売掛金の回収をする際に重要な役割を果たすのが「契約書」です。

契約書がなくても売掛金の回収をすることは可能ですが契約書があることでさまざまなメリットがあります。

 

この記事では、売掛金の回収を意識した契約書の注意点などを解説していきます。

 

契約書を作成する理由・役割

原則として契約書を作らなくても契約は有効に成立します。つまり口約束であっても当事者に権利や義務が生じることになります。

ただし、特に重要な契約については法律で書面の作成が求められることがあります。例えば、保証契約については保証人が安易に約束してしまうことで大きな責任を負ってしまうケースがあるため書面で契約しなければ無効とされます。

 

契約書を作ることで以下のようなメリットがあります。

 

証拠になる

契約が有効であっても相手が約束を守らないことがあります。売掛金を請求しても支払いに応じてもらえないときには裁判所を利用した回収手段を検討することになります。

裁判所は証拠に基づいて裁判をすることになります。裁判官は物証だけではなく当事者や証人などの証言、法廷での態度などを総合的に判断して判決を下すことになりますが客観的で明確な証拠は特に大きな影響を与えます。

契約書があれば契約の有無や内容が客観的で明確であるため主張が認められやすく売掛金の回収の可能性が高くなります。

 

トラブルを防止する

口頭での約束では契約内容があいまいになりやすくなります。商品やサービスの品質などでトラブルが生じることが考えられます。特にオーダーメイドの商品について契約書を用意していないケースでは双方の認識にわずかでもズレが生じていると問題になりやすくなります。

契約書を作成することで契約内容が明確になるため「言った」「言わない」でもめることが少なくなります。言い換えると契約書に記載していないことは請求が難しくなるため細心の注意を払って契約書を作成する必要があります。

 

売掛金の回収をしやすくする

契約書の内容を工夫することで売掛金の回収可能性を高めることもできます。自社に優位な条項を入れることで売掛金の支払いが滞ったときに損失が生じにくくなります。

例えば、支払期限を前倒しする条件を付けたり、担保の追加や契約の解除、商品の所有権の移転時期を代金完済時とすることなどが考えられます。

 

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契約書の内容

通常の契約であれば契約書の書式などは特に決まっていません。あくまで内容が重要です。どのような権利義務がいつ発生するのか、それをいつどのように実行していくのかを明確にすることが大切です。

※法律で契約書の記載事項が決められていることがあります(特定商取引法など)。必要な要件を満たしていないと不利益が生じるため弁護士に相談されることをおすすめします。

 

合意内容

どのような合意があったのかを明確に誤解のないように記載します。契約書における本質的な部分であるため慎重に文言を検討します。

具体的には、債権債務がどのような原因により発生したのか、債権債務の内容、当事者は誰なのか等を記載し疑義が出ないように記載します。

 

<記載例>

第1条(売買契約)

甲は、乙に対し、商品A(以下「本件商品」という。)を代金〇〇円で売り渡し、乙がこれを買い受ける。

 

履行期と履行の方法

合意した権利義務をいつ実行に移すのかを明確に記載します。また債務の履行方法も記載します。

 

<記載例>

第2条(商品の引渡し)

甲は、乙に対し、令和〇年〇月〇日、〇〇において本件商品を引き渡す。

第3条(代金の支払い)

乙は、甲に対し、令和〇年〇月〇日までに代金〇〇万円を甲が指定する金融機関の口座に支払うものとする。支払手数料は乙の負担とする。

 

期限の利益喪失条項

期限の利益とは、期限が到来するまでは支払いをしなくていいという利益や、期限まで権利を行使できるなど期限がやってくるまで当事者が享受している利益のことをいいます。

売掛金の場合、支払時期が契約後一定の期日までとして定められることが多いですが、債務者がその期日まで支払いをしなくていい利益が「期限の利益」にあたります。分割払いについてはそれぞれの支払期限ごとに約束した金額のみ支払えばいいことになります。

しかし、分割払い金の一部であっても支払いがなされていない場合に残りの代金の支払いを請求できないのでは問題があります。1回払いであっても債務者の信用状態が悪化している場合には迅速に行動しなければ売掛金の回収が難しくなります。

そこで、民法は次のような場合に期限の利益を喪失させることにしています。

 

・取引先が破産手続開始決定をされたとき

・取引先が担保を毀損させたとき

・取引先が担保を提供する約束をしたのに守らないとき

 

しかし信用不安が生じる理由はこれだけではありません。例えば、他の取引先から財産を差し押さえられたり分割払いの支払いが遅れたり、その他の契約違反があったようなときには売掛金の回収が難しくなるおそれがあります。

そのため契約書に期限の利益が喪失するケースを記載しておき回収しやすくすることが必要です。

 

<記載例>

第〇条(期限の利益の喪失)

乙は、以下のいずれかの事由が生じた場合において、甲からの書面による通知があったときは、甲に対する一切の債務について期限の利益を喪失し、直ちに債務を弁済しなければならない。

1 本契約及び個別契約の条項に違反した場合

※通知をせずに当然に期限の利益を喪失させることも考えられます(法令で制限されているときを除きます。)。生じた事由が重大な場合には通知の手間を省くため当然喪失条項にして時間的余裕があるものについては通知書の発送を条件にするなど柔軟に定めます。

 

損害賠償の予定(遅延損害金)

債務不履行が生じたときは発生した損害について賠償を求めていくことになります。売掛金の場合には金銭の不履行であるため契約に定めがなくても法定利息分を請求することができます。しかし法定利息は最低限のものであり契約の拘束力を高めるためにも遅延損害金を契約書で定めておくことが有効です。ただし、利率は法令によって上限が設けられている場合があるので注意が必要です(消費者契約法、特定商取引法等)。

また、売掛金に限らず商品等の引き渡し債務の不履行により損害が生じた場合に備えて賠償額を予定しておくこともあります。損害額の証明は簡単ではないため契約書で合理的な損害額を定めて争いを少なくする趣旨です。

 

<記載例>

第〇条(遅延損害金)

乙は、代金の支払いを怠ったときは、支払期日の翌日から完済まで年〇%の割合による遅延損害金を甲に支払わなければならない。

 

担保や保証について

土地や建物、工場などに(根)抵当権を設定したり連帯保証人を立ててもらったりすることで売掛金を担保することも回収の確実性を高めるために重要です。大きな取引をしたり売掛金をすでに滞納されていたりする場合には担保をとれないか検討することが大切です。

すでに担保がある場合でも不動産の価値が減少したり保証人の資力が低下したりすることもあります。そのため追加担保条項を定めることもあります。

 

<記載例>

第〇条(追加担保)

以下のいずれかの事由が生じた場合において、甲が請求したときは、乙は直ちに甲が相当と認める担保を提供しなければならない。

1 甲に提供した担保の価値が減少し乙の債務を担保するのに足りないとき

 

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契約書作成に不安な方は弁護士に相談を

契約書は具体的な取引の内容に応じて作成していくことが大切です。そのため市販のひな型集(テンプレート)を単に書き写すことは避ける必要があります。無用な条項が含まれていれば予期せぬ不利益を被ることもあります。

売掛金の回収が目的であっても自社の製品やサービスにより生じる可能性のあるリスクをコントロールする視点も重要です。相手方の権利が不必要に拡大していないか法律上の原則規定と比較することが大切です。

当事者や商品、サービスは同じではないため契約書の内容も同じにはなりません。

契約書の目的は、当事者間の合意を書面にまとめることにあります。契約内容を過不足なく記載することが必要です。

契約書の作成は売掛金の回収の成否を分けるだけではなく、自社が抱えるリスクをコントロールする有用な手段ともなります。トラブルを可能な限り防止し万が一事故が生じたときに有利になるように作成することが必要です。

不備のある契約書は取り返しのつかない問題を生じさせることがあります。

契約書の作成にわずかでも不安があるときには弁護士に相談することをおすすめします。

 

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まとめ

・契約書を作成することでトラブルの予防や証拠になるというメリットがあります。そのため売掛金の回収がしやすくなります。

・契約書は合意内容を明確に記載しトラブルが生じたときに備えた条項も入れておきます。

・期限の利益喪失条項を入れておくことで信用不安が生じたときに支払期日を直ちに到来させることができます。

ひな型集をそのまま利用すると予期しない不利益を被ることがあります。契約内容を正確に書面にすることが大切です。

 

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契約書は取引に合わせて作成していくことが大切です。自社で契約書を作成した場合であっても弁護士に最終チェックを依頼することをおすすめします。

 

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