目次
はじめに
ポイント1~債権を管理回収する業者(サービサー)とは
ポイント2~国から許可を受けるための条件
ポイント3~取り扱うことのできる債権の範囲
ポイント4~正規の業者か見極める
概要
具体的な対応
もぐりの業者に関する判例
ポイント5~債権回収業者と弁護士の違い
性質
取り扱える債権の種類の制限
権限の制限
警察による援助
債権の買い取り
まとめ 

 

■はじめに

お金を借りたり、商品を受け取ったり、サービスを受けたりしたのにもかかわらず、約束したお金を様々な理由をつけては支払わない債務者がいます。
 
なかには、事業がうまくいっていない、病気や怪我をして働けないなど同情すべき理由のある人もいますし、そういった理由もないのに支払いをのらりくらりと逃れようとする悪質な人もいます。
 
いずれにしても支払う約束をしたのですから、期日までに返済しなければなりません。
どうしても任意に返済しないのであれば、法律に基づき強制的に取り立てていくことになります。
 
強制的に取り立てていくためには、債権者自身が取り立てる方法や、弁護士、または債権回収業務を行う会社に代理してもらって取り立ててもらう方法、債権を譲り受けた者が自ら債権者となり取り立てる方法などが考えられます。
 
ここでは、債権の管理回収を業務内容とする株式会社について、その基本を見ていきたいと思います。
また、正規の業者であるか否かを見極める方法、これに関連して架空請求についても触れていきます。
 

■ポイント1~債権を管理回収する業者(サービサー)とは

自分たちの力で貸したものを取り戻すことが不可能な場合、昔なら弁護士に任せるしかなかったわけですが、最近では、債権の取立てを代わりに実行する企業に依頼する選択肢も出てきています。
 
本来、法律関連の業務というのは弁護士以外が取り扱うことは原則として許されません(例外的に個別の法律で取り扱いが認められており、弁理士、税理士など特定分野のみ制限が解除されています。)。
 
もし違反すれば刑罰が科される犯罪行為になってしまいます。いわゆる非弁行為です。
 
債権回収業務というのは、法律事務の一種であり、本来弁護士以外が取り扱うことはできないわけです。
しかし、新しく法律がつくられ、一定の条件を満たす株式会社については債権を管理したり回収したりする業務を行うことが認められることになったのです。
 
具体的には、取立てを代理したり、債権を買い取って業者自らが権利者となり取り立てる業務です。
 

■ポイント2~国から許可を受けるための条件

本来弁護士でなければできない取り立ての代理をすることができるようになるわけですから、それにふさわしい資格が必要になります。
 
業務を行うための条件というのは、法務大臣の許可を受けることです。そして、許可を受けるための具体的な条件がたくさんあります。
 
必要な条件はサービサー法に定められています。
 
1.株式会社であり、かつ資本金の額が5億円を下回らないこと
2.債権回収業者としての資格を撤回された場合、その撤回の日から5年を超えていること
3.この法律や弁護士法により罰金刑を科されたり、刑罰を受けた後、または刑罰を受けることがなくなった日から5年を超えない会社でないこと
4.常務として活動する取締役の中にその業務を公正、的確に実行可能な知識と経験をもつ弁護士がいること
5.暴力団員、暴力団員をやめた日から5年を超えない者が支配していないこと
6.暴力団員等が何らかの形で業務に関与するおそれのないこと
7.役員の中に下記の者がいないこと
・成年被後見人、被保佐人
・破産した者で権利を回復していない者
・禁錮以上の刑罰を科されたり、刑罰を受けた後、または刑罰を受けることがなくなった日より5年を超えない者
・この法律や弁護士法により罰金刑を科されたり、刑罰を受けた後、または刑罰を受けることがなくなった日から5年を超えない者
・債権の管理回収ついて、刑法、暴力行為等処罰法、貸金業法、暴力団対策法により罰金刑を科されたり、刑罰を受けた後、または刑罰を受けることがなくなった日より5年を超えない者
・暴力団員等
・許可を撤回された場合において、撤回の日の前6か月以内に業者の役員等であった者で撤回の日から5年を超えないもの
・債権管理回収業について不正や不誠実な行為をする恐れがあると判断できる十分な理由がある者
8.債権管理回収業を適正に行うことができる組織であること
※外国の法令による刑罰を科されたり、制限行為能力者である場合にも制限を受けることがあります。
 
特に重要な条件はつぎのとおりです。
 
1.資本金の額が5億円以上の株式会社であること。
資本金の額が5億円以上というのは、会社法という法律で、大会社とされるための基準です。
大会社になるとどうなるかといいますと、会計監査人が必要不可欠の会社になりますので、公認会計士、またはその法人組織である監査法人が関与することになります。
 
これにより、公認会計士や監査法人が財務関係で目を光らせることになりますので、経営に関して厳格な運営が期待されることになるわけです。
 
2.常務取締役の中に、必要な知識経験をもった弁護士がいること。
会社として取立てができるとしても、弁護士が関与していないというのは問題があるわけです。業務に必要な法律知識や経験をもっていること、弁護士会の監督権による業務の適正確保が期待されています。
ただし、弁護士であれば誰でもいいかというとそうではありません。業務に必要な知識経験のない弁護士や、業務執行を常務として行わない形式だけの取締役では要件を満たしません。適正な業務執行を確保するためには、実態が伴わなければならないからです。
 
実際、法務大臣は、所属弁護士会が推薦している弁護士が取締役になっている場合を除いて、当該取締役がその職務を公正かつ的確に行うことができる知識や経験をもっているかどうか、日本弁護士連合会の意見を聴くことになっています。
 
このように、債権回収は知識や経験をもった弁護士でなければ難しいということです。
 
ですが、ここで気をつけなければならないことは、実際に債権回収を行う担当者が弁護士である必要はないということです。
 
3.暴力団員が関わっていないこと
法務大臣はあらかじめ警察庁長官にも意見を聴かなければならないとされています。暴力団員かそうでないかなどは法務省だけでは把握しきれないからです。
 
もし、許可を受けないで債権管理回収業を営むと、3年以下の懲役や300万円以下の罰金が科されることがあります。
 

■ポイント3~取り扱うことのできる債権の範囲

あくまでも株式会社として業務を行うので、弁護士と同じ範囲で仕事ができるというわけではなく、問題が少なそうな一部の債権のみ取り扱うことが認められています。
 

具体的には、銀行、政府関係金融機関、独立行政法人住宅金融支援機構、生命保険や損害保険会社、労働金庫、信用金庫、農林中央金庫、農業協同組合やその連合会、サラ金などの貸金業者、これらに類似する者がもっている金銭消費貸借契約に基づいた貸金返還請求権、一定のリース契約に基づいた債権、クレジット債権、奨学金債権、訴訟費用債権などです。

 
もともとは、バブル崩壊による銀行の不良債権処理を後押しするための制度でしたので、銀行関係等のローン系債権がメインです。
 
アダルト系サイトや出会い系サイトの債権を取り扱うことはできないため、このような債権を取り扱っていれば正規の業者ではありませんので気をつけてください。
 

■ポイント4~正規の業者か見極める

・概要

債権の回収を代行しますといって資格もないのに取立てを行う悪徳な業者がいます。
 
弁護士や国から許可を受けた業者でないにもかかわらず、債権の管理や回収を行う者がいるために、損害を受ける被害者があとを絶ちません。そういった悪徳な業者は法外な料金を取ったり、違法な取立てをしたり、とても危険な存在なのです。
 
また、違法な取立てを受けたとして請求を受ける側から逆に訴えられてしまうことも考えられます。債権者から債務者に立場が逆転してしまうこともあるのです。
 
正規の業者であれば、法務大臣の監督権限により、立入検査権などを使って業務を是正していくことも可能です。
 
正規の資格をもたない業者はそういった監督をする者がいないわけですから、やりたい放題できてしまうわけです。もともと違法な行為をしているわけですから、法律を守ろうという意識は低いのです。
 
請求を受ける立場であっても、債権回収を依頼する立場であっても、ほんのすこし関わるだけで危険なのです。
うっかり「費用がどれだけかかるかとりあえず聞いてみよう」と、電話するだけでも危険です。
 
また、実際には存在しない債権があると偽って請求してくる詐欺が横行しています。
いわゆる架空請求詐欺で、実際にありそうな債権回収業者を名乗り、もっともらしく金銭の支払いを求めてきます。
 
そのような違法な業者か否かを見極めることは可能です。
 

・具体的な対応

第一にするべきことは、法務大臣から許可を得た業者を名乗っているかの確認です。
以下のリンク先は法務省のホームページにおける正規の業者のリストです。
ここに書かれている企業名を名乗っているかチェックします。
法務省ホームページ(債権の回収業を許可した企業リスト)
 
ここに記載されている業者名であったとしても、本物の正規の業者を騙っているだけかもしれません。
そこで、次に確認すべきことは、連絡先とされている住所と、電話番号が一致しているかという点です。
 
なんのために法務省のホームページに業者の住所や電話番号が載っているかといいますと、実際にはない権利をあたかもあるかのように言ってくる業者や、もぐりの業者による被害に合わないために、住所や代表番号が一致するかを確認させるためです。
 
仮に、身に覚えのない請求をリストにある業者名を名乗る業者から受けた場合には、リストに記載されている番号から連絡し、事実か否かを問い合わせたほうがいいでしょう。
 

・もぐりの業者に関する判例

登録貸金業者でありながら、貸金業は行わず、他の貸金業者から不良債権を低廉な価格で大量に購入し、債権回収を行っていたというケースで刑事事件となったことがあります。
 
事案の内容としては、利息制限法違反による過払いの状態となっていたり、時効期間を満たすような債権について、支払わない場合には全額集金に行くか、強制執行など断固とした措置をとると書面や電話で督促していたというもので、勤務先の社長に迷惑や損害を与えることになるという書面を勤め先に送付したり、宅配便の運転手を装って電話し、連絡先を伝え、かけてきた債務者に支払を要求するなどの手口を使うこともあったようです。
もちろんこの業者には刑罰が科されました。
 
この事件をみれば、もぐりの業者がいかに危険かおわかりいただけるかと思います。
 

■ポイント5~債権回収業者と弁護士の違い

・性質

もっとも気をつけなければならないことは、債権回収業者はあくまでも営利法人である株式会社が主体であるということです。これに対し弁護士や弁護士法人は依頼人の利益を最大化するのが使命です。そこに本質的な差異があるといえます。
 

・取り扱える債権の種類の制限

基本的に銀行等の法人が貸し付けたローン系債権でなければならず、特定の債権しか対象となりません。
これに対し、弁護士の場合には、取り扱える債権の範囲に制限はありません。
 

・権限の制限

債権回収業者は、弁護士と同じように自己の名で債権回収手続きを行います。訴訟手続も行うことができますが、140万円以下の簡易裁判所での手続を除き、弁護士が手続きをとらなければならないとされています。
 

・警察による援助

業者は、暴力団による妨害行為などがあったりそのおそれがあったりした場合には、警察からのアドバイスを受けたり、その他の援助を受けることができます。
暴力団絡みの債権については、考慮要素になるかもしれません。
 

・債権の買い取り

回収の代行ではなく、債権を業者に売却してしまうという方法も可能です。
むしろ、銀行の不良債権処理を迅速化するための制度でしたので、本来は債権の買取りの方がメインだったといえます。
 
注意点としては、債権回収の見込みの高いものしか買い取ってもらうことはできませんし、買い取った金額との差額で利益を上げるわけですから、債権の内容にもよりますが、二束三文にしかならないこともあります。
 
また、債権を完全に譲り渡してしまう方法は、債務者の立場からすると、まったく知らない赤の他人が突然権利者として出てくるのですから、極めて強い不信感と反発感をもつことになります。逆恨みされることもあるわけです。
 
債権を譲渡するやり方は、関係を完全に精算したいやっかいな相手であることが必要かもしれません。債権回収が目的というより、やっかいな不良債権と縁を切りたいときに利用するという使い方がいいと思います。
 
もし、利用することを考えるのであれば、そのような違いを理解しておく必要があると思います。
 

■まとめ

・債権回収は自力で行えるものと、自力では難しいものがあります。自分たちだけでは難しいものについては、弁護士、債権回収業者に依頼する方法などがあります。
債権回収業を営むことは、原則として弁護士などのほかは、法務大臣から許可を受けた株式会社のみ許されます。
・法務大臣の許可は、資本金の額が5億円以上であること、弁護士が取締役をやっていること、暴力団員が経営に関わっていないこと、などの条件を満たすことが必要です。
・悪徳業者か否かを見極めるための方法として、法務省のホームページに正規の業者のリストが公開されているので住所と電話番号が一致するか確かめ、異なる場合にはリストにある連絡先から連絡することを検討します。
・債権回収業者はすべての債権を取り扱えるわけではなく、一部の債権のみ扱えます。
・債権回収業者は債権の買い取りもしています。ですが、買取金額が二束三文となったり、債務者との関係を悪くしたりするおそれがあります。
・債権回収業者は営利法人であり、依頼人の利益を最大化することを目的とする弁護士とは違います。
 
迷ったら弁護士に相談することをおすすめします。