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不動産経営をしているときに頭を悩ませることの一つに家賃の滞納があります。
家賃の滞納があると予定していた入金がないため修繕や改修計画に支障が生じることもあります。
その結果、見込んでいた収益が減り経営を圧迫していくことになります。
この記事では家賃滞納の問題について管理会社任せにできない理由や回収方法について解説します。
家賃督促の重要性
管理会社に管理を委託していたとしても家賃滞納があったときは、オーナー、大家自身が家賃の督促・回収をしていくのが基本です。
管理会社は家賃の支払いが確認できなかった場合に賃借人に対し入金が確認できなかった旨の連絡を入れてくれることはあります。
でもそれは支払いを忘れている賃借人に支払いを促す程度であって本格的な滞納家賃の回収をしてくれるわけではありません。
なぜなら、滞納家賃の回収は法律上原則として家主か弁護士にしか認められていないからです。
つまり、家賃の滞納があったときは家主自身が行動を起こさないと回収できないのです。
違法性の高い家賃督促の実態
家賃の督促行為は一歩間違えると違法となることがあります。滞納している人が悪いはずなのに賃借人から逆に訴えられてしまうこともあります。特に注意したほうがいい回収方法には次のようなものがあります。
玄関ドアなどに貼り紙をする
玄関ドアやロビーの掲示板などに滞納家賃を支払うように張り紙をすることがあります。これは借家人に滞納している事実を伝えているというより他の住人や訪問客の目を気にさせることで支払いに圧力をかける行為といえます。このような他人に滞納の事実を伝えてしまう行為は名誉毀損になることがあります。慰謝料請求が認められた裁判例もあり注意が必要です。
他に連絡を取る方法がないときには違法性が否定される可能性はありますが基本的にするべきではありません。郵便受けに督促状を投函するか内容証明など他の方法を検討してください。
義務のない人への請求
家賃の請求は借主か連帯保証人に対して行うことはできますが、それ以外の人に行うことは基本的にできません。
同居の家族であったとしても契約者本人でない以上、当然には支払義務はありません。滞納家賃の回収のために訪問や電話連絡した際に本人以外の人に請求することはトラブルのもととなります。プライバシーの侵害などの問題があるからです。
ただし、夫婦であれば請求できることがあります。夫婦の場合には日常家事債務について連帯して責任を負うことになっているからです。
日常家事に当たるかはケースバイースであるため一概には言えませんが同居の夫婦であれば請求できることが多いです。心配な場合には弁護士にご相談ください。
勤務先に電話をする
勤務先に電話をすることも注意が必要です。正当な理由なく勤務先に連絡することは貸金業法によって規制されており滞納家賃の回収にあたっても気をつけなければなりません。
正当な理由としては、借家人が承諾している場合や他の方法では連絡を取ることが難しい場合(連絡先不明など)が考えられます。
深夜や早朝に電話をかける
深夜や早朝に電話をかけることも違法性のある行為です。借家人にも生活がありその平穏を害することになるからです。
貸金業者は法令により午後9時から午前8時までは正当な理由がない限り連絡することが禁止されているためこれに従うのがいいでしょう。正当な理由とは、他に連絡する手段がないときや借主が承諾しているようなときです。
借主の部屋での長時間督促
訪問による督促行為が違法となることもあります。
訪問した際の注意点として退去を求められた場合にはそれに従う必要があることを覚えておきましょう。建物の所有者が大家さんであったとしても賃借人の意思に反して滞在することはできません。「帰ってくれ」と言われたら速やかに退去してください。指示に従わないと不退去罪に問われることもあります。
部屋の鍵を勝手に交換する
借家人が留守の間に鍵を無断で交換することも違法性が高い行為です。無断で室内に入ると住居侵入罪に問われることになります。物件の所有者であっても許されないので注意してください。仮に滞納者の行方がわからなくなっていたとしても無断で交換することはできません。
同様に荷物を無断で搬出することも違法行為となります。こういった行為は自力救済と呼ばれ禁止されています。強制退去や鍵の交換をするには裁判所を通じて行わなければなりません。
<関連記事>家賃滞納発生後の強制退去の進め方とその対応方法を弁護士が解説
家賃滞納回収の流れ
滞納賃料の回収は次のように行います。
1.電話での催促
2.催促状、督促状の送付
3.法的手段(訴訟、強制執行)
借主から敷金や保証金で支払いたいと言われることがありますが応じる必要はありません。
敷金は担保であり契約が終了し建物の明け渡しがあってはじめて返還義務が生じるからです。
一方で貸主から充当することはできます。ですが基本的に行うべきではありません。滞納が生じた場合には明け渡しも検討すべきですが、充当してしまうと担保が減った上債務不履行が解消されてしまうため契約解除が難しくなるからです。
本人、連帯保証人への督促状の送付
滞納の原因はいろいろあり、支払いを忘れていただけということもよくあります。
まず、相手と連絡をとることが大切なため電話をすることが一般的です。
電話での催促がうまくいかない場合には書面で催促することになります。電話がつながらなくても住所がわかっていれば請求が可能だからです。
この場合、いきなり連帯保証人に督促状を送ることは避けたほうがいいでしょう。借主が連帯保証人に滞納していることを知られたくないケースも多く、下手に連帯保証人に連絡してしまうと借主が怒ってしまい余計に問題がこじれることがあるからです。
はじめは借主本人に督促状を送付します。滞納してから時間が経ってしまうと借主自身が支払ったと思いこんでしまうこともあるのでなるべく早く督促します。滞納が長くなると金額が大きくなり支払いが余計に難しくなります。
家賃の督促状には5つの記載すべきポイントがあります。
1.家賃の督促であることを明確にする
家賃の滞納が経済的な理由によるものだとすると、他にも支払いを滞納している可能性が高いです。そのため家賃の請求であることを分かりやすく書くことが大切です。表題などに大きく書きます。家賃は他の支払いよりも優先して支払ってもらいやすいためそのメリットを活かします。
2.滞納月と滞納金額
何月分の家賃が滞納しているのかを記載しておかないと借主が支払ったと言い張ることがあります。支払ったのであれば通帳や領収書として記録が残るため不要なトラブルを避けることができます。
3.支払期限
督促状を受け取ってから1週間程度の日付を支払い期限として記載しておきます。その際、「本状を受領した日から1週間以内」と書く方がいますが期日が不明確なので避けてください。必ず具体的な日付にします。支払いが確認できないときには連帯保証人に連絡すると記載しておきます。
4.支払い方法
振込先などを明記しておきます。支払方法がすぐにわからないと滞納が長引く原因となります。
5.入金確認日
督促状を郵送すると到着まで日数がかかります。その間に入金されることもあるので対策が必要です。督促状にいつ入金確認をしたのか記載しておくことにより、入れ違いで入金されるトラブルを防ぐことができます。
支払期日を過ぎても滞納したままのときには連帯保証人にも電話や書面で督促します。
<関連記事>【弁護士監修】支払催促状の書き方と送付方法{テンプレート付}
内容証明郵便の送付
普通の文書で督促をしても支払ってもらえない場合には内容証明郵便を検討します。
内容証明郵便は郵便局のサービスでどのような文書を誰から誰宛てに送ったかを証明してくれます。証拠に残るため借主にプレッシャーを掛けることができます。
内容証明郵便に記載した方がいい項目は次の5つです。
1.家賃の滞納があること
2.滞納月と滞納金額
3.支払期限
4.支払い方法
5.法的手段の予告
内容証明郵便は最終的な警告文書として送ります。そのため期限までに支払われないときには訴訟などの法的手段をとることを明記することが重要です。これによって借主に与えるプレッシャーが大きくなります。
債権回収の本気度を示すことが大切なため弁護士から送付することが効果的です。
何度も内容証明郵便を使うとハッタリだと思われてしまい効果が薄くなります。そのためはじめから弁護士に依頼することをおすすめします。
<関連記事>債権回収の内容証明作成方法を弁護士が解説!債権回収を効率よく解説!
裁判
支払期限までに支払いがなされないときには法的手段を検討することになります。
滞納家賃の回収に使える法的手段としては、1.支払督促、2.通常訴訟、3.少額訴訟が代表的です。
1.支払督促
支払督促は、簡易裁判所で書類を提出するだけで利用することができる法的手続きです。滞納者に対し家賃を支払うように命じてもらうことができます。賃借人が異議を申し立てると通常の訴訟に切り替わる点に注意が必要です。
2.通常訴訟
一般的な裁判のことです。滞納額が140万円以下の場合には簡易裁判所で、140万円を超える金額のときには地方裁判所で手続きが行われます。滞納家賃だけでなく物件の明渡し(立ち退き)も同時に請求することができます。
手続きには最低でも数か月かかることになる点には注意が必要です。
通常訴訟は手続きが複雑であり一般の方が自力で行うのはおすすめできません。訴状の書き方一つとっても必要な事実を書き漏らしてしまうと証拠が十分にあるのに敗訴してしまうこともあります。
訴訟が必要な場合には必ず弁護士に相談するようにしてください。
<関連記事>債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説
3.少額訴訟
滞納額が60万円以下の場合には少額訴訟という簡易な手続を利用できます。
原則として1日で審理が終わりその日のうちに判決まで出してもらえます。
ただし、建物の明け渡しを求めることはできないので立ち退いてもらいたい場合には通常訴訟を起こすことになります。
少額訴訟は比較的やさしい手続きであるため大家さんが自力で行うことも可能です。ですが借主が普通の訴訟手続きでやりたいと申し出ると通常訴訟になってしまうため注意が必要です。
<関連記事>少額の売掛金の回収と少額訴訟のやり方、費用、メリット、デメリットを解説
差押え
支払督促や裁判により賃借人に支払いが命じられたとしても素直に支払いに応じてくれるとは限りません。
このようなときには賃借人の財産に対し差押えをすることになります。
差押え可能な財産は、1.不動産、2.自動車や貴金属などの動産、3.預金や給料などの債権が代表的です。
法的手段をとる前に賃借人がどのような財産をどこに持っているのかを調査することも大切です。せっかく苦労して勝訴判決をもらっても財産がないのでは家賃の回収ができないからです。
財産があるのかよくわからないときには本格的な調査が必要ですが自力で調べるのは簡単ではありません。弁護士でなければ調査が難しいケースもあるので弁護士に相談されることをおすすめします。
1.不動産
不動産は強制執行に時間や手間がかかるため、滞納額が大きい場合に検討するのがいいでしょう。差押えをするときには事前に登記記録を法務局で確認しておきます。抵当権や他の差押えが入っていることも多く回収ができないこともあるからです。
2.動産
自動車や貴金属、現金などの不動産以外の物を「動産」といいます。
動産を対象に差押えをするときには対象物を指定する必要はありませんが、事前に財産を特定しておいたほうがいいでしょう。
例えば、金庫の中に多額の現金があることがわかっていたり、店舗内に高額な商品があったりするのであればそれを目的に差押えを行うことになります。
動産執行はめぼしい財産が見当たらずに執行が終了することも多いので気をつけてください。
3.預金や給料などの債権
他人に何かを請求できる権利を「債権」といいます。
預金は銀行に対して預けたお金を返すように請求する権利であり、給料は会社に労働の対価を請求する権利です。
そのため、このような債権も差し押さえることができます。
不動産や動産はお金にするために処分が必要となりますが、預金などの債権であれば換価の手間がいらないため債権の回収が容易です。売却したときにいくらの値段がつくか心配する必要もありません。
借主がどの銀行を利用しているのか分かれば大家さんが代わりにお金を受け取ることができます。
勤め先がわかっていれば給料を差し押さえることもできます。
<関連記事>売掛金回収のための法的手段とは?具体的な手順を解説
家賃の時効について
時効にかかると権利がなくなってしまいます。
滞納している家賃も一定の期間が経過すると回収できなくなります。
家賃の時効期間は5年です。
毎月の支払期日の翌日から起算して5年で消滅することになります。5年以上滞納している場合には古いものから回収できなくなっていくことになります。
もっとも、途中で家賃の支払いを約束してもらうことができれば、5年の期間がリセットされることになっています。
つまり、約束した日の翌日から5年経たないと消滅しません。ただし、口約束では証拠に残らないので注意が必要です。
そのため、長期間家賃を滞納しているケースでは家賃の支払いを約束する念書を書いてもらうことが有効です。
家賃滞納トラブルを弁護士に相談するメリット
弁護士が間に入ることにより素直に滞納している家賃の支払いをしてくれることもあります。
管理会社に家賃の督促を任せていることが多いと思いますが根本的な解決はできません。
管理会社は形式的な家賃の催促ができるだけで強く家賃の支払いを求められるわけではないからです。もちろん法的な手続きができるわけでもありません。
弁護士に相談すると費用がかかると心配されるかもしれませんが早急に立ち退いてもらって新しい借主を探したほうがかえって負担は少なくすみます。
なによりも一人の借主のために心配事を抱えている状況は好ましくありません。
弁護士であれば立ち退きにも対応可能であり問題の根本的な解決が可能です。
<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説
まとめ
・家賃の滞納があっても管理会社は回収に責任を負ってはくれません。債権の回収は原則として弁護士にしかできないからです。
・回収のやり方によっては違法行為となります。深夜早朝や反復継続しての電話や訪問、他から借金することを求めたり、保証人でない人に請求したり、鍵を勝手に交換するようなことは違法となりえます。
・回収は、電話や書面で適切な時間帯、頻度、穏当な言動により行い徐々に強い内容に変えます。内容証明郵便も効果的です。
・連帯保証人に請求することもできます。
・敷金や保証金からの充当はなるべく避けるようにします。
・弁護士が請求することで素直に支払ってもらえることもあります。
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