取引先が倒産する可能性は常にあり可能性をゼロにすることはできません。大切なのは取引先が倒産したとしても落ち着いて対応することです。そのためには事前準備と実際に倒産した場合の対処の仕方が問題です。

 

この記事では取引先が倒産した場合に備えて売掛金の回収不能を防ぐ対応策について解説します。

 

破産・倒産する会社の予兆とは

倒産する前に回収手続きに入ることが重要です。前触れなく突然倒産することはありません。

倒産する会社には必ず何かしらの前兆があるものです。倒産のサインを見逃さないようにすることで回収のタイミングを逃さなくなります。

 

経営者や従業員の変化

経営が傾いてくると従業員に変化が起こりやすくなります。人員整理は避けられないですし社員自ら退職するケースも増えてきます。

 

このように従業員の数が大幅に減る状況が確認できたら注意が必要です。担当者の頻繁な交代や連絡が取りづらくなる状況が見られたら退職者が増えている可能性があります。

 

経営者の動向にも注意が必要です。倒産の危険性が高くなっている場合、経営者は金策のために銀行などの金融機関に出向くことが多くなったり、新規の仕事を取ろうとしたりして外出していることが多くなります。

そのため以前と異なり連絡が取りにくくなっているのであれば倒産の前兆かもしれません。

 

支払い時期や方法の変更

支払い条件の変更を申し込まれた場合にも倒産の前兆であることがあります。代表的な倒産のサインには次のようなものがあります。

 

1.締日や支払期日の変更

締日や支払期日の変更の申し込みは代表的な倒産の兆候です。締日や支払期日を後ろにずらすことで買掛金や借金の支払いがしやすくなるからです。つまり、資金繰りに余裕がなくなっている証拠であり注意する必要があります。

 

一方で他社に対しては支払期日を前倒しするように求めることもあります。この場合にも資金繰りが悪化し自社の買掛金や借金の支払いがうまくいっていない可能性があり注意が必要です。

 

2.手形サイトの延長

手形サイトの延長の申し入れも倒産の予兆です。決済手段として約束手形を利用している場合、通常の支払いサイトに手形の支払いサイトもあるため全体の支払いサイトはとても長くなっています。買い手にとっては支払いサイトが長くなると資金繰りに余裕が出るため有利となります。

 

元々長い支払いサイトをさらに長くしようとして手形サイトの延長を申し込んでくるということは資金繰りに苦労していることが伺えます。

手形サイトが長くなると売り手にとっては資金繰りに悪影響を与えるため安易に応じることはできません。相手に倒産の予兆があることからも特に慎重に判断する必要があります。

 

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3.手形ジャンプの申し込み

手形の支払いを延ばすことを手形ジャンプといいます。先に振り出した手形を無効にして新しい手形を振り出したり決済日を訂正したりする方法があります。

手形ジャンプは不渡りによる倒産を防ぐために行われるため資金繰りが相当悪化している証拠です。倒産間近のことも多く特に危険な予兆といえます。

 

4.手形支払いへの変更

最近では手形取引自体減ってきています。これまで現金取引だったものを手形取引に変更してほしいと申し込まれた場合には資金繰りに困っている可能性があります。特に少額の取引についても手形支払いを求められた場合には資金繰りがかなり悪化しているおそれがあり倒産の予兆といえます。

 

不祥事の発生

企業が問題を起こした場合にも倒産の可能性があります。

企業が世間を騒がす問題を起こした場合には取引を打ち切られるなど経営に大きな影響を受けることになります。

問題の大きさや企業の規模、不祥事への対処の仕方などによって影響の大きさは変わるため必ずしも倒産するわけではありませんが、売掛金の回収という観点からは注意が必要です。

 

取引先が破産(倒産)した場合のリスク

万が一にも取引先が倒産すると自社の経営にも大きな影響を受けることになります。

具体的に取引先が倒産するとどのような影響があるのか見ていきます。

 

売掛金の回収不能

倒産は資金繰りが悪化した結果であり取引先にめぼしい財産は通常残っていません。もしも現金や価値の高い財産などがあれば経営資源や融資の担保として利用しているはずです。

特に破産されてしまうと売掛金の回収は困難となります。配当手続きにより会社財産は優先順位や債権額に応じて支払われますが満足のいく回収は難しいといえます。

 

連鎖倒産のリスク

つながりの深い会社が倒産してしまうと売上を依存していることも多いため自社の経営も危なくなります。

取引先を分散することで連鎖倒産のリスクを減らすこともできますが、その際には取引先同士の取引関係の依存度にも注意が必要です。取引先が同時に倒産してしまえば自社への影響も大きくなるからです。

 

倒産の予兆があった時点で売掛金の回収に動くことが基本です。そのためには予め弁護士に相談できる体制を整えておくことが大切です。

 

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取引先が倒産・破産後、売掛金・債権の回収が見込めない場合の対応

債権回収の努力をしても全額の回収ができないこともあります。このような場合にはできるだけ経営への影響を小さくする工夫が必要です。

 

損金処理

売掛金も財産ですから売上として課税対象となります。ですが倒産してしまった以上実際には財産的価値がないわけですから税金を減らしてもらいたいところです。

 

税務当局から貸倒れとして認められれば所得を減少させることができ税金を安くすることが可能です。

 

貸倒れについてはいくつか種類がありますが法的な倒産手続きが開始された場合のほか、債権放棄(債務免除)が重要です。債権放棄の方法は相手に対する書面による意思表示で行います。「書面」での放棄が損金処理の要件となっている点に注意してください。また税務当局に証拠として提出するため内容証明郵便(配達証明付き)を用いることが大切です。

 

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債権放棄通知書(ひな形)

汎用性の高いテンプレート(文例)ですので適宜変更してご使用ください。

 

 

債権放棄通知書

 

当社(A株式会社)は、貴社(B株式会社)に対し下記の債権を有しておりますが、諸般の事情を考慮し、本書面をもって当該債権すべてを放棄いたします。

 

契約の種類 売買契約(○○サービス契約、消費貸借契約など)

契約日 令和○年○月○日

商品名(サービス名) ○○○○

金額 ○○○○○円

納品日 令和○年○月○日(サービス提供日、貸渡日など)

支払期日 令和○年○月○日

以上

令和○年○月○日

東京都○○区○○1-2-3

A株式会社

代表取締役 木村太郎

東京都○○市4-5-6

B株式会社

代表取締役 鈴木三郎 殿

 

ただし、債権放棄は回収の努力を最大限行った上で行ってください。回収の努力が不十分であると税務当局に判断されると寄付金扱いとなり損金処理が難しくなります。

 

貸倒れについてくわしくは「売掛金の回収が不能になった時の対応方法(貸倒損失)とは?未収金を未然に防ぐ方法」をご覧ください。

 

取引先が倒産・破産した場合の売掛金・債権の回収方法

取引先が倒産したとしても債権の回収をあきらめる必要はありません。裁判所の手続きに従って債権を届け出て配当を受けとる以外にも回収する方法はあります。

 

事実の確認

「倒産」という言葉は広い意味で用いられるため具体的に何が起こっているのか確認することが必要です。破産手続きや民事再生手続き等の法的な倒産手続きが開始されたのか、それとも支払いの停止や私的整理手続きが行われているにすぎないのか見極めることが大切です。それにより今後の対応方法に違いが生じるからです。

 

例えば、破産手続きや民事再生手続き等の法的な倒産手続きが開始されたのであればこれら手続き内で配当を受けることが原則となります(担保権を持っている場合には倒産手続き外で債権の回収が可能ですがくわしくは後述します。)。

 

一方で私的整理手続きであれば裁判所が介入するものではないため特に債権回収に制約はありません。法的手続きの準備段階であっても同様です。

 

このように倒産の内容によって回収手続きに影響が生じることから法的な手続きが開始されたのか、その準備や私的整理の段階にすぎないのかを関係者から聴取して確認します。

 

単に支払いが事実上止まっているなど法的な倒産手続きが行われていないのであれば一般的な債権回収手続きをとっていくことになります。

 

一般的な債権回収手続きについては「あなたの会社が債権回収を行う方法と注意点を弁護士が解説」もご参照ください。

 

相殺

債権の回収は現金や財物を直接取り立てる以外にも方法があります。こちらも相手方に債務を負担している場合には対当額で債務を消滅させてしまえば債権の回収を行ったのと実質的に変わりません。

 

このような回収方法を「相殺」といいます。相手方に買掛金を負担している場合には有効な回収方法となります。回収方法も相手方に対する意思表示だけでいいため回収にかかる時間や労力が少なくて済むメリットもあります。

 

特に自己破産など法的倒産手続きが行われている場合には回収が困難となりがちですが少なくとも買掛金の範囲で回収を実現できます。

 

相殺の方法は相手にその意思表示をするだけですがトラブルを避けるため書面で行うべきです。できるだけ内容証明郵便(配達証明付)を使い証拠として残すようにします。

 

商品の引き上げ

契約条項に「所有権は商品代金が完済された時点で買主に移転する」との所有権留保をつけていた場合には商品を引き上げる方法も利用できます。仮に所有権留保特約がなくても債務不履行を理由に契約を解除して返還請求していくこともできます。

 

ただし、商品を引き上げる際には相手方の承諾が必要となることに注意が必要です。自社に権利があるとしても無断で持ち出すことをすれば罪に問われることもあります。承諾は必ず書面で得るようにしてください。

 

担保権の実行

所有権留保も担保権の一種ですが根抵当権などの担保物権をあらかじめ不動産や工場などに設定しておくこともあります。資産価値が十分にある不動産や工場施設に担保権を設定できている場合には債権回収は容易となります。たとえ法的な倒産手続きが開始されたとしても担保権を実行していくことが可能です(会社更生手続を除く。)。

 

担保権の実行には競売手続により換価代金を受け取る方法のほかに担保不動産収益執行手続きもあります。これは賃貸物件の賃料から回収する方法であり高額な賃料が期待できる場合などに選択肢となります。

 

<関連記事>担保による売掛金回収の方法を徹底解説

 

連帯保証人への請求

連帯保証人を立ててもらっているのであればそこから回収することも可能です。ただし、経営破綻した法人の代表者が連帯保証人である場合には一緒に債務整理手続きを実施することも多いため注意が必要です。

 

強制執行

強制執行により取引先の財産を差し押さえて回収していくことも可能です。強制執行するには勝訴判決などの債務名義が必要となります。即決和解調書や公正証書(執行認諾文言付き)も債務名義となるため差押え可能です。

 

ただし、法的倒産手続きが開始されると原則として強制執行することができなくなります。そのため自己破産される前に迅速に回収をする必要があります。

 

取引先が倒産・破産し売掛金・債権の回収ができなくなることを防ぐ準備

取引先が倒産・破産する前に回収不能にならないための対策をとることが大切です。

 

契約書の作成

取引先が倒産した場合には破産手続きであるか訴訟手続であるかにかかわらず債権の存在を証明しなければなりません。発注書やメールなども証拠となりますが確実なのは契約書です。継続的取引をする際には基本契約書を作成しておくと安心です。

 

契約書は事後的に作成することも可能です。支払いが遅れているような場合には債務承認弁済契約書の作成を検討します。

 

<関連記事>企業における債権回収対策・契約上の注意点!トラブルを未然に防ぐ契約書作成のポイント

 

担保権の設定

根抵当権や連帯保証人などの担保を設定することも有効です。少額の取引では担保の要求は難しいですが取引規模が大きい場合には担保を求めることは大切です。

 

担保はできるだけ物的担保が望ましいといえます。連帯保証人では取引先が倒産すると一緒に自己破産してしまうケースがあるからです。

 

根抵当権は継続的取引に使いやすい担保権です。設定対象は不動産に限らず工場にも設定できるため不動産の担保価値が低いときにも使えます。

 

まとめ

取引先が倒産しても債権の回収は可能です。

・倒産にも種類があり法的な倒産手続きが開始されたのか確認することが必要です。

・債権の回収方法には、担保権の実行、相殺、保証人への請求、強制執行などいくつも方法があります。

・回収が不可能となったときの対応として税金を軽減させる方法があります。

・取引先の倒産への事前対策として適切な契約書の作成や担保権の設定が有効です。

 

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