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強制執行しようとしても相手の財産が分からなければ差し押さえることはできません。せっかく裁判で勝ったとしても売掛金や養育費などを実際に回収できなければ意味がありません。そのため、債務者の財産を明らかにする手続きが用意されています。
この記事では、財産開示手続とは何か2020年の法改正を含めて解説していきます。
財産開示手続とは
財産開示手続とは、債権者の申立てにより裁判所が債務者に対して保有する財産を陳述させる手続きです。
強制執行をするためには「債務名義」と呼ばれる権利の存在を証明する文書が必要となります。代表例は確定判決書ですが、たとえ裁判をして勝訴判決をもらったとしても相手が自分から支払いに応じてくれるとは限りません。
その場合、債務者の財産に対して強制執行をして差し押さえていく必要があります。差し押さえた財産を処分して強制的に債権回収を行うことになります。
ここで大きな問題があります。債務者の財産が分からなければ強制執行していくことができないのです。動産執行に関してはあらかじめ目的物を特定する必要はありませんが、不動産や預金などの債権を差し押さえるためには裁判所に対しどの財産を対象に強制執行をするのか特定する必要があります。裁判所が債務者の財産を調査してくれるわけではありません。
債務者がどのような財産を持っているのか容易にはわかりません。居住している不動産くらいであれば分かるかもしれませんが、抵当権のついていない別荘や預金などは簡単には見つかりません。
そこで、債務者自身にどのような財産を持っているのかを陳述させることで強制執行しやすくするのです。
<関連記事>債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説
財産開示手続の内容
財産開示手続きは2003年から導入されています。しかし、利用件数が少なかったため2020年に改正され実効性が高められました。
改正前の財産開示手続
財産開示手続きが導入された当初は使い勝手が悪く利用件数が年間で数百件程度とあまり利用されていませんでした。
財産開示手続きが利用されにくかった理由は価値の高い財産が見つかることが少なかったからです。債務者が正直に財産を明らかにしないのです。従わなかった場合のペナルティが弱かったことが原因の一つです。
債務者が裁判所からの呼び出しに従わなかったりうその陳述をしたりしたとしても30万円以下の過料となるだけでした。高価な財産がある債務者は黙っていた方が得をしたのです。
改正後の財産開示手続
財産開示手続きは強制執行を実効性のあるものにするために重要なものです。そのためいくつかの大きな改正が行われました。
罰則の強化
出頭や陳述の拒否やうその陳述をした場合のペナルティとして、「6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処せられることになりました。「過料」と異なり「罰金」は刑罰であるため刑事手続きが行われます。懲役の可能性もあります。実際に刑事責任が追及されるケースも現れています。
利用範囲の拡大
債務名義をもとに財産開示手続きをすることができます。改正前は確定判決や和解調書などに制限されており支払督促や公正証書(執行認諾文言付き)などは対象外となっていました。
改正後は支払督促や公正証書など債務名義の種類を問わず申立てができるようになりました。
第三者からの情報取得手続
債務者以外の第三者から情報を取得する手続きが新設されました。債務者に対する罰則が強化されたからといって素直に手続きに応じてくれるとは限りません。
そこで、預貯金や不動産、勤務先などについて銀行や市区町村などに情報提供を命じてもらうことができます。
情報の種類 |
情報提供を要請する第三者 |
注意事項 |
預貯金 |
銀行等の金融機関 |
|
株式、社債等 |
銀行、証券会社 |
・先行して財産開示手続きが必要 |
土地、建物等 |
登記所(法務局) |
|
勤務先等 |
・市区町村 ・日本年金機構等 |
・先行して財産開示手続きが必要 ・養育費等の支払いや生命、身体侵害による損害賠償の債権者のみ |
<関連記事>養育費不払いの対処法|差し押さえできないケースも解説
財産開示手続の流れ
債務名義をもっている人の財産開示手続きの基本的な手順について解説していきます。
※裁判所やケースによって取り扱いが異なる可能性があります。
申立て要件の確認
財産開示手続きを利用するには一定の要件を満たす必要があります。
申立てできる債権者 |
申立て要件(どちらか) |
執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者 |
・強制執行等により完全な弁済を得られなかった(6か月以上前のものは除く。) ・知れている財産からでは完全な弁済が得られない |
一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者 |
※先取特権は給料債権など保護の必要性の高い債権者に認められるものです(民法303条以下)。債務者が3年以内に財産開示手続きで陳述したことがあるときは手続きを利用できないことがあります。
申立て書類の作成
財産開示手続きをするには下記に示すような書類を用意する必要があります。
・財産開示手続申立書 ・当事者目録 ・請求債権目録 ・財産調査結果報告書 ・債務名義等還付申請書 |
申立て
申立ては管轄の裁判所に行います。管轄裁判所は債務者の所在地等を管轄する地方裁判所です。特に問題がなければ1か月程度先の日に財産開示期日が指定されます。債務者にも通知がいき財産開示期日のおよそ10日前までに財産目録の提出が求められます。
提出された財産目録は財産開示期日前に閲覧、謄写が可能なので期日前に入手しておきます。
財産開示期日
裁判官から本人確認や注意事項の説明があり必要事項の質問を行っていきます。質問は裁判所の許可を得て行います。基本的な質問内容は事前に文書にして提出しておきます。根拠のない探索的な質問などは許可されません。
期日後
財産開示手続きによって明らかになった財産について強制執行を検討していくことになります。
<関連記事>強制執行にかかる費用とは?裁判所に強制執行を申請する手順をご紹介
財産開示手続に必要な書類・費用
財産開示手続に必要な書類や費用について見ていきます。
※裁判所やケースによって取り扱いが異なる可能性があります。
財産開示手続申立書
財産開示手続申立書はひな型があるため裁判所のホームページなどから入手します。
申立書と各目録をホチキスで止め、各ページに契印するかページ数を記載し各ページの上部余白に捨印を押します。
当事者目録
当事者や代理人の氏名、名称、住所を記載します。
氏名や住所に変更があるときには債務名義上の氏名住所とのつながりを証明する住民票の写しなどが必要となることがあります。
また、目録の写しを求められることがあります。写しについてはホチキスで止めず押印もしません。
請求債権目録
債務名義を裁判所名、事件番号、種類等で特定し、請求債権額を記載します。
財産調査結果報告書
過去3年以内の財産開示手続の有無や不動産などの財産について記載します。
添付書類
添付書類として次のようなものを提出します。
・執行力ある債務名義の正本(家事審判の場合は確定証明書も) ・送達証明書 ・債務名義等還付申請書 ・添付書類の写し ・商業登記事項証明書(法人の場合) ・住民票、戸籍謄本(氏名や住所に変更があるとき) など |
証拠書類
知れている財産に強制執行を実施しても完全な弁済が得られないことなどを示す書類が必要です。
<完全な弁済が得られない場合の資料例>
・不動産業者の評価書 ・弁護士法照会による勤務先、金融機関等からの回答書 |
申立手数料・予納金等
申立手数料や予納金が必要となります。
費用内訳 |
費用 |
申立手数料(収入印紙) |
2,000円 |
予納金等(郵便料金)
|
6,000円 ※東京地裁の場合 |
財産開示手続費用は原則として債務者の負担となりますが(民事執行法203条、42条)、債権者が支払い債務者から回収していくことになります。
<関連記事>財産開示手続きで債権回収する4つのポイント
財産開示手続を弁護士に依頼するメリット
財産開示手続きは簡単ではありません。弁護士に依頼すると次のようなメリットがあります。
必要な書類を作成・収集してもらえる
財産開示手続きを行うには各種書類をそろえる必要があります。申立書の作成だけでもかなり難しいと思います。申立書で主張した事実を裏付けるための証拠を集めることも必要です。
弁護士に依頼することで書類の作成や収集を任せることができます。
財産開示手続きを代理してもらえる
財産開示手続きは期日に出頭し債務者に質問をしていく必要があります。質問が効果的でなければ財産が明らかになりません。また、適切でない質問は裁判所が許可してくれません。質問時間は限られているため効率的に行う必要があります。
弁護士であれば強制執行による回収まで視野に入れた効果的で適法な質問をすることが可能です。
強制執行による回収までしてもらえる
財産開示手続きは強制執行の前段階にすぎません。債権回収をするには強制執行を成功させる必要があります。強制執行は専門性の高い手続きのため経験がなければ失敗する可能性が高くなります。せっかく訴訟などにより債務名義を取得し財産開示手続きをして債務者の財産を明らかにできた以上、慎重に強制執行する必要があります。
財産開示手続きを行ったことで債務者が強制執行を警戒しているため迅速に回収する必要があります。
弁護士であれば強制執行手続きを効率よく迅速に実施することができます。
<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説
まとめ
・財産開示手続きとは、債務者自身に財産の有無や種類を陳述させる裁判所の手続きです。
・2020年に財産開示手続きが改正され、利用できる債権者の拡大、罰則の強化、第三者からの情報取得制度が導入されています。
・財産開示手続きを利用できる債権者は、債務名義をもっているか一般の先取特権者です。
・財産開示手続きの要件として知れている財産に強制執行をしても完全な弁済が得られないことなどが必要です。
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