目次
売掛金や未収金などを債権譲渡して現金を調達することは一般的です。弁済期が到来する前に資金を調達することができれば経営を安定させることにつながります。
債権譲渡を受ける側としては第三債務者から確実に債権を回収できることに関心があります。債権は二重に譲渡することも可能であり、第三債務者が素直に支払いに応じてくれるとも限りません。
債務者やそれ以外の第三者に対抗するために必要となるのが「債権譲渡通知書」です。
この記事では、債権譲渡通知書やそのほかの対抗要件制度について解説していきます。
債権譲渡とは
債権譲渡とは、債権者と譲受人との間で、債権を内容の同一性を保ったまま移転する契約のことです。例えば、売掛金や貸金債権が譲渡されたのであれば今後は譲受人が自分に対して支払いをするように債務者に請求していくことになります。
債権譲渡の目的は、一般的に資金繰りをよくするために弁済期日より前に現金を確保することにあります。債権譲渡をすると手数料などの名目で本来の債権額よりも回収金額が少なくなってしまうことも多いですが、弁済期まで間があるときには現金化することで資金繰りが良くなるため特に中小企業の資金調達手段として多く利用されています。
債権譲渡については債権譲渡禁止特約に注意する必要があります。元の契約で債権譲渡を制限することがよくあります。債権譲渡禁止特約については2020年4月1日に法律が改正されており取扱いが大きく変わっています。改正前は債権譲渡禁止特約が付いている債権を譲渡したときには原則として債権譲渡は無効となっていました。
改正後は債権譲渡禁止特約の有無にかかわらず原則として債権譲渡は有効となっています。もっとも、債権の譲受人が譲渡禁止特約を知っているか、知らなかったとしても重過失があるときは、債務者は譲受人から請求されても弁済を拒否することができます。
債権譲渡はあくまでも債権者と譲受人との間で行うため債務者は債権譲渡の事実を当然には知りません。そのため、債務者がまったく知らない状況では譲受人から突然請求されても困ってしまいます。そこで、債権譲渡をする際には原則として債務者に債権譲渡通知書を送付することになります。
<関連記事>債権譲渡禁止特約とは?民法改正で変わったことを分かりやすく解説
債権譲渡通知書とは
債権譲渡通知書とは、債権が譲渡により通知書記載の譲受人に移転したことを通知する書面のことです。
債権譲渡を債務者に対抗するためには譲渡人から債務者に対する債権譲渡通知、または債務者による承諾が必要とされています。債務者としては知らない人から通知されても請求に応じることはできないからです。言い換えると債権譲渡通知、または債務者による承諾がないときには、譲受人が債務者に支払いを請求しても債務者は支払いを拒むことができます。そのため債権譲渡通知書は譲受人が正当に債権を取得するために大切なものといえます。
債権譲渡における関係者としては債権者、譲受人、債務者の三者がいますが、債権が二重に譲渡されると譲受人が複数になることがあります。この場合、どの譲受人が債権を取得するかが問題となります。
債権譲渡を債務者以外の第三者に対抗するためには、確定日付のある証書によって通知または承諾しないといけないことになっています(民法467条2項)。
「確定日付のある証書」とは、証書の作成日が法的に確定しているもののことです。代表例は、内容証明郵便や公正証書があります(民法施行法5条1項)。
確定日付のある証書による債権譲渡通知書が複数あるときは、通知が到達した日時が早い人が優先します(債務者の承諾のときは承諾の日時)。
債権譲渡通知書を送付する以外にも対抗力を備える方法があります。
「産業競争力強化法による債権譲渡の通知等に関する特例」により、同法に基づく一定の要件を満たす事業者のサービスを利用した場合には、そのサービスによる通知が確定日付のある通知とみなされます。
<関連記事>内容証明郵便を出す方法や費用は?弁護士に依頼するメリットも解説
債権譲渡通知書の作成方法
債権譲渡通知書にはいくつか作成や送付する際の注意点があります。
作成する際のポイント
・対象となる債権を明確にする。 ・譲渡人から通知する(譲受人から通知するときは代理権をもらう必要があります。) ・内容証明郵便を利用する(第三者対抗要件を具備するため。) |
債権譲渡通知書に含めるべき内容
一般的な債権譲渡通知書には以下のような内容を記載します。
・タイトル「債権譲渡通知書」など ・債権を譲渡したこと ・対象となる債権の内容(契約日、債権者、発生原因、債権額、弁済期日等で債権を特定) ・債権譲渡の日付 ・譲渡人の住所名称 ・譲受人の住所名称 ・被通知人(債務者)の住所名称 ・通知書の作成日 |
※債権は複数成立する可能性があるためどの債権が対象であるか特定することがポイントです。
債権譲渡登記制度の活用
債権譲渡を第三者に対抗するためには債権譲渡通知書を債務者に送付することが原則です。その場合、内容証明郵便なども使う必要があります。債権譲渡通知書を利用する方法では債務者を当初から関与させざるをえません。
その場合、①債務者の数が多いと債権譲渡通知書を多数作成・発送しなければならず手間や費用がかかる。②将来債権の譲渡の際に債務者が不特定のときには利用できない。③債務者に債権譲渡をしたことが知られてしまうなどの問題があります。
債権譲渡登記は、債務者の数が多く手間やコストを抑えたいときなどに利用されています。
債権譲渡登記制度とは
債権譲渡登記とは、法人の持っている金銭債権の譲渡等について、簡易な方法で第三者への対抗要件を具備できる制度のことです。
メリット
債権譲渡登記制度の特徴は、債務者対抗要件と第三者対抗要件が分かれていることにあります。つまり、債務者に通知しなくても第三者に対し対抗できるようになります。債権を譲渡した時点では債務者対抗要件を備える必然性はありません。実際に支払いを求めるまでに債務者に通知すれば足りるのです。
債務者に対する通知にも特徴があります。債権譲渡登記をしただけでは債務者に対しては債権譲渡を対抗することができません。債務者に対抗するには登記事項証明書の交付を伴う通知が必要ですが譲受人から交付・通知ができます。
デメリット
債権譲渡登記の対象となるのは、法人の持っている金銭債権に限られます。
債権譲渡登記の効果
債権譲渡登記をした場合の第三者対抗要件の効果は、確定日付のある債権譲渡通知書と同等です。つまり、第三者対抗要件を備えた債権譲渡通知書の到達日時と債権譲渡登記がされた日時を比べて早い方が権利者となります。債務者の立場から見れば第三者対抗要件を先に備えた債権者に弁済していけばいいということです。
債権譲渡登記申請手続について
1.管轄登記所
東京法務局が取り扱っています。
2.登録免許税
債権譲渡登記をする際には登録免許税を納める必要があります。
債権個数が5,000個以下の場合 |
7,500円 |
債権個数が5,000個を超える場合 |
15,000円 |
※1件で申請できる債権は最大で10万個です。
3.申請の方法
申請方法には、①書面方式、②事前提供方式、③オンライン方式があります。
②事前提供方式というのは、申請データはオンラインにより提出し、その他を書面で提出する方法です。
債務者への通知(債務者対抗要件)
債権譲渡登記をすることで第三者に対抗することはできますが、登記をしただけでは債務者に対抗することはできません。譲受人が支払いを請求していくには、債務者に対して登記事項証明書の交付を伴う通知が必要です(債務者の承諾でも可。)。
債権譲渡通知書の場合には譲渡人から通知する必要がありましたが、債権譲渡登記の場合には譲受人からの通知、交付が可能です。通知を確実にするには内容証明郵便を利用しますが、内容証明郵便には登記事項証明書が同封できないため別便で送付することになります。
<関連記事>内容証明郵便を拒否・無視された場合の対処法|内容証明郵便の効力を弁護士が解説
まとめ
・債権譲渡とは、債権の内容の同一性を保ったまま第三者に譲渡する契約のことです。
・債権譲渡通知書とは、債権が譲渡人から譲受人に移転したことを通知する書面です。譲渡人から債務者に送付することで債務者に債権譲渡を対抗することができます。
・債務者以外の第三者に対抗するには原則として確定日付のある証書による通知(または債務者による承諾)が必要です。例えば、内容証明郵便が確定日付のある証書です。
・債権譲渡登記など第三者対抗要件を備える別の方法もあります。
債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
債権譲渡通知書でお困りの方へ。
債権譲渡を受けている場合に実際に第三債務者から債権回収をする際には確定日付のある証書による通知がポイントとなります。
同時期に複数の債権者が債権譲渡通知書を発送するケースもあるため迅速かつ確実に行動する必要があります。普段から専門の弁護士に相談できる体制を整えておくことをおすすめします。
当事務所は事業で生じた債権の回収に強い事務所であり実績も多数あります。
当事務所では、未収金が入金されてはじめて報酬が発生する成功報酬制です。
「着手金0円」、「請求実費0円」、「相談料0円」となっておりご相談いただきやすい体制を整えております。
※法的手続きやご依頼の状況により例外がございます。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。
少額債権(数千円単位)や債務者が行方不明など他事務所では難しい債権の回収も可能です。
「多額の未収債権の滞納があって処理に困っている」
「毎月一定額以上の未収金が継続的に発生している」
このような問題を抱えているのであればお気軽にご相談ください。