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家賃の滞納があった場合には差し押さえも選択肢となります。ただし、家賃の滞納があったからといって、すぐに家賃滞納者の財産を差し押さえできるわけではありません。一定の条件が必要となるからです。
この記事では、家賃滞納者の財産に差し押さえをする方法や注意点について解説します。
そもそも差し押さえとは
差し押さえとは、国家権力によって財産の処分を禁止することをいいます。
お金を請求する権利のことを「金銭債権」といいます。大家さんは家賃請求権という金銭債権を持っていることになります。
金銭債権を強制的に支払ってもらうためには、支払う義務のある人(「債務者」といいます。)の財産を確保する必要があります。そのために「差し押さえ」を行います。
差し押さえをしても財産の処分が禁止されるだけですので、差し押さえた財産を売却するなどしてお金に変える必要があります。
大家さんとしては滞納家賃を回収するために、借主の財産を差し押さえて、お金に変える必要があります。
このように、「財産を差し押さえて」、「お金に変えて」、「配当を受ける」という一連の手続きを「強制執行」といいます。
つまり、差し押さえというのは、強制執行の一番初めに行う手続きということです。
もっとも、強制執行の意味で差し押さえと表現することも多いため、この記事の中では同じ意味として使うことにします。
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差押えに必要な条件・もの
差し押さえをしていくためには一定の条件を満たす必要があります。家賃を滞納されたからといって当然には差し押さえできません。
債務名義
滞納家賃を差し押さえるためには「債務名義」が必要です。
債務名義とは、家賃請求権などの権利を証明した公的な文書で、法律によって差し押さえできる力が与えられたものです。
家賃を滞納しているとはいえ、他人の財産を差し押さえるためには、差し押さえを許可した証明書が必要なのです。
債務名義の代表例は「確定判決書」です。滞納した家賃「〇〇円を支払え」と借主に命じた判決書です。
債務名義には他に次のようなものがあります。
・仮執行宣言付判決 ・和解調書、調停調書 ・仮執行宣言付支払督促 ・公正証書(強制執行をしてかまわないと書いてあるもの) |
基本的には裁判所に訴訟を起こしたり、支払督促という手続きをとったりして、債務名義をもらうことになります。
債務名義について詳しくは、「債務名義とは? 取得方法と債権回収までの流れを分かりやすく解説」をご覧ください。
相手の財産の情報
家賃滞納者に財産がなければ差し押さえることはできません。また、財産をもっていたとしても財産の種類や場所が分からなければ差し押さえはできません。
そのため、差し押さえ手続きをする前に家賃滞納者の財産を調べておくことが大切です。不動産や自動車、預金口座など価値のありそうなものが分かっていれば、その財産を目的に差し押さえることができます。勤め先が分かっていれば給料を差し押さえることもできます。
家賃滞納者の財産が分からないときは、財産を調査する方法もあるので弁護士にご相談ください。
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費用
家賃滞納者の財産を差し押さえるには、裁判所や執行官に費用を支払う必要があります。裁判所に対する費用は債務者に請求することができますが、とりあえず債権者が納める必要があります(費用を回収できない可能性がある点には注意してください。)。
費用は差し押さえる財産によって違ってきます。不動産を差し押さえるときには、預金や給料を差し押さえるときよりも高額になります。
滞納している家賃の金額によって、どの財産を差し押さえるかをよく考える必要があります。
<関連記事>差し押さえにかかる費用とは?弁護士に差し押さえを依頼したほうがよい理由をわかりやすく解説
裁判所の審査
差し押さえは債権者自身が行うわけではありません。裁判所や執行官が行うため必要な書類を用意して申し立てる必要があります。書類などに不備があるときには差し押さえをしてくれません。
そのため、適切な申立書の作成や、必要な添付書類を準備する必要があります。
差し押えの方法
差し押さえの方法には3つの種類があります。「動産執行」、「不動産執行」、「債権執行」に分かれています。差し押さえる財産の種類による違いです。
動産執行
動産執行というのは、不動産以外の物への差し押さえ手続きのことです。室内にある物や現金などが対象となります。自動車も本来は不動産ではなく「動産」なのですが、差し押さえ手続きにおいては、軽自動車や未登録の自動車を除いて不動産に準じた手続きをすることになっています。
実際の差し押さえは、家賃滞納者の部屋に執行官が立ち入り、めぼしい財産を探してラベルを貼っていきます。
動産執行の注意点としては、差し押さえ財産に制限があることです。滞納者の日常生活に欠かせないものは差し押さえできないことになっています。
不動産執行
家賃滞納者の不動産を差し押さえて競売にかけ、売却代金から滞納家賃を回収する方法もあります。家賃滞納者が土地などの不動産を持っているときには有力な選択肢になります。
高価な財産であるため滞納している家賃が高額であっても全額回収できる可能性があります。
一方で、動産執行よりも差し押さえ手続きに時間や費用がかかりやすい点がデメリットとしてあります。予納金などとして裁判所に数十万円以上を納めなければならないため、家主の経済的負担が大きいといえます。差し押さえをしたとしても必ずうまくいくわけではないため、滞納家賃額が小さいときには他の方法を検討した方がいいかもしれません。
債権執行
家賃滞納者の給料などを差し押さえる方法もあります。動産や不動産の差し押さえ手続きと異なり、お金に変えるために処分する必要がないため、手間や費用が抑えられる可能性があります。
債権も特定できないと差し押さえすることができません。賃貸借契約では勤務先を把握していることも多いため、給料を差し押さえることが考えられます。
給料債権の差し押さえの場合、原則として給料の4分の1までしか差し押さえられないことに注意が必要です(手取り額によって変わります。)。家賃滞納者にも生活があるためです。その代わり継続して差し押さえの効力が生じます。
家賃滞納者の銀行預金を差し押さえることもできます。この場合には差し押さえの制限はありません。その代わり継続的な差し押さえの効力がありません。
家賃滞納者に差押命令が通知されてから一定期間が経過すると、家主が代わりに預金などの支払いを請求することが可能となります。
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差し押さえを行う際の注意点
滞納家賃の回収のために差し押さえをする際は以下の点に注意が必要です。
執行停止の可能性
滞納家賃の回収のために差し押さえ手続きを実施したとしても、家賃滞納者から不服申し立てがなされることがあります。このような場合には差し押さえが取り消されることがあります。
例えば、執行官が家賃滞納者の財産だと思って差し押さえたところ、同居の家族の持ち物であるとして不服申し立てがされることがあります。
不服申し立てがなされた場合には迅速かつ適切に反論していく必要があります。そのため、差し押さえ手続きを行う際は、弁護士に依頼されることをおすすめします。
適切な差し押さえ財産を選ぶ
家賃滞納者が複数の財産を持っている場合には、差し押さえ対象としてどの財産を選ぶかが重要となります。財産によっては差し押さえ費用が高額になるため費用倒れになるおそれもあります。
現在の家賃滞納額がいくらなのかにもよりますが、適切な財産に差し押さえを行っていかなかなければ損失がかえって増えてしまうこともあります。
適切な差し押さえ財産を選ぶためには家賃滞納者の財産を正確に知る必要があります。一部の財産しか把握できていない状態では適切な財産に差し押さえをすることができないからです。
滞納者の財産を把握するためには適切な調査が必要です。その上で、本件における滞納家賃の回収にはどの財産を差し押さえるべきかを判断する必要があります。
家賃滞納は5年で時効のおそれ
家賃の滞納が長期間に及んでいると消滅時効にかかる恐れがあります。
家賃を請求できることを知った時から5年が経過すると、その月の家賃請求権が時効にかかる可能性があります。時効が成立するには条件が必要なため、5年経過したからといって当然に請求できなくなるわけではありませんが、早めに家賃の滞納を解消することが大切です。
<関連記事>気を付けるべき滞納家賃の消滅時効!トラブルを避けてしっかりと回収する
まとめ
・差し押さえとは、国家権力によって財産の処分を禁止することです。財産を差し押さえて、お金に変えて、配当を受ける、「強制執行」の最初に行われるものです。
・家賃滞納者の財産を差し押さえるには、「債務名義」が必要です。債務名義とは、権利の公的な証明書のことで、確定判決書などがあります。
・差し押さえ可能な家賃滞納者の財産としては、「給料」や「預金」などがあります。
・家賃は5年が経過すると時効にかかる恐れがあるので早めに弁護士にご相談ください。
滞納家賃の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
家賃の滞納でお困りの大家さんへ。
家賃滞納の影響を最小限にするには迅速な行動が大切です。
家賃の滞納は放置すると高額な不良債権となるおそれがあり、他の借主に悪影響を与えることもあります。
そのため、強制退去も併せて考えていくことが必要です。
強制退去については、「アパートの強制退去の流れとその注意点、費用についての詳しく解説」をご覧ください。
当事務所は滞納賃料など定期的に発生する債権の回収に強い事務所です。
滞納家賃でお困りのときは、お気軽にご相談ください。