売掛金の回収に行き詰まったときには訴訟を思い浮かべると思います。ですが多くの人にとって訴訟はハードルが高いものといえます。その原因は訴訟というものがよくわかっていないからかもしれません。

 

この記事では民事訴訟により売掛金を回収する方法についてメリット・デメリットを含めて解説していきます。

 

民事訴訟を利用するメリット

売掛金の回収に民事訴訟を利用するメリットを具体的に解説していきます。

 

客観的な判断により問題の根本的な解決ができる

裁判所を利用することで中立的な第三者に客観的に判断してもらえるというメリットがあります。売掛金の支払いを拒否される理由として商品やサービスなどに不満があるケースがあります。相手が自分の方が正しいと思いこんでいるケースでは話し合いで解決することが難しくなります。このような場合に訴訟を起こし判決という形で客観的な判断をしてもらえれば問題を根本的に解決することが期待できます。このようなケースでは相手方は敗訴することで素直に支払いに応じてくれることがあり強制執行まで行わずに済むこともあります。

 

財産に対し強制執行が可能となる

財産に対し強制執行をするためには「債務名義」という売掛金などの請求権の存在を公証する文書が必要となります。確定判決書も債務名義となるため強制執行が可能となるのです。債務名義を執行裁判所や執行官に示すことで相手の財産を差し押さえることができます。

 

売掛金の回収のために民事訴訟を行う目的は権利の強制的な実現であり、言い換えると確定判決書という債務名義を取得することが目的といえます。

 

相手が行方不明であっても利用できる

話し合いをしたくても相手がどこにいるのかわからない状態ではどうにもなりません。裁判所を利用した手続きであっても支払督促は相手が行方不明では使えないことになっており民事調停も不可能です。

 

ですが民事訴訟であれば「公示送達」と呼ばれる手続きを利用することで相手の所在がわからない場合であっても債権の回収が可能となります。

 

「公示送達」というのは訴状などの書類をいつでも交付する旨を裁判所内に掲示することで送達したものとみなす手続きです。法的手続きをとるにはさまざまな書類を相手方に送付しなければなりませんが届いたことにして手続きを進めることができるのです。

 

債権者の住所地で手続きができる

支払督促や民事調停の場合には原則として相手の住所地にある裁判所で手続きを進めなければなりません。民事訴訟の場合にも被告の住所地の裁判所に訴えを起こすことができますが売掛金の請求については債権者の住所地も選択可能です。相手の住所が遠方にあるようなときには支払督促や民事調停よりも利便性が高いことがあります。

 

和解での決着も期待できる

訴訟を起こしたからといって必ずしも判決で終わるわけではありません。実際には判決が出される前に和解で解決することも多くあります。

 

和解の見込みがあるケースでは裁判所が和解を勧めてくれることもあります。和解が成立した場合には相手が任意に弁済に応じてくれることも多いため強制執行しなくて済むこともあります。

 

相手が約束を守ってくれるか心配かもしれませんが問題ありません。

 

和解が成立した場合には「和解調書」が作成されます。これは確定判決書と同等の効果が認められているため「債務名義」となります。したがって、相手が約束を守らず滞納した場合には直ちに強制執行していくことが可能です。

 

民事訴訟を利用するデメリット

民事訴訟も万能ではなくデメリットも存在します。

 

勝訴しても債権回収が成功するとは限らない

勝訴判決を得たとしても相手が素直に支払いに応じるとは限りません。

その場合には債務者の財産から強制的に回収するために差押手続きを実施することになります。

対象となる財産は経済的価値があれば種類は問いません。不動産はもちろん預金や給料などの金銭債権も回収しやすい財産です。

 

ただし、財産を債務者が持っていたとしても見つけることができなければ意味がありません。財産調査の経験がないときには債権回収に失敗しやすくなります。

 

また、財産を隠されたり処分されたりしてしまうことがあります。これを防ぐためには事前に仮差押えを行うことが大切です。仮差押えがうまくいかないと債権回収に失敗する可能性が高くなります。

 

<関連記事>債権回収のための仮差押え|効力、手続きの流れを解説

 

解決までの時間が長い

民事訴訟では判決を出すまでに証拠調べなどの手続きが必要でありどうしても時間がかかってしまいます。

 

売掛金の存在や請求金額に争いがあるようなときには6か月以上かかることもあります。一方で相手が争っていないような場合であれば1回の審理で終わることもあるため2か月程度で済むこともあります。

 

売掛金が60万円以下であれば少額訴訟という手続きをとることも可能です。これは原則として1日で判決をもらえる手続きであり迅速に解決可能です。

 

<関連記事>少額の売掛金の回収と少額訴訟のやり方、費用、メリット、デメリットを解説

 

費用がそれなりにかかる

民事訴訟を利用するには裁判所や弁護士の力が必要となります。そのため裁判所費用や弁護士費用がかかることになります。

 

例えば、300万円の売掛金を請求する場合には裁判所に納める費用として2万円と数千円分の郵便切手代がかかります。弁護士費用は数十万円程度です。ただし、裁判所に納める費用については被告に請求していくことが可能です。

 

弁護士費用やその他費用について詳しくは、「債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説」をご参照ください。

 

手続きが専門的であり労力が必要

訴訟は一定のルールに従って運用されています。一定の書類を作成、準備し指定された期日に出頭して必要な主張や立証を行わなければなりません。訴状や準備書面を作成するだけでもかなりの労力がかかります。必要な書類や証拠を集めるだけでも簡単ではありません。期日に出頭すること自体が肉体的精神的負担となります。訴訟は平日のみ行われるため時間的な調整も必要となります。

 

もちろん弁護士に依頼すれば必要な書類の作成は代わりにしてもらうことができますし出廷も基本的に弁護士に任せることが可能です。

 

訴訟手続きの手順

訴訟の大まかな流れは次のとおりです。

 

訴状の作成

訴訟を開始するには訴えを提起しなければなりません。そのためには訴状を用意することから始めます。

 

訴状には当事者を記載するほか請求の趣旨や請求が正当なものであることを示す具体的な事実を記載しなければなりません。

 

必要な事実を書き漏らしてしまうと証拠が十分にあるのに敗訴してしまうこともあるため注意が必要です。

 

訴状のフォーマットについては、「債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説」をご参照ください。

 

証拠の準備

証拠となるものに特に制限はありません。一般的には契約書や納品書、見積書など売掛金が確かにあると認めてもらえるような書証が基本となります。相手方の印鑑が押印されていたりサインが入っていたりするものは特に有力な証拠となります。

 

訴えの提起

債権者や被告の住所地の裁判所に訴状を提出します。売掛金が140万円以下のときには簡易裁判所に超過するときには地方裁判所に提出します。

 

ただし、契約書で裁判所を指定している場合には指定されている裁判所に提出します。郵送で提出することもできますが修正を求められることもあるためなるべく直接提出します。念のため訂正印を持参しておきます。

 

訴状の送達

1か月程度先に最初の期日が決まり当事者に知らされます。相手方には訴状や呼出状、証拠の写しなどが送達されます。

 

口頭弁論期日(弁論準備期日)

指定された期日では当事者双方の主張や証拠調べが行われることになります。具体的な主張は訴状や準備書面に記載して行います。被告は答弁書を提出するだけで初回の期日を欠席することもあります。

 

代理人として弁護士に任せている場合には直接尋問する必要があるときを除き当事者は出席する必要はありません。

 

判決

証拠調べなどがすべて終わると結審し判決手続きに移ります。判決期日は特に出頭しなくてかまいません。

 

和解

訴訟は和解で終わることがあります。相互に譲歩できる部分があれば和解を検討することも大切です。早期に解決できることや任意の支払いが期待できるなどメリットも大きいからです。

 

控訴

万が一敗訴してしまっても判決が確定するまでは控訴することができます。判決送達日の翌日より2週間内に第一審裁判所に申し立てることで行います。

 

強制執行

相手が任意に支払わない場合には財産に対し強制執行をすることになります。預金や不動産など換価できそうな財産を差し押さえます。財産を処分されないように前もって仮差押えをすることも大切です。

 

訴訟手続きを弁護士に依頼する場合のポイント

売掛金回収を依頼する場合の注意点について見ていきます。

 

専門分野と実績の確認

売掛金の回収を専門にしている法律事務所を選ぶことが大切です。弁護士には専門分野があるからです。その際、回収実績の豊富な事務所であるかも確認してください。

 

回収方法の確認

弁護士に依頼すれば必ずしも訴訟をせずに回収できることも多いです。弁護士が請求することで素直に弁済に応じてくれることや仮差押えの段階で支払ってくれることもあります。

 

訴訟ありきではなく柔軟な回収に対応してくれるか確認することが大切です。

 

<関連記事>売掛金回収のための法的手段とは?具体的な手順を解説

 

弁護士費用の確認

弁護士に委任すると費用がかかることになります。費用は法律事務所ごとに異なるため注意する必要があります。

 

例えば、着手金が必要な事務所と成功報酬のみの事務所、請求実費を求める事務所や不要な事務所など違いがあります。

 

依頼をするときには必ず費用がいくらかかるのか確認し、疑問点があるときには遠慮せずに質問してください。

 

弁護士費用の相場については、「債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説」に記載しています。

 

訴訟に頼らない他の債権回収方法

訴訟は債権回収のための一つの手段に過ぎません。法的手段には「民事調停」や「支払督促」という方法もあります。

 

民事調停

民事調停とは、民間人である調停委員を交えた話し合いで問題を解決する簡易裁判所の手続きです。

円満な解決により相手が自分から弁済してくれる可能性のある方法です。

話し合いがまとまれば「調停調書」が作られます。調停調書は判決書と同等の効力があるため、万が一債務者が約束を破って支払いをしてくれないときには財産を差し押さえることができます。つまり訴訟を起こす必要がありません。費用は訴訟よりも少なくなっています。

デメリットとしては相手が話し合いに応じてくれないと意味がない点です。あくまで交渉の余地があるときに利用を検討します。

 

支払督促

支払督促とは、簡易裁判所の書記官から相手方に対し支払いを促してもらう手続きです。書類審査だけで利用でき費用は訴訟の半分で済みます。

 

単なる催促ではなく強力な法的効力があります。相手が何もせずに放置していると財産を差し押さえることができます。

 

デメリットとしては、相手が異議を申し出ると訴訟になってしまう点です。とりあえず訴訟の前に利用することも考えられますが、相手が遠方に済んでいるときには注意が必要です。

訴訟の場合には債権者の住所にある裁判所で訴訟ができますが、支払督促を利用すると相手の住所にある裁判所で訴訟となるからです。

 

したがって、支払督促は相手が異議を申し立てる可能性の低いときや住所が近いときに向いています。

 

<関連記事>取引先に支払督促をする4つのポイント

 

売掛金の回収を弁護士に依頼するメリット

弁護士に売掛金の回収を依頼するメリットとしては次のようなものがあります。

 

労力が軽減される

売掛金の回収を自社で行う場合、自社のスタッフに回収業務を任せるか経営者自ら回収することになります。その場合、本来の仕事とは異質の業務を行うことになるため負担が大きくなります。

債権の回収は専門性が強い業務であるため経験や知識が求められ効率も悪くなります。

本来の業務に支障が生じやすくなり企業の生産活動に影響を与えることになります。

弁護士に回収を委託することで貴重な労力を本来の業務に集中することが可能となります。

 

法的な対応が可能

自社で回収をしたとしても回収率は上がりにくいといえます。

その理由は回収方法の選択肢が狭いからです。自社独自で訴訟などの法的手段を取ることは現実的とはいえません。

弁護士であれば法的手段も可能なため適切な回収方法をとることができます。その結果として回収率を最大限に高めることが可能です。

 

迅速な解決ができる

売掛金の回収は迅速に行う必要があります。相手の財務状況が変化したり、消滅時効にかかったりするリスクがあるため、回収が遅れるほど不良債権化しやすくなります。

弁護士は売掛金の回収に慣れていることから効率よく回収することが可能なため問題の迅速かつ根本的な解決が可能です。

 

<関連記事>法人での顧問契約とは?弁護士事務所と契約するメリットを解説

 

まとめ

・民事訴訟により売掛金回収を行うメリットとして、判決による根本的な解決や強制執行が可能となること、相手が行方不明であっても利用できることなどがあります。

・訴訟のデメリットとして、時間や費用、労力がかかることが挙げられます。

・弁護士に依頼することで専門的な手続きを代行してもらうことができるだけでなく訴訟以外の方法で売掛金の回収ができることもあります。

 

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