目次
はじめに
支払督促は裁判所を通して送る督促状
支払督促の4つのメリット
仮執行宣言付支払督促を取得するまでの流れ
支払督促を使う上での注意点とは
相手側の所在地不明だった場合は使えない
支払督促の対象にならない債権もある
2週間という期間に要注意
30日という期間にも注意が必要
注意点が難しい?だからこそ弁護士に依頼を
まとめ

 

■ はじめに

支払督促という債権回収方法があります。
債権の回収方法には、個人間の話し合いや訴訟、調停、少額訴訟や手形訴訟などいくつか方法があります。支払督促もその一つです。裁判所でできる手続きにはそれぞれ異なる特徴があるように、支払督促にも特徴的な効果があります。
それは、支払督促を使うことによって「比較的に短い時間で強制執行に必要な条件を整えることができる」などです。
支払督促という債権回収の方法について、特徴を捉えて利用するためにポイントをおさえて解説をします。支払督促を効果的に活用するため、特徴と使い方はしっかりおさえておきましょう。

■ 支払督促は裁判所を通して送る督促状

支払督促とは、裁判所を使って債務者に対して督促状を送付する方法です。
もちろん債権の催促は個人でハガキや電話を使って行うことができます。
しかし、裁判所を通して送る支払督促は、個人で送付する督促や催促よりも効力が段違いに強力です。送付には所定の手数料が必要になりますが、訴訟で長期間争うよりも費用負担が少ないことに加えていくつかのメリットがあるため、債権回収方法の一つとして活用されています。

・支払督促の4つのメリット

支払督促には、簡単に挙げるだけで4つのメリットがあります。
手続きが簡単
手続きに時間がかからない
手続きに多額の費用は必要にならない
債務名義(仮執行宣言付支払督促)を簡単に取得できる
支払督促は前述したように費用面の負担が重くありません。
債権額によって必要な印紙の額が変わってきますが、債権額100万円で印紙5,000円プラス切手代などの諸経費となります。
手続きも管轄裁判所に「支払督促を債務者に送ってください」と簡易な書面を提出するだけです。訴訟のように長期間、訴訟戦略を考えて戦う必要もありません。
しかし、いくら時間がかからず費用負担が重くなくても、効果がなければ意味がありません。
支払督促のメリットの中で最たるものが、迅速に債務名義を取得できるというものです。このメリットがあるので支払督促を利用する債権者が多いと思います。
債務名義とは、強制執行をするために必要な公的な文書のことです。
国内裁判の確定判決や外国の裁判の確定判決、調停の結果である調停調書、執行証書(一定の条件を満たした公正証書)、仮執行の宣言を付した判決などがこれにあたります。
債務名義があってはじめて強制執行をすることができると定められています。
債務名義は公文書に限られています。
個人間で契約書を作成しても、その契約書を裁判所に持ち込んで「強制執行してください」と手続きすることはできません。
強制執行は債権回収の方法と法的に強力な方法です。
債務者が言い逃れしようが、抵抗しようが、強制的に財産を差し押さえて回収することができます。しかし、本来、個人の財産を強制的に奪うようなことは許されません。だからこそ、強制執行は条件を具備した時のみ執行が許される決まりです。その条件の一つが債務名義という公文書を用意することなのです。
前述した債務名義を見てみると、どれも用意することが難しいものばかりです。
用意するために時間がかかるものがほとんどです。裁判の確定判決は裁判で争った結果やっともらうことができます。
調停証書も調停をしてはじめて取得することができます。執行証書は債務者に協力してもらって公証役場で作成することになります。強制執行のために必要な公文書はどれも取得が難しく、なおかつ時間がかかるという特徴があります。
しかし、そんな中、短期で債務名義が取得できてしまうものが支払督促なのです。
支払督促は一定の期間経過後に申し立てることにより債務名義に化けるという特徴があります。
普通の手紙で債務者に催促をした場合、その手紙は時間が経過してもただの手紙です。
しかし支払督促は裁判所を使って行う督促ですから、手続きに見合う強力な効果があるというわけです。だからこそ支払督促は迅速な債務名義の取得方法としてよく活用されています。
参考:
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_minzi/minzi_04_02_13/
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/315004.pdf 

■ 仮執行宣言付支払督促を取得するまでの流れ

ここからは具体的に支払督促がどれくらいの期間でどんな手続を経て債務名義を取得できるのかをお話ししていきます。
支払督促は送達後に2週間という期間があります。
この2週間は債務者が異議を出すための期間となります。支払督促は手続き時に債権者側だけの手続きで発送できてしまうため、債務者が関与することがありません。
訴訟や調停であれば債務者側も自分の事情や意見をはっきり表明することができるのですが、支払督促では債務者の審尋は原則的に行われません。だからこそ、送達後2週間は債務者の異議申し立てのための期間となります。
送達後2週間の経過により、仮執行宣言付支払督促(債務名義)の申し立てが可能になります。ただし、どんな場合でも債務名義として使えるわけではありません。
参考:
http://www.courts.go.jp/okayama/vcms_lf/27071022.pdf 

■ 支払督促を使う上での注意点とは

支払督促が債務名義を取得できるといっても、債務者に送ってすぐに債務名義化するわけではありません。もしもそうなら、債権者にとっては便利すぎて涙が出るような手続きに違いありません。
支払督促を送って即座に強制執行の準備をすればいいことになります。しかし、そこまで簡単にはいきません。
支払督促は送達から2週間目の翌日から仮執行の宣言を付してもらうことができます。
裁判で長年戦って判決をもらうのではなく、支払督促を使えばたった2週間という短期で強制執行に必要な債務名義が手に入ってしま可能性があるのです。
これは強制執行での債権回収を検討している債権者にとっては嬉しい話に違いありません。
しかし、この2週間で債務名義が取得できるというメリットには「何もなければ」という断り書きがつきます支払督促を送付しても強制執行に必要な債務名義を手に入れることができない場合と、そもそも支払督促自体が使えないケースがあるのです。
支払督促を効果的に使うためには、支払督促を使うと短期で債務名義を取得できるというメリットを覚えておくだけでは足りません。一緒に注意点についても覚えておく必要があります。

・相手側の所在地不明だった場合は使えない

まず、そもそも支払督促が使えないケースについてお話ししましょう。
支払督促は公示送達を活用できません。
公示送達とは、裁判所の掲示板に連絡事項を掲示することにより相手に送達したことにする方法のことです。相手方の住所がわからないなどの事情がある時に使われる方法です。支払督促は債務者の住所がわからないという場合は使えませんということです。

・支払督促の対象にならない債権もある

債権の内容によっても支払督促を使うことができません。支払督促が使えるのは「金銭その他の代替物または有価証券の一定数量の給付を目的」としている場合です。
訴訟は債権の成立自体を争うことができます。
債務者が「お金など借りていない」と言い張っている債権にも使うことができます。しかし支払督促は「支払だけを督促する」という方法ですので、「貸した」「貸していない」という争いに決着をつけることはできません。
あくまで支払のみを求める場合に使える手続きが支払督促です。支払督促は「支払い」のみを求めるものであることを明確にして使いましょう。

・2週間という期間に要注意

支払督促は期間に気をつけて活用することが重要です。
前述したように送達から2週間で債務名義化することができるのですが、これはあくまで「何もなければ」という話です。
支払督促を使うことができないケースとは別に、支払督促を送っても債務名義化させることができない場合があるのです。
一つは、送達後2週間経過前に債務者側から異議があった場合です。
支払督促をすぐに債務名義として使うことができないのは、支払督促が債務者の事情を確認せずに発送されるからです。発送直後にすぐ債務名後として使うことができてしまうと、債務者が異議申し立てをする機会を奪ってしまいます。支払督促を使えば債務者の事情や異議に関わらず強制執行が即座にできてしまうという事態になってしまいます。これはとても危険なことです。
だからこそ2週間という期間を設けて債務者が支払督促に対して異議申し立てができるようになっています。この2週間という期間内に債務者から異議があると、支払督促は異議の限度で失効するという特徴があります。つまり、異議があると2週間という短期で債務名義化できないということです。

・30日という期間にも注意が必要

二つ目に、2週間の翌日から30日間という注意すべき期間があります。この30日の間に仮執行宣言付支払督促の取得をすることが可能です。
ただし、30日が経過してしまうと、支払督促は失効してしまいます。つまり、支払督促の手続きをしたこと自体が無駄になってしまうということです。
2週間経過後の債務名義取得期間である30日の間にも債務者は異議を提出することもできるため、この期間内であっても異議の限度により失効する可能性もあります。
支払督促という手続き自体をよく理解し、注意点を踏まえて早め早めに動かないと有効活用できないといえるでしょう。支払督促は絶対に法律の専門家に代理してもらってくださいという法律上の決まりはありませんが、法的な専門知識がないと手続きのメリットを生かし、強制執行に繋げることはとても難しいのです。

■ 注意点が難しい?だからこそ弁護士に依頼を

支払督促はこのように2週間という債務者の異議申し立て期間と、30日という仮執行宣言付支払督促の取得期間という二つのポイントがあります。
期間を徒過してしまうとせっかく債務名義を取得して強制執行に繋げるはずでも、手続き自体が無駄になってしまいます。また、債務者から異議があると異議の限度で失効するというデメリットもあります。そこで考えたいのが、支払督促を使うべきかどうかという点です。
債務名義が早期に必要でも、債務者側から期間内に異議が出てしまえば失効の可能性があります。
また、30日という期間に仮執行宣言付支払督促の取得をしたくても、法律事務に慣れていなければ機関の起算点や取得手続きが難しく感じられることでしょう。強制執行も、法的な知識がなければ難しい手続きです。
支払督促は支払督促手続きをすることが目的なのではなく、後の強制執行に繋げるための前段階ともいえるものです。
「自分が有する債権回収に支払督促は有効か悩んでいる」「強制執行を考えて支払督促を検討している」「債務者から異議が出るかもしれない」という場合は、まずは弁護士に相談するのがいいでしょう。「手続きをしても無駄足に終わった」ということをなくすためにも、弁護士に依頼した方が安心です。

■ まとめ

支払督促は短期で債務名義を取得できるというメリットがあります。
債権回収の強力な手段である強制執行をするために必要な債務名義は、他には訴訟や調停などの手続きで手に入れることになるため、支払督促のメリットである短期で債務名義を取得できるという特徴は際立っているといえるでしょう。
ただし、支払督促を送付すれば必ず債務名義を手にできるというわけではありません。そもそも支払督促を使えないケースがある他、債務者からの異議や期間の徒過により債務名義を取得することができなくなってしまうことがあります。
支払督促を使う時は、後に控える強制執行の手続きを見据えて行動することが重要です。支払督促を債務名義化したとしても、そこで「次はどうすればいいの」と止まってしまったら意味がありません。
支払督促を債権回収方法として使うのなら、個人で手続きを行うより、弁護士に依頼する方が安全です。弁護士であれば後の強制執行を視野に準備を進めることもできます。
最終目的は債権を回収することです。支払督促手続きはあくまでも通過点に過ぎません。だからこそ、弁護士に相談や依頼をして、ゴールまでスムーズに進めることが大切なのだということを意識してみてください。