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支払督促は裁判所を利用した強力な債権の回収手続きです。
電話や手紙などを利用した一般的な督促とは異なるものです。
相手の財産を差し押さえることも可能ですし、自分から支払いに応じてくれることもあります。
この記事では、支払督促の基本からメリットやデメリット、手続きの流れなどについて解説します。
支払督促とは
支払督促とは、簡易裁判所の書記官に金銭やその他の代替物の支払いを相手に命じてもらう手続きのことです。お金や有価証券などの支払いに限られており不動産の明け渡しなどに使うことはできません。
貸したお金や売掛金がある場合に支払期日になっても支払いがないときには催促をしますが、電話やメール、郵便などの方法には強制力がありません。
支払督促には相手の財産に強制執行できる力があります。
相手が支払わなければ訴訟を起こさなくても財産を差し押さえることが可能となるのです。
そのため、相手に与える心理的なプレッシャーも大きいことから自分から支払いに応じてくれることもあります。
支払督促のメリット
一般的な催促や訴訟などと比較した場合のメリットについて見ていきます。
オンラインでの申立てが可能
インターネット上から手続きを行うこともできます(督促オンラインシステム)。
ただし、利用できるのは貸金、売買代金、保証求償金などに制限されており、賃料や請負代金、給料、損害賠償などには利用できません。
また、前もって電子署名を取得しておく必要があったり債権者登録をしたりするなど事前準備が必要です。
このシステムを利用すると手数料や郵送料をATMやネットバンキングで支払うことができるため収入印紙や切手などが不要となります。
強制執行ができる
相手の財産を差し押さえて強制的に債権の回収を行うには「債務名義」と呼ばれる権利を公証した文書が必要となります。例えば確定判決や和解調書が「債務名義」です。
支払督促によっても債務名義を取得可能です。支払督促を受けたのに異議を出さなかったときは仮執行宣言というものを付けてもらうことができます。この「仮執行宣言付支払督促」も債務名義とされているため強制執行できるのです。
<関連記事>債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説
費用が安く済む
訴訟になると費用も時間もそれなりにかかりますが支払督促では大きく減らすことができます。
費用については訴訟の半分です。
期間については訴訟となった場合には少なくとも数か月はかかるところ、特に問題がなければ2か月もかからずに問題が解決できることもあります。
裁判所に出向く必要もないため労力も少なくてすみます。証拠を提出することも不要です。申立書に必要な事項を記載して費用とともに申し込むことで開始してもらえるためとても簡易な手続きといえます。
支払督促のデメリット
デメリットは相手から異議が出されると訴訟になることです。その方法も単に異議がある旨の書面を返送するだけです。そのため争いのあるケースには向いていません。
時間と手間のかかる訴訟を避けようとしたのにかえって時間と手間がかかるおそれがあります。
特に気をつけなければならないのは訴訟をどの裁判所で行うかという点です。
支払督促に異議が出されると相手の住所地を管轄する裁判所で訴訟を行うことになります。
普通の訴訟であれば債権者の住所地の裁判所ですることもできます。
ところが支払督促を利用したことで遠いところで訴訟を行わなくてはならなくなるおそれがあるのです。訴訟をどうしても避けたい場合には訴えの取下げをすることは可能です。
相手の住所がわからない場合には支払督促を利用できない点にも注意が必要です。
これに対し訴訟であれば相手の所在が不明でも利用可能です。
<関連記事>音信不通の相手から債権回収する方法と注意点を詳しく解説
支払督促の流れ
手続きは大きく2つの段階に別れており、支払督促そのもの、その後仮執行宣言の付与へと進んでいきます。
※オンラインシステムを利用するときには一部手続きが異なります。
1.支払督促申立書を簡易裁判所に提出する
支払督促の利用には申立書が必要になります。
必要な書面は簡易裁判所に行けばもらうことができます。裁判所のホームページにも専用のテンプレートが用意されているためダウンロードして印刷することもできます(申立書の書式)。裁判所によって手続きが異なることがあるため各裁判所の取り扱いについてもチェックすることが必要です(東京簡裁の場合)。
手続きをとる裁判所は法律で決まっており債務者の住所地を管轄する簡易裁判所が原則です。
申立書には記載すべきことが決まっています。
「請求の趣旨」は、相手にどうしてほしいのかを簡潔に記載するという意味です。
「請求の原因」は、請求する根拠となる契約などを記載します。
ポイントは簡潔に支払ってもらいたい金額を示し、根拠となる契約などを年月日や種類を示すことで特定することです。同じ当事者間で似たような契約を複数していることがあるため他の契約と区別がつくように記載することが必要です。
遅延損害金を請求することもできるため必要に応じて記載します。
手数料は収入印紙で収めますので郵便局などであらかじめ用意しておきます。
金額については債権額によって変わります。具体的な金額については裁判所のホームページから調べることができます。
ほかに債務者に書類を届けるために切手の納付も必要です。必要な金額はケースによって異なることがあります。
会社などの法人が手続きをするときは登記事項証明書を添付する必要があります。相手が法人の場合には相手方の登記事項証明書も必要です。代表者の権限を証明する必要があるためです。
その他、封筒やハガキなどが必要となります。裁判所によって運用が異なることがあるため事前に確認してください。
提出方法は直接持ち込むほかに郵便でもできます。
2.裁判所が相手方に支払督促を送る
申立書を提出すると書記官により書類等に不備がないかどうかチェックされます。
何らかの不備があると補正するよう連絡を受けることになります。補正できない場合には却下されます。
特に何もなければ債務者に必要書類が送付されます。債権者には手続きを行ったことを知らせる書類が送られてきます。
この際、債務者の言い分などを聞くことは一切せずに純粋に債権者の提出した書類のみに基づいて実施されます。
相手が異議を出すと訴訟に移行します。
3.仮執行宣言の申立てを行う
債務者に支払督促が送達されてから2週間以内に異議が出されなければ申立てをした債権者は仮執行宣言を求めることができます。
支払督促は仮執行宣言が付されることではじめて債務名義となるため強制執行をするために不可欠な手続きです。
仮執行宣言の申立ては、相手が必要書類の送達を受けた日から2週間経過後、30日以内にしなければならないとされています。
申立ては前回と同じ簡易裁判所(の書記官)に対して行います。
申立書の書式については直接もらいに行くかWEBページからダウンロードします。
収入印紙は不要ですが郵便切手や封筒などが必要となります。詳しくは書式の記載例を確認してください。
仮執行宣言がつけられると強制執行が可能となります。
相手のめぼしい財産を見つけて競売などにより換価していくことが可能です。
財産の調査は難しいため弁護士に相談することをおすすめします。
<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説
4.仮執行宣言付き支払督促の送達を行う
特に問題がなければ支払督促に仮執行宣言が付けられ相手方と申立人に送達されます。
5.強制執行が可能になる
仮執行宣言付支払督促が相手に送達されると強制執行することができます。
※仮執行宣言付支払督促が送達された日から2週間以内に異議が出されないときには確定判決と同一の効力が生じることになっています。そのため、2週間経過しないと強制執行できないと誤解されるかもしれませんが「仮執行宣言付支払督促」自体が債務名義であるため送達により強制執行可能です。
6.異議が出れば通常訴訟に移行
相手方は仮執行宣言付支払督促が送達されても2週間以内であれば異議を申し立てることができます。この場合も通常訴訟に移行します。
仮執行宣言前の異議であれば強制執行することができなくなりますが、仮執行宣言後であれば異議があっても強制執行が可能です。相手方が強制執行を止めるには執行停止の裁判をする必要があります。
<関連記事>売掛金回収のための法的手段とは?具体的な手順を解説
まとめ
・支払督促は裁判所書記官から相手方に支払いを命じてもらう制度です。書類審査のみで利用でき異議が出されなければ相手の財産を差し押さえることもできます。
・手数料は訴訟の半額です。
・異議が出されると訴訟に移行します。その場合の訴訟は相手の住所地を管轄する裁判所で行います。通常の訴訟であれば債権者の住所地で裁判をすることも可能です。
・インターネットを利用して手続きをすることも可能です。
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