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訪日外国人の増加により外国人の医療費未払い対策が喫緊の課題となっています。言葉や習慣の違いなど特有の問題があるため意識して体制を構築しないとトラブルが生じやすくなります。外国人患者の受け入れ態勢を整えることで医療費未払いを防げる可能性が高まります。
この記事では、外国人の医療費未払いの理由や対策について解説します。
外国人の医療費未払い問題とは
外国人の医療費未払い問題は、住所が外国にあったり文化の違いがあったり言葉が通じなかったりなどの理由により、日本人に対する医療費回収とは異なる面があります。在留外国人の増加や旅行、医療目的で訪日する外国人の増加により医療機関の負担が大きくなっています。
そのような事情もあり厚生労働省は外国人患者による医療費未払いの発生状況について毎年調査を行い、結果を「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果報告書」として公表しています。
令和6年3月に公表された報告書及び概要版によると、2023年9月1日から30日までの期間において外国人患者の受け入れがあった2813病院のうち、516病院について外国人患者の未収金が報告されています。外国人患者の受け入れ報告のあった病院の18.3%に当たります。未払い金が発生した病院の平均未払い件数は平均3.9件、総額が平均49.6万円となっています。1件あたりの未払い金額の大半は5万円以下ですが1800万円以上のケースも報告されています。
外国人の場合には日本の健康保険に加入していないことも多いため医療費の未払いがあると日本人の医療費未払いよりも影響が大きくなりがちです。
日本における外国人の医療制度
外国人の医療費に関しては健康保険への加入の有無によって自己負担額が変わってきます。収入の有無や程度、留学生であるか、短期滞在者であるかによって公的保険の加入義務や任意保険の利用などが異なります。
日本の公的医療保険
日本での滞在期間が長くなれば疾病等に罹患する可能性が高くなり医療機関にかかる可能性も高くなります。もし健康保険に加入していなければ全額自己負担となり未払いが発生しやすくなります。
外国人であっても一定の場合には健康保険に加入する義務があります。原則として在留期間が3か月を超える人は外国人であっても国民健康保険等の日本の公的な健康保険に加入する必要があります。これらの保険に加入することで日本人と同じように医療費の自己負担額が減り未払いのリスクが軽減されることになります。
留学生について
留学生についても在留期間が3か月を超える人は日本の健康保険に加入することになっています。国民健康保険料は前年の収入をもとに計算されます。収入が少ない場合には軽減措置を受けられることがありますが所得の申告が必要です。また、大学によっては独自に外国人留学生向けの補助金制度を設けていることもあります。
短期滞在者
旅行客など短期滞在する外国人については日本の健康保険に加入していないため医療費はすべて自己負担となります。ただし、外国人旅行者が旅行保険に加入していることもあります。もっとも外国人患者が旅行保険に加入していたとしても安心はできません。保険にも種類があり、①外国人患者自身が全額支払いその後保険会社に請求するもの、②保険会社や医療アシスタンス会社が医療費の立て替え払いをするものに大別できます。前者は患者自身に支払ってもらう必要がありますし、後者については補償限度額に注意が必要です。
外国人の医療費未払いが生じる3つの理由
外国人による医療費未払いの特徴は以下の3点にまとめることが可能です。未払いの理由に応じて対策を検討することが必要です。
支払能力がない
外国人患者に限らず患者の未払いの問題として多くある理由が支払い能力の問題です。特に外国人の場合には留学中であったり不法滞在であったりなどの理由により収入がないケースが多くあります。また旅行者など健康保険に加入していないケースも多いため自由診療となり医療費が高額となりやすく未払いの要因となります。旅行者は現金の持ち合わせがないこともあります。
支払う意思がない
外国人患者の場合には自由診療のため医療費が高額になることから支払いを拒否するケースが多くあります。特に旅行者の場合には出国してしまえば回収が難しくなるため意図的な医療費未払いが起こりやすくなります。このような場合に備えてデポジット(預り金)や入院患者の場合には定期的に支払いを求めるなどの対策が必要となります。
支払能力はあるが支払えない
外国人患者による医療費未払いの特徴として、「支払いたくても支払えない」というケースがあります。支払いたくても言葉の壁により支払い方法が理解できなかったり、旅行者の場合には時間的な制限があったりするためです。日本と医療制度が大きく異なる国も多いためコミュニケーションが重要となります。
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外国人の医療費未払いへの対策
外国人による医療費未払いへの対応策としては以下のような方法が考えられます。
キャッシュレス決済に対応する
外国人患者の医療費未払いの要因として自由診療になりやすいことや旅行者のため高額な現金を持ち合わせていないことがあげられます。また日本と異なり現金決済が一般的でないことも要因です。そのためクレジットカードなどキャッシュレス決済に対応することが医療費未払いを防ぐ有効な手段となります。日本では手数料等の問題からキャッシュレス対応をしていない医療機関も多いため未対応の病院等では導入を検討することも重要です。この対策は日本人の急患等の医療費未払いにも有効と考えられます。
ただし、キャッシュレス決済には利用上限額が決まっているため他の医療費未払い対策と組み合わせる必要があります。例えば日本に家族がいる場合には連帯保証人を立ててもらうことも有効です。
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自動翻訳機など通訳体制の整備
外国人患者による医療費未払いの大きな要因がコミュニケーション不足にあります。医療費制度が異なるうえに言葉が通じないためトラブルが生じやすくなります。通訳方法にもいろいろあり医療通訳可能な専門技能を備えた人による通訳が理想的といえます。ですが現実的には専門の通訳医療スタッフを雇う余裕のない医療機関も多く、言語も多様化しているため限界があります。
そのため電話医療通訳サービスや翻訳デバイスを利用した方法などが普及してきています。翻訳デバイスはコストが少ないメリットがあり利用が増えていますが誤訳に気づきにくいというリスクがあるため運用面での注意が必要です。
言葉が通じることによってはじめて医療費の説明をすることが可能となります。事前に治療内容とかかる医療費について説明し同意を得ておくことが大切です。
パスポートをコピーしておく
外国人患者の場合健康保険証での身分確認ができないことが多くあります。その場合パスポート等の身分証明書の提示を求めてコピーをとらせてもらい身元を確認することが有効です。パスポートがない場合には本国の身分証明書やクレジットカードの確認などできるだけ多くその人の情報を集めるようにします。身元を確認しておくことで医療費の未払いをけん制することができます。外国人患者が医療費未払いを発生させると入国審査が厳格化されます。
弁護士に相談
外国人患者による医療費未払いへの対応は医療機関全体の体制に関わります。外国人患者に限らず医療費未払いへの対策は問題が発生する前にいつでも対応できる体制を整えておくことが必要です。
通訳体制の整備や身元確認の方法、入院時の対応(宗教上の配慮等)や説明資料の作成、デポジット(保証金)制の採用、旅行保険会社や医療アシスタンス会社への対応、在留外国人の場合には債権回収をいつ、どのように行うかなど多岐にわたります。
このような病院経営上重要な体制づくりをするには顧問弁護士に相談することが大切です。
<関連記事>顧問弁護士とは?役割や弁護士との違いを解説
まとめ
・外国人の医療費未払い問題は、言語、文化、海外居住などの特徴があります。
・外国人であっても在留期間が3か月を超える場合には原則として日本の健康保険に加入する必要があります。健康保険は収入によって保険料が異なり留学生など収入が少ない場合には軽減措置があります。
・旅行客など短期滞在の外国人については医療費が全額自己負担となるため未払いが生じやすくなります。旅行保険に加入しているか受診時に確認することが必要です。
・外国人の医療費未払いの理由の一つに「支払いたくても支払えない」ことがあります。通訳体制を整えることで改善が期待できます。
・外国人患者はクレジットカード払いを希望することが多いため決済手段を多様化することも効果的です。
・外国人に限らず医療費未払い対策は顧問弁護士に相談して進めていくことをおすすめします。
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