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売掛金の支払いが遅延していると自社の資金繰りに影響を与えることになります。もし遅延日数に応じて利息をとることができれば損失をある程度カバーすることができます。
また、あらかじめ利率を高めに設定しておくことでペナルティーとしての意味を高めておけば滞納を防ぐ効果も期待できます。
この記事では売掛金の回収にあたって遅延利息(遅延損害金)をとることができるか、できるとしてどの程度請求可能なのか関連する法律に基づき解説していきます。
売掛金に利息は、発生するのか?
利息というと預金や借金を思い浮かべると思います。売掛金も預金や借金と同じ金銭債権のため利息が発生するようにも思えます。
売掛金と利息
利息とは、貸し付けた金銭の対価として元本額と貸付期間に比例して一定の利率をもって支払われる金銭のことをいいます。「利子」ともいいます。
お金を貸し付けた場合に発生するものですから売買代金や請負代金などに利息は発生しないことになります。土地や建物の賃料も物の使用の対価であり金銭の使用の対価ではないので利息ではありません。あくまで金銭消費貸借契約から発生するものです。
では支払期日に代金が支払われなかった場合になにも支払ってもらえないかというとそんなことはありません。
金銭債務について支払期日までに支払いがなされないときには遅延利息(延滞利息)が発生します。ただし厳密には利息ではなく損害金です(遅延損害金)。
遅延損害金は契約時に定めることができます(約定利息)。法律上の制限にかからない限り自由に定めることが可能です。契約で遅延損害金について合意していなかったとしても法定利率で請求することが可能です。
法定利率は2020年4月1日の民法改正により年3%となっています。利率は3年毎に見直される変動性が採用されているため最新の利率に注意してください。改正前は商行為によって生じた債務については6%とされていましたが廃止されたため年3%となることに気をつけてください。
なお、法定利率が変動した場合には履行遅滞に陥った最初の時点のものが適用されます。
利息制限法について
利息制限法とは金銭消費貸借における利息を規制する法律です。一定の利率を超える合意をしたとしても超過部分は無効となります。遅延損害金も規制対象となります。
注意が必要なのは売買や請負など他の契約については適用がないということです。したがって、売掛金については他の法律で規制されていなければ公序良俗に反するような高利でない限り利率は自由に設定できることになります。
消費者契約法について
遅延損害金の利率制限は消費者契約法にも存在します。事業者と消費者との間の取引については消費者契約法が適用されます。消費者契約法では遅延損害金の利率が年14.6%に制限されています。
なお、他の法律と競合する場合にはそちらが優先することになっています。そのため金銭消費貸借については利息制限法が適用されます。
割賦販売法・特定商取引法
割賦販売法や特定商取引法の適用される契約については遅延損害金は法定利率に制限されています。2020年4月1日改正により法定利率は年3%となっています。
<遅延損害金(売掛金)>
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利率 |
注意点 |
法定利率 |
年3% |
2020年4月1日現在 3年毎に見直し |
消費者契約法 |
上限年14.6% |
他の法律が優先 |
割賦販売法・特定商取引法 |
上限3%(法定利率) |
法定利率が変動すると上限が変わります |
消滅時効が成立すると、売掛金も遅延損害金も請求ができない
売掛金はいつまでも請求できるわけではありません。売掛金に付随する遅延損害金も同様です。
消滅時効とは
債権には消滅時効があり一定の期間が経過すると権利が消滅する可能性があります。2020年4月1日に民法が改正されこの日以降に成立した売掛金については支払期日から5年で消滅時効に掛かる可能性があります。
この日より前に成立した債権については旧法が適用されるため5年より早く消滅することがあるので注意してください。
ただし、時効により権利を消滅させるためには時効によって利益を受ける者がそのことを主張しなければなりません。これを時効の援用といいます。つまり援用があるまでは支払期日から5年経過していたとしても請求していくことが可能です。
時効の完成の阻止
時効は期間が経過したからといって当然に成立するわけではありません。援用しなければならないだけでなく一定の事実があると時効期間が停止したり援用が認められなくなったりします。
時効の更新は一定の事実があると時効期間がリセットされ期間が最初からになるというものです。確定判決や強制執行、債務者による権利の承認等があると時効期間が更新されます。一部弁済も権利の承認となります。
<時効の更新事由・効果>
更新事由 |
効果 |
確定判決やそれと同一の効力を有するものによる権利の確定 |
時効期間のリセット |
強制執行、担保権の実行、換価のための競売、財産開示 |
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債務者による権利の承認 |
時効の完成猶予は時効の完成間近に期間を延長するものです。いくつかの方法がありますが催告するだけで6か月間時効の完成が猶予されるため時効完成が間近になっているときには対策として有効です。その間に訴訟などを行い時効の更新につなげていきます。
催告については内容証明郵便(配達証明付き)を使うことが大切です。催告がいつ行われたのか証明する必要があるからです。なお、催告を繰り返したとしても期間は延長されない点に注意してください。
<関連記事>債権回収の内容証明作成方法を弁護士が解説!債権回収を効率よく解説!
時効期間が経過した場合
時効により権利が消滅するには利益を受ける人による援用が必要です。時効期間経過後に債務者が権利を承認すると債務者は時効の援用ができなくなります。権利者の立場からすると時効を援用することはないと信じるので信義則上援用が認められないからです。
このように時効期間が経過していたとしても売掛金の回収をあきらめる必要はありません。
<関連記事>債権回収、借金には、時効がある!消滅時効とその対処方法について解説!
売掛金の未回収リスクを防ぐために
遅延利息(遅延損害金)を得ることも重要ですが回収を確実にすることのほうが大切です。支払いが遅延しているのであれば売掛金の回収ができなくなるおそれがあるからです。
債権管理(与信管理)
債権管理とは売掛金や未収金に関する管理業務のことです。債権管理を適切に行うことができれば危険な取引を未然に避けることができ、また回収に困難が生じたときにいち早く対処することが可能となります。
与信管理により取引のリスクをコントロールすることで未回収による損失を減らすことが可能です。適切な情報収集と信用力評価を行い取引の可否や数量を決定していきます。
取引後の売掛金の管理も債権管理表を適切に作成、運用し迅速な回収につなげていくことが大切です。自社で対応可能か判断することが容易となるため早い段階で弁護士に相談することもできます。
債権管理についてくわしくは「売掛金の回収が不能になった時の対応方法(貸倒損失)とは?未収金を未然に防ぐ方法」をご参照ください。
保証型ファクタリング
売掛金の未回収対策としてファクタリング会社を利用する方法があります。ファクタリング会社は与信管理を代行していますし回収不可能となったときにも保証してもらうことが可能です。与信審査は専門的な能力が必要となりますが自社に十分なノウハウが無いときにはファクタリング会社に任せてしまうことも一つの方法です。
債権譲渡
売掛金の未回収リスクを減らす方法として債権を売却してしまう方法もあります。債権回収会社(サービサー)やファクタリング会社が債権の買取りを行っています。もちろん本来の債権額よりも買取金額は低くなりますがその時点で損失を確定させることができるメリットがあります。
ただし、価値のない債権は買い取ってもらえないことに注意が必要です。売掛金を買い取った会社は債権回収を行うことで利益をあげるからです。回収の見込がないときには債権譲渡はできないのです。
買取対象債権にも注意が必要です。債権回収会社が取り扱う債権は支払期日到来後の貸付債権やクレジット債権などで金融機関が主な顧客です。
ファクタリング会社については支払期日が到来する前の売掛債権が対象です。つまり、期日到来後は一部の債権について債権回収会社が、期日到来前の売掛金であればファクタリング会社に買い取ってもらえることになります。
利用する目安としては、期日到来前に現金化したい事情があるときのみファクタリング会社を利用するのが現実的です。期日到来後については債権回収会社が買取可能ですが一般の売掛債権は対象外です。そのため期日到来後の売掛金については弁護士にご相談ください。
<関連記事>売掛金を債権回収会社へ取立依頼するときのメリットと注意点を解説
まとめ
・利息は金銭消費貸借の場合に発生するもので売掛金には生じません。
・売掛金でも支払期日を経過すると延滞利息(遅延損害金)が生じます。契約で定めなくても法定利率(年3%)で請求できます。
・法律で制限されていない限り契約で利率を自由に定めることができます。法律による制限として、消費者契約法、割賦販売法、特定商取引法等があります。
・消滅時効にかかると売掛金元本も遅延損害金も請求できなくなります。ただし時効が成立するには援用が必要であり一定の期間が経過したとしても請求できなくなるわけではありません。
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