝石類など動産も強制執行の対象となります。しかし仕事や日常生活に必要な財産は差し押さえが制限されていることから空振りに終わることも多く養育費の強制執行の際には慎重になる必要があります。
<関連記事>財産開示手続とは?2020年改正で変わった点を詳しく解説
養育費の強制執行の流れ
養育費の強制執行の流れは以下のように進みます。養育費の強制執行の多くは債権執行であるため債権執行を念頭に説明します。債権執行は預金や給料などの債権を差し押さえて相手の代わりに自分が支払いを受ける強制執行方法です。
裁判所に対する強制執行の申立て
債務名義を用意したら申立書を作成し必要書類を用意して管轄の裁判所に提出します。通常は債務者の住所地を管轄する地方裁判所で手続きをとります。手続きには以下のようなものが必要です。
・申立書(当事者目録、請求債権目録等) ・収入印紙(手数料4,000円分) ・郵便切手(3,000円~) ・債務名義の正本(執行力があるもの) ・送達証明書 |
※事案や裁判所によって異なります。
差押命令
申し立てに問題がなければ差押命令を出してもらえます。命令書が第三債務者(給料の場合は勤務先、預金の場合は金融機関)に送達され、その後債務者にも送達されます。その際、給料や預金があるのかを確認するため陳述書の返送が求められます。陳述書により給料や預金額などが明らかとなります。陳述書は裁判所経由で債権者にも送られます。差し押さえの効力は第三債務者に送達された時点で生じ債務者への支払いが制限されます。
取り立て
債権者には第三債務者と債務者に対する送達日が記載された通知書が送られてきます。養育費に関する取り立ては債務者に対する送達日から1週間経過すると行えます。具体的には第三債務者である勤務先や銀行等に自分で連絡を取り振り込みなどの手続きをしてもらいます。給料の場合には継続して支払い続けてもらうことになります。振込などの手数料は第三債務者が負担する理由はないためこちらが負担します。
裁判所への報告
取り立てを行ったときには取り立てのたびに取り立て届を裁判所に提出することになります。債権の全額の取り立てができたのであれば取り立て完了届を提出します。現在の手続きをやめるときには取り下げ書を提出します。養育費の取り立ての必要性が残っているときには取立完了届や取り下げ書と一緒に債務名義の還付申請書も提出します。
<関連記事>養育費未払いの相談先や対処法、弁護士に相談するメリットを解説
まとめ
・養育費は子どもの健やかな成長のために通常必要となる監護、教育費であり親には自分の生活と同等の生活を子どもに保障する義務があります。
・養育費の強制執行とは、養育費を支払わない相手の財産を差し押さえて強制的に支払いを受ける手続きです。
・強制執行するには債務名義という養育費の存在を証明する公的な文書(調停調書、公正証書、審判書等)が必要です。
・強制執行の対象は不動産などの物だけでなく預金や給料なども含まれます。
・養育費は継続的に発生するため強制執行は給料のような継続的に受け取れる財産を検討することが大切です。
・相手の財産や勤務先が不明のときには弁護士会照会や財産開示手続などを利用して調査できることがあります。
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養育費のことでお困りの方へ。
養育費は離婚後でも請求することができますが一般的に請求してからの分しか認められないため早めに手続きをとることが大切です。直接の話し合いが難しいときには家庭裁判所の調停手続きや弁護士に交渉してもらう方法もあります。
相手の財産や勤務先が分からないときでも弁護士の調査によって判明することもあります。
養育費の支払いを受けられず不安に感じている方は、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
※借金の返済ができずお困りの方はこちらの記事もご参照ください。