仮執行宣言付支払督促には債務者の財産に対して強制執行していける力があります。しかし利用するには一定の手続きが必要でありケースによっては訴訟に発展することもあります。

 

この記事では、仮執行宣言付支払督促の基本や利用する際の注意点について解説していきます。

 

仮執行宣言付支払督促とは

仮執行宣言付支払督促とは、仮執行の宣言が付けられた支払督促のことです。

支払督促とは、金銭や有価証券などの支払いを簡易裁判所の書記官から督促してもらう制度のことです。相手から異議が出されないときには強制執行により財産を差し押さえることも可能です。

本来強制執行をするには判決や支払督促が確定しなければならないのですが、仮執行宣言が判決や支払督促に付けられると確定前に強制執行により財産を差し押さえることができます。

 

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仮執行宣言付支払督促の効力

仮執行宣言付支払督促には「債務名義」としての効力が認められています。債務名義というのは強制執行するために必要な確定判決などの公的な文書のことです。執行可能な権利が存在していることを証明するものです。

つまり強制執行するには債務名義が必要であり、仮執行宣言付支払督促も判決書と同じように差し押さえの根拠にすることができます。

また通常は強制執行を申し立てる際に債務名義に執行文というものをつけてもらう必要があります。執行文というのは債務名義に執行力が現に存在していることを証明する用紙のことです。仮執行宣言付支払督促は執行文がなくても強制執行することができます。

 

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仮執行宣言付支払督促を得る方法

仮執行宣言付支払督促は以下のような手続きで行われます。

 

支払督促の申立て

支払督促は原則として債務者の住所地を管轄している簡易裁判所の書記官に申し立てて行います。申立てには下記のような書類が必要となります。

 

・支払督促申立書

・当事者目録並びに請求の趣旨および原因の写し

・申立手数料(収入印紙による支払い)

・支払督促正本送達費用

・官製はがき

・委任状(弁護士等の代理人により支払督促を行う場合)

・資格証明書(当事者が法人の場合)

など

※裁判所や事案によって必要書類や費用は変わります。

 

仮執行宣言の申立て

申立てが適法であれば支払督促が発送されます。支払督促が債務者に送達されて2週間以内に相手が異議を申し立てないときには、仮執行宣言を付与するように債権者から申し立てをします。仮執行宣言手続きは仮執行宣言の申立てができる時から30日以内にしなければ支払督促の効力がなくなります(民事訴訟法392条)。

申立てには下記のような書類が必要となります。

 

・仮執行宣言の申立書

・当事者目録並びに請求の趣旨および原因の写し

・仮執行宣言付支払督促正本送達費用

・官製はがき

など

※裁判所や事案によって必要書類や費用は変わります。

 

仮執行宣言付支払督促

督促異議がなく適法な仮執行宣言の申立てがなされたときは裁判所書記官が仮執行宣言付支払督促を当事者に送達します。仮執行宣言は送達によって効力が生じて(同391条5項、388条2項)、債務名義となります(民事執行法22条4号)。

 

支払督促の費用については「支払督促について|かかる費用や手続きの流れを詳しく解説」をご参照ください。

 

支払督促の対象となる財産

支払督促が利用可能なケースは、「金銭その他の代替物又は有価証券の一定数量の給付」を目的とした場合です。このように金銭の支払いなどに限定したのは強制執行がしやすいことや不当な執行がなされたとしても金銭的な賠償により原状回復が可能だからです。支払督促の対象となるものの代表例は以下のようなものです。

 

・売買代金

・請負代金、修理代金

・家賃、地代

・敷金、保証金

・給料、報酬

・貸金、立替金

 

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支払督促の注意点

支払督促手続きにより債務名義を取得することができますが債務者に送ってすぐに債務名義化するわけではありません。もしもすぐに債務名義になるのであれば手間暇かけて訴訟をする必要はなく支払督促を送ってすぐに強制執行の準備をすればいいことになります。

支払督促は送達から2週間目の翌日から仮執行の宣言を付してもらうことができます。

訴訟の場合には判決をもらうのに数か月はかかりますが、支払督促を使えばたった2週間という短期で強制執行に必要な債務名義を手に入れられる可能性があります。

しかし2週間で債務名義が取得できるというメリットには「何もなければ」という断り書きがつきます。支払督促を送付しても強制執行に必要な債務名義を手に入れることができない場合や、そもそも支払督促自体が使えないケースがあるのです。

支払督促を効果的に使うためには短期で債務名義を取得できるというメリットを覚えておくだけでは足りません。一緒に注意点についても覚えておく必要があります。

 

相手側の所在地が不明だった場合は使えない

支払督促は相手の所在地が不明で書類が郵送できない場合には利用できません。普通の訴訟の場合には公示送達という手続きを利用することで相手が行方不明であっても利用することができます。

公示送達とは、裁判所の掲示板に連絡事項を掲示することにより相手に送達したことにする方法のことです。相手方の住所がわからないなどの事情がある時に使われる方法です。支払督促は訴訟とは違い証拠調べなどの審理をせずに一方的に支払いを命じるものなので、債務者による異議申し立ての機会を与える必要があるからです。

 

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支払督促の対象にならない場合

金銭債権が対象であっても争いの内容によっては支払督促を使うことができません。支払督促が使えるのは「金銭その他の代替物または有価証券の一定数量の給付」を目的としている場合です。

訴訟の場合には債権の成立自体を争うことができます。債務者が「お金など借りていない」と主張して訴えることができます。しかし支払督促は支払いを命じてもらう手続きにすぎず、「貸した」「貸していない」という争いに決着をつけることはできません。

 

期間に注意

仮執行宣言付支払督促を利用するには期間にも注意が必要です。

 

2週間という期間に要注意

支払督促の送達後2週間経過前に債務者側から異議があると督促異議の限度で支払督促は効力がなくなります。

支払督促がすぐに債務名義として使うことができないのは、支払督促が債務者の事情を確認せずに発送されるからです。発送直後にすぐ債務名義として使うことができてしまうと、正当な権利の有無にかかわらず債務者の財産を差し押さえできることになってしまいます。

そのため2週間という期間を設けて債務者が支払督促に対して異議申し立てができるようになっています。督促異議は支払督促の際に同封されている用紙に必要事項を記入して返送すれば簡単に行うことができます。そのため特に理由がなくても簡単に支払督促の効力を失わせることができます。また督促異議があると訴訟に移行することになっています。

 

30日という期間にも注意が必要

支払督促が債務者に送達された日から2週間経過後、30日以内に仮執行宣言の申立てがないときには支払督促の効力がなくなります(民事訴訟法392条)。

2週間経過後の債務名義取得期間である30日の間にも債務者は異議を提出することができるため、この期間内であっても異議の限度により失効する可能性もあります。

 

仮執行宣言付支払督促を債権回収に利用するためには、支払督促という手続きをよく理解することが大事です。争いのあるケースなど異議が申し立てられる可能性が高い事案など支払督促に不向きなケースもあります。民事調停や訴訟などさまざまな手段があるため事前に弁護士に相談されることをおすすめします。

 

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まとめ

・仮執行宣言付支払督促とは、仮執行の宣言が付された支払督促のことです。支払督促は金銭やその代替物の支払いを裁判所書記官から命令してもらう手続きです。

・債務者から異議がなく仮執行宣言付支払督促が得られると相手の財産に強制執行していくことができます。

・支払督促に異議が出されると効力が異議の限度で失効し、訴訟に移行します。そのため争いのあるケースには向いていません。

・仮執行宣言の申立ては一定の期間内にしなければ効力がなくなります。

 

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