大家さんの都合で立ち退きを求める際には立ち退き料が必要となるケースが多くなります。立ち退き料は物件の用途によって大きく異なります。また必ず必要というわけでもありません。

この記事では、立ち退き料の法的な根拠や内訳などを解説していきます。

 

立ち退き料とは

立ち退き料とは、賃借人に物件から立ち退いてもらう場合に賃貸人から賃借人に対して支払われる補償金のことです。立ち退きを求める際には契約期間が満了するだけでは足りず立ち退きを求める正当な事由が必要とされます。立ち退き料は正当事由を補完する事情とされています。賃借人は立ち退きによって移転費用や営業上の損失などが発生するため賃貸人の都合だけでは正当事由が認められにくく立ち退きを求める際には立ち退き料が重要な役割を果たしています。

 

立ち退き料の法的根拠

立ち退き料は退去交渉を進める際に有効な手段となりますが法的にも根拠があります。建物所有目的の地上権・土地賃借権(借地権)や建物賃貸借については借地借家法という法律が関係しますが、借地借家法6条と28条に立ち退き料について書かれています。この条文に書いてある「財産上の給付」が立ち退き料のことです。

 

借地借家法28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

建物の賃貸人による第26条第1項(更新拒絶)の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

※借地権については第6条に同様の規定があります。

 

つまり立ち退きを求めるには正当な事由が必要であり、それを判断するのに立ち退き料も考慮されるという意味です。

 

立ち退き料が不要な場合

立ち退き料が不要なケースもあります。

 

契約違反による解除

長期の賃料滞納など信頼関係を破壊するほどの重大な契約違反による契約解除(民法541条~)の場合には正当事由や立ち退き料は不要です。借地借家法28条における「解約の申入れ」というのは賃貸期間を定めていなかった場合や契約で中途解約を認めている場合の話です(借地借家法27条、民法617条、618条)。

 

定期借家契約等

また定期建物賃貸借(借地借家法38条)、取り壊し予定の建物賃貸借(同法39条)、一時使用目的の建物賃貸借(同法40条)は所定時に契約が終了するので正当事由も立ち退き料も不要です。借地権についても定期借地権(同法23条)、一時使用目的(同法25条)など立ち退き料が不要なケースがあります。また建物所有目的以外の土地賃貸借は借地借家法の対象ではありません。

 

立ち退き要請できる正当事由

立ち退きを求める際に必要な正当事由について説明していきます。建物賃貸借のケースで説明します。

 

契約期間満了

基本的に立ち退きしてもらう機会は賃貸借契約期間が満了するときです。建物の場合期間満了の1年前~6か月前までの間に更新拒絶通知をしなければ契約が更新されます。更新拒絶通知をする際に正当事由が必要となります。契約期間を定めていなかったときや契約で中途解約権を認めている際の解約申し入れをする際にも正当事由が必要です。期間満了自体が正当事由となるわけではありません。

ただし、定期借家契約(借地借家法38条)であれば正当事由は不要であり立ち退き料もいりません。

 

借主の契約違反や問題行動

借主の契約違反や問題行動も正当事由になりえます。契約違反の程度が重く信頼関係を破壊する程度のものであれば正当事由や立ち退き料不要で契約を解除することができます。しかしそこまでに至らない契約違反や問題行動の場合には更新拒絶等の際に正当事由が問題となります。例えば、近隣から苦情が相次いていたり他の入居者が出て行ってしまっていたりするのであれば正当事由を支える事情となります。

 

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建物の老朽化

正当事由の判断材料の一つとして「建物の現況」も重要なものです。建物に倒壊の恐れがあるなど危険性があるときには建て替えなどを考えなければならず立ち退きを求める正当な事由となりうるからです。例えば、わずかな地震でも崩れてしまう恐れがあったり、修繕では対応が難しいほど老朽化が進んでいたりするのであれば正当化事由を支える事情となります。

 

土地・建物の使用目的

立ち退きの後にどのように物件を使用していくのかも正当化事由を判断する要素です。立ち退きを求める正当な事由があるというためには、賃貸人と賃借人双方が物件を必要とする理由の重さが重要となります。例えば、賃料収入がわずかしか得られないため再開発により高い収益性が見込める計画があるときは正当事由を支える有利な事情といえます。

 

自己使用

自分や家族が物件を使用したい場合にも正当事由になりえます。ただし単に物件を使用したいというだけでは足りず、あくまでも賃借人が物件を利用したい事情などさまざまな要素を加味して正当事由があるか判断されることになります。例えば、家族の介護のため同居するのに必要であったり、経済的事情や仕事の都合などでその物件がどうしても必要であったりすれば正当な事由として認められやすくなります。

 

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立ち退き料の内訳

賃借人に契約違反などの責任があるケースを除いて立ち退きには多くの場合立ち退き料が必要となります。立ち退きを求める際に必要な正当な事由を補完するためです。立ち退き料の基本的な考え方は立ち退きに伴う損失補償です。借家権価格(借地権価格)を算定に用いる方法もあります。最終的には裁判官の裁量によって決まるため絶対的な算定方法があるわけではありません。

 

引っ越し・移転費用

立ち退きによって借主は移転を余儀なくされるため引っ越し費用がかかります。荷物の量や移転先までの距離、移転する時期などによって金額は変わります。アパートの立ち退きと大型の店舗として利用していた場合とでは費用に大きな差が出ます。

 

不動産会社への仲介手数料・礼金

移転に伴う費用は引っ越し代だけではありません。不動産を契約する際には仲介業者への手数料や礼金などがかかるため立ち退き料の算定の際に考慮されます。敷金は返還されるので基本的に考慮しません。

 

家賃の差額

同等の転居先であっても現在よりも家賃が高額となることがあります。家賃の差額も借主に不利となるため立ち退き料に含まれます。補償期間は2年程度が一般的です。

 

借家権の補償

借家権(借地権)にも経済的価値があるとして立ち退き料の算定の基礎にしたり含めたりする考え方もあります。

 

<借家権算定方法(割合方式)>

借地権価格=更地価格×借地権割合※1

借家権価格=借地権価格×借家権割合(30%)+(建物価格×借家兼割合(30%)※2)

※1国税庁の路線価図で確認できる。地域により異なるが60%前後が多い。借家権割合は30%が多い。

※2築年の経過した建物の価値は低いため含めないこともある。

 

借家権価格として算定された金額が直ちに立ち退き料になるわけではありません。借家権割合方式には異論もあり否定する裁判例もあります。

 

利益の補償

物件を店舗などとして利用していたときには営業上の損失も立ち退き料として考慮されます。顧客を失うことへの補償、休業中の損失、顧客獲得のための広告費などがあります。

 

ケース別立ち退き料の相場

立ち退き料は具体的な状況によって大きく変わります。算定方式も確立されておらず裁判官によっても変わります。しかし住居や店舗など種類による傾向は参考となります。

 

賃貸アパート・マンション

賃貸マンションに関しては、引っ越し費用、不動産仲介料、家賃差額分が立退料として考えられます。

 

立退料の内訳

引越し費用、不動産仲介料、礼金、家賃差額分等

立退料の傾向

数十万円~200万円程度

 

店舗

店舗として利用されている場合には営業上の損失が発生するため住居よりも立ち退き料が高くなります。店舗の立ち退き料は営業損失によって変わるためケースによって大きく異なります。

 

立退料の内訳

引越し費用、不動産仲介料、礼金、家賃差額分、営業上の損失、新規開店費用等

立退料の傾向

1,000万円~1億円

 

事務所

事務所に関しては店舗と比較すると常連客が離れてしまうリスクは低いですが、面積が広いことが多いため住居よりも立ち退き料は高額となる傾向があります。

 

立退料の内訳

引越し費用、不動産仲介料、礼金、家賃差額分、営業上の損失等

立退料の傾向

600万円~3,000万円

 

駐車場・倉庫

立ち退き料が必要となる法的な根拠は借地借家法にあります。借地借家法の対象となるのは建物賃貸借または建物所有を目的とする土地賃貸借(と地上権)です。そのため更地を青空駐車場として賃貸していたときには立ち退き料は不要です。

賃貸物件が「建物」に当たれば借地借家法の対象となる点には注意が必要です。つまり「建物」を駐車場などとして貸したのであれば立退料の問題が生じます。しかし建物の中の一部(駐車スペース等)については周壁等によって他の部分と区別され独占的排他的支配が可能な状態でなければ独立した「建物」とはいえず立ち退き料は不要です。

 

建物としての駐車場・倉庫の立ち退き料は事業規模などによって大きく異なります。大規模な倉庫や駐車場は代替物件が見つけづらいことや事業と密接に関係しているため場所が制限されるなどの特徴があります。

 

<倉庫・駐車場建物の立退料>

立退料の内訳

引越し費用、不動産仲介料、礼金、家賃差額分、営業上の損失等

立退料の傾向

数十万円~数千万円(事業の内容や規模によって大きく異なる)

 

※立ち退きの要件や手続きは建物と土地などケースによって違いがあります。また平成4年7月31日以前に結ばれた契約は旧法が適用され取り扱いが異なることがあります。詳しくは弁護士にご相談ください。

 

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まとめ

・立ち退き料とは、立ち退きを求める際に必要な正当事由を補完するために貸主から借主に対し支払われる補償金です。

・立ち退き料の法的な根拠は借地借家法6条と28条にあります。立ち退き料が不要なケースもあります。

・立ち退き料は引っ越し費用や不動産仲介料、営業補償などを考慮して算出します。

立ち退き料の算定方法は確立されておらずケースによって金額が大きく変わるため専門の弁護士に相談することが大切です。

 

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