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NPO法人や公益法人など会員の支払う会費が貴重な活動資金となっている組織や団体は少なくありません。それだけに会費が回収できないことは死活問題となります。会費にも種類がありますが正会員費については公平性の観点からも債権回収はきちんと行わなければなりません。
この記事では、未収会費が発生した場合の対応策を債権回収の可否のほか計上方法も含めて解説していきます。
未収金とは?未収金と売掛金の違い
未収金(未収入金)も売掛金も金銭債権であることに違いはありません。しかし会計処理する上では大きな違いがあります。
未収金とは
未収金とは、営業活動以外の取引によって発生した金銭債権のことをいいます。不動産や有価証券、備品を売却したような場合に使われる勘定科目です。
例えば、出版社が自社で使用していた自動車を売却したり、小売店が土地を売却したりしたときに使用します。
NPOや公益法人など営利を目的としない事業者の活動によって生じた債権もこの勘定科目を使います。
売掛金とは
売掛金とは、営業取引により発生した金銭債権のことをいいます。商品やサービスを提供した場合に後払いにした債権のことです。本業以外の物品を売却した場合には未収金となります。
例えば、出版社が自社で印刷した本を販売したり、不動産会社が土地や建物を売却したりした場合には未収金ではなく売掛金となります。
未収収益とは
未収収益とは、継続的な役務提供を行うことで発生する債権のことをいいます。不動産を貸し出した場合の未払い賃料や、お金を貸し付けた場合の未払利息が発生したときなどに使う勘定科目です。
<関連記事>売掛金とは?意味と回収・未回収時のポイント及び、仕訳方法をわかりやすく説明
未収金が発生するケース
未収金が回収できない理由は一つではありません。未収金が回収できない原因によって対処法も変わってきます。
事務処理上のミス
はじめに疑うべきなのは単純な事務手続きの問題です。請求書の発送が行われていないなど債権者側に原因があることがあります。相手に原因があると決めつけずに、まずは請求書の発行手続きが適切に行われたか記録を確認したり担当者に話を聞いてみたりすることが大切です。
支払い忘れ
相手に原因がある場合であっても単純なミスが理由のこともあります。一番多い理由が支払い忘れです。すでに支払っていると思っていたり、支払期日を間違えていたりすることがよくあります。
こういった場合には催促すれば支払ってくれるため会費の回収に特に問題はありません。ただし、相手にとっては予定外の出費となるためなるべく早めに確認するようにしましょう。
経済的事情
金銭的に余裕がないため会費の支払いが遅れることもあります。このような場合には他の債務も滞納していることが多いため迅速に未収金の回収をしていかなければなりません。
まずは相手の状況を確認するため連絡をとることが大切です。会費の支払いが可能であるのか可能であればいつ支払えるのかなどできるだけ事情を把握しておくことが必要です。
支払うつもりがない
何らかの理由により会費を支払う意思そのものがないこともあります。初めから会費を支払う意思がなかったり途中で気が変わったりすることもあります。
気が変わる理由としては求めていたサービスを受けられなかったなど何らかの不満が背景にあることがあります。
このような不満が理由であるときには相手の言い分を聞くことで問題が解決することもあります。
もし特に理由もなく会費を支払わないのであれば債権の回収を進めていくことになります。
未収会費を計上する方法
会費といってもその性質によって取り扱いが異なります。勘定科目の違いや計上の要否、さらには債権回収の可否にも違いが生じます。
会費の種類(性質)
会費は3種類に分けて考える必要があります。正会員費、賛助会員費、サービス利用対価の3つです。
NPO法人や公益法人などでは活動資金の主な収入源の一つとして会費があります。この会費の取り扱いをきちんと理解しておかなければ適切な会計処理ができないだけでなく、重要な収入源を損なうことにもなります。
正会員費
NPO法人や公益法人の主な構成員は毎月、または毎年決まった時期に会費を納付する義務が課せられていることが多いです。
会費の計上に関して参考になるものとして「NPO法人会計基準」があります。この会計基準によれば、「受取会費は、確実に入金されることが明らかな場合を除き、実際に入金したときに収益として計上する。」とされています。
つまり原則として入金されるまで計上しない取り扱いです。未収入金(未収会費)として計上するのは、納付が確約されている会費や、期末後決算書作成までの間に納入された会費などのみです。
本来であれば債権が発生した時点ですべて計上すべきようにも思えますが実際上の便宜からこのような取り扱いになっています。
売掛金などの事業収益と違い対価性が弱いため退会したことを根拠に支払いが拒否されることが多いためです。一旦計上してしまうと支払われなかったときの帳簿上の処理が大変だからです。
そのためNPO法人の正会員費については原則として未収金計上をしないことが一般的です。ただし、公益法人などで会費の納入が法的な義務になっているような場合にはそれぞれの団体の性質によって計上の有無を判断します。
未収金計上の要否と債権回収は別問題です。未収金計上をしないのは会費の回収が不安定だからです。正会員は会費の納付義務があるのであり退会したからといってこれまでの納付義務がなくなるものではありません。
他の会員との公平性や組織の存続や活動に支障を与えないためにも会費の回収には全力で取り組む必要があります。
仕訳は以下のように行います。
<正会員費の発生>※未収金計上する場合
借方科目 |
借方金額 |
貸方科目 |
貸方金額 |
未収会費 |
300,000円 |
正会員受取会費 |
300,000円 |
※他の未収債権と区別するため勘定科目は「未収会費」を用います。「正会員受取会費」は収益であるため貸方に計上します。
<未収会費を回収したとき>
借方科目 |
借方金額 |
貸方科目 |
貸方金額 |
普通預金 |
150,000円 |
未収会費 |
150,000円 |
※未収会費を計上していた場合に一部15万円が普通預金に入金された場合。資産である未収会費債権15万円が減少したため貸方に計上します。
賛助会員費
正会員以外に賛助会員がいることもあります。
正会員が組織の主要メンバーとして欠かすことのできない構成員であり資金面の義務として会費を支払う必要があるのに対し、賛助会員は組織の不可欠な構成員ではなく会費の納入についても任意性があり対価性も低いという特徴があります。
賛助会員はあくまで組織の活動内容に賛同し資金面で協力してくれているにすぎない人たちです。
賛助会員費は対価性が認められない限り寄付金とみることができます。これは正会員費以上に入金が不確実なものといえます。
そのため賛助会員費については原則として未収金(未収会費)としての計上はせず、入金されたときに計上したほうがいいでしょう。
賛助会員費は寄付金にあたることが多いと書きましたが、別な言い方をすると「贈与」にあたります。贈与については債権の回収は難しい面があります。法律上、書面によらない贈与は履行していない部分については解除してもいいことになっているからです。
つまり、賛助会員については会費を支払いたくないと拒否されてしまうと支払いを請求することは難しいといえます。
※対価性があるのであれば会費の支払いを請求していける可能性はあります。
サービス利用対価
会費という名目であっても実質的には何らかのサービスを提供した対価であることもあります。重要なことは名目ではなく中身です。
対価性があるのであればそれは事業収益です。事業収益については販売やサービスを提供した時点で計上します。一般企業と特に違いはありません。したがって、「○○利用受取会費」のような名目であっても入金される前に計上することが必要です。
また、このような事業収益としての性質を持つ会費については債権回収の対象となります。むしろ債権回収を行わなければならず債権回収の努力を十分に行わないと会計上の処理や税金面での処理が難しくなるおそれがあります。大した金額ではないからと放置してしまうと大事になりかねないため注意が必要です。
<対価性のある会費の発生(仕訳)>
借方科目 |
借方金額 |
貸方科目 |
貸方金額 |
摘要 |
未収会費 |
50,000円 |
事業収益 |
50,000円 |
A氏講座受講料 |
※誰に対するどのような未収金なのか分かるようにしておきます。
未収金の回収方法
未収会費の回収方法にはいろいろな方法があります。できるだけ時間や労力、費用のかからない方法から検討していくことになります。
電話での催促
基本となるのが電話での連絡です。時間もかかりませんし支払いが遅れている原因がすぐに分かるためこれからどのように対処していくか方針を決めることもできます。
支払いの遅れの原因を把握することが大切であり、支払いがいつできるか約束してもらいます。
メールを利用しての連絡も重要です。メールアドレスを把握しているのであれば支払いが遅れていることを通知するのに便利な方法といえます。一度に複数の会員に請求することが可能であることや電話がつながらないときにも利用できるため積極的に活用を検討します。
訪問による催促
住所が近いのであれば直接会員宅に出向いて催促することも効果的です。相手に与える心理的なプレッシャーも大きいためその場で支払ってもらえることも期待できます。
ただし、訪問する頻度や時間帯によっては不法行為となるおそれがあるため常識的な範囲に留める必要があります。
文書での催促
電話がつながらないときや一向に支払いに応じてもらえないときには書面で請求することが有効です。
すでに会費を支払っていると思いこんでいたり退会したつもりになっていたりすることもあるため高圧的な内容にならないように気をつけます。
電話と違いその場で柔軟に説明することができないため必要な情報を漏らさないようにすべて記載するようにします。
いつの会費が未入金なのか入金確認をいつしたのか、支払い方法も明記しておきます。
<関連記事>【弁護士監修】支払催促状の書き方と送付方法{テンプレート付}
内容証明郵便
電話や普通の郵便で支払いに応じてもらえない場合にはより強力な回収方法をとる必要があります。
内容証明郵便は郵便局のサービスでどのような内容の文書を送ったかを証明してくれるものです。
証拠として残るため相手に強いプレッシャーを掛けることができます。特に弁護士が送付することで効果を発揮します。支払いを拒否していた会員でも素直に支払ってもらうことが期待できます。
<関連記事>債権回収の内容証明作成方法を弁護士が解説!債権回収を効率よく解説!
民事調停
裁判所を利用した手続きですが話し合いによる解決を目指すものです。専門的な知識をもった民間人や裁判官に間に入ってもらいます。円満な解決が期待できるため話し合いがまとまると進んで支払ってもらえることが多いです。仮に支払いに応じてもらえなかったとしても調停調書が作られると預金などを差し押さえることができます。
支払督促
簡易裁判所で必要な書類を提出することで利用できます。相手方に支払いを命じてもらうことができ強制執行ができるようになります。
ただし、相手から異議が出されると訴訟手続に移行することになります。
訴訟
最終的には訴訟を起こすしかありません。通常は判決が出されるまで数か月程度かかりますが少額訴訟を利用すれば原則として1日で判決を出してもらうこともできます。
少額訴訟手続は60万円以下の金銭債権のみ対象です。通常訴訟よりも簡易な手続きであり利用しやすくなっています。
<関連記事>債権回収の裁判(民事訴訟)知っておきたいメリットとデメリット、手続き、流れを解説
強制執行
勝訴判決を得たとしても相手が任意に支払いに応じてくれないときには相手の財産を差し押さえなければなりません。預金などの債権も強制執行の対象となります。
<関連記事>未収金回収はスピードが重要!回収方法、期限、回収不可能になる前にすべき対策を解説
未収金回収を弁護士に任せる
未収会費の回収を自力で行うには限界があります。未収金の回収は迅速に行うことが必要なため弁護士に依頼することを検討します。
弁護士を使うメリット
弁護士に依頼したときの主なメリットは次のとおりです。
回収の可能性が高い
弁護士が請求することで素直に支払ってもらえる可能性があります。事案に応じて適切な対応をするため回収できる可能性が高くなります。
時間や労力
会費の回収業務を委託してしまうことでスタッフが本業に専念することができます。債権回収は簡単なものではなく知識や経験が必要です。専門家である弁護士に任せてしまうことで時間や労力が節約できます。
精神的負担
債権の回収は精神的負担の大きな業務です。特に不慣れなスタッフが担当すればその専門性と重圧により本業に影響が出ることがあります。弁護士に委任することでスタッフを守ることになり通常の業務への影響を防ぐことができます。
弁護士を使うデメリット
弁護士に依頼したときの主なデメリットは次のとおりです。
関係の悪化
第三者が関与することで会員との関係が悪くなるおそれがあります。もっとも滞納を続けていたためすでに関係が悪くなっていることが多く影響はそれほど大きなものではありません。また、弁護士が請求したとしてもはじめは形式的な請求にとどまることが多いためあまり心配する必要はありません。
費用の負担
外部に委託すれば費用がかかります。ですが自力で回収するには裁判するしかないケースであっても、弁護士が電話をしたり督促状を送ったりするだけで支払いをしてもらえるのであれば、かえってコストが安くなります。
<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説
まとめ
・未収会費を支払ってもらえない原因はいろいろあり対応方法が異なります。
・会費には、正会員費、賛助会員費、サービス利用会員費の3種類があり処理が異なります。
・未収会費は原則として計上しませんが入金が確実なときや事業収益の実質があるものは計上します。回収不能となったときは貸倒損失として処理します。
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