養育費の支払いをしてもらえないときにはご自身で解決するか弁護士に相談されるか迷われると思います。ご自身で対処する方法の一つとして「履行勧告」という制度があります。これは家庭裁判所を利用した簡易な手続きです。

 

この記事では養育費の履行勧告の手続きや他の対処法などを解説します。

 

履行勧告とは

履行勧告とは、家庭裁判所の調停や審判などで決められた義務について相手方が守らない場合に、家庭裁判所が状況を調査した上で、義務を果たすように相手方に勧告する制度です。利用料は無料です。「勧告」とは説得して促すという意味であり強制力はありません。

履行勧告は養育費や婚姻費用などを相手が支払わないようなときに利用することができます。強制力はありませんが家庭裁判所から支払いを促してもらえるためある程度の効果が期待できます。費用が無料であることや手続きが容易であることから広く使われています。

 

養育費の履行勧告を行うメリット

養育費について履行勧告を利用することには以下のメリットがあります。

 

相手に心理的プレッシャーを与えることができる

履行勧告は家庭裁判所が法律の規定に基づいて実施します。養育費を強制的に支払わせることはできませんが裁判所から調査結果に基づいて正式に支払いを促されるため心理的な圧力がかかります。

相手方としては支払いに応じずにやり過ごそうと考えていたかもしれませんが、権利者が法律に基づき家庭裁判所の手続きを利用した以上、履行勧告に従わないでいるとさらに強制執行など別の手続きをとることを想像させます。給料や預金などの財産を差し押さえられることは義務者にとって大きなリスクとなるため履行勧告に従い養育費の支払いに応じてもらえることがあります。

 

手続きが簡単で費用が無料

養育費について履行勧告してもらうには家庭裁判所に申し出をするだけです。特に方式が決まっていないため文書(郵送等)や口頭ですることができます。電話で申し出ができることもあります。

裁判所の手続きは通常は費用が掛かりますが履行勧告については費用が無料となっています。

履行勧告では養育費の支払いを強制することはできませんが手軽に利用できるというメリットがあります。

 

養育費の履行勧告を行うデメリット・注意点

養育費の履行勧告には以下のようなデメリットがあります。

 

強制力がない

履行勧告はあくまでも養育費の支払いを相手に促すものです。つまり相手が履行勧告に従わず養育費を支払わなくても法的なペナルティーはありません。もちろん権利者の養育費回収の本気度が伝わることで強制執行をされるのではないかという実感がわき支払いに応じてくれることもあります。特に給料の差押えがされると職場に知られてしまうなどの問題があるため義務者は強制執行を避けるため支払いに応じてくれるかもしれません。

 

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履行勧告がされない可能性がある

養育費の未払いがあったとしても履行勧告されるとは限りません。履行勧告は家庭裁判所の裁量によりなされるものであり必ず実施される保証はありません。家庭裁判所は履行勧告すべきケースであるのか調査を行い必要と判断した際に養育費支払いの履行勧告を行います。

例えば、養育費の支払いができない理由として傷病により収入や財産がないなどやむを得ない事情があるときは履行勧告では問題解決が難しいと判断されるかもしれません。

 

義務者の住所を把握している必要がある

履行勧告の方法は相手方に文書を郵便で送付する方法が一般的です。そのため相手の現住所を申し出る必要があります。住所が変更されているときには住民票等の調査が必要となります。お困りの場合には弁護士にご相談ください。

 

履行勧告手続きの流れ

履行勧告は以下の流れで行います。

 

家庭裁判所への申出

養育費の履行勧告の手続きは家庭裁判所に申し出て行います。担当の家庭裁判所は養育費の支払義務を定める手続きをしたところです(調停や審判などをした場所)。

申出には以下のような書類が求められることがあります。

・調停調書や審判書などのコピー

・預金通帳のコピーなど相手が義務を守っていないことが分かる資料

※申出は郵便など書面の提出や電話など口頭での方法があります。手続きの方法は家庭裁判所によって異なる可能性があります。

 

注意点として、履行勧告は家庭裁判所の調停や審判などで定められた義務について実施するものです。そのため家庭裁判所外で合意したものについては公正証書があったとしても履行勧告の対象とはなりません。

 

家庭裁判所による調査

履行勧告は家庭裁判所が必要と認めたときに実施されます。必要性を判断するために養育費の支払い状況が調査されます(家事事件手続法289条1項、人事訴訟法38条1項)。調査は家庭裁判所調査官により実施され相手方など関係者から事情が聴取されます。

 

履行勧告の実施

調査の結果として家庭裁判所が必要と判断したときには相手方に対して履行勧告が行われます。養育費の支払いを説得し促すということです。具体的には履行勧告書を相手の住所に送付する方法が一般的です。

 

※履行勧告は家庭裁判所によって手続きの方法が異なる可能性があります。

 

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履行勧告で解決しない場合の2つの対処法

履行勧告は養育費の支払いを促すだけであり制裁はなく強制的に支払わせることはできません。そのため相手が履行勧告に従わないときには以下の2つの方法を検討します。

 

履行命令

履行命令は、家庭裁判所の審判や調停などで定められた財産上の義務を相手が怠った場合に、権利者の申し立てを受けた家庭裁判所が相当と認めたときに義務の履行を命じる制度です。履行勧告と異なり強制的な命令であり正当な理由がないのに命令に背いたときには10万円以下の過料に処せられます。申立ては書面で行い500円の手数料がかかります(民事訴訟費用等に関する法律別表第一第17項イ(ハ))。ほかに郵便切手も必要です。

しかし養育費を直接回収できない点で履行勧告と同様の問題があります。

 

強制執行

強制執行は、義務者の財産を差し押さえる等の方法により強制的に権利を実現する手続きです。給与の差押え手続きは債務者の住所地を管轄する地方裁判所で行います。

 

直接強制

直接強制は、相手方の財産を差し押さえて財産を競売するなどの方法により養育費を回収するものです。

差し押さえられる財産は不動産や自動車、預金などいろいろなものがありますが養育費については給料が特に有効とされます。養育費の特徴として少額の支払い義務が将来にわたって継続する点があげられます。過去の分についてはまとまった金額となっていることもあるため不動産や預金などから回収することも有効と考えられますが、将来分の養育費については給料のように継続的に発生する金銭債権が効果的です。

 

強制執行の申立てには以下のものが必要です。

・申立書

・調停調書、審判書、判決書など

・送達証明書

・手数料(給料や預金など債権の執行は原則4,000円)

・郵便切手(3,000円程度ですが裁判所により異なります)

※住民票の写しや登記事項証明書などが必要となることもあります。

 

給料については全額の差押えはできず原則として2分の1相当です(ケースによって異なります)。

 

間接強制

間接強制は、義務を果たさない相手方に対して遅延期間に応じて制裁金の支払いを命じることで心理的に支払いを強制する方法です。間接強制は債務者に過酷なことが多いため普通の金銭債権については利用することができませんが養育費等については特別に認められています。もっとも相手の収入や財産の状況により支払いができないと判断されると間接強制は認められません。

また間接強制が実施されたとしても直接相手の財産を差し押さえていないため間接強制金等の支払いを受けるには別途直接強制の手続きが必要となります。

 

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まとめ

・履行勧告とは、家庭裁判所で決めた義務を守ってくれない相手方に家庭裁判所から義務を実行するように勧告してもらう手続きです。養育費の支払いなどを促してくれます。

履行勧告の費用は無料であり郵便や電話などで申し込みます。

・履行勧告に強制力はありませんが心理的なプレッシャーをかけられるため支払いに応じてもらえることがあります。相手が従わないときは強制執行などを検討します。

・履行命令とは、家庭裁判所で決めた財産上の義務を守らないときに義務の履行を命じてもらう手続きです。正当な理由がないのに命令に反したときは過料に処せられます。履行勧告と異なり手数料がかかります。

・養育費に関する強制執行は相手の財産を差し押さえて強制的に支払いを受ける方法です。預金や不動産などが対象となりますが養育費の場合には給料の差押えが効果的です。

 

養育費のことでお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

養育費の履行勧告は費用がかからず手間も少ないためよく利用されています。ただし履行勧告に従ってもらえないことや当初は支払いに応じても支払いが止まってしまうこともあります。

履行勧告をすると相手が強制執行を警戒し財産を隠すおそれもあります。そのため履行勧告をせずにはじめから強制執行に踏み切る選択肢もあります。

給料を差し押さえれば継続して支払いを受けられるメリットもあります。

状況によって履行勧告を利用すべきか直接強制執行すべきかよく考える必要があります。ご自身で決められないときには弁護士に相談してみることも大切です。

 

当事務所は養育費や離婚などの問題にも力を入れております。お困りのことがあればお気軽にご相談ください。

 

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