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売掛金の支払いが遅れている場合にはとりあえず自社で回収を試みることが一般的です。
しかし、多数の売掛金が未払いとなっていたり何度催促しても支払いに応じてもらえなかったりするケースでは手にあまることになります。
このような状態にあるときには無理をして自社で解決する必要はありません。自社での回収にこだわり多くの時間や労力を割けば本業に影響が出てしまいます。回収に成功するとも限りません。
この記事では、売掛金の回収を外部業者に依頼することのメリットや注意点などについて解説していきます。
未回収となった売掛金を回収するプロセス
売掛金の回収にはある程度決まった方法があります。弱い方法から強い方法へと徐々に切り替えていくのが基本です。回収には時間やコストがかかるためなるべく最小の負担で結果を出すことを意識します。
債務者と交渉開始
売掛金の回収は債務者と話し合うことが基本です。弁護士やサービサーなどの債権回収業者は、はじめに債務者に連絡をとり状況を確認します。
電話により交渉を行うことが一般的ですが、弁護士などの債権回収業者が連絡すると素直に支払ってくれることも多いです。
電話連絡がとれないようなケースでは文書で請求することになります。
支払いを忘れているだけのこともあるため、はじめは支払いが遅れていることを思い出してもらう程度の簡単な内容にします。
具体的には、どの債権の支払いが滞納しているのか、滞納額がいくらなのか、支払い方法などを記載します。
<関連記事>【弁護士監修】支払催促状の書き方と送付方法{テンプレート付}
催告書を内容証明で送付
電話や普通の催促状では債務者が支払ってくれないこともあります。
このような場合には、より強力なプレッシャーを掛けることが必要となります。
一般的には内容証明郵便を利用することが多いです。
内容証明郵便は郵便局に文書の内容が保管されるため証拠に残ります。そのため債務者により強いプレッシャーを掛けることができます。
弁護士が送付すると特に強い圧力となるため、この時点で支払ってくれることもあり売掛金の回収が終わることも多いです。
売掛金は基本的に5年で消滅時効にかかりますが、時効成立間際であっても内容証明を送れば6か月間は時効の完成が猶予される効果もあります。
<関連記事>債権回収の内容証明作成方法を弁護士が解説!債権回収を効率よく解説!
支払督促及び訴訟手続き
話し合いで解決しないときには法的手段を検討することになります。
売掛金の回収に利用できる法的手段にはいくつかありますが、特に負担の軽い方法として支払督促があります。
相手方の住所地にある簡易裁判所に必要な書類を提出するだけで債務者に支払いを命じてもらえます。裁判をするわけではないので期日に出廷する必要もありません。
相手が異議を申し出ないと仮執行宣言というものがもらえて債務者の財産に強制執行していくことができます。費用も訴訟の半分となっているため利用しやすいといえます。
ただし、相手方が異議を出すと通常の訴訟に移行することになっています。注意点としては、通常の訴訟の場合には債権者の住所地にある裁判所で訴訟をすることができるのですが、支払督促から訴訟になってしまうと相手の住所地の裁判所で訴訟になることです。相手が遠方に住んでいるときには注意が必要です。
通常の訴訟については訴状や証拠の提出が必要となり、弁護士に依頼していないと当事者が出廷しなければなりません。少なくとも数か月かかる点にも注意が必要です。
元本が60万円以下の売掛金については特別に簡単な訴訟手続が利用できます。少額訴訟と呼ばれるもので1日の審理で終わり判決も即日出してもらうことができます。控訴ができないことや分割払いが命じられることがあるなど通常の訴訟と異なる点に注意が必要です。
<関連記事>民事訴訟による売掛金回収の方法|メリット・デメリットまでご紹介
強制執行手続き
勝訴判決や仮執行宣言をもらうと強制執行していくことができます。
裁判で負けた債務者が自分から支払いに応じてくれることもありますが、必ずしも素直に応じてくれるとは限りません。
そのため相手が支払ってくれないときには強制執行をして相手の財産を差し押さえることで売掛金の回収をしていきます。
差押え可能な財産には、1.不動産、2.動産、3.債権があります。
不動産は処分に時間や手間がかかるデメリットがありますが、高額な売掛金の回収には向いています。
動産というのは自動車や現金などの不動産以外の物のことです。不動産と同様に手続きに手間がかかるというデメリットがあります。高価なものや現金があることがわかっている場合には選択肢となります。
比較的簡単なものは債権です。預金や給料などが債権にあたります。
例えば、どの銀行に口座を持っているか分かれば差し押さえることで債権者が債務者に代わって預金を受け取ることができます。給料も勤め先がわかれば差し押さえることができます。
強制執行の注意点としては、財産の調査が簡単ではないことが挙げられます。財産は裁判所が探してくれるものではないため債権者が見つけてこなければなりません。例えば、預金の場合にはどの金融機関と取引があるのか分からなければ差押えできません。
債権回収業者であれば財産の調査は慣れていますので効率よく確実に行うことが可能です。
特に弁護士は弁護士会照会という制度を使って一般の人では調査できないことも調べることができるため、めぼしい財産が見つからないときには弁護士に相談されることをおすすめします。
<関連記事>売掛金回収のための法的手段とは?具体的な手順を解説
売掛金の回収代行を行っている業者
売掛金の回収代行業者として、1.法律事務所、2.債権回収会社(サービサー)、3.ファクタリング会社、4.売掛金回収代行サービスがあります。
回収業者によって対応していない業務や得意とする分野が異なるため売掛金の回収にふさわしいか見極めることが大切です。
法律事務所
弁護士が経営する事務所のことを法律事務所といいます。
他の回収業者は売掛金の回収についてさまざまな規制があるためできないことが多くありますが、弁護士の場合には特にそのような制限はありません。
つまり、法律事務所は売掛金の回収について万能であり、どの業者に依頼するか悩んだら弁護士に相談すれば間違いありません。
認定司法書士も売掛金の回収が可能ですが売掛金が140万円以下でなければ対応できないことや強制執行にも制限があるため注意が必要です。
債権回収会社(サービサー)
債権回収会社とは、法務大臣の許可を受けて債権回収を行う会社のことです。
債権回収業務は法律事務にあたるため、原則として弁護士にしか取り扱うことができませんでしたが、不良債権処理を迅速に行うため特別に許可を受けた会社も取り扱うことが認められています。
回収の代行をするだけでなく債権の買い取りもしてくれる点に特色があります。弁護士は債権の買い取りはしないので債権譲渡ができる点では弁護士よりメリットがあります。
ただし、取り扱いができる債権に制限があるため一般企業の売掛金については基本的に取り扱っていません。主に金融機関の不良債権処理を行います。
<関連記事>債権回収会社とは?未払い金回収を委託するメリットと注意点
ファクタリング会社
ファクタリング会社とは、売掛金を買い取る会社のことを言います。
ファクタリングというのは、債権を支払期日前に一定の手数料で買い取るサービスのことです。
大手のファクタリング会社は金融業者の系列会社となっており、買い取った売掛金を自分達で回収することで利益を上げています。買い取るときに手数料を差し引かれるため差額が利益となるのです。
債権回収会社も債権を買い取ってくれましたが、買取対象の債権は支払期日が過ぎたものです。ファクタリング会社の買取債権は支払期日前である点に特長があります。
そのためファクタリング会社を利用する主な目的は、支払期日前に現金が必要な場合です。売掛金の回収というよりも一種の融資にあたります。
売掛金回収代行サービス
売掛金回収代行サービスとは、売掛金の集金代行や支払いがなかった場合に代わりに支払ってもらえる保証型サービスのことを言います。
特に重要なのは保証型の売掛金回収サービスであり、これにより売掛金の回収が事実上可能となります。
売掛金回収代行サービスはファクタリング会社などが提供しています。
債権回収会社に回収を依頼するメリットとデメリット
債権回収会社は売掛金の回収に制限があるため注意が必要です。
メリット
債権回収会社に依頼するメリットは、何といっても「労力と時間を節約」でき、しかも「精神的な負担がない」という点です。
また、債権回収会社は回収を専門としているプロですから「安心して任せられる」というメリットもあります。
自分で債権を回収するのは大変です。相手に催促するのは負担があります。電話をするにも手紙を用意するにも、労力と時間がかかります。
また、債権回収は法律の絡む分野です。時効や催促の方法など、専門知識が必要になります。債務者が応じてくれるのならいいのですが、返済を渋られると輪をかけて大変になります。
債権回収会社はプロですから、法律に則った回収をしてくれます。
債権回収の委託をすれば基本的に会社側で回収してくれます。
精神的にも時間的にも労力的にも、とても楽になります。回収が面倒と思うなら譲渡(売却)を選択することもできます。事情や債権に合わせて方法を選ぶことができる点もメリットであるといえるでしょう。
デメリット
債権回収会社のデメリットは主に4つです。
「全ての種類の債権回収ができるわけではない」「法的なトラブルに対処することが難しい」「債権回収方法が限られる」「手数料が必要」がデメリットです。
債権回収会社が回収できる債権の種類は法律で決まっています。
一般企業の売掛金は基本的に回収できません。
また、企業として債権を回収しているため、回収の流れがある程度決まっています。
自分はまず話し合いで回収を促し、その後に法的な手段を検討したいと債権回収会社に相談しても「それは難しいです」と言われてしまいます。
会社側の手順がありますので、お客さん一人一人の希望に合わせた回収プランを練ってくれるわけではありません。債権にまつわる法的なトラブルも対応外となります。回収に特化しているのが債権回収会社なのです。
また、回収をしてもらう場合、相応の手数料や費用が必要になることを考慮しておく必要があります。100万円の債権を回収してもらったとしても、100万円満額が手元に残るわけではありません。
弁護士に回収を依頼するメリットとデメリット
弁護士に回収を依頼した場合の利点について説明していきます。
メリット
弁護士に債権回収を依頼するメリットは「どんな種類の債権にも対応可能」であり「法的なトラブルにも対処してもらえ」「自分に合った回収方法を提案してもらえる」というものです。
弁護士であればどんな種類の債権にも対応可能です。
債権回収会社では回収対象外である一般企業の売掛金にも対応できます。
債権の存在が法的な争いになっていたとしても、もちろん弁護士なら適切な対処ができます。回収以外でも債権にまつわるものであればほとんどのケースに対応することができるのです。
また、債権回収会社は会社の手順に従って回収を行いますが、弁護士の場合は依頼人ごとにオーダーメイドな回収方法を提案してくれます。
例えばAさんは800万円の債権を回収したいと考えていました。この場合、債権回収会社に依頼すれば、会社の手順に従って回収が行われます。しかし弁護士に依頼すれば支払督促を用いるという手段も可能ですし、訴訟や調停にもすぐに対処してもらえます。
まず債務者と話し合いをしたいという場合は弁護士に同席してもらい話し合いをすることもできます。話し合いの結果、分割払いにて返済となったら公正証書を作成してもらうことだってできます。その人に合った方法で回収を進めてくれるという点が弁護士に依頼する最大のメリットといえます。
デメリット
弁護士に依頼するデメリットは大きく3つです。「債務者に精神的な圧迫感を与える」こと、「報酬や着手金が必要になる」ことや「債権の買取りはできない」ということです。
弁護士に債権回収を依頼するためには基本的に着手金が必要になり、さらに発生した費用の支払いに加えて回収後の報酬も必要になります。
ただし、完全成功報酬制の事務所であれば回収に成功した場合に支払えば足ります。
総額でどれくらいになるのかは各ケースによってかなりばらつきがあります。債権回収会社に依頼しても同じく料金がかかるわけですから、第三者に依頼するとは相応のお金が必要なのだと割り切ることもできるのではないでしょうか。
弁護士が出てきたことにより相手に焦りが生まれます。
今まで話し合いに応じなかった債務者すら弁護士が出てきたとなるとさすがに無視はできないことでしょう。ただし、相手に精神的な圧迫感を与えてしまった結果、債務者が大慌てで破産の手続きを進めてしまうというデメリットに繋がる可能性があります。破産の手続きが開始されると回収が難しくなってしまいます。
この他に、債権と縁を切ってしまいたい、資金調達のために債権を売却してしまいたいと考えても、弁護士は債権の買取りをすることはできません。債権回収会社やファクタリング会社を資金調達に活用できることと比較してみてください。
<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説
売掛金回収代行サービスを利用すべき場合とは?
回収代行業者を利用すべき場合は4つあります。
与信管理の負担軽減
ファクタリング会社には専門の信用調査部門が設置されています。信用評価の専門スタッフが揃っているため安心して任せられます。
与信限度額を自社に代わって設定してくれるため本業に専念することができます。
回収が保証される(保険)
保証型回収代行サービスを利用すると支払いがなかったとしても回収が可能となります。回収代行業者から代わりに支払いを受けられるからです。
そのため、新規の取引を行うときに安心して取引を開始できるというメリットがあります。
ただし、全額の回収ができるとは限りません。通常は保証料に応じた限度額の範囲で支払いを受けられるだけです。
回収の経験がない
売掛金の回収は本業に付随する業務にすぎませんが専門性の高い分野です。効率よく確実に行わなければ本業に支障が出ます。特に法的な対応はかなりの知識と経験が必要です。
そのため、回収に不安のある債権について債権譲渡することや、支払いを受けられなかった場合に保証料で回収すればいいと割り切ることも選択肢です。
ただし、回収見込みの低い債権は価格が低くなりやすく買い取りを拒否されることもあります。保証料についても全額の回収ができるわけではありません。
十分な人員が確保できていない
ファクタリング会社は与信管理を代行してくれます。自社で専門の人員を雇うことは負担が大きいため外注してしまうことも選択肢となります。
与信管理の基本は信用調査にあります。取引相手の信用状態を見極めなければ適切な与信限度額を決めることができません。
与信管理を適切に行うには十分な能力を持った専門スタッフが必要です。アウトソーシングしてしまうことで専門のスタッフを雇い入れることが不要となります。
債権回収会社を名乗る違法な詐欺業者もいることに注意
債権の回収を行うと宣伝しておきながら着手金などを騙し取る悪質な業者も存在します。
債権回収会社は法務大臣の許可が必要なため許可を受けた業者であるかは調査可能です。
債権回収会社に依頼する場合には法務省のWEBサイトなどで事前に調べてから行いましょう。
<関連記事>債権回収会社とは?未払い金回収を委託するメリットと注意点
まとめ
・債権回収のプロセスは、1.電話や書面による請求、2.内容証明の送付、3.支払督促や訴訟、4.強制執行という流れが一般的です。
・債権回収業者の種類は、債権回収会社、ファクタリング会社、弁護士などがあります。
・回収会社のメリットは、「労力や時間の節約」、「精神的負担の軽減」、「安心して任せられる」ことなどがあります。
・弁護士のメリットは、「すべての債権に対応可能」、「法的な問題に対処可能」なことなどがあります。
・債権回収会社を名乗り着手金を騙し取る詐欺業者に注意が必要です。
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