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中国との貿易や現地法人を設立し商品を製造するなど中国とのビジネスは当たり前となっています。一方で取引量に比例して売掛金や未収金の支払いが滞るという問題が増えることになります。
この記事では中国における債権回収と方法について詳しく解説していきます。
中国の債権に関する法律
中国企業と取引をする場合には中国の法律について知っておく必要があります。
日本法との違い
中国と日本の法律はそれなりに違いますが債権に関しては類似する点が多くあります。契約を守らなければ強制的に実現できること、違約金などのペナルティや解除ができること、時効が存在することなど基本的な部分は変わりません。
契約や個人の権利、家族間の問題について定めた法律を「民法」といいますが、つい最近まで中国には統一的な民法典がありませんでした。2021年1月1日に「中華人民共和国民法典」が施行されるまでは個々の分野の法律が日本における「民法」の役割を果たしてきました。ただ制定時期が異なり統一的な法律ではなかったため矛盾が指摘されることもあり争いが生じたときに解決を難しくする要因ともなっていました。
これまで「中華人民共和国契約法」、「中華人民共和国担保法」、「中華人民共和国民法総則」などの法律が債権に関する法律として独立して存在していました。これらの整合性に問題のある法律を統合したため単に名称が変わったものではなく内容にも変化が生じている点に注意が必要です。
現行法では第3編「契約」が債権について理解するには特に重要な項目です。
訴訟時効
日本における時効は「消滅時効」と呼ばれ一定の期間が経過し援用すると実体法上権利が消滅します。
これに対し中国における時効は「訴訟時効」と呼ばれ一定の期間が経過したとしても実体法上の権利が消滅するのではなく人民法院(裁判所)や仲裁による保護を受けられなくなるという位置づけになっています。ただし、日本においても最終的には訴訟を利用するため実質的にはあまり違いがありません。
時効期間については日本では原則として5年とされているのに対し、中国では原則として3年となっている点に注意が必要です。ただし、国際物品売買契約や技術輸出入契約については4年となっています(中国民法594条)。
時効期間は中断させることができます。この方法にも違いがあり日本では債務者が権利を承認するような場合を除き法的な手続きを行わないと一時的な完成猶予しか認められていません。これに対し中国では単純な履行の請求でも時効を中断させられる点に特徴があります。
<関連記事>債権回収、借金には、時効がある!消滅時効とその対処方法について解説!
担保権
中国でも担保として抵当権や質権、保証が利用できます。日本にある先取特権がない点には注意が必要です。ただし、建設工事については工事代金優先弁済請求権が認められています(807条)。また、動産売買代金抵当権という制度があり登記が必要ですが動産先取特権の代わりに使える可能性があります(416条)。先取特権がないこともありなるべく保証等の担保を取得しておくことが望ましいといえます。
中国における債権回収の方法
中国における債権回収の方法は督促が基本となります。その際、日本とは法制度だけでなく社会インフラも異なる点に注意を要します。
催促の方法
銀行による送金手続きを利用する場合、日本では即時入金が当たり前になってきていますが中国では国内間であっても数日かかることがあります。そのため支払期限の数日前に催促のメールなどを送り期日までの入金を確実にしておきます。
期日までに入金が確認できないときには電話やメールで連絡を行い支払いが遅れている原因を突き止めます。現地法人や現地の代理人がある場合には訪問による催促も有効です。
書面による督促
債権回収が進まない場合には書面による催促を行います。時効期間が短いこともあり請求した事実を証拠として残すことが重要です。ただし、中国には内容証明郵便制度がない点に注意がいります(台湾を除く多くの国で存在しません。)。
証拠として残すためには催促状を送付した事実を公証人に公証してもらう方法があります。ほかには書留で郵送するとともに電子メールで同一内容の書面を送付する方法も考えられます。
法的手続き
法的手続きには訴訟等の裁判所を利用する方法と仲裁手続の2つの方法があります。
訴訟
訴訟については公平性に疑念があることや管轄の問題があるため仲裁が多く利用されています。
管轄については日本と中国のどちらの裁判所を利用するかという問題があります。契約で日本の裁判所を指定しておけばいいのではないかと思われるかもしれませんがそう単純な話ではありません。確かに契約書に管轄裁判所を日本の裁判所と記載しておけば日本で訴訟を行うことが可能です。しかし最終的に強制執行により財産を差し押さえなければなりませんが日本の裁判所の判決は中国で執行力が認められていないのです。反対に中国の判決も日本で強制執行できません。そのような条約がないからです。
そのため中国企業に訴訟を起こす可能性が高いときには日本の裁判所を管轄とするべきではありません。訴訟管轄を定めるのであれば被告企業の所在等を基準にすべきです。
仲裁
仲裁については条約があるため強制執行が可能です。そのため特に理由がない限り仲裁合意を結ぶ方が好ましいといえます。
仲裁は当事者が指定した第三者に紛争解決の判断を委ねるものです。仲裁合意をする際の注意点は仲裁委員会を明記することです。不明確な定めをすると仲裁合意が無効となります。中国であれば中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)、日本であれば日本商事仲裁協会(JCAA)を指定することが多いです。シンガポール等の第三国を指定することもできますが費用や時間などを考えると難しい面があります。法的手続きを利用するときは強制執行まで考慮することが大切ですが、もし日本企業が日本の仲裁機関を選択してしまうと中国で強制執行する際に日本語の仲裁判断書を翻訳するなどの手間や費用がかかることになります。第三国についても同じ問題がありさらに外国の法律を外国語の証拠書類をもとに判断するため時間やコストがかかります。
したがって、被申立人(相手企業)の所在国の仲裁人を指定することが無難といえます。
中国における日系企業の債権回収で良くある問題
中国企業に限りませんが外国企業においては支払いが遅れることがよくあります。これは文化や商慣習の違いが大きく影響しています。日本のように手形の不渡り制度はありませんしオープンアカウント(送金取引)が主流となっているからです。支払いを遅らせることができれば資金繰りに余裕ができるためあえて遅らせることもあります。
こういった問題への対処法は支払期日前の催促や期日経過後に速やかに請求することを徹底し足元を見られないようにすることです。
国際間の債権回収は意思疎通、時間やコストがかかりやすいという問題があります。現実的に債権回収が難しい場合には債権譲渡も検討します。
インバウンドビジネスにおける債権回収
訪日外国人に対する債権回収の基本的な対処法はクレジットカードやスマホによる即時決済を利用することにあります。現金決済でも構いませんが中国では電子決済が主流となっています。これにより売掛金や未収金を極力発生させないことが有効です。
ただし、医療機関についてはこの方法での対応では不十分となることがあります。中国人観光客が急病により日本の医療機関を受診した場合に医業未収金が発生します。
このような場合にはデポジットを請求することで未収金を防ぐ方法や、身分証明書の提示を求め未払いを牽制することが大切です。身元が明らかとなっていれば中国の律師(弁護士)に依頼することで回収できる可能性があります。
<関連記事>未払い医療費の回収方法と注意点を解説!医療費回収の消滅時効にも注意!
中国での債権回収における注意点
トラブルの予防を重視しつつ何か問題が起こったときに解決を容易にする工夫をすることが大切です。
対処法の基本は契約段階にあります。取引相手の経済状況を調査し問題がないことの確認が必要です。その上で契約条項を慎重に検討していきます。国際間の契約において契約書は必須です。メールなど交渉過程での取り決めが契約に含まれるか問題になるケースがあるため契約書に拘束されることを明確にします。必要に応じて基本契約を結んでおき具体的な内容は取引ごとに個別の契約書を交わします。基本的な契約書作成の注意点は日本とあまり変わりません。
特に注意すべきポイントは準拠法と紛争解決条項です。中国法の適用が必須となる契約もありますが売買契約であれば日本法を準拠法と定めることができます。ただし、相手国で紛争となった場合に準拠法が外国法であるときには裁判所に外国法を説明しなければならないため必ずしも日本法を準拠法とすることが最善とはいえません。
紛争解決条項は訴訟と仲裁のどちらを利用するのか、またその管轄をどこにするのかを記載します。明確に記載しないと合意が無効となることがあるので注意がいります。
<関連記事>企業における債権回収対策・契約上の注意点!トラブルを未然に防ぐ契約書作成のポイント
まとめ
・トラブル予防のためには相手企業の信用状態の調査や契約書の作成に力を入れることが有効です。
・契約書で準拠法と紛争解決条項を明記することが必要です。紛争解決手段には「仲裁」を採用することが現実的です。
・時効が原則3年と短いですが履行の請求だけで中断させることができます。内容証明制度がないので書留や公証人を利用し請求の事実を証拠に残します。
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