危険負担とは何でしょうか。言葉を聞いただけではイメージがわきにくいと思います。

簡単に言えば契約当事者の双方に責任がない出来事、例えば地震などの災害が起きて契約を守れなくなったときにどうなるのかという問題です。

 

この記事では、危険負担とは何かを2020年の民法改正を中心に解説していきます。

 

危険負担とは

契約当事者は双方が契約上の義務(債務)を負うことが普通です。売買契約であれば売主は目的物を引き渡す債務を、買主は代金を支払う債務を負っています。賃貸借契約であれば貸主は目的物を借主に利用させる債務を、貸主は使用の対価を支払う債務を負っています。

このように当事者双方が相互に対価的な債務を負担している契約を「双務契約」と呼びます。

ところが、債務は契約後の事情によって履行不能となることがあります。例えば、地震によって中古品売買の目的物が滅失した場合には、売主の引き渡し債務は履行不能となります。

 

危険負担とは、一方の債務が当事者双方の責めに帰することのできない事情により履行不能となった場合に、もう一方の債務をどうするのかという問題です。

 

考え方としては、他方の債務は履行するべきとするものと、履行しなくていいという2つがあります。専門的には「債権者主義」と「債務者主義」と呼ばれます。災害などのリスク(危険)をどちらが負うのかという問題です。

 

債権者主義

危険負担における債権者主義とは、一方の債務が当事者双方の責めに帰することのできない事情により履行不能となった場合でも、もう一方の債務は履行する必要があるという考え方です。履行不能となった債務の債権者がリスク(危険)を負担するという意味です。

 

例えば、世界で一つしかない希少なダイヤモンドの売買契約が成立した場合に、落雷による火事でダイヤモンドが焼失したとします。この場合、売主のダイヤモンドを引き渡す債務は履行不能となります。

債権者主義をとると債権者が危険を負担するので、代金の支払い債務を履行しなければならないことになります。

 

債務者主義

危険負担における債務者主義とは、一方の債務が当事者双方の責めに帰することのできない事情により履行不能となった場合には、もう一方の債務も履行しなくていいという考え方です。履行不能となった債務者がリスク(危険)を負担するという意味です。

 

前例のダイヤモンドの売買契約のケースでは、売主のダイヤモンドを引き渡す債務が履行不能になった以上、買主の代金支払い債務の履行もしなくていいことになります。債務者主義では、履行不能になったときは債務者が危険を負担することになるからです。

 

<関連記事>債務とは?債権との関係や契約例を分かりやすく解説

 

危険負担に関する民法改正点

2020年4月1日に民法が改正され危険負担についても大きな改正がありました。これまでと危険負担についての考え方が大きく変わっています。注意すべき点として改正法施行日前に締結された契約については旧法の規定が適用される点です。そのため、旧法についても適宜触れていきます。

 

民法534条と535条の削除

旧民法の規定では、原則として債務者主義がとられていました。そのため、前例のダイヤモンドの売買契約のケースでは、買主は代金支払債務を履行しなくてもいいように思えます。

ところが旧民法は、例外的に債権者主義を採用していました(旧民法534条、535条)。債権者が危険を負担するのは、債権者の責めに帰すべき事由があったときと、特定物に関する物権の設定または移転の場合とされていました。

 

債権者に責任があるケースでは債権者に危険を負担させるのは当然ですが、特定物に関する場合が問題です。

「特定物」というのは、当事者が物の個性に着目して契約した物のことです。例えば、前例の「世界で一つしかないダイヤモンド」は代替品がないため特定物です。不動産や中古品、オーダーメイド商品なども特定物です。

このように特定物に関する売買契約は広く行われており、例外のはずの債権者主義が適用される場面が多くあります。

 

しかし、債権者主義というのは一方の債務が履行不能となったにも関わらず、もう一方の履行義務が残るというもので公平性に疑問が持たれていました。目的物を債務者が持っている状態で目的物が滅失しているわけですから、債務者の責めに帰すべき事由がないとしても代金の支払い義務をなくしてしまう方が妥当なことが多いといえます。

そこで、債権者主義を定めていた民法534条と535条が削除され、債務者主義に一本化されました。

 

民法536条の改正

民法536条は債務者主義を規定した条文です。この条文も改正がされています。旧民法では当事者双方の責めに帰することができない事情により履行不能となったときは、一方の債務も当然に「消滅する」することになっていました。

改正により、消滅するのではなく「履行を拒否できる」と定められました。これは契約の解除に関する条文(543条)が改正されたためです。

旧法では履行不能による契約の解除をするには債務者の責めに帰すべき事由が必要でしたが、改正により帰責性が不要となっています。

つまり、履行不能であっても契約は当然には消滅しないため、危険負担の規定が矛盾しないように履行の拒否にとどめたのです。

 

<関連記事>債権譲渡禁止特約とは?民法改正で変わったことを分かりやすく解説

 

危険負担に関する改正のポイント

危険負担に関する改正のポイントは次の3つです。

 

債権者主義を廃止した

危険負担とは、双務契約の一方の債務が当事者双方に帰責性がなく履行できなくなったときに、もう一方の債務の履行義務も消滅させるかという問題です。

他方の債務の履行義務は残るのだという考え方(債権者主義)は、2020年3月31日以前の契約において適用される可能性があります。債権者主義が適用されるのは、特定物に関する物権の設定または移転の場合です。

 

2020年4月1日以降の契約については、特定物か否かに関係なく、債務が当事者双方の帰責性なく履行不能となったときは、もう一方の債務の履行義務もなくなるという扱いになります(債務者主義)。

 

※契約書で異なる内容を定めることは考えられます。

 

債務消滅から履行拒絶権に変更された

当事者双方に帰責性のない事情で履行不能となったときは、他方の債務者は履行を拒絶することができます。旧法では債務が消滅することになっていましたが、当然には債務は消滅しないことになりました。債務を消滅させるためには契約を解除する必要があります。

危険負担とは別に契約解除の要件も改正され、債務者の責めに帰すべき事由がなくても契約の解除が可能となっています。

 

危険の移転時期が「引渡し時」とされた

旧民法では、危険の移転時期が明確ではありませんでした。特定物売買の危険負担については債権者主義がとられていましたが、問題が多いことから適用範囲を制限すべきと考えられていました。具体的には目的物を買主が支配下においたときに危険が移転するとの見解が有力になっていました。

 

また、危険負担については契約によって民法の規定とは異なる定めをすることも可能です。そのため、契約条項の中で危険の移転時期を目的物の引き渡し時など民法と異なる内容にすることが一般的となっていました。

 

そのような事情があったことから、特定物の売買があったときの危険の移転時期をいつの時点にするか法律上明確にする必要がありました。引き渡し時、登記時、所有権の移転時が候補となりますが、「引き渡し時」とされました(民法567条)。

 

民法の規定にかかわらず契約書で危険負担について規定することが一般的です。前記のように契約書で民法の規定と異なる危険負担を定めることも可能です。取引の内容に合わせて危険負担の移転時期などを詳細に規定することでトラブルを避けることが期待できます。

ただし、契約書で定めればどのような内容であっても有効になるわけではありません。他の法令により有効性が否定されることがあるため注意して契約をする必要があります。

 

<関連記事>債権回収に関するひな形(フォーマット)を紹介

 

まとめ

・危険負担とは、双務契約の一方の債務が当事者双方の責めに帰すべき事由がなく履行不能となった場合に、他方の債務がどうなるのかという問題です。

・債権者主義とは、一方の債務が当事者双方に帰責性のない事情により履行不能となったとしても、他方の債務は履行しなければならないという考え方です。

・債務者主義とは、一方の債務が当事者双方に帰責性のない事情により履行不能となったときは、他方の債務も履行しなくていいという考え方です。

・2020年4月1日に危険負担の規定が改正されました。旧法では特定物に関して物権の移転等があったときは債権者主義でしたが、現在は債務者主義に統一されました。つまり、当事者双方に帰責性なく一方の債務が履行不能となったときは他方の債務も履行は不要となりました。

・旧法では危険負担の効果として債務が「消滅する」とされていましたが、現在は「履行を拒絶できる」だけです。債務を消滅させるには契約解除が必要です。

危険負担の規定は契約書によって変更することができます。ただし、条項を作る際は法令に違反しないように気をつける必要があります。

 

債権回収でお悩みなら弁護士法人東京新橋法律事務所

危険負担など法改正に伴う契約内容に不安のある方へ。

 

契約内容に不備があると大きな損害につながります。契約書のひな型などに不安のある場合には専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

 

当事務所は企業における予防法務に力を入れています。企業法務におけるご相談があればお気軽にお問い合わせください。

 

顧問契約も受け付けております。

くわしくは、こちらのページをご覧ください。

 

事業で生じた債権回収も行っております。

当事務所では、未収金が入金されてはじめて報酬が発生する成功報酬制です。

「着手金0円」、「請求実費0円」、「相談料0円」となっておりご相談いただきやすい体制を整えております。

※法的手続きやご依頼の状況により例外がございます。くわしくは弁護士費用のページをご覧ください。

 

少額債権(数千円単位)や債務者が行方不明など他事務所では難しい債権の回収も可能です。