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売掛金の回収が難しくなるときがあります。そのようなときに未回収の責任を取引先以外に求めることはできるのでしょうか?
そもそも売掛金の支払いをしてくれない理由は経済的理由だけではありません。未回収となっている原因がわかれば解決策も見えてきます。
この記事では、売掛金の未回収の責任は誰が負うのか、また未回収となった場合の対処法や未回収を防ぐ方法について解説していきます。
売掛金の未回収は取引先の責任
売掛金が未回収となっている場合に誰に責任をとってもらえるのでしょうか。請求書を取引先に提出しているのであれば基本的に自社に責任はありません。
もちろん取引先に責任があることは当たり前ですが、取引先に支払いを求めても一向に応じてもらえず回収が難しいときに他に責任を取ってくれる人がいれば安心できます。
責任を取ってもらえそうなのは、「自社の従業員」や「取引先の役員」が考えられます。
自社の従業員
営業担当者など自社の従業員に責任を取らせる会社もあります。回収できなかった売掛金について賠償を求めるのです。給料や退職金から天引きすることもあります。
こういったことは許されるのでしょうか?
労働者は労働契約により誠実に業務を行う義務を負っています。もし労働者が会社に故意や過失により損害を与えてしまったのであれば労働契約の不履行として損害を補填する責任を負うことになります。
そのため、わざと売掛金の回収をしなかった場合や勤務怠慢により回収ができなかったような場合には責任を取ってもらうことは可能です。
ただし、従業員に回収の責任をとらせることができるケースであっても全額の請求は難しいといえます。従業員の責任で生じた損害であっても会社と分担することになります。
会社が従業員によって損害を受けたとしても会社には監督責任がありますし、利益に見合うリスクを会社は負う必要があるからです。
そのため、従業員に対する賠償請求は一般的に損害額の4分の1程度しか認められていません。もちろんケースバイケースではありますが、これまで裁判所で争われたケースと大きく異なるケースでもない限り回収金額はかなり制限されることになります。
債権回収に関する裁判例を紹介しておきます(東京地裁平成15年10月29日判決)。
複数の取引先に対する約2,000万円の売掛金について営業課長が請求を怠ったことで約800万円の回収ができなくなったというケースです。
営業課長は退職届を会社に提出しましたが退職日より前に会社は営業課長を懲戒解雇にしました。懲戒解雇の場合には退職金が支払われないため退職金の支払いをしなくてすむように解雇したと考えられます。
営業課長は退職金(約1,300万円)の支払いと違法な懲戒解雇による慰謝料として300万円の支払いを求めて訴えを起こしました。
会社も対抗措置として回収不能となった売掛金について賠償を求める訴えを起こしています。
裁判所は退職金の支払いと慰謝料として200万円の支払いを会社に命じています。一方で営業課長に対し200万円を会社に支払うように命じています。
回収不能の売掛金は約800万円ですので4分の1の支払いが命じられたことになります。ただし、会社も200万円の慰謝料の支払いが命じられているため営業課長は実質的に売掛金についての責任を免れているように見えます。
このように売掛金の未回収の責任を従業員に求めることは難しいといえます。給料から天引きするようなことも許されません。労働基準法に違反するため刑罰を受けることもあります。
取引先の役員
取引先から回収することが難しくても、その取締役の責任を追求することはできないでしょうか。
結論から言えばかなり難しいといえます。一般的な取引を行っていて結果として支払いができなくなったようなケースでは責任を求めることはできません。
支払いの見込みが低いのに契約を結んだなど悪質なケースでなければ取締役だからといって責任を追求することは難しいのです。
会社と取締役個人はあくまで別人格のため会社に売掛金の支払い責任があっても当然には経営者に責任はないのです。
ただし、連帯保証契約をしていれば責任を求めることができます。
連帯保証人は債務者と連帯して責任を負うため取引先が支払えないのであれば、連帯保証した社長などの役員にも責任を求めることができるのです。
<関連記事>あなたの会社が債権回収を行う方法と注意点を弁護士が解説
取引先が売掛金を払ってくれない理由
取引先が売掛金を支払わない理由にはさまざまなものがあります。売掛金の回収を効率良く行うには支払ってくれない原因を突き止めることが大切です。
請求に問題がある
請求書の発行をしていなかったり金額を間違えていたりなど請求にミスがあることがあります。このような単純ミスであれば迅速に対処していく限り大きな問題にはなりにくいといえます。ただし、請求を放置していたことで時効にかかったり取引先の経営が悪化したりして売掛金の回収が不能になることがあります。
売掛金の回収は迅速に行うことが基本です。請求に問題があったのであればできるだけ早く適切な請求を行っていくことが必要です。
支払いを忘れている
請求書の発行に問題がなくても取引先の単純ミスで支払われないこともあります。単なる事務処理上のミスにすぎず催促をすれば支払ってもらえるので特に心配のないケースです。
ただし、本当に単純ミスで支払われていないのか分からないため何度も支払いが遅れるのであれば注意が必要です。
品質への不満
支払いがなされない原因が自社にあることもあります。商品やサービスに対して不満を持たれてしまうと相手方が返品や解約を検討することになります。このような状況にあるときにも支払いが遅れることがあります。
このように自社に原因があるケースもあるため支払いを催促する際には気をつける必要があります。
資金繰りの悪化
売掛金の回収の際に一番問題となりやすいものが得意先の経営状況の悪化です。資金繰りが悪くなれば支払いも遅れがちとなります。資金繰りが悪くなったとしても一時的なものであれば特に問題はありません。しかし、たびたび支払いが遅れるのであれば経営状態が悪くなっている可能性があります。債権回収期間を短くしたり取引量の調整をしたりする必要があるかもしれません。
<関連記事>売掛金を最も効率良く回収する方法とは?未回収時の対処法含めた必ず知っておきたいポイントを説明
売掛金が回収できないことのリスク
売掛金の回収を適切に行わないと回収が不可能となるおそれがあります。
消滅時効
売掛金はいつまでも請求できるわけではありません。債権には消滅時効があるからです。
売掛金の消滅時効期間は原則として5年です。支払期日の翌日から数えて5年で売掛金が消滅する可能性があります。
期間が経過したとしても直ちに権利が消滅するわけではありません。相手方が「時効なので支払いません」と主張してはじめて権利が消滅します。
また、相手が「支払います」と言ったり、売掛金の一部を支払ってくれたりすれば期間はリセットされます。
そのため支払期日の翌日から5年が経過していたとしても回収をあきらめる必要はありません。ですが売掛金の支払いが遅れた場合にはできるだけ早く回収するようにしてください。
<関連記事>売掛金の時効はいつ?未回収にさせないためにするべきこと
倒産の可能性
売掛金の支払いが遅れている原因が取引先の経営状況の悪化なのであれば倒産してしまうこともあります。取引先が自己破産や会社更生法の適用を受けるなど倒産状態となってしまうと売掛金の回収は難しくなってしまいます。
売掛金が未回収にならないための予防策
売掛金の回収を確実に行っていくためにはいくつか押さえておくべきポイントがあります。
与信管理をしっかりする
与信管理とは、取引内容や相手方の財務状況などから取引の有無や内容を決めてリスクをコントロールしていくことです。
取引先の信用力に合わせて与信額を設定しその範囲で取引を行うことになります。
与信管理をしっかり行っていけばリスクの高い取引を避けることができるため回収不能のリスクを最小限にすることができます。
特に初めての取引であるときには相手の信用力がわからないため事前の調査が重要となります。情報収集の基本情報は決算書といえます。バランスシートや損益計算書があれば財務状況を把握することができます。相手方から直接入手する方法のほかにホームページから閲覧可能なこともあります。
これまで取引のあった得意先であっても信用状態は変化するため取引額が大きくなるようなときには信用調査を適宜行うことが大切です。
担保を求める
大きな取引を行うときには事前に担保を求めることも有効です。不動産であれば根抵当権を設定することが一般的です。一定の金額の範囲でさまざまな取引により生じた売掛金を担保し続けることができます。
連帯保証人を立ててもらうことも有効です。社長個人などに連帯保証人となってもらうことで売掛金の回収の可能性を少しでも高めることが可能となります。
<関連記事>担保による売掛金回収の方法を徹底解説
回収の手順を決めておく
あらかじめ売掛金の回収方法についてマニュアル化しておくことも有効です。支払期日を何日経過したら督促するか、経過日数に応じて内容証明郵便の送付や法的手続きの利用、弁護士への依頼をするかを決めておくのです。
売掛金の回収は迅速に行わなければなりません。消滅時効や相手方の資金繰りの悪化により回収ができなくなるおそれがあるからです。そのためには事前に回収方法を決めておき効率よく回収できるようにしておくことが大切です。
弁護士と顧問契約をしておく
売掛金の未回収への備えとして弁護士にいつでも相談できるようにしておくことが特に有効です。
売掛金の回収は早め早めに行動していくことが大切ですが弁護士への相談もできるだけ早く行うことが重要です。早い段階で相談することで大事になりにくくなります。
弁護士から取引先に催促してもらうことで優先的に支払いをしてもらいやすくなり売掛金の回収が容易となります。
<関連記事>法人での顧問契約とは?弁護士事務所と契約するメリットを解説
売掛金が未回収になってしまった場合の解決策
売掛金を催促しても支払いに応じてもらえず普通の方法では回収できなくなった場合でも解決策はあります。
内容証明郵便
内容証明郵便は、誰から誰に対してどのような内容の文書を送ったかを証明してくれるものです。郵便局で手続きすることができます。裁判所を利用しないためハードルの低い方法といえます。
証拠として残るため取引先に与えるプレッシャーは大きく素直に支払いに応じてくれることもあります。弁護士から送付することで特に効果を発揮します。
通常は、期限までに支払いに応じないときには法的手段をとると記載しておきます。
<関連記事>債権回収の内容証明作成方法を弁護士が解説!債権回収を効率よく解説!
法的手段
相手がどうしても支払いに応じてくれないときには裁判所の利用を検討します。法的手段といっても訴訟だけではありません。
支払督促は簡易裁判所で手続きをとるもので申立てをすると取引先に対し売掛金の支払いを命じてもらうことができます。書面審理のみで命令してもらうことができます。相手が異議を申し立てると訴訟に移行してしまうのが難点ですが有効な売掛金の回収手段の一つです。強制執行も可能です。
民事調停は話し合いによる解決を目指すものです。簡易裁判所に申し立てをすると相手方を裁判所に呼び出してもらうことができ、民間の調停委員と裁判官にも加わってもらい話し合いをすることになります。話し合いがまとまれば調停調書が作られますが判決と同じ効果があるため相手の財産を差し押さえることもできます。
最終的には訴訟を利用することになりますが通常訴訟は簡単ではないため弁護士に相談したほうがいいでしょう。
少額訴訟という比較的利用しやすい訴訟手続もあります。売掛金が60万円以下でなければ利用できないという制限はありますが、1日で審理から判決まで出してもらえるため迅速に売掛金の回収が可能です。
<関連記事>売掛金回収のための法的手段とは?具体的な手順を解説
回収代行を依頼する
自社で回収業務を行うのではなく外部の専門家に依頼してしまう方法もあります。回収業務のアウトソーシングです。費用はかかりますが自社の人件費を考えるとかえってコストを抑えることも可能です。
焦げ付いた売掛金の回収は誰でもできるわけではありません。
法律で債権の回収が認められているのは、「弁護士」、「認定司法書士」、「債権回収会社(サービサー)」の三者のみです。
認定司法書士については140万円以下の売掛金しか回収できないことや強制執行の権限に制限があるため注意が必要です。債権回収会社については金融機関の債権など一部の債権しか扱っていません。
弁護士であれば一切の制限なく売掛金の回収が可能です。
<関連記事>債権回収は弁護士に依頼した方がよいのか?メリット、注意点をしっかり、分かりやすく解説
貸倒損失
売掛金が消滅時効にかかったり取引先が倒産したりして回収不能となってしまうこともあります。
このような場合には貸倒損失として処理することで所得を少なくし税金を減らしてもらう方法が有効です。
<関連記事>売掛金の回収が不能になった時の対応方法(貸倒損失)とは?未収金を未然に防ぐ方法
まとめ
・売掛金未回収の責任を従業員に負わせることは難しいといえます。
・売掛金を支払ってもらえない理由には、経済的理由のほか単純な請求ミスや支払い忘れ、商品やサービスへの不満などがあります。
・売掛金の回収を放置していると消滅時効にかかったり取引先が倒産したりして回収が不能となるおそれがあります。
・売掛金の未回収を防ぐには与信管理をしっかり行うことが重要です。
・売掛金の回収が難しくなったときには法的手段を検討する必要があります。
・弁護士から督促することで支払いに応じてもらいやすくなるため早めに相談することが大切です。
未収金、売掛金の回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所
売掛金未回収の責任を従業員に負担させるとトラブルの原因となることがあります。
取引先から回収できればそのような問題も起こりません。
当事務所では報酬の支払いは完全成功報酬制となっており未収金が入金されてはじめて報酬が発生するため万が一回収に至らなかったときには費用は生じません。
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