訴訟や支払督促など法的手続きを調べていると「仮執行宣言」という言葉が出てきます。「仮執行宣言」を裁判所から出してもらうと訴訟が終了していなくても相手の財産を差し押さえたり建物を明け渡してもらったりなど強制執行が可能となります。

仮執行宣言は権利者から見ると便利な制度ですが相手方から見ると訴訟で決着がついていないのに強制執行されるため不利益を受けることがあります。そのため仮執行宣言は必ず付けてもらえるわけではありません。

 

この記事では、仮執行宣言の基本について解説していきます。

 

※借金などの債務の返済ができずお困りの方はこちらの記事をご参照ください。

 

仮執行宣言とは

仮執行宣言とは、確定前の判決や支払督促であっても強制執行を可能にする制度のことです。判決であれば裁判所、支払督促であれば裁判所書記官に仮執行宣言を付けてもらうことで、訴訟などの手続きが終了していなくても債務者の財産に強制執行することが可能となります。仮差押えや仮処分とは異なり、仮執行宣言の場合には原則として権利の強制的な実現がされることになります。

例えば、100万円の支払いを求めて訴訟を起こしたところ第1審で勝訴することができて、判決で仮執行宣言が付された場合、控訴の可能性があったとしても強制執行手続きをとることが可能となります。

このように後の手続きにより権利が否定される可能性が残されていてもとりあえず権利を実現させることになります。

本来であれば控訴など不服申し立てがなされることにより判決等の確定が阻止され強制執行することができなくなります。しかし確定していないとはいえ一定の手続きを経て権利の存在が肯定されていることから権利者の利益を早期に実現する必要性もあります。

そこで不服申し立てをする相手方の利益と暫定的に権利を認められた者の利益とのバランスをとる目的があります。

 

<関連記事>仮差押えと差押えの違いとは?早期に債権を回収するためのポイント

 

支払督促と仮執行宣言付支払督促の違い

仮執行宣言は支払督促にも付されます。支払督促は簡易裁判所の書記官から相手方に金銭や有価証券の支払いを命じてもらう手続きです。相手が異議を申し立てなければ訴訟をせずに強制執行することも可能です。送達から2週間以内に異議がなければ仮執行宣言を付けてもらうことができます。仮執行宣言付き支払督促が相手に送達されると強制執行手続きが可能となります。

 

異議申立ての効果の違い

支払督促、仮執行宣言付き支払督促のいずれも相手から異議が申し立てられると訴訟に移行します。通常の支払督促について異議があれば仮執行宣言が付けられないため強制執行はできません。これに対して仮執行宣言が付けられた支払督促は債務名義であるため強制執行手続きを進めることが可能です。

 

<関連記事>債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説

 

強制執行における違い

通常の支払督促の場合には異議が出されると仮執行宣言を付けてもらえなくなるため強制執行するためには訴訟手続きにより勝訴判決をもらう必要があります。仮執行宣言後に異議を申し立てたときは訴訟に移行しますが債務名義としての効果はなくならないため差し押さえが可能です。この場合に債務者が強制執行を阻止するには強制執行停止の手続きが必要となります。

 

<関連記事>強制執行停止とは?流れと停止された場合の債権回収を解説

 

仮執行宣言の目的

仮執行宣言の目的は、①権利者の利益を早期に実現することと相手方の不服申し立ての利益との調整、②濫用的な不服申し立ての防止などにあります。

 

権利者の利益と相手の利益との調整

約束したお金を支払ってもらえないことや建物を明け渡してもらえないことがあります。このような場合には法的手続きにより強制的にお金を支払ってもらったり建物から退去してもらったりする必要があります。ところが訴訟にはそれなりに時間がかかります。勝訴できたとしても控訴されるとさらに解決まで時間がかかります。

正当な権利者の利益は早期に実現される必要があります。一方で正当な権利を持っているか否かは第三者には簡単にはわかりません。第一審で敗訴したとしても控訴審で勝訴することもあります。そのため相手方の不服申し立ての利益も守る必要があります。そのため判決に付する仮執行宣言については以下の要件が必要とされます。

 

・財産権上の請求に関するもの

・仮執行宣言の必要性

 

仮執行宣言は「財産権上の請求に関するもの」が対象です。仮執行宣言は判決や支払督促が不確定の状況でなされるため原状回復の見込みがあり、万が一損害を与えたとしても金銭による被害回復ができる必要があるからです。ただし意思表示を求めるものなど仮執行宣言が付けられないものもあります(民事執行法174条1項参照)。

判決における仮執行宣言は裁判所が必要と認めたときになされます。必要性の判断は、①上訴による判決変更の蓋然性、②早期実現の必要性、③相手方の被害回復の容易性などが考慮されます。金銭請求ではなく居住建物明け渡しのようなケースでは被害回復が難しいため判断が厳しくなります。

 

<関連記事>明け渡し訴訟とは?検討した方が良いケースや手順を解説

 

濫用的な不服申し立てを防ぐため

敗訴判決に対する上訴や支払督促に対する異議の申し立ては必ずしも正当なものとは限りません。単なる時間稼ぎのために上訴等がなされる可能性があります。しかし仮執行宣言制度があれば第一審裁判所が原告の言い分を認めて勝訴判決を言い渡すと同時に暫定的に強制執行を認めることが可能となり、相手方は時間稼ぎを目的とした不服申し立てが難しくなります。

また、訴訟効率の観点からも仮執行宣言には意義があります。第一審判決に不服があれば原則として上訴可能ですが、そのために十分な主張立証が第一審でなされない恐れがあります。仮執行宣言制度があることで第一審から必要な主張立証がなされやすくなります。

 

迅速な権利実現のため

訴訟制度によって救済が必要なケースにはさまざまなものがあります。早期に権利を実現できないと企業の経営や生活が行き詰まることもあります。例えば、売掛金の回収が遅れることで運転資金がなくなれば倒産の恐れが生じます。労働者が賃金の未払いにあった場合には生活費やローンの返済に困り生活が立ち行かなくなる恐れがあります。仮執行宣言が認められれば早期に権利の実現がなされ事業の運転資金や生活費を確保しやすくなります。

 

<関連記事>給料の未払いは違法!未払いの給料を会社から回収する方法

 

仮執行宣言の流れ

判決による仮執行宣言については訴状にその旨を記載して行います。以下では支払督促についての流れを解説します。

 

訴訟手続きについては、「債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説」をご参照ください。

 

支払督促の申立て

支払督促の申立ては債務者の住所地を管轄する簡易裁判所で行います。郵便でも可能となっています。

 

支払督促の送達

申立て書類に問題がなければ相手方に支払督促が送達されます。訴訟とは異なり事前に債務者の反論などはなされません。

 

異議申述期間

支払督促の送達から2週間以内に異議が出されると通常訴訟に移行します。反対に2週間の期間内に異議が提出されないときは仮執行宣言を求めることが可能となります。支払督促における仮執行宣言の手続きは、債務者が送達を受けた日から2週間経過後、30日以内と決まっています。

 

仮執行宣言

仮執行宣言の申立てをして認められれば仮執行宣言付きの支払督促が債務者に送達されることになります。仮執行宣言付き支払督促が送達されれば相手の財産を差し押さえることが可能となります。

最初の支払督促の時点で異議を申し立てなかったとしても仮執行宣言付き支払督促の到達を受けた日から2週間以内は督促異議が可能であり通常訴訟に移行することになります。仮執行宣言後については異議がなされても訴訟にはなりますが強制執行手続きを進めることが可能です。債務者が差し押さえを防ぐには別途執行停止の手続きを要します。

 

<関連記事>支払督促とは? 取引先にする場合のメリット・デメリット、手続きの流れを解説

 

まとめ

・仮執行宣言とは、判決や支払督促が確定しなくても強制執行可能にする制度です。判決に不服があるときは上訴可能ですが確定するまでお金の支払いや建物の明け渡しができないと困るからです。

・判決に対する仮執行宣言の要件は、①財産権上の請求に関するものであり、②仮執行宣言の必要性があるときです。ただし登記手続き請求など一部認められないものもあります。

・支払督促にも仮執行宣言があります。一定期間内に債務者が異議を申し立てないときは仮執行宣言を付けてもらうことで強制執行可能となります。

 

債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

当事務所は債権の回収に強い事務所です。

 

大量の未払い案件に対しても効率よく回収することが可能です。

少額債権や債務者が行方不明など他事務所では難しい債権の回収も可能です。

 

当事務所では、未収金が入金されてはじめて報酬が発生する成功報酬制です。

「着手金0円(法的手続きを除く。)」、「請求実費0円」、「相談料0円」となっておりご相談いただきやすい体制を整えております。

※個人間や単独の債権については相談料・着手金がかかります。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。

 

「多額の未収債権の滞納があって処理に困っている」

「毎月一定額以上の未収金が継続的に発生している」

「賃料を支払ってもらえず明け渡しにも応じてくれない」

このような問題を抱えているのであればお気軽にご相談ください。