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工事代金は高額なことも多く未払いがあると経営に大きな影響を与えます。未払いの原因はいろいろありますが、契約書がないことがトラブルのもとになるケースが多くあります。
この記事では、工事代金の未払いについて契約書なしでも回収できるのか解説していきます。
工事代金未払いは契約書なしでも回収できる?
工事代金の未払いが生じた場合に契約書がなくても回収できるのかという問題があります。これは契約が成立しているのかという問題と、立証の問題に分けて考える必要があります。
契約は口頭やメールでも成立する
商品の売買やサービスの提供など一般的な契約は口頭でも成立します。ただし、特に重要な契約については法律によって書面でしなければ効力が生じないと規定されています。
例えば、保証契約は書面でしなければ効力が認められません。保証人は大きな責任を負うため保証の意思や責任の範囲を明確にする必要があるからです。
工事は請負契約ですが請負契約については契約書でしなければ効力が生じないとは規定されていません。そのため、注文主との間で約束をすれば口頭やメールであっても契約が成立することになります。
したがって、工事の約束をしたのであれば契約書なしでも未払いの工事代金を請求することができます。
※建設工事の請負契約の当事者は契約書を作成する義務があります(建設業法19条)。ただし、作成義務違反があったからといって契約が無効となるわけではありません。
<関連記事>建設業における売掛金とは?回収する方法をご紹介
契約書なしだと工事代金請求権の証明に手間がかかる
工事請負契約が成立しているかという問題と、契約を証明できるかという問題は別です。
契約書があれば、どのような内容の契約をしたかが明確であり署名や押印があることで注文主が契約をしたことも証明できます。
これに対し契約書がない場合には、注文主が「契約をした覚えはない」、「契約したが内容が違う」などと争ってきたときに、請負人が契約の存在や内容を立証することが難しくなります。
契約書なしのケースで工事代金請求権を証明する方法
契約書なしでも請負契約は成立しているため工事代金を請求することが可能です。あとは契約書以外の方法により契約した事実や工事代金額を証明する方法が問題となります。
メール・打ち合わせ資料なども証拠になる
証拠は特に制限はありません。書面、録音データ、証人など立証したい事実を推認できるものはすべて証拠となります。
工事請負代金を請求するためには、工事請負契約の存在や工事代金額を証明する必要があります。
契約書がなくても、注文主とのメールやFAXでのやりとりは重要な証拠となります。打ち合わせの際に受け取った資料や通話の録音データも契約があったことを推認することができます。
商法を根拠に報酬請求する
商法の規定を根拠に工事代金を請求する方法も考えられます。
商法512条は、商人が営業の範囲内で他人のために行為をしたときは相当な報酬を請求できると規定しています。
「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者のことです(商法4条1項)。そして会社が事業としてする行為は商行為とされます(会社法5条)。また個人であっても営業としてする作業又は労務の請負は商行為にあたります(商法502条5号)。
したがって、追加工事の発注などの際に契約書が作成されていなかったとしても商法512条を根拠に未払いの工事代金を請求できる可能性があります。
工事代金の支払いが拒否された場合の対処法
工事代金が未払いとなった場合には状況に応じて柔軟に対応することが必要です。基本的に自社で対応可能な方法を検討し、必要に応じて裁判所を利用した回収方法を検討するという流れになります。
工事代金が支払われるまで目的物の引き渡しをしない
工事の目的物を引き渡していないのであれば目的物の引き渡しを拒むことで、未払いの工事代金の支払いを促すことが考えられます。
法的な根拠としては、同時履行の抗弁権(民法533条)、留置権(民法295条1項)、商事留置権(商法521条)が考えられます。
同時履行の抗弁権とは、お互いに債務を負っている当事者は相手方が債務を履行するまで自分も債務を履行しないと主張できる権利のことです。工事請負の場合には目的物の引き渡しと報酬請求権が同時履行の関係にあるため、未払いの工事代金の支払いがなければ引き渡さないと主張することが考えられます。
留置権とは、他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済があるまで、その物の引き渡しを拒否できる権利のことです。
建物工事の場合
問題は建物工事の場合です。建物には敷地が必要ですが敷地は建物とは別の物であるため問題が生じるのです。
留置権は商法に特別な規定があり、商人間で双方のために商行為となる行為により生じた債権については債務者所有の物を留置できることになっています。つまり注文主も商人の場合には、敷地が債務者所有であれば留置できるように見えます。
ですが商事留置権が不動産にも適用されるのかについては見解が分かれています。否定説も有力ですが肯定説に立ち交渉することで工事代金を回収できる可能性があります。
工事代金の未払いを理由に目的物の引き渡しを拒否できるかについてはケースによって結論が異なる可能性があります。そのため工事代金の未払いがあったときには弁護士に相談しアドバイスに従うことが大切です。
工事請負契約を債務不履行により解除する
すべての工事が終わっていない場合には工事の続行を中止することで工事代金の未払いの影響を小さくすることも必要です。
債務不履行を理由に解除するには、注文主が破産した場合を除いて未払いの工事代金の支払いを催告する必要があります。相当な期間内に支払いがなければ解除可能です。解除しても工事が可分であり注文主が利益を受けていれば報酬を請求することができます。損害賠償請求できる可能性もあります。
法的手段を検討する
注文者が任意に未払いの工事代金を支払わないのであれば法的手段を検討することになります。
最終的には注文者の財産に強制執行をしていくことになりますが、そのためには債務名義というものが必要となります。
債務名義とは、私法上の請求権の存在と範囲を公証した文書のことで法律により強制執行できる力が与えられたものをいいます。確定判決書が代表例です。
そのため、通常は判決をもらうために訴訟を起こすことになります。
債務名義はほかにも「調停調書」など種類があります。詳しくは「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご覧ください。
未払いとなった工事代金を請求する手続き
工事代金が未払いとなった場合の請求の流れについて確認していきます。
内容証明郵便を送付する
通常の催促では効果がなかったときには内容証明郵便を送付することを検討します。内容証明郵便により催促した事実が証明されるため契約解除や仮差押えなどの手続きをする際に有利に働きます。配達した日時も重要であるため配達証明付きで送付します。
通常の郵便よりも注文主に与えるプレッシャーが大きくなるため支払いに応じてもらえることがあります。特に弁護士から送付すると効果的です。
<関連記事>内容証明郵便を出す方法や費用は?弁護士に依頼するメリットも解説
支払督促を申し立てる
支払督促とは、簡易裁判所に申し立てることで利用できる手続きで注文者に未払い工事代金の支払いを命じてもらうことができます。
注文主から異議が出されると訴訟に移行してしまうデメリットがありますが、異議が出される見込みが低いケースなどでは選択肢となります。
異議が出されなければ確定判決と同じ効果があるため注文者の財産を差し押さえていくことが可能です。
<関連記事>支払督促とは? 取引先にする場合のメリット・デメリット、手続きの流れを解説
訴訟を提起する
他の方法で未払いの工事代金を支払ってもらえないときには訴訟を提起することになります。契約書なしでも訴えることは可能です。
訴訟を起こしたからといって必ず判決で決着がつくわけではありません。途中で和解することも少なくありません。和解が成立した場合には相手が任意に支払ってくれることも多いですが、仮に支払いをしてくれないときには和解調書を利用して注文主の財産に強制執行することもできます。和解調書は確定判決と同様の効果があるからです。
<関連記事>債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説
強制執行を行う
裁判で勝ったとしても注文主が未払いの工事代金を支払ってくれるとは限りません。その場合には強制執行手続きにより財産を差し押さえていくことになります。
差し押さえ対象となる財産は、不動産や動産、債権が代表的です。預金や売掛金などの金銭債権も対象となります。
財産は裁判所が探してくれるわけではないため債権者の側で調査する必要があります。注文主の財産がなくなってしまうこともあるため訴訟の前に仮差押え手続きも検討することが必要です。
<関連記事>強制執行にかかる費用とは?裁判所に強制執行を申請する手順をご紹介
工事代金の未払いを回避する方法
事前に工事代金の未払いを予防する対策をとることも大切です。
契約書を作成する
契約書を作成することは工事代金の未払いを防ぐためにとても大切なことです。法的手続きをとる際に立証しやすくなるだけではなく、契約の内容が明確になるためトラブルを防ぐ効果があります。工事の内容や工事代金を明記しておけば争いの余地が減ることになります。
正確な見積書を作成する
事前説明の費用と異なる金額を請求すると工事代金の未払いにつながります。そのため、可能な限り見積書を実際の工事の内容ごとに正確に記載することが大切です。
前金などを払ってもらう
工事代金の未払いを防ぐ方法の一つとして着手金などとして一部を前払いしてもらう方法が考えられます。工事代金が高額になるケースでは工事の段階に応じて支払いをするように契約書に記載しておくことが有効です。
災害などの際の取り決めを作る
請負工事においては天候や災害により工事の進行が左右されることがあります。工事が遅れたり追加の費用が必要になったりした際にだれがどのような負担をするのかを契約書に明記しておくことでトラブルを防ぐことが大切です。
連帯保証人をつけてもらう
工事代金が高額な場合には支払いを確実にしてもらうために連帯保証人を立ててもらうことも有効です。注文者の支払いが未払いになったとしても連帯保証人に支払いを請求できるからです。
<関連記事>担保による売掛金回収の方法を徹底解説
契約書がない工事代金の回収を弁護士に依頼するメリット
工事代金が未払いになった際に契約書がないからといってあきらめる必要はありません。弁護士に相談することで未払いの工事代金を回収できる可能性があります。
最適な方法で回収ができる
未払いの工事代金の回収方法にはいくつも種類があります。ケースによって最適な方法は異なります。不適切な方法では回収に失敗することもあります。
例えば、支払督促を利用したところ注文主から異議を申し立てられて遠方の裁判所で裁判になることがあります。支払督促に異議を申し立てられると訴訟に移行しますが債務者の住所地を管轄する裁判所で争うことになります。
これに対し、普通に訴訟を起こすときには債権者の住所地を管轄する裁判所に申し立てることができます。そのため異議が出される可能性が高いときには、はじめから訴訟を検討した方が適切なこともあります。
弁護士であれば未払いの状況に応じて適切な回収方法を選択することができます。
回収の手続きをすべて委ねることができる
相手方との交渉など弁護士が未払いの工事代金の回収手続きを代理するため、回収業務に煩わされなくなります。工事代金の回収ができるか不安になるかと思いますが専門の弁護士に任せることで心理的なストレスも軽減されると思います。
法的な手続きを代理してもらえる
請負人が自力で法的な手続きを行うことは簡単ではありません。例えば、訴訟を行う前提として必要な仮差押え手続きや、勝訴した後の強制執行手続きも知識と経験が必要となります。訴訟においても契約書がない状態で立証活動をする必要がありますが適切な証拠を提出することは容易ではありません。
専門の弁護士であれば効率よく迅速に未払いの工事代金の回収が可能です。
<関連記事>顧問弁護士の費用・顧問料相場と顧問弁護士を雇うメリットを解説
まとめ
・工事請負契約は契約書なしでも成立します。口約束やメールでも構いません。契約書がないときには打合せ資料などをもとに証明していきます。商法に基づいて報酬請求をする方法もあります。
・工事代金の未払いが生じた場合、目的物の引き渡しを拒むことで交渉を有利にできることがあります。ただし、特に建物工事など法的な問題が多いため弁護士の指示に従ってください。
・内容証明郵便や支払督促、訴訟など状況に応じて適切な手段をとることが大切です。最終的には強制執行により工事代金を回収していきます。
・工事代金の未払いを予防するには適切な契約書を作成することが大切です。
工事代金の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
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工事請負契約は契約書なしでも成立します。契約書がない場合には工事請負契約を他の証拠によって証明する必要があります。メールやFAX、打合せ資料などを基に回収できる可能性があります。
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