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賃貸している物件を大家さん自身が使いたかったり賃借人に問題行動があったりするときには立ち退きを検討することになります。しかし通常の不動産賃貸借では借地借家法により賃借人が強力に保護されており簡単には立ち退きは実現できません。
この記事では、借地借家法が適用されることを前提に立ち退きに必要な正当事由や手続きについて解説します。
立ち退きとは
立ち退きとは、不動産の権利者からの求めによって土地や建物を使用している人に物件から退去してもらうことです。通常は建物や土地を貸している場合に賃貸借契約を解約したり更新を拒絶したりして賃借人に出て行ってもらう場合を指します。
注意したいポイントは「家賃滞納などの契約違反による解除」と「それ以外の立ち退き」の場合とで法的な意味が違うことです。この記事では契約違反以外の建物立ち退きを中心に解説します。
契約違反による明け渡しについては、「明け渡し訴訟とは?検討した方が良いケースや手順を解説」をご覧ください。
立ち退きにおける正当事由
立ち退きには原則として正当事由が必要とされます。重大な契約違反を理由として賃貸借契約を解除する場合には正当事由はいりませんが、契約期間満了による更新拒絶や契約等に基づく解約(借地借家法27条、民法617条、618条)をする際には原則として正当事由が求められます。正当事由の有無を判断する考慮事情は次のようなものです(借地借家法6条、28条)。
・賃貸人及び賃借人が物件の使用を必要とする事情 ・物件の賃貸借に関する従前の経過 ・物件の利用状況 ・建物の現況 ・立ち退き料の有無、金額等 |
契約期間満了
通常の建物賃貸借契約では賃貸借の契約期間が満了したとしても賃貸人は当然には契約の更新を拒絶することができません。賃貸人からの更新拒絶には正当な事由が必要だからです(借地借家法28条)。賃貸人から解約申し入れをする際も同様です。
定期建物賃貸借(同法38条)の場合には期間満了により契約は確定的に終了するため正当事由は不要です。この場合には一定の通知をすれば正当事由なく立ち退きを実現できることになります。また取り壊し予定の建物賃貸借(同法39条)や、一時使用目的の建物賃貸借(同法40条)の場合にも所定時に賃貸借が終了するため正当事由は不要です。
借主の問題行動
賃借人の問題行動が賃貸借契約に違反しており債務不履行(契約違反)による契約解除が可能なケースであれば正当事由は不要です。しかし契約違反による建物賃貸借契約の解除には信頼関係の破壊が要件となっています。賃借人の問題行動が信頼関係を破壊する程度のものでないときには債務不履行解除はできませんが、更新拒絶や解約する際の要件である正当事由を支える事情とはなります。
正当事由になりうるものとしては以下のようなものが考えられます。
・賃借人の言動により周辺住民から苦情が多く寄せられている ・賃借人の問題行動により入居者が減っている |
建物の老朽化
建物の老朽化も正当事由を支える事情の一つになります。もっとも建物が古くなっているだけでは正当な事由があるとはいえません。建物が古いからといって危険であるとは限りませんし修繕によって十分維持できることもあるからです。建物の老朽化を理由とした正当事由としては以下のようなものが考えられます。
・耐震性能が低く地震による倒壊の可能性が高い ・老朽化による損耗が激しく応急的な修繕では安全性を確保できない |
土地・建物の使用目的
正当事由を判断する際に特に重要なものが土地や建物を必要とする理由です。この理由は賃貸人の事情だけではなく賃借人が物件を必要とする理由も併せて考える必要があります。賃借人としては住居に使っていたり店舗として営業していたり現に利用しているため立ち退き後の使用目的は正当事由を判断する際に重要となります。正当事由に当たりうる使用目的には以下のようなものが考えられます。
・木造アパートを立て替えて収益性の高い高層ビルにする ・家族の療養介護のためにどうしても必要 |
自己使用
立ち退き後の使用目的が賃貸人による自己使用の場合にも正当事由として認められることがあります。もちろん賃借人が物件を必要とする事情など諸般の事情を総合的にみて判断されますが、賃貸人自身が物件を必要とする理由が賃借人の物件を必要とする理由よりも大きければ正当事由として認められやすくなります。例えば賃貸人に下記のような事情があれば正当事由があると認められやすくなります。
・家族の療養介護のために他に適当な住居が見当たらない ・経済的に厳しく他に住めるところが見つからない ・物件が通院している病院に近く他に適当な住居がない |
正当事由は当事者による物件の必要性の軽重だけで決まるわけではありません。建物の安全性や借主の問題行動などはもちろん立ち退き料も重要な判断要素となります。正当事由が弱い場合には立ち退き料で補強していくことなります。ただし立ち退き料は他の正当事由を補完するものに過ぎないため立ち退き料を支払ったからといって当然に正当事由が認められるわけではありません。
立ち退き手続きの流れ
正当事由を理由とした更新拒絶や解約による立ち退き手続きの流れを見ていきます。アパートの立ち退きのケースで解説します。
立ち退きの通知
契約更新を拒絶するには期間満了の1年前~6か月前までの間に立ち退きを求める通知をすることが必要です(借地借家法26条1項)。期間内に通知しないと更新したものとみなされます。期間の定めがないときには解約申し入れの日から6か月経過により終了します(同法27条、民法617条)。通知の方法は特に規定はありませんが期間を明確にするために書面で行います。更新拒絶や解約の意思表示がなされたという事実と日付を証拠として残すために配達証明付き内容証明郵便を利用した方がいいでしょう。
ただし相手方との関係によっては内容証明での通知の前に立ち退きについての意向を伝えておいた方がいいかもしれません。感情的に反発されてしまい交渉がこじれることもあるからです。書面は相手方にとっても証拠となるため不用意なことを記載しないようにします。
<関連記事>内容証明郵便を出す方法や費用は?弁護士に依頼するメリットも解説
立ち退きの交渉
書面での立ち退き通知は更新拒絶等の要件ですので交渉の行方にかかわらず必要なものです。しかし立ち退きをうまくいかせるためには話し合いが重要となります。誠意をもって話し合うことで無用なトラブルを避け立ち退きがスムーズにいきやすくなります。お互いの物件を必要とする理由など正当事由の有無について事情を話し合います。他の事情だけでは正当事由が不十分な場合には立ち退き料についても交渉することになります。
退去の手続き
立ち退きに合意してもらえたらいつどのような条件で立ち退くかを明記した書面を作成し署名押印をもらうようにします。合意書の内容に基づき立ち退きを進めていきます。
立ち退き交渉が決裂した場合
当事者の話し合いで解決できなかったときは裁判所を利用した手続きを検討します。一般的には訴訟か調停手続きを利用することになります。調停手続きは原則簡易裁判所に申し立てをして裁判官や調停委員に間に入ってもらい話し合う手続きです。調停がうまくいかなかったときや話し合いで解決できる見込みがないときには訴訟が選択肢となります。訴訟では正当事由の有無が争われることになります。立ち退き料の提示額も重要なポイントとなります。勝訴して立ち退きが命じられても自分から退去してくれないときには強制執行も行います。
長期の家賃滞納などによる債務不履行解除や強制執行については、「アパートの強制退去の流れとその注意点、費用についての詳しく解説」をご参照ください。
立ち退き交渉を弁護士に頼むメリット
立ち退きについて弁護士に依頼するメリットには以下のようなものがあります。
正当事由を効果的に主張できる
立ち退きの成否は正当事由の有無に左右されます。賃貸人側に有利な事情を効果的に主張することで交渉を有利に進めることが期待できます。
交渉を一任できる
立ち退きの交渉は時間や労力だけでなくストレスもかかります。賃借人が感情的に反発することもあるため話し合いは簡単ではありません。知識や経験をもち交渉に慣れている弁護士に依頼することで労力や時間、精神的な負担が軽減されます。
法律に基づいた適切な対応ができる
更新拒絶や解約通知、契約違反による解除は法律上の要件を満たさなければ効果が生じません。弁護士であれば法律上の根拠に基づき交渉、各種通知を行うことが可能です。
※立ち退きの要件や手続きは建物と土地などケースによって違いがあります。また平成4年7月31日以前に結ばれた契約は旧法が適用され取り扱いが異なることがあります。詳しくは弁護士にご相談ください。
まとめ
・立ち退きとは、不動産の賃借人に対して物件から出て行ってもらうことです。
・立ち退きは、「重大な契約違反による契約解除」と、それ以外の「契約更新拒絶・解約」に分けて考えることがポイントです。
・通常の建物賃貸借契約では契約期間が満了しても当然には更新拒絶はできず立ち退きを求めるには正当事由が必要です。
・正当事由の有無は、賃貸人と賃借人双方が物件を必要とする理由などが総合的に考慮されます。立ち退き料の有無や金額も正当事由を補完する事情となります。
・立ち退きは更新拒絶等の通知をすることが必要ですが交渉によって進めることが基本です。
・立ち退き交渉がうまくいかないときは調停や裁判をすることになります。
立ち退きでお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
当事務所は不動産法務に力を入れています。賃借人による契約違反に基づく明け渡しなど適切に対応することが可能です。家賃滞納など不動産トラブルでお悩みの方はお気軽にご相談ください。